Fate/Asura's Wrath 悪鬼羅刹と行く第五次聖杯戦争 作:放仮ごdz
恐らくはこの聖杯戦争で一番の強キャラになるサーヴァント、キャスター登場。正直、強くし過ぎました。
バーサーカーVSキャスター。戦況が変わるこの対決、楽しんでいただけると幸いです。
―――――とある男の話をしよう。
彼は2000年以上前、紀元前にて中国全土を手に入れ、大陸を制覇目前としていた皇帝だった。五行を操る魔力と、暗殺者をあっさり退けてしまう強大な武力を有していたが、全土制圧を成し遂げるために必要な永遠の命を得ようと探し出した妖術師の女に自身の親友でもある部下の将軍を伴わせてシルクロードに派遣する。
不死の魔術を発見し無事帰還した妖術師に前から目を付けていた彼は、彼女が将軍と恋に堕ちていた事を知ると激怒し卑劣な罠を仕掛けて妖術師の前で将軍を八つ裂きの刑に処すが、妖術師はその悲しみと怒りから皇帝とその部下全員に呪いをかけ逃亡。皇帝とその部下たちは呪いの泥に包まれ、燃え盛る火矢を受けて苦しみながら陶器に姿を変え、広大な土地に消えた。
しかし、1946年。中国人民解放軍の将軍がとある冒険家親子を利用して皇帝は陶器の姿のまま復活。上海で暴れ回り、不死の泉の水を手に入れて完全復活を果たした彼は魔獣に変身する能力を習得、己の軍隊も復活させ再度大陸のみならず世界を支配しようと目論んだが、冒険家親子との死闘の末、敗北。今度こそ完全に滅びた。
即ち彼は、紀元前と近代。二つの時代に君臨した反英雄である。この意味が分かるだろうか?
エヴリン・オコーネルにより書籍として出された彼の悪行は、悪い意味で世界中に伝わっている……それこそ、最強最悪の皇帝として。
「私に仇なす者達を轢き潰せ我が戦車!───
「ウオラァアアアッ!」
「駄目、バーサーカー!逃げて!」
私を背に乗せたバーサーカーが迎え撃つのは、目をオレンジ色に輝かせた青銅の馬が引く戦車。それを操るのは、顔に陶器の面を付けた黒い鎧を身に纏ったアジア系の男。そう、七人目のサーヴァント…キャスターだ。こうなったのは、今から数刻前。キャスターの情報を少しでも集めようと新都に駆り出したからだった。
現代風の衣装を身に着けてもらいマフラーで顔を隠したバーサーカーの運転で、王様から借りた金色に塗られたホンダ ワルキューレのカスタムバイク…通称ギルギルマシーンの後部座席に乗って私は新都を訪れていた。
ニュースでやっていた深山町の事件も気になるが、それよりも数日前から新都で続くガス漏れ事故の方が調べる価値がある。でも多分、こっちはアサシンの仕業だろう。キャスターではないがそれでも放って置けないし、何より気になる事がある。…集団ガス事故と言う事はつまり、何かしらの方法で魂喰いを行なっていると言う事だろう。そんなことが出来る手段は限られてくる。…龍脈を用いて魂を集めてとある場所に移送するとか。それは正解だったようだ。
「…バーサーカー、どう思う?」
「気に入らねえな。七星天と同じだ。罪もない人間から魂を集めて自分たちの力にしようとしてやがる」
「だよね。…手口からしてキャスターだけど…私は違うと思う」
「だったら誰だ?」
「私が思うにアサシン。士郎が聞いた「しへい」って言葉…童話で見たことあるの。それが本当だったら…アサシンは宝具を使うために今は魔力を溜めているんだと思う。やっぱり最優先に潰すべきはアサシンだ。アインツベルンより先に潰さないと…大火事より酷いことになる。急いで拠点を見付けないと…」
「なるほどな、そう言う事だったか」
「「!?」」
突如聞こえる、聞き覚えの無い男の声。聞こえてきた方向…ビルの屋上を見ると、そこには黒い鎧と陶器の様な面を身に着けた男が腕組みして立っていた。新手のサーヴァント!?…と言う事は王様が言っていた…
「キャスター…?」
「私の事を知っているか。では聞くぞ、お前等は私に仇なす者か?」
「! バーサーカー!」
「ウオラァアアッ!」
私の声に応え、バイクから跳んでビルの屋上へ壁面を走って向かうバーサーカー。するとキャスターは躊躇いも無く屋上から飛び降り、その右手を発熱させバーサーカーの顔面に押し付けるとそのまま降下。バーサーカーは苦しみながらもがくが解放されず、キャスターはバーサーカーをクッション代わりに着地。亀裂が入ってキャスターはバック転して体勢を整えると同時にバーサーカーの頭突きが炸裂。キャスターは防御の構えを取り吹き飛ばされるも耐え凌ぐ。…武人タイプか。厄介な。
「そうか、それが答えか。いいだろう、焼き殺してくれる!」
「
胸元を朱色に発光させ、口を開いて炎を吐き出してくるキャスターの攻撃を、私は咄嗟に道路に手を付けて改造。バーサーカーの前に壁を形成して防御するも、アスファルトは瞬く間に融解。間髪入れずバーサーカーは大きく吹き飛ばされてしまう。つ、強い…勇者リンクでさえ手古摺った改造したアスファルトを一瞬で破壊するなんて…不味い、今ここで戦っちゃいけない強敵だ。
「バーサーカー、逃げるよ。爆ぜろ!」
「無駄だ!…む?」
改造した黒鍵を10本投げ付けて爆発でキャスターを覆い尽くすが、爆炎は瞬く間に吸収されてしまい一瞬時間を稼いだだけだった。その間にバーサーカーにギルギルマシーンを駆ってもらい、私は後部座席に立ち乗りして弓にしたマフラーを構えて後方を見やる。
「逃がさん…!」
「!?…バーサーカー!」
その瞬間、口から出した炎を丸めて巨大な火球を形成して投げ付けて来るキャスター。それはアスファルトを次々と融解させて迫り、私は咄嗟にバーサーカーの背に掴まりバーサーカーは跳躍して退避。大爆発を起こしてギルギルマシーンは木端微塵に吹き飛んだ。…ヤバい、王様に怒られる。ってそれどころじゃない!
「クロナ、どうする?!」
「どうしようもない。逃げる事だけ考えて…!?」
「覚悟しろ、反逆者共。…出でよ、暴れろ、蹂躙せよ。我が呪いと共に眠りし騎馬よ」
あの詠唱は…不味い。彼から溢れて来る土と炎が混ぜ合い、それはキャスターを乗せた巨大な戦車へと姿を変えていく。…五行の火と土、それに金を合わせた魔術か。現れたのは、青銅の馬四匹に引かれた戦車だった。
「私に仇なす者達を轢き潰せ我が戦車!───
そんな経緯を経て、今に至る。
「ハイヤーッ!」
アスファルトを粉々に破壊し、停車している自動車や街灯、ビルの壁やらを真っ二つに引き裂き、キャスターの操る戦車は縦横無尽に新都を駆ける私達に迫る。あー、不味い。また父さんの負担が…私は知らん、やったのはキャスターだ。
「バーサーカー、逃げられる!?」
「奴の方がスピードは上だ。迎え撃つしかない!」
「だよね。でも弓はこの体勢じゃ使えないし…」
「だったら投げるぞ、後は何とかしろ」
「へ…?むきゃあああああああああああああっ!?」
次の瞬間、バーサーカーに思いっきり空に向けて投げられた。自分より巨大な怪物を天高く投げ飛ばす怪力を持つバーサーカーの投擲だ。ビルの真上まで投げ飛ばされ、私はマフラーをパラグライダー風に改造して滑空。何とか屋上に着地するとそのままマフラーを弓に改造、黒鍵を改造してキャスターに狙いを引き絞る。その前方には六天金剛に姿を変えて迎え撃とうとするバーサーカーが。
…アレは宝具だけど、車輪を狙えば行けるか?いやいっそのこと大技で本体を狙うか…?
「―――――
受け止めようとするも轢き飛ばされたバーサーカーは宙を舞い、空から拳を振り降ろすもキャスターは口に手を添えて超音波を放射。嫌そうに顔をしかめたバーサーカーのスピードが落ち、そこにキャスターの飛び回し蹴りが炸裂。バーサーカーは遥か前方の道路に叩き付けられ、戦車はそれを轢き潰そうと迫り来る。させない…!
「
当たればサーヴァントでも一溜りも無い大技が、奴の後頭部目掛けて迫る。しかし。
「それが現代の魔術か。温いな」
「なっ…!?」
それはいとも簡単に、空間に縫い付けられたかの様に振り向いた彼の手の前で静止した。…ンな阿呆な。神代の魔術に近い魔力だ。ヤバい、今ので分かった。私じゃアレには絶対に勝てない。
「返すぞ」
「しまっ…!?」
向きを変え、文字通り跳ね返してくるキャスター。私は咄嗟の事で防御もできず、爆発をもろに受けて屋上の端まで吹き飛ばされた。…令呪を使うか?いや、バーサーカーなら…
「おい、今何をした?」
「お前のマスターであろう魔術師の魔術を返してやっただけだが?」
「…てめえは許さん!」
一跳躍でキャスターの眼前まで跳び、拳を振り被るバーサーカー。キャスターは驚きもせず、剣を抜き裏拳の要領でバーサーカーの鳩尾を攻撃、それに怯んだところに次々と斬撃を叩き込み、とどめばかりにバーサーカーを斬り飛ばすと剣を空中に投げ付け、それは意思を持つかのように高速で急降下。強烈な振り降ろし斬撃をバーサーカーに叩き込んで道路を叩き割った。そのまま剣はキャスターの手に戻り、青銅の馬が倒れたバーサーカーを轢き潰し、キャスターは手綱を振るって方向転換。再度突進を仕掛ける。
「これは、この世に秩序を齎す第一歩だ!死ぬがいい、狂戦士!」
「バーサーカー!」
不味い、これ以上は…!その時、私の背後から声が聞こえ、蒼い影が空へと飛び上がった。
「はあ、まったく何してんのよ。ランサー、宝具開帳」
「おう!」
私の背後から現れたのは、赤い服とツインテールの少女。飛び上がり、朱槍を構えているのは、猛獣のような蒼い男のサーヴァント。
「行くぞ。この一撃、手向けとして受け取るがいい───
「ッ!バーサーカー!」
私の声に、それに気付いたバーサーカーは全速力でその場から疾走して退避。空を見上げたキャスターに、朱い死の雨が襲い来る。
「なに!?ぬあぁああああああっ!?」
キャスターは咄嗟に火・水・木・土・金の五つの障壁を形成して防ごうとするも魔槍はあっさりとそれを全て貫き、キャスターは戦車と共に粉々に砕け散り、その場には土くれだけが残った。
「…凛。何しに来たの?」
「何しに来たのとはご挨拶ね、助けてあげたのに?」
私は赤い服の少女…凛に尋ねる。凛は不満そうに「呆れた」と溜め息を吐く。確かにバーサーカーは助かったけど、今のは駄目だ。
「…助けになってない。アレは多分キャスター本体じゃない、砕いたアレは、土の魔術で精巧に作り上げられた偽物の泥人形」
「何ですって!?…いや、気配はちゃんと近くにある筈よ。私は二騎のサーヴァントの気配を感じてここに来たんだから。じゃあ本体は?」
「さっきのどさくさに紛れて逃げたんだと思う。水の魔術を使えるんだから幻影を見せられても可笑しくない。…貴女は必要ない場面で宝具を晒してしまっただけ。それにあわよくば私のバーサーカーまで倒そうとしていたでしょ?」
アレ、対軍宝具だった。うちのバーサーカーが死ぬところだった。アレは不味い、射程に入れば必ず心臓を貫き死を確定させる魔槍。あんなの喰らったらただじゃすまない。凛はバレてないと思ったのか痛いところを突かれたというような顔になってる。その背後に立っているランサーも呆れ顔だ。
「くっ…さすがにばれるか。まさかバーサーカーがあんなに速いなんてね、結果オーライになればよかったんだけど…さすがキャスター。一筋縄じゃ行かないか」
「…潰すべきはアサシンとキャスター。それは確か」
「確かに。バーサーカーのマスターだって隠していたアンタも油断ならないけど厄介なアサシンとキャスターを先に潰すってのは賛成よ。とりあえずはキャスターを倒すまで、その間だけ休戦協定を結ぶのはどう?」
「…乗った。今、貴方のランサーを敵に回すのは不味い。まさかクー・フーリンだなんて思わなかった」
差し出された手を、取り敢えずは握る。魔術師と手を組むのは嫌だが…やむを得ない。それほどまでにあのキャスターは厄介だ。王様が言うだけはある、アレは早めに倒さないと不味い。
その後、バーサーカーと合流した私は歩いて帰路についた。帰ったら王様からの説教が待っているだろうか。でも、これでサーヴァントは総て出揃った。もう士郎と桜にバーサーカーの事を隠しとくのはやめよう。バーサーカー、アーチャー、ライダー、そしてランサー。この四騎が揃えば勝てる。そのはずだから。
とりあえず明日は学校だ。ちゃんと行こう。アサシンが何か仕掛けたのか確かめなければいけないし。…バーサーカーも休めないと。
「…バーサーカー、傷は大丈夫?」
「…まだ戦えるが、弱体化は免れん。セイバーの時よりもダメージは深刻だ。丸一日休む必要がある」
「…ごめんね、私の采配が悪かった」
「気にする暇があるなら対策を考えろ。俺には無理だ」
「うん…」
負けた。それはもう、分かりやすく。やっぱり強化の魔術だけじゃ太刀打ちできない。でも、魔術はあまり使いたくない。………こんな様で、勝てるのか?この聖杯戦争に……いや、無理だ。父さんと王様に本気で鍛えてもらう必要がある。このままじゃ聖杯を破壊するなんて、出来るはずがない。
バーサーカーが傷付いて行くだけなのは嫌だ。それに見合う成果が欲しい。そのためには私自身が、強くならないと行けない。
「さあ、仮初のマスターよ。次はどうする?」
「決まっているだろ、キャスター。あの生意気な元部長にお灸を据えてやるんだよ。僕を無視し続けた事、後悔させてやる」
「ならば大事に持っているのだな。その書物が無ければ私がお前に従う理由は無いのだから。せいぜい知将として役に立つがいい」
「ああ。存分に戦わせてやるよ、皇帝サマ」
再び夜は明ける。新たな脅威と共に。
アサシンの目論見判明。ギルギルマシーン大破。バーサーカー重傷。ランサーの真名判明。キャスターの存在を前にクロナと凛が手を組む、と戦況が大きく変わった今回。もう一度言おう、お前の様なキャスターがいるか!
…あ、宝具は普通に中国語読みです。イスカンダルの「遥かなる蹂躙制覇」と属性が違えど似た様な宝具です。というかこの英霊自体がイスカンダルをモチーフにしています。
如何に戦えても実力者相手には全くの無力。それを思い知ったクロナはあんなに嫌悪していた魔術師と手を組む程に追い詰められてます。バーサーカーも丸一日戦闘不能です。
次回は士郎VS凛、クロナVSアサシンのマスターが放課後の学校を舞台に激突。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。