真・恋姫†無双~北刀伝~   作:NOマル

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~群雄、生徒会長の座を狙って相争うのこと【抗争の陣・中】~

――――お昼休み。

昼食を取る為、購買部でパンを買おうと向かった一刀、愛紗、孔明の三人。

しかし――――。

 

「売り切れ?」

「はい、袁紹さんが全部買い占めちゃって……」

 

申し訳なさそうに、購買部員はそう説明する。どうやら、先を越された様だ。

 

「仕方ない。食堂でとるとしよう」

 

愛紗の提案でそうすることに決めた。不意に、購買員が孔明を呼び止める。

 

「あ、孔明さんに頼まれた物。用意しておきましたよ」

「あ、はい。ありがとうございます」

 

その会話を聞いて、疑問を抱く一刀と愛紗であった。

 

一方、こちらも昼食を取っている袁紹軍。

 

「お〜ほっほっほっほ!名族袁家に出来ないものはありませんわ〜!」

 

大きく高笑いする袁紹。彼女の後ろには、買い占めたであろう、大量のパンが山積みになっている。

 

「大好物の穴子サンドをいっぱい食べて頑張ってね」

「わぁ!いただきますなのだ〜♪」

 

目をキラキラと光らせる鈴々。手に持って、あ〜ん、と口を開けて穴子サンドを頬張ろうとする。

 

――――それが我儘だと言うのだ!

 

姉の言葉が、ふと脳裏をよぎる。

途端、暗い表情になり、一口だけしか口にしなかった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

昼休みが終わり、午後の部が始まった。

 

相手チームとの組み合わせは抽選で決められ、場所も屋内プールに移された。各選手の服装も、体操服から水着に変更。

 

抽選の結果、

 

【関羽軍】対【孫権軍】

 

【北郷軍】対【曹操軍】対【袁紹軍】

 

という風に分けられた。

 

三チームの場合は、一チームが敗退したら他の二チームが勝ち上がるという事となる。

 

そして、第一試合が始まった。

 

『【関羽軍】対【孫権軍】の戦いは、水上騎馬戦対決です!』

 

関羽軍は、愛紗・星・馬超が馬で、孔明が騎手。一方孫権軍は、陸遜・孫権・甘寧が馬で、シャオが騎手となった。

 

陸上と違い、水中では動きづらいというのが難しい所でもある。この水上騎馬戦を勝利するのは、どのチームか。

 

『水上での機動力が決め手の競技!メンバー全員が指の間に水かきがあると噂される孫権軍が有利か!?』

「ないわよ水かきなんて!」

 

騎手のシャオが、司会の陳琳に反論する。

 

「う〜む、やっぱ女は水着やな〜♪」

「おいおい……」

 

観客席から鼻の下を伸ばし、だらしない顔をする及川。横にいる一刀と猛は共に苦笑いを浮かべる。

 

(まあ、分からないでもないけど……)

 

とか言いつつ、可愛い女の子の水着姿に意識してしまう一刀であった。すると、猛があることに気づき、辺りをキョロキョロと見渡し始めた。

 

「あれ?さっきから、瑠華の姿が見当たりませんね」

「そういえばそうだな……」

 

近くに瑠華がいないことに気づく三人。

 

「トイレでも行っとるんちゃうん?」

「そうなのか?」

 

すると、プールサイドに二人の少女が、恥ずかしそうに俯いている“一人の少女”?を連れて出てきた。

 

二人の少女、孫権軍に属する大喬、小喬の二喬姉妹が、騎馬戦のBGMとして歌を披露する様だ。

 

二人――――いや、三人の少女の手にはマイクが握られている。その内の一人は、一刀達もよく知る少年によ~~く似ていた。

 

「「瑠華っ!?」」

「何してんねんっ!?」

「うぅ〜……」

 

どうやら本人らしい。

 

二喬と同じ、ラインの入ったスクール水着を着用し、髪も二つのお団子にまとめられている。右に月、左に読の一字が記されている。背丈もほぼ一緒なので、髪と眼の色を除けば、可愛らしい顔と合わさって、二人と容姿が大差変わりない。

 

「る、瑠華、何があったんだ……?」

「トイレに行ってたら待ち伏せられて捕まり無理矢理着せられました……」

 

三人は、それ以上言わなかった。瑠華の顔は真っ赤に染まり、うるうると眼が揺れている。内腿に手を入れてもじもじとしている様子が、かなりの破壊力を備えていた。

 

「瑠華様可愛い〜♪」

「可愛い〜♪」

「お願いだから着替えさせて……」

「「駄〜目♪」」

「そんなぁ……」

 

項垂れている瑠華に抱きつく二喬。二人だけでなく、会場内の全員も可憐な“男の娘”を見て、可愛い……と思った。

 

「貂蝉学園長!男子が女子の水着を着るのって駄目ですよね!?」

 

学園長ならなんとかしてくれるだろうと抗議する瑠華だったが、

 

『おぉけぇぇい!これはこれで可愛いからしてア〜リ〜♪』

「あんたそれでも学園長かぁぁぁ!」

『ええ、ほんと写真に収めたい位……♪』

「収めなくていいから!」

 

しかし、観客席にいる数人の女子に隠し撮りされ、女子生徒の間に出回ってしまったとか……。

 

『え、え〜それでは気を取り直して、スタートです!』

 

改めて、水上騎馬戦開始の銅鑼が鳴らされた。

 

「さあ、瑠華様。歌いますよ♪」

「えっ、僕も歌うの!?」

「もちろん♪」

 

二喬に言われるがまま、瑠華もBGMを歌わされる羽目になった。嫌々かと思ったら、途中からは案外ノリノリで二喬と歌っている。

 

「なぁ、瑠華ってさ……」

「はい……」

「結構歌うまいねんな……」

 

意外な一面に、三人共に目を丸くしていた。

そして肝心の騎馬戦では、互いに攻防戦を繰り広げる。

 

「まずは水攻めにて、敵の体力を削ります。尚香様」

「ラジャー♪」

 

軍師陸遜の指示に従い、騎手のシャオは足で水を蹴り、関羽軍に浴びせる。

 

「水で……けほっ!息が……!」

「結構、堪えるな……」

「ここは耐えて下さい」

 

口や目に水が入りそうになり、関羽軍は苦戦を強いられる。

 

「どうした!臆したか!」

「なにっ!」

「関羽さん!」

 

甘寧の挑発に乗りかけた愛紗を、騎手の孔明が何とか制止する。

 

「シャオ疲れた〜」

「頑張って下さい!」

 

足が疲れ、だらけるシャオを励ます陸遜。

 

「ん?あれは……」

 

観客席から観戦していた呉の軍師、周瑜。どうやら、何かに気づいた様子。

 

上から見てみると、先程から関羽軍が、孫権軍を中心に、渦を巻くようにして回りをぐるぐると進んでいた。

 

「――――今です!」

 

孔明の声と共に、馬である愛紗達は渦に逆らい、逆方向に進み始めた。

 

「後ろをとられては駄目――――」

 

逆流に足を取られ、動きが止まる呉軍。急に逆回転を加えた為、陸遜の豊満な胸が激しく揺れてしまい、水着が外れてしまった。

 

「え?きゃあああっ!」

 

羞恥の余り、咄嗟に両手で胸を押さえる陸遜。そのせいで土台が崩れてしまった。

 

「突撃〜!!」

 

それを見計らった様に、関羽軍は孫権軍に突撃する。そして、孔明がシャオのハチマキを取った。

 

『やりました!絶対追悼を逃れた関羽軍!胸ポロハブニングに乗じて見事孫権軍を撃破!』

「いいや!今のは、胸ポロハブニング等ではない!」

 

大声が聞こえ、観客席に視線が集まる。席にいた周瑜が、立ち上がって抗議の声を上げたのだ。

 

まず、相手の騎馬を旋回させ続けることにより、回りに渦を発生させ、尚且つ胸に過度の重力をかけ、それを急激に反転させる。それにより、慣性のついた大質量の渦が襲い、脆弱なビキニを振り払った。

これは、古来より水上騎馬戦において“巨乳ポロリ”の担当、という故事をふまえた非常に高度な作戦

 

これぞ名付けて!“水計八陣!巨乳は急に止まれないの計”!!」

 

つっこみたいがつっこめない物理的理論を説き、なにやら訳の分からない作戦名を述べた。

 

「くっ!そうだったか!」

「すいません、私のおっぱいが聞き分けがないばかりに〜 」

 

こちらはこちらで何故か妙に納得している。

【孫権軍】、惜しくもここで敗退となった。

 

「流石名軍師。よくやった」

「えへへ♪」

 

愛紗達に褒められ、孔明は照れ臭そうに笑みを浮かべる。

 

「諸葛亮か、恐ろしい娘だ…」

 

臥龍、諸葛孔明を人知れず警戒の視線を向ける周公謹。

 

「なんかよう分からんけど、ワイいいもん見た気がする……」

「ノ、ノーコメで」

「うぅ〜……」

 

仰向けに寝転がっている男子三人。猛は顔を真っ赤にさせて目を回している。及川は満足そうな表情を浮かべており、鼻から“赤いもの”が流れ出ていた。

一刀は、咄嗟に顔を反らす。何故なら、黒髪の少女から射殺すかの如く、鋭い視線を向けられたからだ。

殺気に気づけたおかげで、九死に一生を得る。

 

孔明の策により、見事勝利した関羽軍。

続いて、【北郷軍】対【曹操軍】対【袁紹軍】が行う競技は【水上押し相撲】。

 

『己の力で相手を押し退けるこの競技!果たして生き残るのはどのチームか!』

 

これは、軍全員で行われる競技。長さ二十メートル、幅十三メートルのプール。その中央に浮かぶ、直径約九メートルの物凄く滑りやすい台の上で、相手を台からプールに落とすというものだ。誰か一人でも自分の軍の仲間が落ちていなかったら、そのチームが決勝に上がれる。尚、今回は三チームなので、二チームが勝ち上がるという形だ。

 

「お前、その水着でやるんか?」

「着替える時間を与えてもらえなかったんだ!」

「まあ、そんなに落ち込むなよ瑠華。ほら、結構…………似合ってるぞ?」

「先輩、それ励ましになってないです」

 

一刀の不器用なフォローにより、追い打ちをかけられた瑠華であった。

 

「どんな敵であろうとこの手でねじ伏せるまで……行くわよ!」

「「「はい!」」」

 

曹操の堂々とした号令に、大きく返事を返す部下三人。

 

「おーっほっほっほっほ!猪々子!斗詩!張飛さん!袁家の力を思い知らせておやりなさ〜い!」

「「はっ!」」

「おうなのだ!」

 

馬鹿……もとい、袁紹も号令を行う。

 

そして、三チームが位置についた。

 

『それでは、スタートォ!!』

 

銅鑼の音が響き、足場が振動でぐらぐらと揺れ始めた。

 

「結構、不安定ですね」

「ああ、ここは慎重に――――」

「先手必勝!」

「姉者!?」

 

唐突な、夏候惇の猪突猛進に驚く一刀と瑠華。すると、二人の前に一人の男子が出て、夏候惇の強烈なタックルを受け止めた。

 

「「猛っ!!」」

「くっ!」

「くぉぉぉ!!」

 

歯を食い縛り、両手を合わせて取っ組み合う猛と夏候惇。

 

「ふん!小僧、中々やるな……」

「それはどうも、夏候惇先輩も流石ですね……!」

 

称賛し合いながらも、睨みあい、力強く互いの手を握り締める両者(パワーファイター)

 

「よ~っし!あたいも行くぜ!」

「ちょ、ちょっと猪々子!?」

 

二人に触発されたか、顔良の制止も聞かず、文醜は猛と夏候惇の二人に突撃。

 

「おりゃあああ!!」

「なにっ!?」

 

三人がぶつかり合い、その衝突によって、足場が地震の様に大きく揺れた。落ちない様、何とかバランスを保とうとする全チーム。

 

「おっととと!」

「きゃっ!ちょっとこっち来ないでよ!」

「しゃあないやんけ!無茶いうなや!」

「触らないでよ!気持ち悪いわね、この変態眼鏡ザル!」

「言うたな!この猫耳貧乳女が!」

「なんですって〜〜!!」

「なんやとこら〜〜!!」

 

悪口を言い合い、ぐぬぬと睨みあう荀イクと及川。

 

「不味いわね、この不安定な地形で更に揺れてしまうと……」

「相手もそうですが、我々も不利になりますからね……」

 

曹操と夏候淵が揺れに対応していると、北郷軍が攻撃を仕掛けてきた。

 

「「はああああ!!」」

「しまった!」

「くっ!」

 

突撃していく一刀と瑠華。体当たりを繰り出すも、咄嗟に受け身をとり、曹操軍は防ぐ事に成功。

 

「へぇ、意外と積極的じゃない」

「何もせずにじっとしてるってのも、面白くねぇだろ?」

「まあ、一理あるわね」

 

二人の大将が目を細めて語り合う。不敵な笑みを浮かべ、姿勢を低くしながら相手の様子を伺っていた。

 

「お兄ちゃん覚悟〜〜!」

「むがっ!?」

 

突然、鈴々が一刀の顔に抱きついてきた。前の視界を遮られ、手をさまよわせながらよろよろと動く一刀。突然の事に、目を丸くする曹操。

 

「猪々子!なにやってますの――――あら?」

「むぐ〜っ!」

 

一刀は、そのまま袁紹にタックルしてしまい、その場に尻餅をついた。

 

「きゃああっ!」

「おわぁ!?」

「や〜ん!!」

 

袁紹はバランスを崩し、後方へ進んでいく。そのまま、口論をしている及川と荀イクに衝突し、三人共プールに落ちてしまった。

 

一刀は鈴々にしがみつかれて、身動きがとれない。

 

「っ!」

「させるかっ!」

 

曹操の盾となって、瑠華の前に立ちはだかる夏候淵。

 

「くっ……!」

「悪いが、我が主には指一本触れさせん!」

 

力押しでは不利と悟り、瑠華は距離をとるため後退する。

 

「逃がすか!」

 

夏候淵は追いかけて捕まえようとするが、小柄な上に素早さ故、中々捕らえられない。

 

「この、ちょこまかと……!」

 

しびれを切らした夏候淵は、足を踏みしめ、動き回る瑠華目掛けて突撃。その時、瑠華の眼が光った。

 

「今だっ!」

「なっ!?」

 

急停止し、夏候淵の足元へ駆け、彼女の足を引っかけた。その拍子に、夏候淵は前向きに倒れ行く。

前方では、猛、夏候惇、文醜。そして、仲間を止めに来たつもりが、いつの間にか取っ組み合いに参加している顔良の四人がいた。四人は相手を転ばそうと、引っ張ったり、押したり、もみくちゃになっている。すると、猛一人が、こちらに向かってくる夏候淵に気づいた。

 

「でかしたぜ瑠華!」

 

ニヤリとした表情を浮かべる猛。そして、両手を下に向けて離し、後ろに下がる。いきなり離されたせいで、勢い余り、転びかける三人。しかし、そこにバランスを崩した夏候淵とぶつかってしまった。ぐらつくも、なんとか体勢を保とうとする四人。

 

「もう一丁!」

 

今が好機。猛の捨て身タックルによって、四人が。そして猛もプールに落下。

 

「猛!……くそっ!」

「春蘭、秋蘭……くっ!」

 

仲間の頑張りを無駄にしない為、瑠華は単身、曹操に立ち向かう。曹操をプールに落とそうと、肩目掛けて手を伸ばした。しかし、その手を掴まれ、足払いで転んでしまう。地面に背をつけながら、曹操の足に蹴りを入れるも、土踏まずで止められた。間髪入れず、彼女は瑠華の足を掴み、振り回して、そのままプールに落とした。

 

「ぷはぁっ!!」

「よく頑張ったじゃない、坊や。褒めてあげるわ」

 

手をパンパンと払うように叩き、余裕綽々の笑みを浮かべる曹操。すぐに顔を引き締め、横目で後方を見る。

 

「ぷはっ!やっと外れた……」

「お兄ちゃんには負けないのだ!」

 

それぞれ、残るは三チーム各一人。

 

一刀は、曹操と鈴々の間に挟まれた位置にいる。下手に動いたら、どちらか一方にやられてしまう。一刀は相手の出方を待ち、二人もまた動かずにいた。

 

「かずピー!」

「「先輩!」」

「「「華琳様!」」」

 

プールに入ったまま、生き残っている仲間の一人に声援を送るチーム達。観客側も加わり、プール会場は歓声に包まれていた。

 

「猪々子!斗詩!私達も、袁家に代々伝わる“華麗なる白鳥の舞”で士気を上げるわよ!」

「「はい!」」

 

袁紹の三人も、負けじと一斉にプールサイドに上がる。

 

一方、戦いの場では、未だ互いに動けずにいる三人。すると、三羽の白鳥の頭が三人の視界に写った。

 

「「「そ~れそ~れそ~れそ~れっそれ!もひとつおまけにそ~れっそれ!」」」

 

白鳥のまわしを着けた袁紹達は、理解不能な、訳の分からない踊りをやりだした。

 

プールに浸かっている六人は、呆れを通り越し、なんとも言えない表情を浮かべている。

 

「なんだあれ……」

 

「ぷっ……くくっ……!」

「隙ありなのだ!」

「おっと!」

「きゃあっ!!」

 

呆れている一刀に対し、曹操は声を殺して笑っていた。それを見逃さなかった鈴々は体当たりを繰り出す。一刀は避けたものの、ツボが浅かった曹操は、プールに落ちてしまった。

 

『やりました張飛選手!これで北郷軍、袁紹軍のニチームが決勝進出となりました!』

「おーっほっほっほっほ!袁家伝統の白鳥の舞は無敵ですわ〜♪」

「袁紹にしてやられるとは、不覚……!」

 

高笑いする袁紹。ずぶ濡れになりながら、自分の失態を悔やむ曹操。

 

【曹操軍】ついに敗退。

 

鈴々は得意気に、観客席にいる愛紗へにやけ顔を見せる。彼女はむっとした表情を浮かべていた。

 

(……次くらい、かな)

 

その様子を見ていた一刀。何かを決心したかのように頷いた。

 


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