映画出演のお話が天海春香の元に舞い込んできた。しかし、その配役は……。悩んだ春香は、765プロで誰よりも映画出演の経験がある周防桃子に相談を持ちかける。

※短いです

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春香さんが桃子に演技相談する話。

「春香、やったぞ! 遂に映画の仕事が取れたぞ!」

事務所でのんびり待機してた私の元に、勢いよく事務所の扉を開けて、プロデューサーさんがすごいニュースと共に走りこんできた。

「ほ、本当ですか、プロデューサーさん!?」

映画のお仕事。これまで通行人とか、主役の人が通う学校のクラスメートとか、ちょっと台詞がある程度の出演はしたことがあるし、ドラマなら最近は結構セリフを貰える役もやったことがあるけれど、このプロデューサーさんの騒ぎ様、結構良い役が取れたのかも……?

「ああ、しかも主役だぞ! この前の医療ドラマでの患者役を見て、監督がビビっと来たらしい。直々のご指名だ、やったな!」

「しゅ、主役ですか!?」

びっくりした、というのが正直な感想。だって、まさか、主役なんて。

「やっぱり頑張ったら誰かが見ていてくれるんだな。よかったな、春香!」

「はい! それで、どんな役なんですか?」

期待と不安を胸に、尋ねてみたところ。

「……あー、えーっと、それがだなぁ……」

何やら歯切れの悪い返事が返ってきて。

「え、えええええ!?」

私の叫び声が事務所にこだまするのでした。

 

「……それで、桃子のところに相談に来たの?」

「そうなんだよー、お願い桃子ちゃん! こんなの頼れるのは桃子ちゃんしかいないんだよう……!」

「ま、まあ桃子はみんなより先輩だし。映画にも何度も出たことあるから、アドバイスくらいなら出来ると思うけど……」

ちょっと困ったけれど、でも頼られてまんざらでもない、そんな感情がないまぜになった笑顔を浮かべる桃子ちゃん。そりゃあそうだよね。だって……

「【余命少ない女の子が変身して、悪の組織に大量の手作りマジカルお菓子を送りつけ全員を改心させて平和にしちゃう魔法少女役】だなんて、桃子もやったことないよ!?」

ですよね。私も初耳です。

「でも、近い役はやったことがあるんじゃ……?」

「ないよ!?」

「でも、前に魔女っ子役はやったよね?」

「や、やったけど、でも今度の春香さんの役とは全然違うし、そもそもあれはお兄ちゃんが無理矢理持ってきた仕事で、桃子はあんまりやる気なかったけど、お兄ちゃんがどうしてもって言うから、仕方なくやっただけで……」

ちょっと恥ずかしそうに目を逸らす桃子ちゃん。ふふふ、春香さん知ってます。これは『楽しかったけど楽しいって言っちゃうと恥ずかしいからとりあえずプロデューサーさんのせいにしておこう』の合図なのです。

「それでも、何も経験のない私よりは詳しいよね? お願い、教えて? お礼はするから」

「──じゃあ、ホットケーキ」

「うん?」

「ホットケーキ、焼いて欲しい。春香さんの作ってくれるお菓子、おいしいから」

「……うん! まかせて、とびっきりふわっふわでおいしいホットケーキ、焼いてあげる!」

桃子ちゃんはとても優しくて、プロ意識も高くて、そして甘いものが好きな可愛い女の子なのです。

 

 で。とりあえずお手本を見たい、という話になり。

「ま、マジカルモモコが、やっつけちゃうんだから!」

可愛い。いや違う、私は桃子ちゃんに教えを請いに来たのであって、決して桃子ちゃんの魔女っ子演技を堪能しにきた訳ではないのです。

「うう……春香さん楽しんでない?」

バレた。

「そ、そんなことないですよー?」

「じゃあ、春香さんのお仕事なんだし、実際やってみないとね? はい、マジカルハルカさん、どうぞ!」

「え、ちょっと待って!? まだ心の準備が……」

「心の準備って、お仕事請けるから桃子に相談しに来たんでしょ? すぐに役に入れないようじゃダメだよ。というわけで、はい、どうぞ♪」

くう、桃子ちゃん楽しんでるんじゃないかな? って、私が言えることじゃないか。

「わ、わかったよう、じゃあ……マジカルハルカ、ここに参上っ! そーれ、ハルカのお手製お菓子を食べなさーい」

「全然ダメ」

「ううっ。た、確かに自分でもちょっと適当かなーとは思ったけど……」

「魔法少女はもっと可愛く、だけど使命感溢れるものなの! 『ハルカお手製のこのお菓子で、みーんな楽しくなっちゃえ!』って感じかな?」

「ふむふむ」

メモメモ。さすが桃子ちゃん、最初は照れていたけれど、一度入り込めばすごく熱心で的確なアドバイスをくれる。魔法少女へのこだわりを語る桃子ちゃんは、いつにも増して真剣です。

「……と言うか。そもそも、どんなキャラクターなの? それが分からないとアドバイスのしようもないんだけど」

あ。言われてみれば。

「いや、まだ出演依頼が来ただけで、台本も詳しい話も何も聞いてないんだ……」

「──はあ。春香さん焦り過ぎ。まずはどんな役でどんな台詞があるのか、しっかりと台本を読んで掴んでから演技に入るんだよ? 台詞もないのに演技指導なんてムリ」

「うう、おっしゃる通りです……反省します……」

「ま、まあ、それだけ貰った役に真剣に向き合ってるってことだし、その……台本貰ってから、また相談しにきても、いいよ?」

「ほんと!? 桃子ちゃんありがとう!」

「ちょ、ちょっと、なにも抱きつかなくても……」

ふふふ。桃子ちゃんは可愛くて、私たちの中で誰よりも芸歴が長くて、一度引き受けたことはちゃんと最後までやりぬく、とても責任感のある女の子なのです。

 

 そして、そのまま時は過ぎて数日後。

 朝のお仕事が終わり、次のスケジュールは夕方から。のんびり事務所で、ちょっとした事務作業をするプロデューサーさんの背中を見ながら待機中。

「そういえばプロデューサーさん、この間の映画って、いつから撮影するんですか?」

何気なく聞いてみたのだけれど。

「ああ、あの映画な──実は、撮影中止になりそうなんだ」

「──え?」

「監督がノリノリで脚本書いて、書き上げたそのテンションでとりあえず役者を揃えよう! って、資金もスポンサーもないままオファーだけを先に出したらしくてな。どっちのあてもなく、撮影開始の目途が立ってないんだ。色んな所に脚本見せてまわってもどうにも反応が悪くて、このままお蔵入りかもね、って監督は笑ってたよ。勘弁して欲しいよなぁ、ははは」

またしても。

「え、ええ、えええええええ!?」

私の叫び声が事務所に響くのでした。




タイトル詐欺な気がする。どうしてこうなった。
桃子ちゃん可愛いからね、仕方ないね。


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