やはり俺がドキドキ!させられるのはまちがっている 作:トマト嫌い8マン
もともとはpixivで投稿していた作品なのですが、だいぶんたまったので何話分かをひとまとめにしてこっちにも投稿してみようと思ってしまった分けな作品です。
題材としてはやはり俺の青春ラブコメは間違っているの主人公比企谷八幡をドキドキ!プリキュアに混ぜてみたというだけの物語。八幡とプリキュアのコラボをいくつか思いついて書いてみて、その中でも続きそうだと思ったこの作品だけとりあえずこっちに載せてみた感じです。
設定としてはもちろん彼も中学二年生に変更。そのために卑屈さもだいぶん控えめになっていながらも目はちゃんと腐ってしまっているという少年になっています。ちなみに読書量や知識量はこの年にしては高めになっているためちょっと頭いいやつです。
恋愛要素は今のところはいるかどうか不明ですがまぁ気長に気楽に読んでみてください。
遠足というのはぼっちにとっては大分面倒なイベントである。それは当日に限ったことではない。その面倒臭さは班作りの時にまでさかのぼる。
幸か不幸か俺の所属するクラスは男子が奇数だったために必然的に俺が余ることとなる。そこまではいい。問題は遠足の班が男子1,2人と女子2人で構成されることにある。
自慢ではないが俺は女子からやたらと遠巻きに見られている…嘘ですちょっと見栄はりました。普通に好かれていない。ゆえに俺の班を作ること自体が困難なのである…通常は。実際去年はそうだった。まぁこういう時以外は平穏な学生生活が過ごすことができるため特に文句はなかったが今年はどうやらそうもいかないらしい。そもそも俺の班が一番最初に決まること自体がおかしかったのだ。この後に俺が不自然極まりない出来事に巻き込まれるのは、至極当然のことだったのかもしれない。
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東京クローバータワー。全高999メートルもあるこの国どころか世界最大の電波塔だ。いやそこまで行ったなら1000にすれば良くね?と割と考えもしたがいざ来てみるとその大きさには感心せざるをえない。こんなタワーを作る四葉財閥ハンパねぇな。
今日は大貝第一中学2年生の遠足の日。この国で最大の電波塔であるここが今日の俺たちの遠足の場である。まぁ和紙を作ったり、鎌倉とかの歴史ある場所を巡るのもそれはそれで風情があるがやはりこのタワーの存在感は圧倒的である。なんてったってでかい。もう、どデカイ!
ちなみに俺たちの担任は移動バスの中で昼寝している。なんだよそれしていいなら俺もしたいんだけど。まぁ班のやつが許してくれないんですけどね。通常は担任が引率者として生徒たちの様子を確認して助ける役目をするはずなのだろうが、俺たちの場合はその必要がないのだ。なぜならうちのクラスには、とんでもないやつが1人いるのだから。
「俺の財布!ありがとうございます会長」
「もう気分大丈夫です、ありがとう会長」
「わかったよ、喧嘩はしねぇから、会長」
貴重品の落し物から、バスで酔った生徒の介抱、他校の生徒との喧嘩の仲裁までどう考えても担任がいても手にあまりそうな案件の数々が次々にたった1人の生徒によって解決されていく。あまりにも鮮やかなその手口に思わず惚れ惚れしてしまう。まぁ別に惚れはしないけど。
まぁ俺には関係のないことだからと俺は1人で適当に妹のための土産を物色しようとタワー内部に向かった。
「こら、比企谷君!単独行動禁止だってば。ちゃんと班で行動しよう?」
「半分くらいはマナのせいでもあると思うけどね。それでも、一応そういうルールなんだから、1人でどこかに行くのは感心しないわよ」
残念、即座に捕まって行けなかった。案件が終わるのを待つのは非効率であるという言い訳も考えていたのに本人に捕まったら意味ねぇな。
声の主は2人、どちらも俺と遠足の班を組んでいる女子である。今回の遠足で俺の班が即決したのはこの2人が行動したためである。
「少し目を離すとすぐこうなんだから」
文面だけ見ると怒っているようだがこれを言っている本人は割と笑顔でいる。さっきまであちこち走り回っていたというのに息一つ乱れてない。超人か?
特徴的なピンク色の髪に絶やさない笑顔。そこそこ、というかかなり整った容姿をしていて人望もある。彼女こそ大貝第一中学校の生徒会長にして俺の遠足の班の班長、相田マナだ。結構な博愛主義者らしく俺と席が隣同士ということもありやたらと俺に話しかけてクラスに馴染ませようとしてくる。まぁ実際はそれが原因で一部の男子から痛い視線を向けられるという彼女の思惑とは正反対の結果を生み出しているんだが…
「ほんとよ!先生は寝てるしマナは慌ただしいし、仕事を増やさないでよね」
その隣で、あっこっちは割と怒ってらっしゃる。まぁとにかく、相田の隣に並んでいるのは生徒会書記の菱川六花だ。青みがかった長い髪にいかにも真面目な優等生という立ち振る舞い。成績は学年トップにして全国でも10位以内に入るくらいだ。ちなみに俺は国語だけなら学年2位だったけどな。相田の幼馴染らしく、相田をあらゆる方面でサポートしている。当然というかなんというかこいつもかなりの美人であるためこの2人が俺と同じ班になると宣言した時にはクラスのほとんどが動揺していたなぁ。
「悪かったよ。忙しいなら無理にこっちに合わせてもらおうと思わなかったんだよ」
「あのねぇ、忙しそうなら手伝おうと思わないの?」
「いや、手伝おうとしても俺が関わるだけで面倒かけるだけだろうしな。なら俺という面倒ごとがどこかに行くことによって少しは楽になるだろうかと思ったわけで」
「いなくなられたら探すという面倒ごとが起きるんだけど・・・」
「それに、みんな一緒の方が楽しいよ。友達と思い出作りってキュンキュンするよね」
ちっ、失敗か。こんな感じのことを言えば大体の人はまぁ本人がそういうならと考えて放っておいてくれるのに。この責任感の強い菱川と博愛主義者の相田には通用しないようだ。仕方ない、諦めて一緒に行動するとするか。
「悪かった。以後気をつける」
「うん、じゃあせっかくだし・・・っあ」
「まぁ、反省しているならいいんだけどね。ただでさえマナも急にどこかに行っちゃうんだから・・・ってあれ!?マナ?」
言ってるそばから相田のやつがまたどこかに行ったようだ。さっと辺りを見渡すとそこには迷子と思わしき女の子を泣きやませようとしている相田の姿があった。というかよくもまぁ困っている人をそんなすぐに見つけられるな。センサーでもついてるんじゃねえの?とりあえずため息をつきながらも相田の手助けに向かった菱川について行った。
「大丈夫だよ、すぐにママは見つかるからね」
「ほんと?」
「うん!お姉ちゃんが一緒に探してあげるからね。だからもう泣かないで、ね」
ほんと、こいつはお人好しというかなんというか…それで実際に子供を泣き止ませることができるからまぁすごいやつだと思わざるをえないんだが。
「ちょっとマナ?どうやって探すつもりなの?顔もわからないんでしょ?」
「それはね、比企谷君!」
「は?」
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「どうお母さん見つかった?」
「えーとね…」
相田の考えた作戦はいたってシンプル。俺が女の子を肩車することで彼女の視野を広げるというものである。至極シンプルではあるがなるほど案外いけるかもしれない。ただね、少しテンションが上がるのはわかるけど俺のアホ毛を引っ張るのはやめておくれ、痛いから。
「みちこ!」
「ままだ~!おーい!」
どうやら無事に母親が見つかったようだな。ようやく一件落着だな。あと、嬉しいのはわかるけど頭をペチペチ叩くのやめてね。
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「ふーっ」
思わずため息がこぼれる。軽かったとはいえずっと肩に人が乗っていたのだから仕方がない。
「あの子、お母さんに会えてよかったね」
「全く、マナは幸せの王子様みたいね」
「えっ?なにそれ?」
幸せの王子様。相田は知らなかったようだがなかなか有名なお話である。黄金で表面を包み込まれ、たくさんの宝石を使って作られた王子の像は大勢の人が幸せになれるように自身の体の金や宝石を全て配ったという。そして動けない王子の代わりに金を届けた一羽のツバメがいた。最後までそのツバメは王子の元を離れなかった。その結果命を落としながらも。まぁ話には一応続きがあるけど大胆こんな感じだったはずだ。まぁ相田が幸せの王子様だとすれば菱川がツバメなのだろうか?
「だいたいこんなお話よ。わかった?」
「幸せの王子様か~。でも、私は人助けをするのが好きだからなんか似てるって言われるのがわかるような気も…あれ?なんだろう?」
相田の視線の先にはすごい人だかりができていた。一瞬エレベーターの並び口かと思ったがどうやら違うようだ。
「誰か有名人でも来ているんじゃない?」
「えっ誰だろ?ん~、あれ?あれってまこぴーじゃない?」
「まこぴー?剣崎真琴のことか。こんなとこにまで仕事しに来てるのか?」
剣崎真琴。最近世間を賑わせている新人のアイドルだ。驚くことに彼女は俺たちと同じ中学2年生だということだ。人垣の奥、彼女の特徴的な紫色の髪が見えたからおそらくは本物だろう。
「生まこぴーだ!キュンキュンするよ!・・・あれ?」
「どうしたの?」
「これ、まこぴーが落としたみたい」
相田の手のひらには金色のチャームのようなものがあった。なんかいわゆるキューピットの矢みたいなのが描かれている。
「あたし、届けてくる!すいませーん、ちょっと通してください!」
「あっ、ちょっとマナ!もう!」
菱川と2人、特に会話するでもなくその場にとどまっていた。まぁ当然だ。菱川が俺と会話するのは基本相田が俺に話しかけてくるからだ。おそらくあいつがいなければ俺たちの間には一切つながりなんて生じなかっただろう。だから突然声をかけられた俺が驚いたのは仕方のないことなんだ、うん。
「比企谷君は、マナのことどう思う?」
「は?いきなりなんだよ?」
「いやっ、変な意味じゃなくて。ほら、幸せの王子様みたいって私言ったじゃない?比企谷君はあのお話の終わりって知ってる?」
「いや、あんま詳しくは」
嘘だ。あの物語の結末には思うところがあって嫌という程何度も読み返したことがある。ただ俺は菱川がわざわざ話をふってきたからには彼女の知る幸せの王子様の結末がどういうものだったのか知りたくなった。あの結末を悲劇と捉えるかハッピーエンドと捉えるかで大分変わってくるしな。
「人々を幸せにした王子様はみすぼらしい姿になってしまうの。その王子様は心無い人々に溶鉱炉で溶かされてしまうのよ。流石にマナはそんなことされないだろうけど・・・それでも心配になるの。いつか、その優しさが誰かに踏みにじられた時、マナがどうなっちゃうんだろうって」
「どうだろうな、わからねぇ。というかその話を俺にしてどうするんだよ?」「わからない。でも、比企谷君は何か違うものをいつも見ている気がするから・・・うまく説明できないんだけどね。ごめん、忘れて。マナにもこの話はしないで」
「俺からあいつに話しかけることなんざねぇし、こんな話できる相手なんていねぇよ」
「そんなことを誇らしげに言われてもね・・・」
そうこう話していたら相田が走ってくるのが見えた。
「2人とも、お待たせ~まこぴーにありがとうって言われちゃた!」
「じゃあ三人揃ったんだし、そろそろ上に行くために並びましょ」
「そこのお嬢さん」
「ほぇ?」
「よろしければ僕のアクセサリーを見ていきませんか?」
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エレベーターに向かう俺たちに声をかけてきたのは鮮やかな金色の髪に金色の瞳をした1人の男だった。どうやらここでものを売っているらしく、その隣にある台車には幾つものアクセサリーが並んでいた。
「へぇ、いろいろあるのね」
「あっ、これ!さっきまこぴーが落としたものに似てる」
相田が見ていたものは確かにさっき見た剣崎真琴の落し物にそっくりだった。そっくり、というよりもまんま同じもののように見える。
「お嬢さん、お目が高いね。それはキュアラビーズと言ってね、不思議な力があると言われているんだ。綺麗だろう?」
「はい、とっても!」
「そっか。そんなに気に入ったのなら、それ、もらってくれないかな?」
「えっ?そんな、頂けませんよ」
「いいからいいから、僕は人を見る目には自信があるんだ。このラビーズは君が持っていてくれた方がいいと思うんだ」
そう言ってその謎の男は相田の制服のリボンにそのラビーズを付けた。最初は驚いていた相田だったが鏡を見ながら喜んでいる様子からすると満更でもないようだ。が俺はそんなことより気になっていることがあった。
この男が売っていたラビーズ、ざっと台車を一通り見てみたがどうもあの一個しかないようだ。かと言ってそれが人気ですぐになくなったのかと言えばそういうわけでもないように思える。俺自身が詳しいわけではないがあの剣崎真琴が身につけていたものだ。剣崎真琴の大ファンの妹がそれに食いつかないはずがない。どころか親父にねだって買ってもらうだろう。が、そんなこともなかったわけだ。そもそもこれを売っているこの男は一体どこでどうやって手に入れたのかも気になる。どう見ても手作りじゃねぇだろこれ。
「じゃあ、僕は向こうにも売りに行くつもりだから、これで。君に幸福が訪れんことを」
「はい!頑張ってください」
しかし俺が何か聞く前にすでにこっちでは話終わってしまったようだ。まぁ引き止めてまで聞くようなことでもないだろうし別にいいか。
「じゃあみんなで行こうか。展望台に!」
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流石はクローバータワー。展望台に向かうためのエレベーターは長い行列ができていた。まぁ俺は待つのは慣れている。妹とか母親とかの買い物の時間とか。1人で適当に時間を潰す方法ならいくらでも知っている。相田たちはどうだろうかと思い隣をちらりと見てみると相田は楽しそうに並んでいた。こいつもこいつなりの楽しみ方があるのだろうか。
「ちぇっ、こんなの並ぶの面倒臭ぇな。割込んじまうか?」
「それはダメだよ。ちゃんと並んでから見た景色の方がいいよ。きっともっとキュンキュンできると思うんだ。だからちゃんと並ぼう、ね」
「っ、ま、まぁ、偶にはいいかもしれないな」
あっ、こいつ一級フラグ建築士ですわ。今ので絶対立ったよ。あいつ明らかに顔真っ赤になってるから。そうじゃないなら前々から立っていたんだろうな。相田、恐ろしい子!
「あっ、あそこ!みちこちゃんたちだ!おーい!」
相田が手を振っていたのはさっきの迷子の女の子だった。今まさにエレベーターに母親と乗り込んだその子は笑顔でドアが閉まるまで手を振っていた。
「はぁ、こんなに並ぶのもなぁ。いっその事列を無視して・・・いや、そんなことしちゃダメだよな」
すぐ近くに並んでいた男性の呟きが聞こえた。まぁこういうのは慣れないと面倒ではあるよな。けどまぁそういうマナー的なのを守るのは重要だからなぁ
「いいんじゃない、別に割り込んでも」
ゾクリと何か嫌なものを感じた。いつの間にかさっきの男性の近くに1人の少年が浮いていた。白い髪に金色の目、黒を基調とした服装。突然現れたそいつに人々は驚かざるをえなかった。
「お前の願い、叶えてやるよ」
そう言い彼が指を鳴らすとさっきの男性が苦しみだした。突然胸からコウモリのような羽を生やした黒いハートが飛び出し、男性は気を失って倒れた。
「これは極上のジコチューが作れそうだ。さぁ、暴れろ!お前の心の闇を解き放て!」
謎の少年が黒いハートにエネルギー(多分、知らんけど)を注入するとハートが巨大化し、ひび割れ、巨大なカニが現れた。
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「ジコチュー!」
「さぁ、暴れろ!キングジコチュー様復活のためのジャネジーを集めろ!」
その巨大なカニはすごいスピードでエレベーターのドアに突っ込みそのまま上を目指してかけ上がり始めた。
「ナラブノナンテメンドクサイ!ヨコイリ、オレノマエニハイルナ!」
えっ、何?あのカニ、列に並ぶのがめんどくさいっていう気持ちで暴れてるの?心小さいな~。俺を見習えよ。どれだけ嫌な目にあっても復讐しようと思ったことなんてないぞ。まぁそんな度胸自体がないだけなんですけどね。
「マナ!?どこに行くの!?」
見ると相田が非常階段の方に向かって行った。あいつ、まさかこのタワー登るつもりか?まぁエレベーターは大破してるしそれしかねぇんだろうけど
「相田!」
「何?比企谷君?」
「さっきの子、助けに行くのか?」
「うん、そうだよ」
「見ず知らずの人のために命を捨てるつもりかよ。ありゃどう見てもお前の手に負えないぞ」
「そんなつもりはないんだけど・・・やっぱり、放っておけないよ!」
そう言い相田は迷いなく階段を駆け上がっていった。
自分で動きまくる幸せの王子って、実はかなり面倒なのかもしれないな。やっぱり動くのは、ツバメだけにとどめとくべきだろ。
「はぁ~、ったく!」
軽く気合を入れて俺は相田の後を追って階段を駆け上がり始めた。自転車通学で良かった~、そうでなきゃこれ途中で死んでたよ。いや、既に死ぬかもしれないけど。
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side change
「はぁ、はぁ。ここが・・・展望台?」
流石に階段でクローバータワーを上るのはきついかも・・・やっと展望台のところについたけど・・・さっきの黒いカニさんは?みちこちゃんとみちこちゃんのお母さんも大丈夫かな・・・?
急いでドアを開いてあたりを見渡す。横走りで動き回っているカニさんから離れようとしてみんなが窓際から急いで離れようとしていた。でも、みちこちゃんたちの姿が見当たらない。そうしている間にもカニさんから逃げようとしている人たちがどんどん非常階段の方へ向かっていった。
「みちこ!」
「えっ?」
声のした方を見るとみちこちゃんがこけてしまったみたい。さらにさっきの大きなカニが今まさにそこを通ろうとしていた。このままじゃみちこちゃんが危ない!でもこの距離じゃ・・・
そこへ一つの人影が走り出てみちこちゃんを抱きかかえて助けた。絶望的だと思ったその状況を変えたのは、私の知っている一人の男の子だった。
「あっぶね~・・・大丈夫か?」
「うん!ありがとう」
side change
ほんとに危なかった~。ギリギリもギリ、間一髪もいいところだったわ。死ぬかと思った・・・人間ほんとにやべぇ時は火事場の馬鹿力が働くっていうけどあれほんとだったんだな、マジビビるわ。おかげでもうくたくただわ、動きたくねぇ。ともあれさっきの女の子を助けた俺はすぐに駆け寄ってきた母親に少女を渡した。
ふと視線を感じた俺はその方向に振り向いた。そこに立っていたのは相田だった。驚いたような表情をしながらこっちを見ていたが、何?俺がいちゃまずかったの?
「どうした?」
「うぅん、ちょっと驚いただけだから。比企谷君がここに来たことが意外だったというか」
「まぁ俺だって別に積極的に来たいとは思ってなかったよ。疲れるし、高いし、降りるの大変そうだし。さっきもマジで死ぬかと思ったし」
「でもそれじゃあなんで?」
なんで・・・か。ふと考えてみる。なぜ俺はあんなバカみたいな段数の階段を駆け上がってまでこの場に来ようと思ったのだろうか。俺は相田のような人助けをするのが好きというわけではない、むしろ嫌いなまである。そんな俺がわざわざここまで来た理由は・・・
「まぁ、どっかの班長が勝手に行動しちまったからな・・・班員として探しに行かないわけにはいかねぇだろ」
答えは出なかった。だから俺はその場をうまく切り抜けるためにごまかすことしかできなかった。相田の人助け精神がうつったのだろうか、何それヤダめんどい。ただ、いつかはこの時の行動の理由がわかったらいいと思った。
「ジコチュー!」
って忘れてた!このカニまだいたのかよ?どうやら展望台を一周したらしいそのカニは再び俺たちに向かって走ってきていた。
「ストーップ!」
「ジコッ!?」
「は?」
と、相田の制止の声によって急停止させられていた。
「この景色を独り占めしようとするなんてダメだよ!もちろん、割り込んだりするのも!ちゃんと並んでみんなで一緒に見ようよ。そのほうが絶対にキュンキュンすると思うよ」
マジか・・・こいつ、この謎のカニに対して説教してやがる・・・いやいやいやそんな幼い子供に言い聞かせるようなことをしても、こいつどう見てもあれだろ、止まるわけねぇだろ。と思いカニの様子を見てみると・・・
「ジコ・・・」
若干面喰っているというか反省しかけている表情をしてらっしゃる~!?えっなにこれ、このままこいつ解決しちゃうんじゃねぇのすごいな相田おい。こいつがいれば世界平和の実現も夢じゃないんじゃねぇの。
「お願いシャル!」
「「えっ?」」
俺たち以外には誰もいないはずなのに響いた声に俺と相田は驚きを隠せなかった。が、その直後に俺はさらに驚かされることになった。そこにいたのは
「私たちに力を貸してほしいシャル」
ピンク色の・・・ウサギ?ウサギだよな?がそこに浮いていた。しかもしゃべった!?
「誰?」
「私はシャルル、トランプ王国から来た妖精シャル」
「あっ、初めまして。あたし、相田マナです。どうぞよろしく」
「あっ、これはどうもご丁寧にシャル・・・って、驚いてないシャル!?」
受け入れんの速すぎるだろぉ!何普通に握手とかしちゃってんの?疑問とか抱かないの?どう見てもおかしいだろ、しゃべるところも、ピンクなところも、浮いてるところも。というかこの巨大カニの前で何を落ち着いて挨拶とかしてるんだお前は。
「それで、何をすればいいの?」
「いや、待て相田、落ち着け。というかむしろ少しはあわてるなり驚くなりしろ。どう考えても、というか考えられないくらい非現実的すぎる。なんでお前そんな冷静なんだよ?」
「え?もう慣れたかな」
駄目だ、こいつの順応能力が高すぎる。俺のリアクションの方がむしろ間違っているんじゃないかと錯覚してしまう。こいつほんと将来大物になりそうだよな・・・
「こんな人間・・・ありえないシャル・・・って、そんなこと言ってる場合じゃないシャル!伝説の戦士、プリキュアになって一緒に戦ってほしいシャル」
伝説の戦士、プリキュア?なんだかよくわからないけれども戦うって・・・いくらなんでもそりゃむちゃくちゃだろ。このカニと戦うって言ったってこのサイズだぞ。無理に決まってるだろ。それにさすがにこんなのは相田だって・・・
「うん、いいよ」
そんなあっさりぃ!?ってそういえばこいつは助けてと言えば特に事情を聴かずにオーケーしちゃう奴だった!ほんと、将来悪い男にだまされるんじゃないか少しばかり心配になってくる。まぁ菱川がいるからたぶん大丈夫だとは思うんだが・・・
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「それで、何すればいいの?」
「私を使って、変身するシャル!」
ポンッ!という効果音とともに、シャルルと名乗った妖精はその姿を変えた。タッチパネル機能付きの携帯端末みたいだ。すげぇな妖精ってこんなこともできるんだ。って、俺もナチュラルに受け入れ始めている!
「わかった」
シャルルを手に取った相田はカニの前に立った。右手にシャルルを持ち、どこぞの一号がとるようなポーズをとって
「変身!」
・・・何も起こらなかった。
「あれ?・・・変っ、身!」
いや言い方の問題じゃねぇだろ、どこの「質問するな!」な警察官ライダーだよ。おそらく必要な手順が何かあるはずだ。とりあえずシャルルからその方法を聞いてだな・・・
「う~ん・・・どうすれば変身できるシャル?」
「知らないの?」
知らないんだ!?どうするのこの状況。ほら見ろ、カニの方まで戸惑っちまってるじゃねぇか。
「わたしたちは生まれて間もなくこっちの世界に来たシャル。だからどんな風にプリキュアに変身してたか知らないシャル。でもきっと何とかなると思ってたシャル・・・」
「そっか・・・」
生まれて間もなく・・・それはしょうがないな。というかそんな生まれてすぐにこっちに飛ばされなくてはいけないような状況ってどういうことだ。何かそこにも深い事情がありそうだが、今はそれを詮索できるような状況じゃなさそうだな。
「何してるジコチュー!そんなやつ、適当に片付けちまえ!」
と先ほどの謎の少年の声が響いた。その声に我に返ったのか(いやそれはおかしいかそもそもがおかしくなってるわけだし)カニは相田めがけてその鋏を振り下ろそうとした。やべぇ!
しかし彼女をその鋏が襲うことはなかった。突然現れた紫色をまとった少女が、そのカニを蹴り飛ばしていたのだから。薄い紫と白の二色の衣装(というか服装?)、肩は白い羽のようにさえ見えるデザイン。そして強い決意を宿した瞳。
「キュアソード!」
「キュア・・・ソード?」
「プリキュアシャル!」
「あれが・・・プリキュア」
キュアソードと呼ばれた少女はちらりとこちらを一瞥するとカニと対峙した。そのカニの横に先ほどの少年が並び立ち、キュアソードを敵意のこもったぎらぎらしたまなざしで見ていた。
「待ってたぜ、キュアソード!ここでお前を倒して、王女の情報を頂くぜ!やっちまえ、ジコチュー!」
「ジコチュー!」
少年に命じられた衣装に装着されていた携帯端末(おそらくさっきのシャルル同様に妖精が変身したものだな、鳴いてたし)に大きくハートマークが描かれていたキュアラビーズをセットした。
「閃け!ホーリーソード!」
腕を勢いよく振り下ろした彼女は正面の空間を一閃、無数の光の刃がカニに向かって放たれ、カニの体を光で包み込んだ。
「ラブラブラ~ブ」
無数の刃を食らったカニは目をハートマークにしながら消え、そこにはピンク色となり天使の羽のようなものをはやしたハートが浮かんでいた。そのハートはしばしそこにいたかと思うとエレベーターの方へ行き下へ降りて行った。おそらくは先ほどの男性のところに戻るのだろう。
強い。キュアソードの戦いを見て思ったのはそれだった。これが、伝説の戦士プリキュア。謎の怪物と戦うことができる戦士・・・もしかしたら相田はこいつと同じようになっていたのかもしれないのか・・・そうならなかったことにほっとしている自分がいる。もし相田がプリキュアになったとしたら・・・何かとんでもないことが起きるんじゃないかと、少し心配になった。
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「キュアソード・・・?」
今の一連の流れを見ていた相田はどうやらあまりの驚きに戸惑っているようだ。無理もないだろう、というか俺もだいぶ戸惑っている。なんだったんだ今の?女の子があの巨体を蹴り飛ばした上に光の剣を無数に飛ばした…やべぇ何言ってんのか全然わかんねぇ・・・あれがプリキュアってやつなのか?
「キュアソード・・・やってくれたな」
とそこへ先ほどあのカニを作り出したと思われる謎の少年が現れた。忌々しそうにキュアソードを見ている様子から察するにこいつらは敵対関係にあるらしい。
「あの・・・ありがとう、助けてくれて」
相田がソードに歩み寄ろうとした瞬間、彼女の真上の天井にひびが入った。って、あいつ気づいてねぇ。あぶねぇ!
「危ない!」
その相田をまた助けたのはキュアソードだった。しかし今回はさっきとは一つ異なる点があった。崩れてきた瓦礫に交じって大きなはさみが降ってきて、そのままキュアソードの体を挟み込んだ。
「なっ、あれはさっきの!?」
「ジコチュー!!」
崩された展望台の屋根の上に乗っていたのはさっき倒されたはずの巨大なカニだった。そいつが、その鋏を使ってキュアソードの体を挟んでいた。
「あんたはいつも仕事が雑なのよ、イーラ」
そのカニの横に並ぶように現れたのはカニを作り出した少年と同じ白髪に金色の瞳を持った女性だった。その姿を見たイーラと呼ばれた少年の表情が怒りに近い表情になる。
「マーモ!お前、さては俺のジコチューが倒されるまで待ってたな!?」
「あら、だったらどうしたの?」
「くーっ!なんて自己中なやつだ!」
いやお前が言うなよ・・・どう見てもお前ら同族じゃねぇかよ。なんだ?こいつらは多分仲間・・・なんだろうけど。カニの怪物がジコチューって叫びまくることといい、こいつらは自己中の集まりかよ・・・めんどくせぇなそれ。
「さて、捕まえたわよキュアソード。トランプ王国最後のプリキュアであるあなたなら知ってるでしょ。王女の居場所について・・・教えなさい」
断片的な情報しか得ることができていないが一度整理してみる。この自己中集団とシャルル、プリキュアはトランプ王国と呼ばれる場所からきていて、自己中連中は王女様なる人を探しているらしい。んで、最後のプリキュアってのが気になるが・・・
「っ、おあいにく様。あなたたちに教えることなんてっ、何一つないわ」
「あら、そう?ジコチュー」
「っあっぐぁ」
おいおい、ちょっと待て。いくらなんでも・・・っち!
気づいたら体が勝手に動いていた。危険だとか、むちゃくちゃだとか特に考えもしなかった。ただ俺はあいつらがいる屋上に向かって登り始めた。どうやら相田も同じ考えだったようで、あいつも必死に向かおうとしていた。
side change
もう、ここまでなのかしら・・・この世界に来てからずっと探し続けてきたけれど、王女様の行方は見つからなかった。トランプ王国を守ることができなかった私は、せめて、せめて王女様だけでも守りたかった。きっと生きている、こっちに来ているんだったらきっと出会える。そう信じて今まで歌って、戦ってきた。でも結局、王女様には出会えなかったし、もうこの状況から脱出する方法も思いつかない。
「ぐっうっ、あぁっ!」
「強情な子ね~。まぁ、このまま潰しちゃってもいいかしらね。邪魔者がいなくなれば、王女なんてすぐに見つかるもの」
また、何も、守れなかった・・・
「ダメ!」「やめろ!」
そこにあらわれたのはさっき助けたはずの二人だった。どうしてこんなところに・・・?早く、逃げない・・・と
「その子を離して!」
「ぐっくぅぁ」
二人はジコチューの足をつかんでどうやら私を助けようとしているみたいだった。無茶よ。
「何を・・・してるの・・・早く、逃げ、なさいよ」
「そうしたいのは山々なんだが・・・そういうわけにもいかねぇんだなこれが!」
「どうっ、して?」
「あたしを助けてくれたからこんなことになってるんでしょ。それなのに自分だけ逃げることなんてできないよ!」
「こいつが逃げねぇんなら俺もだな。そんなことしたら班員に合わせる顔がなくなっちまう。さらに言えば妹に嫌われた上に死にたくなるまである」
「なぁにあれ?ジコチュー」
「ジコ!ポイッ!」
ジコチューが足を一振りするだけで二人は簡単に吹き飛ばされてしまった。
「ただの人間は引っ込んでな」
「くっ、相田、大丈夫か?」
「どうしよう・・・あたしのせいで・・・」
side change
「どうしよう・・・」
あの子を助けたい。あたしのせいでいま彼女は苦しんでいるんだもん。でも、今のあたしじゃ・・・
握りしめていたシャルルが変身したアイテムを見つめる。ちゃんと使うことができたら、きっとあの子を助けることができるはずなのに。
「お願い・・・」
助けたい!どうしても。
「あたしに勇気を、力をください!」
少しでも、あたしに何かできる可能性があるのだとしたら。あの子を助けるための力を、立ち向かえるための勇気が、私は欲しい!
「お願いします!」
side change
突然、それは起きた。さっきアクセサリーを売っていた男が相田に渡したキュアラビーズがまばゆい光を放ちだした。強く、優しく、温かいその光は、まるで相田の祈りにこたえるかのように輝いていた。
「っあ!マナ!その輝きを私にセットして叫ぶシャル!プリキュア・ラブリンク!」
「うん!」
先ほどのキュアソードがしたように、相田は胸に着けていたキュアラビーズをシャルルにはめ込んだ。
「プリキュア・ラブリンク!」
『L・O・V・E!』
そう叫び、相田はまばゆい光に包まれた。再び光の中から現れた相田の姿は変わっていた。髪の色はピンク色から美しい金色になり、さらに言えばかなり長くなっていた。ピンクと白の衣装に身を包み、左胸にはピンクのハート、キュアソードと少し似ている姿になった。そうか・・・なったんだな、相田。伝説の戦士とやらに。
「みなぎる愛!キュアハート!」
プリキュアに。
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「キュア、ハート?」
「プリキュア!?」
「まだいたのか!?」
三者三様の反応をする彼らと違い、彼の心の中にはいくつもの感情が渦巻いていた。不安、後悔、安堵、期待。一言で表せない感情を持ちながら彼は彼女がその一歩を踏み出すのを目撃した。長い長い、戦いの一歩を。
「愛をなくした悲しいカニさん。このキュアハートが、あなたのドキドキ、取り戻して見せる!」
「ついに目覚めたようだね・・・マイ・スィート・ハート」
「キュア、ハート・・・これが、相田の・・・」
というわけでいかがだったでしょうか。
大体本編の一話分を引っ張って書いてみたらこんな感じになりました笑。
この先もたまっては載せたまっては載せを繰り返していくと思うのでよろしくです!