真かみさま転生200X(未完)   作:tbc

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俺が死んで、俺が生まれた

>ライトな魔神とダークな魔王って相性悪いよねって日

 閣下の紹介状を使ってケセド仏殿の門を通った。

 ありがとうルシファー閣下。

 

 お前いつか絶対ぶん殴るからな。(無事通れたとは言ってない)

 

 

 

 

 紹介状が紹介状として機能しないどころか喧嘩を売る内容だったらしく、門番と戦いに。

 流石Light-Chaosの大御所だけあって、門番も下手な魔界のボスの格がある魔神アタバクLv55と妖魔ハヌマーンLv63のセット。それもボス補正付きでHP増大、2回行動とまともに相手をすれば手数の多さから敗北必死だったろう。

 しかし生憎ながら万能相性の攻撃を持たない彼らは変身した俺を倒す手段がない。故に応援を呼び、どっから持ちだしたのかメギドの石なんぞ使って必死に削ろうとするが、幾らなんでもアイテムの火力ごときで倒れるわけもなし。

 門番らを削り倒し、強さを見せつけたところで威圧し、ヴィローシャナとの面会を求める。穏便には行かなくなったがここまで来たらChaosの流儀に合わせ、「力こそ正義」を振りかざす方が話が早い。返答を聞くまでもなく、ドシドシと悪魔を引き連れたままで仏殿の奥へ侵攻する。

 

 そして最も奥の広い一室、仏間にて魔神ヴィローシャナと面会する。レベル70、レベルこそ控えめだが門番と違って【メギドラオン】を有する他、大破壊後には地上の現状に怒って真女神転生1ラスボスの片割れ、アスラおうと化しカテドラルに降臨したという説もある方なので、勝てない相手ではないが決して舐められない相手だ。

 だからといって後ろから追ってきた木っ端悪魔の前で態度を軟化させれば、調子を取り戻した悪魔たちと再び乱戦になる。あくまで門番を正面突破してきた強者として、人間らしからぬ傲慢な態度で交渉に挑む。が、

「呪われし輪廻転生に縛られた人間よ、未だ悟りを得ぬか」

の語り出しで動揺させられる。

 そういえば、転生って元々仏教用語じゃないか。

 

 

 須弥山神族……いわゆる仏教の神々には魂の歪を見抜く力があるのだろうか、俺が転生し、前世の記憶を持つ者であることを前提にヴィローシャナは俺を諭すように言葉を発した。既に流れは向こうに奪われたが、仏殿の主が話している最中なだけに周りの悪魔が手を出す気配は無い。

 ヴィローシャナの説法は、栄華には限界なく転生を繰り返しても際限がないことから始まり、転生の無意味さを知るために良き指導者が必要だろうという話にまで続いた。

 大人ぶりやがって、という反抗心に駆られるが流れを掴まれているこの状況、しかも目的は九条ちゃんを探しに来たわけであり、居場所を尋ねるために先に手は出し難い。転生から解脱すべきであるという“ありがたい”仏の説法を半分聞き流して、ようやく話の主導権を譲られた。

 東京で死なせてしまった女の子を探しに来たと俺の目的をヴィローシャナに告げる。このケセド仏殿にいることは分かっていたが、入る手段がなかったので(結果的に)正面突破した、悪いとは思っているが用を済ませればすぐに立ち去るとお願いするように言うが、断られれば無理矢理にでも九条ちゃんの魂を拉致るつもりでいる。

 俺の言葉の裏に隠れた戦意を読み取ったか、警戒を強めた口調で考えこむヴィローシャナ。少しして、お供の悪魔にここへその少女を連れて来るように告げる。暫くして、死んだ時の(センスないと評された)衣服のままで半透明になった九条ちゃんが仏間にやってきた。彼女は俺を見てハッとした表情で、そのままうつむく。

 人違いでないことをヴィローシャナに伝え、俺はこの場から彼女を連れていくと宣言する。ヴィローシャナが救済すべき魂を勝手に連れていこうとする俺に、周りの悪魔が止めるべく襲いかかる気配を見せるも、ヴィローシャナの「救済を望むなら我が座所に再び訪れるが良い」という間接的な発言が、暗黙の許可となってそのまま手を出されることなく仏殿を安全に去ることが出来た。

 

 

 ヴィローシャナの近くでは色んな意味で緊張していたため気を緩めることはできなかったが、ケセド仏殿から離れた場所に来、落ち着いたところでようやく彼女の顔をまともに見ることが出来た。とはいっても、俺が見ようとした瞬間に彼女はすぐ顔を俯けたが。

 まずは何から話したものかと、理由から述べそうになったが……そうではないだろうと言い訳しかけた己を罰して、彼女に三つのことを謝った。一つは九条ちゃんのことを暴走させ、結果的に死なせてしまったこと。一つは俺の正体、目的をわざと伏せていたこと。最後の一つは、彼女の無知に付け込んで利用しようとしていたこと。

 彼女は俺の謝罪に何とも言えなさそうに俯いていたが、意を決して俺に言葉を返してくれた。

「正直に話してくれて、嬉しいです。

 死んではしまいましたが、それでも魔法少女ななみちゃんは愛と正義の名の元に先輩を許します」と。

 

 許しを受け、ようやく俺の罪悪感の半分は消化された。残り半分は、これから彼女に好きでもないのに辛く苦しい経験をさせることになるが、俺の転生への同行者になって欲しいことを頼む心境からなるものである。

 九条ちゃんに改めて俺が転生者であること、俺の強さはこれまでに他の世界で転生して経験を積んだものからなること、また転生させてもらっている相手だがその女神を一度は殴り倒したいために少しでも力添えが欲しいことを話した。

 驚いたのは、彼女は既に俺がどこかの邪悪な神によって転生し続けている存在であることを、ケセド仏殿にいる時ヴィローシャナに聞いていた。ここに来て下手なウソを交えていればバレていたということだろう。その時にヴィローシャナ曰く、九条ちゃんには俺と同じ邪神の手により蜘蛛糸が絡むように魂へ輪廻転生に引き込む呪いがかけられつつある……つまり俺が転生の同行者として見初めつつあることを察したから、彼女の魂がケセド寺院に来るよう手をつくしたと言っていたそうな。どうして私をお救いになられるのかと尋ねたが、大日如来の慈悲は善人悪人全ての魂に齎さん、としか仰らなかったそうな。少し考えたが、はぐらかしただけとも深い意味があるともどちらとも受け取れるため、又聞きでは分からないと裏を読むことを諦めた。神族を束ねる大悪魔の思考は並の者には測り知れないのだ。

 

 話が逸れたが、同行についての彼女の返答。

「構いませんが、ただし一方的に使われるのは望みません。わたしにもわたしの生き方、目指す目的はあります。魔法少女ななみちゃんは例え死んだ後でも悪の行いに屈するヒロインではありませんから。

 ……特にこの前みたく、大勢の人が死ぬのを仕方ないと諦めるのはもう止めてください。例えダメだとしても、できうる限りのことを考え、思いつく限り何度も手を尽くして、……本当に手段がなかったその時は、諦めないといけないかもしれませんが。

 でも、何度死んでも何度も生き返るのなら、ヒーローのごとく世界を救ってください。ヒーローになってください。それこそ、力ある者の宿命です」

 言い方は独特だったが、このように条件付きで彼女は賛成してくれた。

 彼女は俺にヒーローであることを望んだ。力こそあれど、TRPGというルールの中で成長するだけで、至って特別な要素を持つわけでもない俺に、ヒーローたれと彼女は言った。

 難しい、と俺は彼女に正直に言う。ICBMを止めるのも、ミレニアムの崩壊を食い止めるのも、シャドウの根源であるニュクスを犠牲無しで再封印するのも、ヒーローだろうが俺単独で、犠牲無しで防げるものではないからだ。そこに九条ちゃんが加わっても焼け石に水でしかない。沢山の人々が悪魔や神々の手により犠牲となる、それが女神転生シリーズの世界の宿命だ。

 俺の呟きに、彼女はこう返した。

「先輩はヒーローが何かって、勘違いしていませんか?ヒーローもヒロインも、世界を救うからヒーローと呼ばれるんじゃないんです。人を救い、人を助けようって思ったり、愛や正義のために頑張ろうって思ったらなれるものなんですよ。

 だから、先輩はヒーローになれます。ヒーローになるには、その思いだけで十分なんです」

 

 ……彼女の言葉に、俺は本気で悩んだ。ここまで数々の大悪魔をぶちのめす大立ち回りをしてきただけに、今更ヒーローになる恥ずかしさに悩んでいるわけではない。俺は彼女のいう、眩しいばかりの正義のヒーローを突き進む道を女神転生世界で歩むのが苦難の道と分かっているため、それを歩む覚悟を決めるのが難しいと尻込んでいるだ。

 この約束は、これまで経験してきた、転生すれば環境ごとリセット出来るそう簡単な話ではない。彼女が同行者になる以上、例え何度死んでも彼女が横にいる限り、俺はヒーローでいなきゃならんのだろう。間違いなく辛い。何度も死ぬだろう。でもここで断ったら、俺はなんのために彼女を死なせて、魔界くんだりまで来たんだ。

 罪悪感?そんなもの自堕落に生きるなら初めから気にしなければいい。

 利用価値?それこそ、大破壊後で悪魔の支配下を狙えば心の壊れかけた奴隷同然の異能者も居ただろう。

 原作崩壊が怖い?ミレニアムで見た通り、原作なんてあってないようなものだし、原作主人公なんてそれに対応しきれない程度の単なる異能者だった。悪魔と違ってちょっと手こずるが、悪魔ほど強くもない雑魚だろう。

 己の思うがままに手段を選ばなければ、人道外れながらも己の赴くままに欲の限りを尽くすことが出来ただろう。その確信も既に得ていた。しかしそうしないのは何故だったか。悪に落ちるのが怖いから?人に嫌われたくないから?女性にモテたいから?多くの敵意をその身に受ける心の強さがないから?

 確かに、どれも理由に当てはまる。でもそれは転生してから怖くなりだしたことで、転生できると分かった時に一番強く意識したものじゃない。俺が転生者になってやりたかったこと、それは前世で全く出来そうになかったこと。転生者という特権を得て、異能者という補正を獲得して、世界の特別になって。

 

 俺にしか出来ない、一世界に響き渡るような何かを成し遂げられるんじゃないかと、喜んだんだ。

 

 

 

 

>エクストリーム自殺の日

 青空ではなく赤に染まった魔界の空に、ケセド仏殿から後光が差すように美しき陽光が黄昏色に染める朝を迎えた、翌日。

 俺と九条ちゃんは再びケセド仏殿を訪れた。倒した2体の代わりに霊鳥ガルーダが門番を務めていたが、ヴィローシャナに会いたいと言う俺の顔を見るや、抵抗は無意味だろうと黙って素通ししてくれた。

 そのまま仏殿の最奥の一室に再び訪れる。ヴィローシャナは昨日と変わらない場所に座して、俺の言葉を待っていた。

 

 俺はヴィローシャナに、まずは九条ちゃんの魂を保護してくれていた礼を。それから昨日の仏殿での暴虐を謝罪した。

 またもう一つ、わざわざ手間をかけさせることになるが……ヴィローシャナ自らの手で、俺たちを転生の輪に戻してほしいと。要するに痛みを知らず安らかに眠らせてほしいと頼んだ。

 輪廻転生からの解脱を推奨する仏教を馬鹿にするような頼みではありながらも、大日如来ともされる慈悲深き仏神は怒ることなく、その引き締まった顔で驚くほどにこやかに笑みを浮かべ、承知してくれた。

 その時に一言、俺に対して「悟りは得られましたか」と尋ねた。

 悟りではないが、目指すところは得られましたと答えると、仏神はますます笑みを深くしたような気がした。

 その後、仏神から破魔のような白き後光が発され、俺と九条ちゃんを包む。

 生きている人間である俺に破魔は通じないはずだが、不思議なことに痛みもなければダメージもなく、望み通り安らかにこの世を立ち去らせてくれた。

 

 

 

 

「先輩、そういえばもう一つ条件があります。

 ……私のこと、ななみって名前で呼んでくれませんか」

 


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