真・恋姫†無双~北刀伝~   作:NOマル

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~群雄、生徒会長の座を狙って相争うのこと【結成の陣・前】~

――――これは、とある“外史世界”の物語である。

 

 

数十もの高層ビルが立ち並ぶ、世間一般でいう都会街から、少し離れた市街地。そこらに建っている家々の前にある歩道を、背の小さい一人の少女が慌てた様子で走っていた。

 

「はわわ〜!転校初日から寝過ごすなんて最悪です〜!!」

 

どうやら、少女は学生の様だ。

 

金髪の頭には赤色のベレー帽を被り、白を基調とした気品の良さを漂わせる制服を身に付けている。赤のラインが入っており、スカートも同じ赤色だ。首元にはリボンが着けてある。

 

少女は、呼吸を荒くしながら走る。

 

「きゃあっ!」

「おっと!」

 

曲がり角に差し掛かると同時に、顔に柔らかい衝撃を覚え、少女は後方へ飛ばされてしまう。

尻餅をついてしまう、かと思いきや、誰かに受け止められた。

 

「ど、どうも、すみません…」

「大丈夫かい?」

 

振り返れば、そこに自分を受け止めてくれている一人の青年がいた。茶色の短髪で、中々に整った容姿。少女に見せたその笑顔は、相手を落ち着かせる。そんな雰囲気を出していた。

少女はその優しい笑みに、暫し見とれてしまう。

 

「どうかしたかい?」

「あっ……は、はい!だ、大丈夫でしゅ!」

「それならよかった」

 

思わず噛んでしまい、顔を赤らめる少女。対し、怪我がない事を知り、安堵する青年。

 

「すまない、怪我はないか?」

「えっ?」

 

もう一つの声がする方を向く。

長く艶やかな黒髪。目鼻立ちが整っており、正に美少女という言葉がよく似合う。そんな優れた容姿をした少女がいた。

 

(はわぁ……綺麗な人……)

「その制服、私達と同じ“聖フランチェスカ学園”の生徒だな」

「お、そういえばそうだな」

 

青年も気づいた様で、横にいる少女に同意する。彼の服装は上半身が白で下半身が青で統一されており、小さく金色の刺繍も入っている。

 

彼女の方は、少女と同じ制服なのだが、ちょっと違う所がある。少女の赤に対して、少女はベレー帽、ライン、スカートの色が、青年と同じ青系統の色だ。

 

「赤って事は……君、一年生か」

「あ、あの、私今日が転校初日で、な、なのに寝坊しちゃって、はわわっ!ってなっちゃって」

「へぇ〜、今日が初登校か」

「ならば、尚更身だしなみをきちんとしないとな」

「へっ?」

「ほら、リボンが曲がっているぞ?」

 

少女は少し屈み、少女のリボンを整える。

 

「これでよし」

 

同性でも、思わず見惚れてしまう美貌の持ち主。そう言わんばかりか、その綺麗な笑顔を目にし、一年の少女の頬は赤みを帯びていた。

 

「では、一緒に行こうか」

「でも……」

「学園はあっちだよ?」

「え、えへへ……」

 

はにかみながら、少女も同行する。三人は学園へ向かうべく歩を進めた。

 

「あ、申し遅れました。私は【諸葛亮 孔明】と言います」

「孔明ちゃんか。俺は、【北郷 一刀】よろしくね」

「私の名は【関羽】。よろしく頼む」

 

三人は、互いに自己紹介を終えた。すると、関羽があることに気づく。

 

「一刀、襟が曲がってるぞ?」

「あ、本当だ」

「まったく、しょうがないな」

「ありがとう愛紗」

 

やれやれという風に、関羽は礼を言う一刀の襟を直す。その様子は、まるで弟の世話を焼く姉、或いは恋人同士の様。

孔明は羨望の眼差しで眺めていた。

 

そうこうしている内に、同じ制服を着た生徒達が校門を通っている場に辿り着く。

 

「もしかして、ここが……」

「「ようこそ!聖フランチェスカ学園へ♪」」

 

 

◇◆◇◆

 

 

――――【聖フランチェスカ学園】

 

生徒の大半が、裕福な家庭の娘という“元”お嬢様学園。

 

何故、“元”なのかと言うと、理由がある。

一刀が前に通っていた高校が少子化の影響を受け、去年廃校になってしまったのである。これを機に、聖フランチェスカ学園は、前々から話に上がっていた、男子学生との共学制を認める事になった。一刀もその流れで聖フランチェスカ学園に入学したのである。

 

しかし、共学制になってからまだ間もないため、男女比率の差がかなりのものだ。大人数の女子に対し、男子の数は恐らく数えられる程度だろう。下手すれば“男尊女卑”ならぬ“女尊男卑”という感じになる可能性もあるかもしれない。男子と女子との間はそこまで親密というわけではないが、だからといって悪いというわけでもない。共学制に賛成の者もいれば、反対の者もいる。賛否両論に分かれているが、仲は至って普通である。

 

広大な敷地内には自然公園があり、校舎は勿論、礼拝堂、喫茶店といった充実した設備が用意されている。

 

基本的にはほとんどの学生が学生寮に住んでおり、愛紗達が住んでいる女子寮は、高級マンション並みの建物で、外観にもこだわっている。

 

一刀達男子はというと、工事現場で見るプレハブ小屋の様な建物で、学園まで十分から二十分かかる距離にある。最初は合併してから日が浅いために急遽用意した寮だが、一年経った今でもこのままの状態。

 

最早、この時点で“女尊男卑”の時代になったと言っても過言ではないかもしれない。

 

 

 

続いて、学年は制服の色によって違う。

 

赤が一年生。青が二年生。緑が三年生という風に決められている。何組かのクラスに分かれているのだが、この学校では、それとはまた違った生徒達のチーム――――“軍”が存在する。本来のクラス関係なしに編成されたもので、お互いの事を信頼の証である“真名”で呼びあっている。

 

そして、時に軍同士が己の大義の為にと、知恵を絞り、武と武で戦いを繰り広げる…………事も、あるかもしれない。

 

 

 

因みに、授業レベルはかなり高い方であり、今日も群雄達は勉学に励んでいる。

 

机と向き合い、筆を動かす生徒、話を理解し、知識を吸収する生徒、ありもしない夢を見て寝る生徒、教科書を盾に早弁をして先生に見つかる生徒等々。

 

この“聖フランチェスカ学園”は、個性豊かな生徒が在学する学園だ。

午前の授業終了の鐘が、学園に鳴り響く。

 

昼食の取り方は生徒によって違う。

 

学園の食堂は基本無料であり、そこで昼を済ませるか、自分で弁当を持参するか。もう一つは、下駄箱付近に位置するパン売場でパンを購入するかである。そして現在、大勢の生徒達が並んでいる。並んでいるというよりは、ひどく混雑しており、運が悪い者はもみくちゃになる可能性大である。

 

大群の後方で、孔明は財布を手におろおろと狼狽えていた。

 

「ええっと、あの、すいません、私もパンを――――きゃあっ!」

 

進もうとしてもすぐに阻まれ、後ろへと弾かれる。すると、またもや顔に柔らかな感触を感じた。見上げると、見知った顔である少女がいた。

 

「関羽さん!」

「また会ったな」

「えっ?」

「では、突撃開始♪」

 

愛紗は、くるりと孔明を購買の方に振り向かせる。孔明の肩を優しく掴み、そのまま、戦場――大群の間――をそそくさとくぐり抜け、あっという間に購買へと到達。

 

「さ、孔明殿。私は、と」

 

愛紗はポケットからメモらしき紙を取り出し、パンを購入。

紙袋に積んだ後、自然公園を二人で歩いていた。

 

「本当にありがとうございます。パンを買うのまで助けてもらっちゃって」

「なに、困った時はお互い様だ」

「所で関羽さん、もしかしてそれ全部食べるんですか?」

「えっ?違う違う、これはじゃんけんに負けたから仲間の分も一緒に――――」

「愛紗に孔明ちゃんじゃないか」

 

愛紗が苦笑で答えると、横の方から一人の男子学生が走ってきた。

 

「一刀か、どうかしたのか?」

「日直の仕事が終わって、今から友達と昼飯を食いに行く所だよ」

 

手に持っている弁当を見せながら、説明を終える一刀。

 

「それと愛紗。まさかだと思うけど、それ全部一人で――――」

「ち、違う違う!断じて違う!」

 

孔明の時と違い、愛紗は慌てて否定する。一刀は彼女が手にしている二つの紙袋の内、一つを手にとる。

 

「ほら、一つ持つよ」

「いや、私は別に…」

「いいから、いいから」

「……かたじけない」

 

一刀は笑顔で大丈夫と伝え、愛紗も申し訳なく思いながら、感謝を述べる。孔明も横で二人の事を微笑ましく見ていた。

 

「愛紗〜〜!!」

「お、いたいた」

 

大声のする方を向くと、赤い短髪で虎の髪飾りを着けている元気な少女がいた。少女の後方にある一本の木の下にて、愛紗達の仲間である二人の少女が待っている。

 

「よう、鈴々」

「あ、お兄ちゃん♪」

「待たせたな、ほら」

「いただきなのだ〜♪」

 

鈴々は、二人から紙袋を受け取り、訳の分からない歌を歌ってはしゃいでいた。木の下まで行くと、紙袋を逆さにし、パンをどさどさと出していく。

茶髪の少女、馬超もパンをもらい、水色の髪の少女、星は弁当を広げる。その中身は、好物であるメンマがぎっしりと詰まっている。

すると、突然鈴々が叫びだした。

 

「ない!ないのだ!鈴々の大好物の“穴子サンド”がないのだ!」

 

“穴子サンド”とは、学園で購買されているパンの中でも人気の一つで、切り込みを入れたパンの上に穴子の切り身をトッピングしたものである。

 

味はよく分からないが、人気なのだから美味しいのであろう…………多分。

 

「いや〜、穴子サンドは売り切れで買えなくて……」

「すごい人気だもんな~。俺は食ったことないけど」

「代わりに、最初はこってり、後味さっぱりの“こっさりラーメンサンド”を買っておいたから、それで我慢してくれ」

「そんなのじゃダメなのだ!鈴々は一日一個穴子サンドを食べないとお腹から空気がもれ――――ってあぁ~~!!」

 

孔明の紙袋を見るや否や、大声を張り上げる鈴々。何故なら、孔明が抱えている紙袋の中に、穴子サンドが一つ入っていたからだ。

 

「どうして!?どうしてお前が鈴々の穴子サンドを持ってるのだ!?」

「あの、これは私が……」

「止さぬか、鈴々。これは最後の一つを孔明殿が買ったものだ」

 

愛紗は、暴走気味になっている鈴々を止める。しかし、鈴々は止まらない。

 

「でも、鈴々は毎日お昼のメインは穴子サンドって決めてるのだ!」

「ご、ごめんなさい……私、その事知らなくて」

「いや、孔明ちゃんが謝る事じゃないよ」

「そうだぞ?責めを受けるなら、買えなかった私の方に……」

「愛紗のせいでもないって。なあ鈴々、しょうがなかったみたいだし、今回は――――」

「何で何で何で何でなのだ〜!!」

 

一刀が説得するも、鈴々は怒り、駄々をこね始める。

 

「姉妹の契りを結んだ鈴々より、そんな奴の肩を持つのだ!?」

「お前の事を妹だと思うからこそ!姉として我儘をたしなめてやっているのだ!」

「妹が欲しがっているから、譲ってくれって頼んでくれてもいいのだ!!」

「それが我儘だ!!」

 

互いに意見をぶつけ合い、二人は唸りながら睨みあう。一刀が間に入るも、二人は止まる様子を見せない。

 

「二人とも少し落ち着けって」

「はわわっ!」

「やれやれ…」

 

孔明はどうすればいいか分からずにおり、後ろの方にいる二人もため息をついていた。

 

「愛紗のバカァァァァッ!!」

「あ、こら!」

「おい、鈴々!?」

 

鈴々は涙目になりながら、走り去っていった。

 

「愛紗、追いかけなくていいのか?」

「ふんっ!別に構わんさ」

 

そっぽを向く愛紗。頑固だな、と悩んでいると、向こうの方から自分を呼ぶ声がした。

 

「お〜い!か〜ずピ〜〜!!」

「おっと、それじゃあね孔明ちゃん」

「あ、はい」

 

一声かけ、一刀は声のする方に走っていった。

 

「全く、食い物の事位で仲違いとは、情けない」

「“生徒会長戦”も近いってのに、こんな事じゃ、先が思いやられるな」

 

星はメンマ、馬超はパンをそれぞれ口に持っていく。

孔明は、ある言葉に引っ掛かる。

 

「“生徒会長戦”?どなたか生徒会長に立候補されるんですか?」

「いや、この学園はちょっと変わってて――――」

 

【生徒会長戦】

 

聖フランチェスカ学園、恒例行事の一つである。

 

大将一人に武将二人、軍師一人を加えた四人一チームとして出場する。因みに男女混合は認められておらず、男子は男子、女子は女子だけのチームを編成しなければならない。

 

様々な競技で相手チームと競い合い、最後まで勝ち残ったチームの大将が会長になるという変わったシステムになっている。

 

「それじゃあ……」

「ああ。我ら四人は、関羽を大将にして、生徒会長戦に出る予定だったのだが……」

「すいません、そんな大事な時なのに、私のせいで、こんなことになってしまって……」

「なに、悪いのは鈴々の方なのだから、孔明殿が責任を感じることではない」

 

孔明が申し訳なく謝罪すると、愛紗は気にするな、と声をかける。

 

「けど、まじでどうすんだ?張飛抜きじゃ面子が足んないぞ?」

「そうだぞ。確かにあやつはバカだが、筋金入りのバカだけあって、あの馬鹿力は武将としてそう馬鹿にできんぞ?」

「ちょっと馬鹿バカ言い過ぎじゃあ……」

「心配するな。暫くしたら、“やっぱり鈴々が悪かったのだ〜”とか言って、泣きついて来るに決まってる」

「……だといいがな」

 

星の一言で、その場は少し暗くなる。一抹の不安が、一同の心に残る結果となった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

数本の木々が立ち並んでいる、自然公園の道を一刀は走っていた。走っている先には、一人の男子学生がいた。

 

「遅いでかずピー」

「悪い悪い、待たせたな及川」

 

一刀は苦笑しながら、前にいる男子に謝る。

金髪に染め、眼鏡をかけた関西弁の男子学生。名前を及川 祐と言う。一刀とは中学からの付き合いで、親友であると共に悪友――ある意味――である。

 

「ほな行こか」

「おう」

 

二人は弁当を片手に道を歩く。

 

「どうせ、彼女である関羽はんとイチャコラ話しとって遅れたんやろ?」

「イチャコラって……愛紗とは只の幼馴染みだし、普通に話してただけだよ」

「かぁ〜!これやからモテ男は!女子の殆どを虜にしておいてよう言うわ〜」

 

及川の言う通り。それは、入学式の時の事である。

男子と女子が合併する当日。初めて顔を見合わせた生徒達。

男子の中で成績トップである一刀は、代表として挨拶をすることになった。緊張しながらも堂々と演説を行った。その際にさりげな〜く見せた笑顔――本人自覚なし――。これにより、女子生徒の殆どがズッキューン!と心打たれたのであった。

 

一刀は一気に女生徒の注目の的となり、質問攻めをされた。好きな食べ物は?とか、好きな異性のタイプは?等々。

 

何やら思春期ならではの“危ない質問”もあったがそこは省略。

 

それに加え、その優しい人となりも影響し、一刀は瞬く間に女生徒の人気者となった。

噂によると、密かにファンクラブもできているやら、なんとやら。

 

そして、中学に入ると同時に離れ離れとなった愛紗とも、ここで再会できたのである。

 

「にしても、どうしたもんかな〜…」

「どうしたんや?かずピー。元気ないのぉ。関羽はんと喧嘩でもしたんか?」

「いや、そんなんじゃねぇんだけど」

「かずピー……」

 

及川は、眼鏡を中指でくいっと上げる。レンズが太陽に反射し、白く光っていた。

 

「すれ違っておると、大事なもん、失くすで……?」

「及川……」

 

空を見上げ、何やら黄昏れている友の肩に一刀はポンと手を置く。そして、一言。

 

「…………またフラれたのか?」

「ほっといてぇなぁ!!」

「これで何十回目だっけ?」

「ついに百をいきました……って何言わすねんこらぁ!!」

「せんぱ〜い!」

 

漫才をしていると、広い野原の上で、二人の少年がこちらに手を振っていた。制服のラインは赤色。一年生の様だ。

 

「遅いじゃないですか」

「結構時間過ぎちゃいましたよ」

「ごめんごめん、それじゃあ食うか。瑠華、【猛】」

 

一刀は及川と一緒に、二人の後輩と草原に腰かける。後輩の一人は、綺麗な瑠璃色の髪をした少年、月読こと瑠華。

 

そして、もう一人。瑠華と同じ一年生で、名を【五十猛(いそたける)】。親しい者からは猛、或いは“もう一つの名前”で呼ばれている。

 

一刀より少し濃い茶髪で、長さは肩にかかるか、かからない程度。瑠華と同様、男に見えないほど可憐な容姿をしており、背は瑠華より少し高い位だ。武道も嗜んでおり、その実力は折り紙付きだとか。

 

二人は中学で知り合い、意気投合して親友となった。一刀とも、そこで出会ったのだ。男子共学制になった一年後、この学園に、同じクラスで入学した。

 

一刀達にとっても、文字通り“可愛い後輩”であり、二人も一刀の事を尊敬している。勿論、二人とも可愛らしい顔立ちをしているため、入学早々学年関係なしに人気を得たのであった。

 

男子四人はそれぞれ昼食をとる。

 

一刀は自作の弁当。瑠華は購買で買った色々な種類のパンで、猛はおにぎり三つとおかず――玉子焼きやミートボール等――。及川は――――。

 

「「「…………」」」

「な、なんや?なに、人の弁当を同情の目で、み、見てるんや?」

「ちょっと、おかずやるよ……」

「パン半分あげます……」

「おにぎり一ついりますか……?」

「普通のコンビニ弁当見て哀れむなやお前らぁぁぁぁ!!」

 


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