終戦から71年。皆様は何を思うでしょうか?

1 / 1
終戦の日ということで日米両国の国を背負った戦艦二隻を出しました。また、お互いに戦争を生き延びたことも理由です。


8.15 長門とアイオワ

うだるような暑さが身体にまとわりつくようなある夏の日。戦艦長門は大きく広がる太平洋を眺めていた。あの夏もこんな感じだったか。そう思いながら寄せては返す波を眺めていた。そして頭の中で再生されるあの文章に耳を傾けていた。

 

 

 

〝朕(ちん)深ク世界ノ大勢ト帝國ノ現状トニ鑑(かんが)ミ非常ノ措置ヲ以テ時局ヲ收拾セムト欲シ茲(ここ)ニ忠良ナル爾(なんじ)臣民ニ告ク

 

朕ハ帝國政府ヲシテ米英支蘇四國ニ對(たい)シ其ノ共同宣言ヲ受諾スル旨通告セシメタリ

 

抑ゝ(そもそも)帝國臣民ノ康寧(こうねい)ヲ圖(はか)リ萬邦共榮ノ樂ヲ偕(とも)ニスルハ皇祖皇宗ノ遺範ニシテ朕ノ拳々措カサル所
曩(さき)ニ米英二國ニ宣戰セル所以モ亦(また)實(じつ)ニ帝國ノ自存ト東亞ノ安定トヲ庶幾スルニ出テ他國ノ主權ヲ排シ領土ヲ侵スカ如キハ固(もと)ヨリ朕カ志ニアラス
然ルニ交戰已ニ四歳ヲ閲シ朕カ陸海將兵ノ勇戰朕カ百僚有司ノ勵精(きんせい)朕カ一億衆庶ノ奉公各ゝ最善ヲ盡セルニ拘ラス戰局必スシモ好轉セス世界ノ大勢亦我ニ利アラス
加之(しかのみならず)敵ハ新ニ殘虐ナル爆彈ヲ使用シテ頻ニ無辜ヲ殺傷シ慘害ノ及フ所眞(しん)ニ測ルヘカラサルニ至ル
而(しか)モ尚交戰ヲ繼續(けいぞく)セムカ終ニ我カ民族ノ滅亡ヲ招來スルノミナラス延テ人類ノ文明ヲモ破却スヘシ
斯ノ如クムハ朕何ヲ以テカ億兆ノ赤子ヲ保シ皇祖皇宗ノ神靈ニ謝セムヤ是レ朕カ帝國政府ヲシテ共同宣言ニ應(おう)セシムルニ至レル所以ナリ

 


朕ハ帝國ト共ニ終始東亞ノ解放ニ協力セル諸盟邦ニ對シ遺憾ノ意ヲ表セサルヲ得ス
帝國臣民ニシテ戰陣ニ死シ職域ニ殉シ非命ニ斃レタル者及其ノ遺族ニ想ヲ致セハ五内爲ニ裂ク
且戰傷ヲ負ヒ災禍ヲ蒙リ家業ヲ失ヒタル者ノ厚生ニ至リテハ朕ノ深ク軫念(しんねん)スル所ナリ
惟フニ今後帝國ノ受クヘキ苦難ハ固ヨリ尋常ニアラス
爾臣民ノ衷情モ朕善ク之ヲ知ル然レトモ朕ハ時運ノ趨(おもむ)ク所堪ヘ難キヲ堪ヘ忍ヒ難キヲ忍ヒ以テ萬世ノ爲ニ太平ヲ開カムト欲ス

 


朕ハ茲ニ國體(こくたい)ヲ護持シ得テ忠良ナル爾臣民ノ赤誠ニ信倚(しんい)シ常ニ爾臣民ト共ニ在リ
若シ夫レ情ノ激スル所濫(みだり)ニ事端ヲ滋クシ或ハ同胞排擠(はいさい)互ニ時局ヲ亂リ爲ニ大道ヲ誤リ信義ヲ世界ニ失フカ如キハ朕最モ之ヲ戒ム
宜シク擧國一家子孫相傳ヘ確ク神州ノ不滅ヲ信シ任重クシテ道遠キヲ念ヒ總力ヲ將來ノ建設ニ傾ケ道義ヲ篤クシ志操ヲ鞏クシ誓テ國體ノ精華ヲ發揚シ世界ノ進運ニ後レサラムコトヲ期スヘシ
爾臣民其レ克ク朕カ意ヲ體セヨ〟


 

 

玉音放送。日本がポツダム宣言を受け入れ、無条件降伏することを国民に昭和天皇自ら知らせたラジオ放送である。

あの大戦の終わりを象徴する放送だ。あの夏からいくつの夏が来ただろうか。1946年の夏にあの悪魔の兵器によってビキニ環礁に沈められた後も海の底で何度も思い出しては消え、思い出しては消えを繰り返していた。

そしてそれは、艦娘として生まれ変わり、平和な海のための戦いに身を投じていく中でも変わらなかった。

 

また夏が来た。

 

そう思いながら海を眺める。

 

「横、いいかしら?」

後ろから声がかかる。振り向くとアイオワがいた。

「ハイ、これ。」

アイオワそう言い、瓶のコーラを差し出した。瓶全体に大量の水滴が付いている。相当冷えているようだ。手に取るとよく冷えているのがわかる。栓を開けるとしゅぽっ、といい音がした。

すると、アイオワが尋ねてきた。

「あの戦争のこと考えてたでしょ?」

「そうだが。からかいにでも来たのか?」

長門はそう返した。

「からかうなんてとんでもない。Meも当事者よ。そんなことできないわ。」

「じゃあなんだ?」

「少し、あの戦争について貴女に話したいことがあってね。」

そう言い、アイオワはコーラを一口飲んだ。

「Meね、あの戦争が終わったって聞いたとき、やっと平和が戻るって思ったの。当然よね。あんな大きな戦争だもの。世界中で戦争していたのよ。みんな戦争なんか懲りたと思ったわ。でも現実は違った。いつの間にか冷戦が始まってた。そして、大戦が終わってから5年でまた戦争が始まった。たった5年よ?Meは信じられなかった。そしてそれから10年ちょっとでまた戦争。あのベトナムよ。そのときはMeは予備役だったから参加はしなかったけど、思ったの。結局みんな悲劇を繰り返すって。そりゃ軍上層部や政府は正しい戦争だって主張するわ。Meもそう考えた。Weは正義の為に戦っているんだって。でもね、Meを訪れたあるおじいさんがこう語りかけたの。

 

“私は第二次大戦に参加した。その戦争で左腕を失った。だが、周りの人はみなこう言ったんだ。正義のための戦争だったんだ、それで負傷した傷は名誉の傷だ。誇りに思うがいい、と。その時はそう思った。そしてそれから20年経ったとき、軍に入った息子はベトナムに行った。部隊長として張り切って出征して行ったよ。あのときの顔は今でも思い出す。それで死んじまったよ。24だった。同い年の妻とあと2ヶ月で産まれる子供を残してな。結局戦争は負け、この国は一気に悪者になった。息子は何の為に死んだんだ。何度も何度も神に問うたよ。それから25年後だったか湾岸戦争が始まってな。今度は孫が戦争に行った。26だった。そこで死んだ。その知らせを聞いたときはショックで立てなかったよ。失った左腕を誇る気持ちも消えちまった。政府は正しい戦争だというが若者を散々殺しておいて正義なんて言える理由がわからん。そうだろう、アイオワ?教えてくれよ。わしの息子と孫はなぜ死ななきゃならなかったんだ?”

 

って。Meはその話を聞いて思った。正しい戦争なんてない。どれもこれも人殺しを正当化してるだけなんだって。そしてMeはその人殺しのための兵器。わかってるつもりだった。Meが人殺しの兵器であることぐらい。でもいつまでもそう考えていたら気がおかしくなる。だから、政府や上層部が言うことを信じた。でもそれは人殺しをした事実から逃れようとしたにすぎない。艦娘という存在に生まれ変わり、艦ではなく人としてのMeになってようやく気付いたの。遅すぎるわよね。」

そこまで語り、アイオワはコーラの瓶に再び口をつけ残りを一気に飲み干した。

「そのときはMeが嫌になったわ。また、人殺しをしなきゃならないの?って。人の姿を得て、人の心を得て、そうまでして人に砲を向ける理由があるの?って。でも違った。人類の為に、平和な海の為に戦えるって知ったときは嬉しかったわ。やっと、やっと平和の為に、それこそ正義の為に戦えるって。でもそんなとき、私にある命令が来たの。」

アイオワのトーンが変わる。

「日本に配備か。」

長門が短く言う。

「そう。Meは混乱した。いくら同盟国とはいえかつて戦火を交えた国よ。Meが沈めた艦だっている。どんな顔をすればいいかわからなかったわ。正直怖かった。あの戦争が終わってから長い月日が経つけど、あのとき殺し合いをした事実は消えない。いつまでもね。自分を殺した人に会うなんて。そしてまたMeは悩んだ。辛かったわ。でもここのみんなは快くMeを迎え入れてくれた。Meが沈めた舞風や香取もよ。だから私はここでMeの使命を果たすと決めたの。今度は彼女達の盾になろうって。あの戦争では確かに私達は殺し合いをした。でも、本当はみんな仲良くできる。兵器として生まれても平和を望むことができる、って。今はそう考えてる。」

そう言い、アイオワは長門の方を見る。

「意外だな。アイオワがそんなに悩んでいたとは。」

「あらそう?こう見えて悩み多き乙女なのよ。」

「ははっ、そのようだな。」

長門は笑いながらコーラの瓶をあおった。ごくり、と喉を鳴らし語り始める。

「正しい戦争は無い、か。私もな、あの戦争に関していろいろ悩んできたんだ。ある人は侵略だと言い、ある人は自衛だと言う。またある人は解放だと言う。戦争中はそんなこと考える暇もなかった。考えたくなかったのかもしれない。戦後になってみんなああだこうだと言いはじめた。だが、私は海の底で沈んでいたからな。それらに触れることなく眠っていた。だが、艦娘になって人として考えるようになって、それらに触れることができるようになったが、私は混乱した。いくら文献を漁っても全く真実に辿り着けないんだ。時間があるときは図書室にこもり、何冊もの本を読んだ。慣れないパソコンも使い、いろいろ調べた。だが、私はあの戦争の真実に辿り着けなかった。なぜ我が国は戦争の道を選んでしまったのか。なぜ私達の仲間があんなに喪われなければならなかったのか。いくら調べてもわからない。わからないのが辛かった。調べても調べても納得がいかない。真実に近づこうとすればするほどわからなくなったんだ。あの時はどうしようもなかったよ、ホント。そんな時、陸奥に言われたんだ。“わからないならわからないでいいじゃない。あの戦争は私達と切っても切れないものだけど今は今でしっかりしなきゃダメよ”ってね。爆発事故で沈没という記憶があるからこそああいう風に言えるのだろうけど、そう言われたあと、少し楽になったように感じたよ。背負いこむのは良くないなってね。」

ふとため息をつき、長門はまた語り始める。

「話は変わるが、元々、我々は日本を護る為に生まれた。しかし、その使命を果たすことは叶わなかった。でも一度だけ、国の為に動いたことがあった。関東大震災の時だ。帝都東京を未曾有の大地震が襲った。その報せを聞いたとき、演習を中止して物資を東京へ運んだんだ。到着したときに歓迎してくれた彼らの顔は今でも覚えている。だが、戦艦という艦に生まれても何もできず、何も護れなかったのも事実だ。玉音放送を聞いたときの辛さは今でも鮮明に覚えてる。あのときより辛かったことはない。」

そう語り、浜辺を見る。駆逐艦娘達が無邪気にはしゃいでいる。彼女達もあの夏を覚えているだろう。だが、それを気にする様子はない。

「私は正直、お前達が憎かった。私の仲間を、無辜の民を殺戮したお前達が。戦争だと言うことはわかってる。だが、それでも許せなかった。だが、許せなかったのはお前達だけじゃない。敵の前にただひたすら無力な自分が許せなかった。自らを動かす油もなく、砲を撃つこともできず、ひたすらお前達の攻撃を睨むことしかできない自分が…!」

長門は拳を握る。アイオワはそれを黙って見ていた。

「情けないと思うだろう。それもそうだ。戦艦という戦争の花形でありながら、まともに敵と砲火を交えることなく、末期は動くことすらままならなかった。そして最後はお前達が作った悪魔の兵器により沈められる。戦艦として、ビック7として建造されたのにこのザマだ。悔しかった、辛かった。だが艦娘として生まれ変わることができた。そのとき思ったんだ。今度こそ使命を果たすと。この悔しさを晴らす。そう決意した。そうやって戦っていくうちに不思議なことにあの悔しさや辛さが消えていたんだ。そしてお前達に対する憎しみも。」

長門は再び海を見る。相変わらず波は寄せては返すを繰り返していた。深海棲艦と死闘を繰り広げている海とは思えないほど穏やかだった。

「私は結局あの戦争について答えを出すことができなかった。もしかしたらこれから先も出ないかもしれない。だが、今の私はあの時と違い、戦うことができる。それに我が国だけではない。人類の平和な海を護る為に戦える。それだけで艦娘として生まれ変わって良かったと思う。」

長門はそう言い切り、アイオワの方を向く。

「お互いいろいろ悩んでいたのね。国を背負いあの戦争を生き延びたからこそなのかもしれないけど。」

アイオワは笑いながらそう返した。

「そうかもしれないな。」

長門も笑いながら答える。空になった二本の瓶を隣同士に置きながら、二人は海を眺める。あの日と変わらない海と空が広がっている。

「あの時もこんな海だったかしらね?」

アイオワがのんきに聞いてくる。

「どうだろうな。あの時と比べたら少し汚れているように見える。」

長門はそう返す。

「そうかもね。ゴミが増えたかも。」

再び二人は海の声に耳を傾けた。波の音はあの夏と変わらなかった。

「不思議なものだ。あのときあんなに憎かったお前達が今では頼もしく見える。」

「奇遇ね。Meも同じよ。もしあの戦争がなければ私達はどうなっていたのでしょうね?」

「さあな。ただ、私とアイオワが会うことがなかったかもしれない。お互いがお互いを知ることなく、この世から消えていたかもしれない。」

「面白いこと言うのね。でもMeもそう思うわ。」

「ははっ、アイオワもそう思うか。」

お互いに笑いが込み上げ、二人でくすくすと笑う。

すると後ろから声がかかった。

「長門さん、アイオワさん、出撃です。」

雪風がやってきた。埠頭にはすでに出撃のメンバーが揃っていた。

「そうか。よし、行くぞ!抜錨だ!アイオワ、遅れるなよ?」

長門が振り返りアイオワに言う。

「Meは高速戦艦よ、遅れを取るなんてありえないわ!Weigh Anchor!」

アイオワも負けじと返した。

こうして二人のかつて国を背負った戦艦は戦いの海へと繰り出して行った。敵としてではなく、味方同士として。

 

背中を預ける戦友として。

 

共に未来を切り拓く親友として。

 

 




終戦から今年で71年になります。あの戦争で亡くなった全ての方に哀悼の意を表します。また、今もなお世界中で続く紛争が少しでも早く解決するよう願うばかりです。

また、今回は文中に玉音放送の全文を掲載しました。
大東亜戦争終結ノ詔書 昭和天皇及び鈴木貫太郎内閣


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。