艦隊これくしょん 横須賀鎮守府の話 特別編短編集   作:しゅーがく

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※他の企画との関連はありません。


鳳翔、頑張ります! その5

 朝食も食べ終えた後、執務室に戻ってから執務を始めます。

私が事務棟に書類を取りに行き、帰ってきてから本格的に始めます。

 秘書艦経験があるということで、執務は円滑に進みました。

紅提督は最初から最後まで休憩を入れずに、一気にやり終えたみたいです。私はまだ慣れませんので、休み休みでしたけどね。

そして全てが終わり、事務棟に提出に行く時が来ました。

 

「紅提督。帰りが遅れます」

 

「あぁ。酒保だろう? 分かった」

 

「では行ってまいります」

 

 私はお財布と書類を持って、執務室を出ていきます。

 本部棟を出て、事務棟まで歩いていきます。

その途中には、色々なところを通り過ぎていきます。最初に通るのはグラウンドです。

今日はバトミントンをやっている集団があるみたいですね。艦娘の皆さんと門兵さんが入り混じって騒いでいます。今までも思ったことですけど、門兵さんって仕事無いんですかね? 毎日の様に、駆逐艦の娘たちと遊んでいる姿を見るんですけど……。

 グラウンドを通り過ぎ、酒保を通ります。まだ提出していませんので、中には入りません。この辺りまで来ると、袋を持って歩いている艦娘をよく見かけます。とは言っても、まだ開店していないので居ないんですけどね。

 そして警備棟の横を通ります。

警備棟の正面玄関にはいつも数人の門兵さんが立っています。鎮守府内ではありますけど、規則で立つことになっているみたいですね。私が横を通り過ぎると、門兵さんは笑って敬礼をしてくれます。私も答礼をしますけど、結構不格好らしいので最近はお辞儀をするだけにしているんですよね。

 事務棟に到着しました。受付に向かい、いつもの人に書類を渡します。

 

「お願いします」

 

「はい。お預かりしますね」

 

 受付の人は、中で何やら作業をしてから、私にあるものを渡してきます。

受け取ったことを確認するレシートみたいなものです。形式上は、コレを紅提督に見せる必要がありますけど、別に見せなくてもいいと言われています。まぁ、軍規で決まっていることですけど、ここはそういうのはほとんど通用しませんからね。

 

「では、お仕事頑張ってください!」

 

「えぇ! 鳳翔ちゃんも!

 

 受付の人は毎日固定で、本人曰くまだ20代だそうです。別の人は本年齢を40近くと言ってましたけど、まぁ、そこは……。

いつも笑顔で優しい人です。何だかお母さんみたいな感じです。

 私は事務棟を出ていき、酒保に向かいます。

お昼ご飯で使う材料を買い揃えます。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 酒保で開門を終わらせ、執務室に戻ってきました。

時刻にすると、午前10時半頃です。

執務室に帰ってくると、紅提督は本を読んでいらっしゃいました。私室にお邪魔しても良いかと訊きたいところですけど、話しかけるのも何だか気が引けます。

 そんな風にしていると、紅提督が顔を上げました。

 

「おかえり、鳳翔」

 

「……た、ただいま戻りました」

 

 紅提督はすぐに目線を本に落とすと思いましたが、落としません。私の方をまだ見ています。

ですので、私は訊きたいことを言いました。

 

「あの……私室に入ってもよろしいでしょうか?」

 

「ん? あぁ。ちょっと待って」

 

 そう言って紅提督は立ち上がり、私室の扉に手を掛けました。

そして、その扉が開かれます。

 私は紅提督の私室に入ったことがありません。

艦娘の中でも数人は入ったことがある、という噂を耳にしたことがあります。確実に入っているのは北上さんですね。朝食を食べ損ねた時、紅提督に朝食を作っていただいたという話です。

あと蒼龍さんと利根さん。こちらは間食にリゾットを作ってもらっただとか……。他の艦娘の方は噂でしかありませんが、赤城さんや金剛さん、大井さん、フェルトさんです。目的も意図も不明です。

 扉の向こうには、私の知らないことで溢れていました。

全ては噂で片付けられていたことが、目の前で真実に変わるんです。私室は生活出来るように作られており、入ればすぐに本棚が目に入ります。紅提督が読むために買っているという本や漫画が並べられており、資料室にあるようなものとは嗜好が違います。そして教材のようなものも見受けられます。

そしてベッドがあり、抜け殻のようになっています。他には頻繁に使っているというキッチン。その奥には洗面所があります。お風呂とお手洗いも完備。

生活感がある部屋ですが、噂でしか聞いたことのない部屋に入るとこが出来ました。

 

「ほら、用事があるのはあそこだろう?」

 

 そう言って、紅提督はキッチンの方を指差しました。

そこは艦娘寮にある調理室とは違い、結構広いです。それに綺麗です。艦娘寮の調理室も綺麗ではありますが、何か違うように感じます。材質は同じみたいですけどね。

それに、作業をすることが出来る広さが違います。こちらの方が断然広いです。

 

「いつから作り始める?」

 

「11時過ぎくらいから、と考えていますが……」

 

「……じゃあ、時間になったら勝手に入っていいぞ」

 

「はい」

 

 ここで作っていいかは聞いていませんが、勝手に入っていいというお許しを得ました。

 袋を置いて、要冷蔵のモノは冷蔵庫へと入れていきます。

冷蔵庫の中には、色々なモノが入っていました。調味料や水、コーラ、食品等など。コーラが結構な数が入っている気がしますが、紅提督はコーラがお好きなんでしょうか。

そして私は、あるものを見つけてしまったのです。

そう!! 紅提督が作ったと思われる軽食が!! ちなみにサンドイッチです。具は色々で卵とツナ、レタスやハム等がランダムに挟まっているモノがありました。ヤバイです。食べたいです。口の中で唾液が過剰分泌されてます。

 私はサンドイッチを気にしないように食材を冷蔵庫に収め、執務室に戻りました。

そこでは特にすることもありませんので、お茶でも淹れて飲みましょうか。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 11時前、執務室にある艦娘が訪ねてきました。

 

「失礼するかもー!!」

 

 朝に朝ごはんをいただきました、秋津洲さんです。

そして、何故かカゴを持っています。

 

「おぉ、秋津洲か」

 

「うん!! はい、今日の分」

 

「ありがとう」

 

 そして秋津洲さんは執務室を出ていきました。

私はてっきり話をしに来たんだと思っていましたが、違ったんです。秋津洲さんの目的はカゴを置いていくこと。

 紅提督は秋津洲さんが置いていったカゴから、何かを出しました。

 

「おっ。今日はスコーンか。忙しかったんだな」

 

 そう言って、紅提督はスコーンを食べます。そして、私が淹れたお茶を飲みました。

私の思考はこの光景を見て止まりました。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 11時も過ぎ、私はこっちに戻ってきます。

紅提督がスコーンを食べているのを尻目に、紅提督の私室に入ります。これまで、様々な障害(秋津洲さんが朝食を用意する、秋津洲さんがお菓子を持ってくる)がありましたが、もう気にしてなどいられません!! 何があったとしても、当たって砕けろ!! 爆ぜろ障害物っ!! 突撃が一番最強なんです!!!!

 

「……よしっ!!」

 

 手を丁寧に洗い、食材を準備して気合を入れます。

これより鳳翔は『胃袋に一撃作戦』を開始しますッ!!!

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 時刻にして12時30分。

 紅提督の私室の机の上に並べられた、私渾身のお昼ご飯が並んでいます。それを一度見て、箸を取り、手を合わせました。

 

「いただきます」

 

「はい。召し上がれっ」

 

 きゃっ、言ってしまいましたっ!! これ、夢だったんですよね。

 それはともかくとして、お昼ご飯の出来栄えは最高です。

味付けの時点でも良かったですから、後は完成形が良ければ……。

 紅提督は食べ始めました。

 緊張で私はその光景を直視することが出来ません。

 

「……うん。美味しい、鳳翔」

 

 この時、私がどんな表情をしていたかは分かりません。

ですけど、心ではどんなことを考えていたかは分かります。作戦が成功したことと『幸せだなぁ』ってことです。

 どうやら和風ハンバーグのサイズを大きめに作ったことは良い選択だったみたいです。

途中からは見ていましたが、紅提督はガツガツと食べていました。

 

「美味いっ……美味いっ!」

 

 そんな事を言いながら、口に書き込んでいます。

 あぁ……嬉しいですね。この光景、紅提督の言葉……。

紅提督は結局、ご飯を2杯おかわりをしました。全部綺麗に食べてくれましたし、あまり笑わない紅提督が笑いました。

それに、サプライズがあったんです。

 冷蔵庫に入っていたサンドイッチを私に下さったんですっ!!

私が買い物に行っている間、作って置いたとのことでした。最高に幸せですっ!! 2人だけで食卓を囲むんおがこんなにも嬉しいことだったなんて……。作戦を立てて、実行して良かったです!!

そして、こんなことを言われました。

 

「また、迷惑でなければ作って欲しい」

 

 もちろん、OKしましたとも!! 断る人なんて居ませんよ!!

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 執務室から私室に戻ると、龍驤ちゃんから質問攻めに遭いました。

これも恒例儀式ですよね。秘書艦になった艦娘を囲んで、紅提督の様子を訊くことなんて。私も龍驤ちゃんが秘書艦の時、根掘り葉掘り聞き出しましたからね。お互い様です。

 

「なぁ鳳翔ぉ~、何かなかったんかぁ~」

 

「ゆ、揺らさないで下さいよー!!」

 

 ちなみに私が帰るなり、私たちの私室には絶え間なく来客があります。近くの部屋を使っている軽空母の艦娘たちが来ているんです。

そして私を揺らしている龍驤ちゃんを中心に、瑞鳳ちゃん、祥鳳さん、飛鷹さんに囲まれています。隼鷹さんも来ていますが、私を囲んでいるところには居ません。近くでお酒を呷っているだけです。

 

「で、どうだったのよ。鳳翔ー」

 

「どうって訊かれても……そのっ」

 

 瑞鳳ちゃんが訊いてきます。

瑞鳳ちゃんは秘書艦経験が1回しかありませんから、気になることも仕方ないと思います。とは言ったものの、隼鷹さんは未経験ですし、他にも経験が無い艦娘も一杯居ます。

 

「もったいぶってないで教えてぇーな!!」

 

「いやいや!! だから揺らさないで下さいって!!」

 

「揺らしとらんわ!! 逃げんように捕まえとるだけやて!!」

 

「揺らしているんですよっ!! あー、頭がシェイクされ……ますっ」

 

 そこで私は気を失いました。龍驤ちゃんに揺らされすぎたことが原因です。

目を覚ますと龍驤ちゃんに平謝りされましたが、結局、根掘り葉掘り聞き出されることになりました。ですけどもちろん、作戦のことは誰にも言いません。

私だけの秘密です。

 




 これにて特別編企画 第4回目 『超絶怒涛の空前絶後のキャラ崩壊をさせてみた』を終わります。
どういうキャラ崩壊だったのか……。
それは、おかんであることを全面に出されている鳳翔ですが、こちらでは歳も紅よりも年下という設定(というか、本編ではちゃんと記述がある)で書きました。
となるとつまり、鳳翔はまだ歳を考えると10代中盤くらいということになります。
本作でだけですけど……。
こういう設定ですから、時々皆さんの認識とは違う艦娘が現れることもありますので、ご注意下さいね。

 最後のオチに関して(紅が食べているところ)ですが、少々描写不足かもしれません。これが限界でした(汗)
 最後まで鳳翔の前にそびえ立った秋津洲がどっか行った気がしますが、鳳翔が考えないようにしていた、ということで……。

 次の特別編企画が何時になるか分かりません。色々と計画しております(鉄板ネタから作者の個人的な内容まで)。どうぞお楽しみに!!

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