さよなら、しれえ   作:坂下郁

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 終戦を目前にして、自分たちだけではどうにもできない流れに、それでも向き合おうとするサラトガと提督。


第十話 Sara Smile

 彼岸花(Spider Lily)のような赤く逆立った髪形の深海棲艦の姫を中核とする敵の連合艦隊との戦いは熾烈を極めました。激しい空襲、立ちはだかる強敵に次ぐ強敵を相手に、何度も撤退を余儀なくされましたが、それでも私たちは挫けずに挑み続けました。

 

 迎えた最終決戦(ラストダンス)、もうこりごりっていうほどひどくやられちゃいましたけど、装甲空母(Mk.II Mod.2)の名に恥じず発艦させた戦爆連合が敵旗艦に会心の一撃を加え大破に追い込みました。後に続く第二艦隊の夜戦で、私たちはついに勝ったんです!

 

 長い夜を超え辿り着いた暁の水平線、周りを見回せば損害を受けていない艦娘なんかいなくて、みんなボロボロ。でも眩しいくらいに輝いた、晴れがましい笑顔で一心に母港を目指します。やがて鎮守府の管理海域に到着、有視界でも母港が見える範囲に入ると最初に目に飛び込んできたのは、突堤の先端に立ち双眼鏡を覗き込む一人の男性。

 

 白い制服に制帽、大柄でがっしりとした男らしい体型の私たちの提督……そして、My hubby(私の夫)……。突堤脇のラッタルを昇り終え、後は敬礼をして帰投を報告するだけ。そこまで近づいて提督と目が合った瞬間にへなへなと力が抜け、膝立ちで体を支えるのが精いっぱいになってしまった。安心しすぎて膝に力が入らない。訳もなく涙が零れ落ちるのを止められず、子供のような泣き顔でポニーテールを揺らしながらただ提督の名を繰り返し呼ぶ。そんな私を、長門(ナガート)や酒匂が近づいてきて、慰めてくれました。

 

 戦船であると同時に女性、それが艦娘という今の在り方。出で立ちがどうであっても戦場に出る以上、死の覚悟はできています。でもそれは死を受け入れているわけではない。強烈な生への渇望があるから、逆説的に死を可能性の一つとして理解できているだけ。勝利や栄光、ステーツの名誉……色々なものが肩に載っていたけど、いつしか気付けば心にあったのは、ただこの場に生きて帰ってくること……生まれ故郷を遠く離れたこの極東の地を、私はいつの間にかとても愛おしく思うようになっていた。そう思わせてくれた存在が、提督……あなただった。エンゲージリングの重さと美しさ、冷たい金属のもつ温かさを教えてくれた人。

 

 気配を感じて顔を上げると、いつの間にか提督がすぐ目の前に立っていて、手を差し出していました。ダークネイビーのワンピースは……ほぼ原形を留めてない。辛うじて胸部や腰回りにそれが着衣だった名残を残すだけの、勝利の代償と呼ぶにはかなり恥ずかしい格好。おすおずと手を伸ばして提督の手を取ると、思いっきり自分の方に引き寄せて、胸で窒息させるような強さで抱きしめます。

 

 「はい、サラはここに……あなたの元に……帰ってきました……」

 

 レキシントン級正規空母二番艦CV-3サラトガ……いいえ、サラの戦いは、こうして勝利のうちに幕を下ろしました。

 

 

 

 行き交う砲弾と立ち上がる水柱、迫り来る艦載機から放たれる爆雷撃、荒れる波と吹きすさぶ風の中それらを必死に躱し、艤装のガングリップを握りしめる。

 

 「サラの子たち、いい? Attack!」

 

 何度そう叫んで艦載機を空に放ったでしょう。一瞬の油断がそれまで積み重ねてきた勝利を台無しにする理不尽なまでに残酷な鋼鉄の暴力。死に物狂いで勝ち取るのは、勝利ではなく命。死の恐怖を超えた先にある、生きること自体がもたらす快感。

 

 でも、そんなひりひりとした、肌を焼くような時間は静かに終わりを告げていたのかも知れません。

 

 前回の大規模作戦が終了して以来、目に見えて出撃の機会は減りました。噂では深海棲艦との戦争が終結に向かっているとか……。でも公式には何の発表もないので、私達艦娘は表面上平静を保ちながら、日々を同じように過ごしています。前回の戦いの後、Mk.IIに再改装されたサラは、秘書艦を仰せつかっている事もあり、出撃が減ったどころかゼロ、nothingです……。

 

 代わりに、ただただ甘く、怠惰な日々が続いています。昼間は艦隊の練度向上のための演習や資源獲得のために遠征、出撃系以外の各種任務の手配、資材管理etc etc……。あと、大事なのは、ブレックファスト、ランチ、ディナー、そしてデザートを提督のためにご用意して、一緒に食べる時間。 それと、夫婦の営みの時間……改めて言葉にすると、照れますね。

 

 演習の結果報告で長門が執務室にやってきました。背中から覆いかぶさるようにして提督に抱きついているサラを見て、肩を竦めて苦笑いを浮かべた長門に、ほどほどにな、と言われちゃった。Why? 夫婦ですもの、常に一緒にいるのは当たり前でしょ? 日本の艦娘から見ると、私はあまりにも提督と一緒にいすぎなんですって。提督は少しバツが悪そうな表情で、サラに離れるように仕草で伝えてきました。ええっ、スキンシップが足りないと、愛は色あせ始めるのよ? サラは不満そうな表情を隠さず、それでも顎に支えて小首をかしげると、長門の言う事を少し考えてみました。

 

 サラは慎みを失わず、いつも淑女として提督に接してるんだけど? 長門はやれやれ、という表情で、小さな駆逐艦娘達には刺激が強すぎるんだ、と言い残して執務室を去っていきました。

 

 愛し愛される喜び。Mk.IIでもMod.2でも、サラは提督の腕の中で途切れることなく嬌声を上げ、貪るように激しく動きます。だって無意識ですから、しょうがないです。何度目かのHeavenを見た後、さすがに少し疲れてサラも提督もベッドに身を預けます。荒い息を整えながら、ふと昼間に長門に言われたことを唐突に思い出しました。真っ白で、それでいて激しく波立つシーツの海で心地よく疲れた体を横たえ、提督に腕枕をされながら聞いてみます。

 

 「提督……もしかして、サラの声……ちょっとだけ大きいですか?」

 

 提督の答えに、サラは自分でも分かるくらい顔が真っ赤になりました。そ、そんなに……? 夢中になりすぎて淑女のサラはどっかに行っちゃってたみたい。提督の顔を見ることができず、恥ずかしさを隠すように、彼の厚い胸板にぎゅうっと顔を埋めました。だがそれがいい、と言って、提督はサラを抱きしめ返してくれました。そのまま二人で抱き合いながら眠りに落ちる。朝になっても、必ずどちらかがどちらかを抱きしめたまま、目覚めを迎える。それがサラと提督の一日の終わりと始まり。

 

 

 「7 o'clock。サラ、モーニングを用意します。卵はスクランブルでよかったですよね?」

 

 カーテンを開け、朝日を寝室に呼び込むと、眩しさを避けるようにしてブランケットを頭まですっぽりと被る提督。すん、と鼻をひくつかせる……濃密な匂いが籠る部屋……う~ん、窓も開けないと。フレッシュエアを取り入れて換気しないと……。今日も天気がいいですね、お洗濯日和です。ゴネる提督をベッドから追い出して、ベッド周りも全部洗っちゃいます。

 

 ぱんっ、と音を立ててシーツを振り水気を飛ばし、物干し場にシーツを掛けます。

 

 「ふう……ステーツでは全部オートメーションで、自分で干したりしなかったけど……。日の光で乾かすのは、とても気持ちいい……こういうのも、悪くないですね。でも……いつまでこうしていられるのかしら……」

 

 ランドリーバスケットと物干し竿の間を往復するのに何度も折り曲げて、少しだけ凝った状態を反らすように伸ばして、空を見上げる。きらきらと光る太陽の雫を見て目を細めながら、未だに提督に言えずにいることがあるのを思い出していました。

 

 

 

 カーテンの隙間から漏れる月明かりだけがぼんやりと照らす深夜の寝室。いつものように愛を確かめ合った後、提督が眠りに落ちるまでは眠ったふりをしてました。そのまま眠りに落ちれれば、そう思っていたけど、ダメみたい。提督を起こさないようにそっと腕から抜け出し、ベッドの上で膝を抱え、ぼんやりとしています。

 

 いずれ……ううん、遠くないうちに戦争は終わる……。終わったら……ステーツに帰らきゃならない。艦娘として、命令に従うのは当然の事。でも……本当に、それでいいの……サラ? 増え始めたステーツからの接触。秘匿回線経由でやりとりされるそれは、サラに帰国の意思を遠回しに問うものから始まり、最近では露骨に帰国許可を提督に申請を求めるものへと変わってきました。

 

 日本で建造された組と異なり、サラのように海外で生まれた艦娘の場合、所有権は戦時限定かつ条件付きで日本海軍に移転されました。条件とは、所属基地の責任者の同意があれば元の国に所有権が返還される事。日本海軍を矢面に立たせながら、艦娘の運用ノウハウを吸い上げようとする諸外国の思惑に関わりなく、日本の艦娘と彼女たちを指揮する提督は、勇敢に戦い続けました。彼らの仲間になれたのが誇らしく、サラが男らしい提督に心を奪われるのに時間はかかりませんでした。

 

 乱れた心のまま夜の帳を見つめていると、視線を感じます。提督がサラを見ています。

 

 「I’m sorry……起こしてしまいましたか?」

 

 柔らかく微笑みながら提督も体を起こし、サラを背中から包むように抱きしめてくれます。その温もりを嬉しく感じてると、わずかに強く提督の腕に力が籠り、サラの耳元で、予想していた事と予想を超える事の両方が囁かれ始めました。

 

 

 深海棲艦との戦争の終結宣言が、正式に発表されるって。うん、これは予想の範囲。前回の作戦終了から今までの作戦活動を見れば、誰でも想像ができる。そして同時に……提督が解任される……って? え、えぇっ!?

 

 

 「Oh my god……一体どういうことですか? あなたのように優秀な提督を解任するなんて……いくら戦争終結間近と言っても……そんな……」

 

 戦争終結宣言と提督の解任は明後日、その翌日には新たな提督が着任? 驚きながらも、サラの中でばらばらに動いていた話が、きれいにつながりました。深海棲艦との戦争が終わろうとする今、各国が日本海軍だけに艦娘の独占を許すはずもなく、ステーツはサラの返還を強行に迫り、日本政府や日本海軍にも圧力がかかったことでしょう。でもきっと提督はサラを手放そうとしなかった。だから提督は解任され、だから聞き分けのいい後任者が必要――。

 

 こんな日が来るのを想像していなかった訳じゃない。だから、私たちは時間を惜しんで愛し合っていた。別れへの怯えを心に隠しながら、少しでもお互いの心にお互いを刻めるように。

 

 

 平和な海を取り戻す、その日のために戦ってきたはずなのに。サラの心は不安に波立ったまま落ち着いてくれません。

 

 

 限られた時間しか残されていない、サラと提督。私たちの間には見えない壁ができたようにぎこちなく、目が合ってお互い何か言いたそうな表情になっても、言葉にすることができませんでした。正式に発表された様々な情報は皆を驚かせるのに十分なものでしたが、何より皆を驚かせたのは、深海棲艦との戦争終結や新たな提督の着任ではなく、提督の離任とサラの帰国。

 

 一人きりの執務室、デスクに軽く腰掛けながら、サラは今日届いた指令書をぼんやりと眺めています。そこには、予定より一日早く私を迎えにニミッツ級の空母CVN-76が入港する、と書いてあります。わざわざ空母を派遣してこなくても、サラなら自分で航行できるのに……その疑問は、別な角度からの説明で納得できました。深海棲艦との戦争が終わりを迎える今、アメリカ海軍の強大さを再度日本政府に理解させる必要がある、って……。深海棲艦との戦争が終わったら、今度は人間同士で争うの……? その時サラは……どうすれば……。

 

 

 

 「ふう……こんな所かしら。これで大丈夫だと思うけど……」

 

 細長く狭いウォークインクローゼットを見渡し、サラは小さな溜息を零します。狭いと言っても大人二人が余裕をもって並ぶことのできる通路を挟んだ両側に広がる収納スペース、右側には大型ハンガーブース、左側には壁に組み込まれた大小様々にいくつもの引き出しが連なってます。自分の荷物をスーツケースに詰めたサラは、同じように提督のため荷造りをします。

 

 「Oh my god……こんなところにこんなのを入れてたのね……」

 

 それは、提督の靴下を仕舞っている引き出しから出てきたミュージックプレーヤー。音楽が好きな提督は、暇があればイヤホンで音楽を聴いてました。サラとのコミュニケーションより音楽の方が大切なんですか、と涙目で提督に迫ったら、その日から提督はプレイヤーをどこかにしまい込んだ。ほんと、素直な人。でも、こんなところにしまっていたんですね。一瞬だけ考えて、ミュージックプレーヤーを胸のポケットにしまいます。一つくらい、提督との思い出を連れて行っても、いいですよね?

 

 クローゼットの中が次第に空になり、ハンガーブースが空になり、二人の気配が薄れてゆきます。終わりって案外呆気ないのね……胸の奥が痛みます。あとは……まだ片づけていない引き出しには、提督のシャツが入っています。

 

 「…………」

 

 取り出した一枚のシャツを、宝物を抱えるように両手で胸に抱きしめ、白い壁にもたれ掛かると、こつんと頭を壁にぶつけ天井を見上げゆっくりと目を閉じました。

 

 「ステーツに帰ると……きっともう日本には……提督……Good-bye……」

 

 ライトグレーのノースリーブのワンピースのスカートが、しゃがみこんだ拍子にふわりと持ち上がる。両手で顔を覆い、提督のシャツに顔を埋めて声を殺しながら肩を震わせて泣くしかできなかった。揺れる肩に合わせ茶色のポニーテールが嫌々をするように左右に揺れています。

 

 

 

 「サラよりもはるかに大きいフネ……」

 

 ライトグレーのワンピースを着て港で迎えを待つサラ。周りには名残惜しそうに見送ってくれる仲間の輪ができていますが、サラの目は港湾管理線を超え進入してきた、巨大なCVN-76に釘付けになってます。これが迎えのフネ……広大な飛行甲板を発艦したヘリが、港のヘリポートに着陸するのをぼんやりと見ているしかできませんでした。別に予定より順調な航海じゃなくてよかったのに……。

 

 あのフネに乗り込み、港湾管理線を超えた瞬間から、サラは日本の艦娘ではなくなってしまう。

 

 それにしても、CVN-76 を見ているとつくづく思う。サラが沈んでから何十年も経つ間に、空母はこれほどまでに大きくなったのね……。うん? そういえば、サラはどうして沈んだんだっけ? なぜでしょう、思わずぶるっと身震いがします。なんだろう……思い出したくない……? 得体の知れない恐怖に怯え、思わず両手で自分を抱きしめると、ふと指先が塊に触れました。

 

 「あ、これ……」

 

 提督から(黙って)もらったミュージックプレイヤーが胸のポケットに入っていました。乗艦までまだ時間がありそうですし……。潮風にポニーテールを遊ばせながら、イヤホンを耳にはめ、プレイボタンを押します。

 

 「この曲、So beautiful……いいですね。サラ、好きです」

 

 最新のポップミュージックとは違う、切なげな音色のギターソロから始まる、ゆったりとしたメロディのEvergreen song(色あせない名曲)。R&Bやソウルがベースになっているのかしら、男性デュオの声が耳に心地いい。

 

 素直な想いを歌う一途なlove songは、自然と提督の事を思い出すのに十分でした。このまま聞いていたら、気持ちが揺らいじゃう……そう思って慌ててイヤホンを外そうとしたとき、Climax(サビ)の部分に差し掛かりました。サビと言っても、静かなメロディに載せた囁くように切ない声。

 

 

   ―――― Sara Smile

 

 

 両手で口を押え必死に声を殺しても、瞳から涙が零れ落ちるのは止められません。思い出した、ううん、何で忘れていたんだろう。提督は言っていた。どうしてもサラにプロポーズする勇気が出なくて、自分を励ますために、私と同じ名前の女性に思いを寄せるこの歌をずっと聞いていたって。全てが色鮮やかに蘇り、サラはもう居ても立ってもいられなくなり、気が付いたら駆け出していました。

 

 

 こんな歌……ずるい……。まだ間に合う、この先どうするべきか、サラには分かりません。でも、こんな気持ちのままで提督、あなたから離れるなんてできない――。

 

 

 提督に会いたい……くるりと振り返り司令部へ駆け出そうとしたサラの背中に激しい衝撃が加えられました。イヤホンが耳から外れ、音楽が途切れます。地面に倒れ込み転げながら、必死にポケットを確認します。よかった……プレーヤー、壊れてない。

 

 振り返ると、ヘリから下りてきた完全武装の兵士がこっちに向かってきます。手にしているのはショットガンに似た暴徒鎮圧用銃(ライオットガン)の艦娘用? 体がしびれて動かせません。サラを巡って、追いつこうとする兵士達と守ろうとする仲間の間で小競り合いが起きています。混乱を抜け出して来た一人の兵士に、ぐいっと乱暴にポニーテールを掴まれて無理やり身体を起こされました。何が何でもステーツに連れ帰る、強い意志の現れのような無表情でサラを連行しようとする兵士を、やり場のない怒りと悲しみを込めながら精一杯睨み上げました。

 

 

 突如として、鎮守府の港に轟音が響き渡ります。これは……戦艦の主砲の一斉射撃!? 停泊中のCVN-76 の周囲に巨大な水柱がいくつも立ち上がっているのが見えました。ナガートが指揮を執る連合艦隊が急速接近し、ステーツの空母の包囲をあっという間に完成させました。……oh my god……みんな……。呆然としている兵士の手を払いのけ、まだ痺れの残る体を無理やり動かして立ち上がり、艤装を展開して対峙します。

 

 一瞬だけざざっと雑音が混じり、スピーカーから凛とした、提督の声が港に響き渡ります。

 

 今も有効な、国を問わず守らねばならない共通のルールーー事前通告があった場合、艦娘運用基地は各国の海軍艦艇の入港を受け入れ、指定する場所への停泊を許可する。そして入港を認められた艦艇は、各拠点の管理海域内での一切の武力行使を禁止される――。

 

 ステーツのmistakes……一つはサラがCVN-76に乗艦して管理海域を出る前に暴力をふるったこと。所有権の移転が完了する前のサラ、つまり日本の艦娘にステーツの艦とその乗員が危害を加えた以上、鎮守府の艦娘達は戦える。もう一つは、予定より早く入港した事。私の提督が提督でいる間に、そんな理不尽が許されるはずがありません。

 

 致命的な失敗を犯したステーツの空母は、左右から喫水線に砲を向けたサラの仲間たちにエスコートされ、鎮守府の管理海域から強制退去させられました。サラに近づいてくる、白い制服に制帽、大柄でがっしりとした男らしい体型の私の提督……。目が合った瞬間、駆け出して彼の胸に飛び込みました。サラの髪を優しく撫でながら、提督は優しく語り掛けます。

 

 「僕は明日から提督じゃなくなる。それでも君と一緒にいたいんだ」

 

 ぐっと唇を噛み締めて涙が零れるのを堪え、精一杯、柔らかく、全てを包むように微笑み返します。この先、私たちがどうなるのか、それは分かりません。きっと楽なことなんか何一ないと思います。So what(それが何)? サラが言える事は一つだけです。

 

 「It's you and me, forever……」


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