やはり俺がドキドキ!させられるのはまちがっている 作:トマト嫌い8マン
まぁ、うん。これからは同時並行で行きましょうかね(・・;)
いわく昔はお嬢様だからいじめられていたということ。いわくそれを相田たちに助けてもらって仲良くなったということ。いわくいじめた相手が中学生の兄を連れてきた挙句相田を泣かせたこと。そしてそれにきれたありすが・・・
「ということがありました」
「えっ、何それ?ありすってそんな強かったの?」
「昔からおじい様から空手や柔道、剣道なども教えていただいていましたので。あの一件以来、武術の修練はやめてしまいましたが」
「けど、それならなおさらあいつらと一緒に戦えばいいんじゃねぇの?戦力としては大きく助かると思うし、あいつらも安心する」
「わたくしは恐ろしいのです。また自分の感情を抑えられずに誰かをひどく傷つけてしまうことが。こんなわたくしに、戦う資格など・・・」
「ってことはあれだろ?本音では一緒に戦いたいんだろ?」
「えっ?」
「なんとなくだけどな、相田の友達ってならそう思うんじゃねぇかと思っただけだ。発言からしても戦いたくないと思ってるわけじゃないっぽいしな」
「それは・・・」
「無理に戦えとは言わねぇし、別に協力してくれるのは素直に感謝する。けど、お前自身がそれでいいと思っているのか?」
「いえ、それでも。やっぱりわたくしは・・・」
「ありすのバカ~!」
「え?」
いつの間に帰ってきていたのか空いた窓から入ってきたらしいランスがさっきの捨て台詞を繰り返してきた。こら、そんなにバカバカ言うんじゃありません。お母さんとかに言われなかった?「バカっていうほうがバカなんです!」みたいなこと。
「プリキュアの力は大切なものを守るための力。それを怖がっちゃだめでランス!」
「守るための、力」
「『心を鍛えよ』っていつだったか俺の知ってるヒーローが父親から教えられていたな。お前が身に着けてきたものも、今こうして手に入れるかもしれない力も、要はお前がどうするかだろ。何のためにお前はその拳を振るうんだ?何のために戦う?」
「わたくしが、戦う理由は・・・」
ぎゅっと握られたその手。お嬢様らしい傷が見当たらない小さな手。しかしその手を握る彼女の表情は凛としていた。一種のオーラ、つわものの風格さえ感じられた。そっと開かれた瞳にはもう迷いは感じられなかった。
「大切な人たちを守るため!」
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「さぁジコチュー!さっさととどめをさせ!」
「ど、どうしよう」
「コンセントにつながってるなら、電池切れもないし・・・」
「お待ちなさい!」
突然響いたその声に、敵味方関係なく一瞬ほうけた。これもこのお嬢様が持っているカリスマなのだろうか。相田以上に半端じゃない雰囲気をまとっている。しかし割りとどうでもいいことではあるし、正直今言うべきことでもないかもしれないんだが。
「死ぬかと思った・・・」
どう見ても相田たちがピンチなわけで、そう考えると急いできたことが正解なわけで、むしろよく間に合わせたと執事さんの運転技術に感服するべきところなのかもしれないだろうけれど、まさか最初の出動時よりも激しい運転になるとは思ってもいなかったわ。
「わたくしはもう、逃げ出しません。わたくしの力で、大切な人たちを守りたい。そのための力が私にあるというのなら!」
その言葉にこたえるかのように、彼女の掌の上、キュアラビーズからまばゆい光が放たれた。
「ランスちゃん、お願いします」
「行くでランス~」
「プリキュア・ラブリンク!陽だまりポカポカ、キュアロゼッタ!」
光の中から現れた四葉は黄色の衣装、胸元にハートとも四葉のクローバーともとれる飾りをつけた姿に変わっていた。というかハート、ダイヤときたからクラブ!とか来るんじゃないかと思っていたがさすがにそれはなかったか。
「世界を制するのは愛だけです。さぁ、あなたもわたくしとともに愛をはぐくんでくださいな」
一度戦闘に入った四葉、改めキュアロゼッタは初めてとは思えない強さを見せてくれた。動きに無駄がないうえに力の使い方もうまい。本当に格闘術を習っていたんだなと実感するとともに、ブランクを全く感じさせないその戦いに驚きを通り越して感心せざるを得ない。
「これが、わたくしの力。誰かを守るための力・・・」
四葉の決意に反応するように新たなラビーズが生まれた。正面に立ったジコチューはスピーカーから強力な音波の攻撃を3人のプリキュアに向けて発射した。その攻撃を臆することなく見据えたロゼッタは新しいラビーズをランスにセットした。
「カッチカチのロゼッタウォール!」
両の掌に現れた四葉型の盾。それを使ってロゼッタは敵の攻撃を完全に防いでいた。見ためは確かに小さいがその性能は想像以上のもののようだ。しかしながらこれではただの持久戦、しかも相手は電源を確保できている分ほぼ無限の供給があると考えてもいい。
「防御するだけじゃあな」
「いいえ、防御こそ最大の攻撃です!」
両の手の盾をロゼッタが敵の攻撃をはさむようにたたきつけた。と、その瞬間に敵の音波による攻撃がかき消された。まるで完全に無に返されたように。
「な、何が起きたんだ!?」
「そっか、ノイズキャンセリング!」
ノイズキャンセリング?確かとある音波に対してそれと全く正反対の振動を持っている音波をぶつけることで差し引きゼロ、つまりは無音の状態を作り出す・・・みたいなものだったか?いやちょっと待て、たったあれだけのことでどうやってそんなことができたんだ?プリキュアの力って何でもありかよ。
「今です!」
「よ~し!あなたに届け、マイ・スイート・ハート!」
間髪入れずに放たれたハートの浄化技が無防備になっていたジコチューに命中し、浄化に成功した。
「くっそ~本当にどんだけ増えるんだよ!覚えてろよ!」
もはやお約束の捨て台詞を残して敵は逃げて行った。ついに三人目の仲間、キュアロゼッタが誕生したってわけか・・・
「皆さん、ランスちゃん。これからよろしくお願いしますわ」
「うん!」
「これで三人目のプリキュアの誕生ね」
「いや、ソードを入れたら4人目だろうが」
「なんですの?」
「もう一人プリキュアがいるの。誰かはわからないんだけど」
「それなら、心当たりがありますわ」
「嘘!?」
「わかるのか?」
「プリズムタワーの監視カメラの映像にプリキュアと思わしき方が写っていました。そう、確か、この方だったと」
そう言って彼女は隣を指さした。別にそこに人が立っていたわけではない。そこにあったのは一つのポスターだった。いやそれだけならなんのこっちゃと思ったかもしれないが、そうもいかなかった。そこにあったのはただのポスターではなく、一人の少女が写っているものだった。最近人気の商品エースティを片手に微笑んでいる彼女。
「えっ!?」
「まじか・・・」
「まこぴー?」
知る人ぞ知る・・・というか知らぬ人のほうがいないといっても過言ではないのではないだろうか。剣崎真琴がそこには写っていた。
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アイドル、剣崎真琴。デビューしてからそれほど時間はたっていないはずだがスターロードを順調に進んでいる。かなりの才能の持ち主だということがそれだけでもわかるが、ライブのチケットがわずか3時間で売り切れるだとか、CDがどれもミリオンを獲得しているだとか、とにかく超売れっ子アイドルである。しかし・・・
「ほんとなの、アリス?」
「クローバータワーを登った人と降りた人をカメラで確認したのですが、真琴さんとそのマネージャーだけが写っていなかったのです」
「けど、それだけで剣崎がキュアソードだと決めつけるのは無理じゃねえの?」
「いいえ、それだけではございません。現場に残されていた指紋、足のサイズ、毛髪など。どれもこれもが一致しています」
「あ、そうですか」
これを調べるためだけにもしかして科警研まで動かしたのだろうか?どんだけ本腰入れているんだよ。怖い、四葉財閥怖いよ。完全に作戦室として使われているありすの自宅のこの部屋、そこまで寒くはないはずなのに少しばかり寒気がした。
「じゃあさっそく会いに行ってみようよ!」
「どこにだよ?」
「えっ?あ、どこにいるのか知らない!」
「それに知ってたとしても簡単に会えるわけないでしょ?相手は芸能人よ」
「そっか~」
がっくりと肩を落とす相田。とはいえ仕方のないことだろう。芸能界にいるということは仕事をしている身であるということだ。そう簡単に会えるもんでもないだろうし、何より仕事の邪魔をするわけにはいかない。たとえ本当に剣崎真琴がプリキュアだったとして、そのプライベートまで邪魔するわけにはいかないのだ。
「その点はわたくしにお任せですわ」
そういった彼女の笑顔がだんだん恐ろしく思えてきてる・・・
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「着きましたわ」
翌週、ありすの車に乗せてもらい俺たち4人が着いたのは
「ここ、テレビ局?」
「真琴さんは本日こちらで歌番組の収録があるのですわ」
四葉の情報網パネェ~。そんな情報どっからしいれてくるのさ。
入り口をくぐって建物の中に入る。さすが最大級のテレビ局だけあってエントランスだけでもかなりスケールがでかい気がする。それにしてもヨツバテレビ・・・まさか
「おぉ~、こんな風になってたんだ」
「でもどうやって彼女に会うつもり?自由に出歩けるわけじゃないし」
と話しこんでいる二人をよそにありすはさっさと関係者用のゲートに進み、そのまま通過してしまった。そこに立っていた警備員にいたっては「お疲れ様です」とまで声をかけていた。ってことはやっぱり・・・
「なんだ、普通に入れるんだ!ほら、六花も八幡君も!」
「あ、相田、ちょっと待て!」
ありすの様子を見ていた相田がそれに続いて関係者入口へ向かおうとした。が、案の定、警備員に止められてしまった。この様子から俺は確信した。
「大丈夫ですわ。その方たちはわたくしの客人ですわ」
「はっ、失礼しました」
鶴の一声、というわけではないが彼女のその一言で相田はすぐに通れてしまった。俺も警備員に軽く会釈しながら通った。しかしながら別段止めずに通してくれたのはいいけどいぶかしげな視線を俺だけに向けるのはやめていただけませんでしょうか、心臓に悪いです。
「なぁ、もしかしてありすって・・・」
「はい、そうですわ。ここヨツバテレビはわたくしの父が所有しているテレビ局ですわ」
「えっ、そうなの?」
やはりというかなんというかである。そもそもヨツバって名前からしてそう連想するべきだった。よく考えるとクローバータワーもありすが一応所有しているらしいし、テレビ局くらいあってむしろ当然だろうな。しかしまぁなんだろう。もうありすの持っている力というか、影響力の大きさに驚かなくなっている俺ガイル、不思議!・・・あれ?なんか字が違った気が・・・まぁいいか。
「おはようございます」
「えっ、はいっ!お、おはようございます」
すれ違いざまにあいさつをされた相田がおどろいたのか、いつもと違って緊張したような挨拶をしていた。あぁ、そうか。ここは関係者の通路だし、そこにいるなら俺たちも仕事で来ているのかと思われてるんだろうな。実際剣崎真琴は俺たちと同年代だし、子供が来ていても不思議には思われないだろう。
「びっくりした~。でも今ってお昼だよね?」
「この業界、っていうか大体の仕事場じゃ挨拶は決まっておはようございますとお疲れ様なんだよ。時間帯は関係ない」
「へ~そうなんだ。八幡君詳しいね」
「まぁ、俺もどっかで読んで知ってたってだけだけどな」
そうこう話しながら目的地のスタジオへ向かう。途中何人かの有名人とすれ違った時に相田が元気よく挨拶をしたあとに、興奮気味に菱川に話しかけるのを繰り返したがそれ以外は割とすんなりとスタジオに入ることができた。
「みなさん、お疲れ様ですわ」
「お疲れ様です!本日はどうしてここに?」
「はい、わたくしの友人たちに、父やわたくしの仕事に関係している場所を紹介しておりますの。見学させていただいてもよろしいでしょうか?」
「もちろんですとも。皆さんもゆっくりと見ていってください」
ありすがプロデューサーと一言二言会話をして俺たちの見学の旨を伝えていた。まぁ、実際剣崎真琴がプリキュアかどうかを確かめるために来ちゃいました!とか言えるわけねぇし、実際どんな仕事なのかを見られるのはなかなか経験できないことだし。
「おはようございます」
「おっ、真琴ちゃん。おはよう。今日はよろしく頼むよ!」
「はい、よろしくお願いします」
しばらくスタッフが収録のための準備をしている様子を眺めていると、今回のお目当ての人物、剣崎真琴がマネージャーと一緒にスタジオに入ってきた。改めてみてみると確かにあの時であったキュアソードに似ている気がする。その後彼女たちは準備のために楽屋のほうへ向かって行った。
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「何とか無事にここまで来ることができたわね」
「まぁ、問題はどうやって剣崎真琴に接触するかだけどな・・・ありす、どうするつもりなんだ?」
「次の作戦はなにか考えてる?」
「・・・ありませんけど?」
「「へ?」」
「わたくしは真琴さんに会える状況を作ることまでしか考えていませんでしたから」
それでいいのか四葉財閥のご令嬢?会社の経営とかなら先の先を見据えたうえで計画とかを練りに練って、調査をしてから行動するものじゃねぇの?知らんけど。この突然の行動力はどこか相田に似ているな~。本当に仲のよろしいことで。
「あとはマナちゃんがどうにかしてくれますわ」
「まぁ、言い出しっぺは相田だしな」
「それで、どうするの、マナ?あれ、マナ?」
ふと気が付くと、相田がいなくなっていた。確かに剣崎がスタジオに入ってきたときにはいたはずだ。隣で興奮気味に「まこぴーだ!」と小声で菱川に言っているのが見えたから。じゃあその直後くらいに消えたということになる。この状況で相田が行く場所、手洗いかあるいは・・・
「ちょっと行ってくる!」
「あ、ちょ、八幡君!?」
相田がどこに行ったのだろうかと話をしている二人を置いて、俺はある方向へ向かった。もし俺の予想が正しかった場合は嫌な予感がする。まぁ間違っていた場合でも、相手の俺に対する印象が少し悪くなるくらいのことだからそこまで大した問題ではないだろう・・・と思いたい。控室のある通路に入り一つ一つの部屋に張られている名前を確認する。そして俺は一つの部屋の前で止まった。
「あった・・・」
その控室に張られた紙に書いてある名前は『剣崎真琴』。あの行動力の塊のような相田のことだ。あの時にすぐ行動していたとすればここにきている可能性が高い、そう考えてここまで来てみたが・・・よく考えたらこれ中の様子どうやって確認しよう?普通にノックして失礼します!とか言って中に入ればいいのか?いやといっても入るにしても何か理由を説明しないといけないだろうし、友人を探しに来ました・・・いや胡散臭いな・・・どうすればいいんだ?
などと考えを巡らせていた俺の耳に、少しばかり怒っているような声が聞こえた。この声はテレビとかで聞いたことがある声に似ている。ということはこの部屋をあてがわれた彼女の声で間違いないだろう。問題はなぜ怒ったような声を出しているのかということだ。意を決した俺はノックをし、「はい」という返事を聞いてからドアを開けた。
「失礼しまっす!」
あ、若干嚙んだ・・・
ちなみにこの話で出てきた「心を鍛えよ」って言われたヒーローというのは、20年前にスクリーンに登場したヘタレくんです。まぁ言われたのはその次の年の作品なんですけどね。
いまだにそれのDVD持ってるんですよね笑