艦隊これくしょん 横須賀鎮守府の話 特別編短編集   作:しゅーがく

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※他の企画との関連はありません。


鳳翔、頑張ります! その2

 

 作戦の大筋は完成しました。後は準備をして、時を待つだけです。

気合を入れつつ、私は個室を出ます。

 

「よしっ!!」

 

「なんや鳳翔。気合入っとるなぁ」

 

 迂闊でした。気合を入れるために、普段ならやらない気合を入れるために声を出して出たのが良くなかったです。

共有スペースに龍驤ちゃんが居ました。結構ラフな格好していますね。いつものことですけど。

 

「え、あ、いや……」

 

「今日、秘書艦やったか?」

 

「ち、違いますよ?」

 

 私はそう言いつつ、廊下に行こうとします。ですが、そんな私の背中に龍驤ちゃんはあることを言い放ちました。

 

「もう朝食行くんか? ちょっと早すぎだと思うけど」

 

 そう言われ、私は壁掛け時計に目を向けます。

時刻は6時40分。もちろん朝です。

 

「そ、そうですね。もう少しゆっくりしていきます」

 

「そうやろ?」

 

 私はこの勢いで準備のために買い物に行こうかと思っていたんですが、よくよく考えてみればまだ酒保は開いていませんね。それと、”予約”している時間までまだ時間があります。

作戦を実行した後のことを考えすぎて、先走り過ぎました。うっかりです。

 朝食を食べてゆっくりしてから行けばいいと思い、私は龍驤ちゃんの隣に腰を下ろします。

 この共同スペースは、私の個室みたく畳は敷いてありません。フローリングですし、カーペットが敷いてあります。そしてその上には小さいローテーブルが1つと3人掛けのソファーが1つ。1人掛けが1つあります。それ以外には、ちょっとした棚があり、そこに電気ケトルやお茶っ葉、茶菓子などが置いてあります。

この部屋にあるものは、私と龍驤ちゃんの共用です。ソファーは割り勘で買いました。ケトルは龍驤ちゃんが買ってきたものですが、お茶は私が。茶菓子は2人でお互いに補充しあっています。たまに龍驤ちゃんと私が買ってきたものが被ることがありますけどね。

 私は龍驤ちゃんが座っている3人掛けのソファーの空いているところに腰を下ろしました。

特に深い意味はありません。

 

「で、鳳翔」

 

「なんです?」

 

「どうしてあんなに気合入れてたん?」

 

 いきなり、そんなことを訊いてきました。ピンチです! すっごくピンチです!

嘘を言っても龍驤ちゃんにはバレてしまいますし、本当のことを言ったら、計画が頓挫してしまいます。それだけは回避したいです!!

 私は何を答えるか、考えます。返答に時間を掛けていられません。

この約1秒間、私は候補をいくつも挙げました。ですが、どれもバレてしまいます。

どうしようどうしようと考え、考え付いた先の答え、私はそれを言います。

 

「紅提督のところに行ってこようと思うんです」

 

 ですがそれはフェイクっ!! 私は”あの作戦”のことを毛頭言うつもりはありませんっ!!

本当のことではありますけどね。今日行くとは行っていませんし。

 

「なんや鳳翔。そのために今日は資料室に缶詰ってことかいな」

 

「そういうことになりますね!!」

 

「鳳翔がネタにするようなことといえば……大戦前の艦載機についてか?」

 

「はい! 龍驤ちゃんもどうです?」

 

「いやぁ、今も勉強中なんやけど、全然やわ」

 

 ふっふっふっ……。頑張って下さい、龍驤ちゃん。今回は私が一人勝ちです!!!

 

「結構進んできて、理解も深まったので今日やってから頃合いを見て行ってこようかと思います」

 

「そうかー。先越されたかー。まぁ、仕方ないなぁ」

 

「戦果は報告します!」

 

「頼むわ!」

 

 そろそろ時間みたいですね。龍驤ちゃんが立ち上がりました。私も立ち上がり、一緒に食堂に向かいます。

もう紅提督は着いている頃でしょうが、近くには座れないでしょうね。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 食堂ではやはり紅提督の近くには座れず、私は資料室に来ていました。

龍驤ちゃんにああは言ったものの、一応、用事はあります。今日は本を読みに来ました。借りに来た訳ではありません。

 本来ならば、私について書かれている本も読んでいく予定ではありましたが、モノがモノだけに仕方ないです。

 今日の目的は、皆さんがよく見る棚では全くありません。物語でも漫画でもなく雑誌でもないです。

 

「数は……多いんでしょうか?」

 

 私が来たのは大型本のコーナーです。様々なジャンルの大型本が並んでいるここの棚は、基本的に外から好意で貰ったものが入れられています。

どういった好意なのかは分かりませんが、資料室にはある特定の本以外は置いているようです。紅提督も何の本を置いていないのかは、誰にも教えていないようですが……。

 私はそんな本棚をジーっと観察し、私の目当ての本を探します。

 色々な本がありますね。おもちゃの雑誌や写真集、ファッション誌、建物の本、美術の本……。そんな中に、私が探していた本がありました。

私はそれを数冊抜き取り、読書用スペースに行きます。

 読書用スペースは大きく2種類あります。

1つは長机が並べてあるだけのところ。もう1つは衝立があり、個室にようになっているところ。

私は個室になっているところの、空いている席に本を置き、腰を下ろします。

そして持参していたものを取り出し、本を開きます。

 持参しているものは筆記用具とメモ帳。本に書かれた内容を写し取るためです。時間は掛かりますが、それでも必要なことなんです。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 資料室の用も終わり、丁度良い時間になりましたので、私は酒保に向かいました。

 酒保を入り、衣類などが売っている街路を抜け、私はあるところで立ち止まります。

ここには何度も着たことがありますが、私が”こういう目的”を持って来たことがありません。私はメモを握り締め、そこへ入っていきます。

 愛想の良い店員さんに挨拶をしながら、棚の間を縫っていきます。

よく話をする店員さんに声を掛けられました。

 

「鳳翔さん、鳳翔さん」

 

「ん? 何ですか?」

 

「今日は直送で良いお菓子があるんです! 試食していきますか?」

 

 お菓子屋さんです。和菓子を売っているお店で、他の店舗もありますが、私はここのお店のお菓子が気に入っているんです。ですので、よく買いに来るものですから、店員さんにも覚えていただいたみたいですね。

 

「是非に」

 

「はい! こちらになります」

 

 そう言って差し出された小皿を受け取り、串で刺して食べます。

貰ったのはカステラです。いつものカステラとは違い、風味にコクがあります。そして、より良い匂いを漂わせています。

 

「おぉ!! これは美味しいです!!」

 

「ありがとうございます。本日は職人を招いておりまして、いつも販売させていただいているカステラとは違う製法で作らせていただきました」

 

「なるほど……。良いものですね、このカステラ」

 

 私はそう言って、自然にカバンの中に入っていたお財布に手が伸びてしまいました。

こうも美味しいと買いたくなりますよね。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 酒保での用事は終わっていませんが、思わぬ幸運です。

美味しいカステラ、しかも、いつもと違い更に美味しいものを買ってしまいました。私の気分は上々です。帰りましたら、龍驤ちゃんと食べようと思います。

 それはさておき、私の本来の目的を果たさなければなりません。

この左手に握られたメモに書かれているものを、私は全てを買い集め、あるところに向かわなければならないのです!!

 

「よしっ!」

 

 私はそう意気込み、店内へと入っていきます。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 “予約”していた時間です。前にも何度か来たことがありますが、今日は前回までとは違います。今日は予行演習の前、どうするのかの選定。

つまり!! 本番にどうするのかを決めるんです。

 

「一緒なのは……金剛さんと榛名さん、高雄さんですか」

 

 “予約”表を確認して、私は室内に入っていきます。

中は綺麗ではありますが、棚がたくさんあり、物も多いところです。既に高雄さんは到着しているみたいで、準備を始めていますね。

 私も荷物を割り振られたところに置き、”戦場”に経ちます。

そう、ここが私の戦場ッ!! 数多の味方を欺き、駆け抜けるッ!!

そう、作戦とは私の軍艦時代にあったことや出来事が今の私に反映されているかもしれない、という情報を大いに発揮するものです。

その名も『胃袋に一撃作戦』。軍艦時代の私に搭乗していた料理人が、艦隊随一の腕前だったというモノが反映されているのではないか、という予想から立てました。

基本的にこういう”スキル”みたいなものは、自分で調べて実際にやってみたりすることで判明することらしい(※戦術指南書に書かれている)です。ですから、私はこれを確かめてみます。

 今まで調理室で作っていたものは、基本的にお菓子です。

調べた結果、私に存在する可能性のある”スキル”は、食事に出されるようなもの。お菓子では無いんです。

ですから、今回は初の試みです。どうなるか、どういうものを私が作るのかが、今回の作戦の鍵になります。

 

「いざっ!」

 

 私は資料室にあった材料をメモした紙を頼りに、調理を開始します。

もちろん、エプロンも付けましたし、手もちゃんと洗いましたよ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 私が想像していたのは、『初めてだから、まぁこんなものだろう』というモノでした。

料理に経験があるとはいえ、ジャンルが違うものを作れば、何処かは変なところが出来てしまうだろう、私はそう思っていたんです。

ですが、それはあっという間に吹き飛んでしまいました。

 私の手が、身体が、意識はありますが自然に動きます。

お野菜を切るのも、まるで昼間の食堂のテレビで見るような料理番組みたいに動き、フライパンを振るうのも……。

味付けも味見しながら確かめつつ、微調整していきます。皿を取り出し、盛り付けたら完成です。

 気付けば、少し汗ばんでいましたが、気にしません。

私が憂いていたこの作戦の鍵となる、”これ”は斜め上に行きました。

 皿の上に乗っているのは、割りと簡単と紹介されていた豚の生姜焼き。玉ねぎと豚肉をちょうどいい大きさに切り、レシピにあった調味料を調合。一気に焼いただけです。

レシピ通り作れば、何でも美味しく作れるらしいですが、それは焼き加減やらを加味していないのではないか、と私は思いました。ですから、レシピ通り作れば上手くいくなんて、全く考えていませんでした。

全て、私がタイミングやらも全て決めてやった結果なのです。

 

「ふぅ……」

 

 温かいうちに食べてしまうのが良いんでしょうけど、洗い物を片付けてから食べることにします。

 全てを洗い終え、私は目の前に置かれた自分で作った豚の生姜焼きを睨みつけます。

味付けと微調整の段階では良かったんです。ですがそれは、混ぜた調味料を少しだけ舐めた程度。全てを合わせたものを口にするのは、コレが初めてです。

 

「……いただきます」

 

 箸を取り、私は豚の生姜焼きを口に運びます。

果たしてどうなっているのか……。

 

「んっ!? こ、これはっ!!」

 

 私は思わず箸を置き、立ち上がってしまいました。

その音に驚いた、金剛さんたちや高雄さんが、こっちを見ます。

 急に大きな音を出してしまったのとは裏腹に、とてつもなく驚いています。

何故なら、これなら私は勝てる、そう思ったのです。

 

「すみません。お騒がせしました」

 

「大丈夫ですよ、鳳翔ちゃん」

 

 一番近かった高雄さんに謝り、私は取り敢えず口に運んでいきます。

まだまだやることはあるんです。リストアップしたメニューは全て試さなくては……。

これは今日のお昼ご飯、食べれなくなってしまいますね。

 

 





 前回に引き続き、お送りしています。

 ここまで来れば気付いた方も多いのではないでしょうか?(普通に気付く)
鳳翔の作戦は、鳳翔の得意分野で……。ということですけど、鳳翔は自分のそれに気付いて居ませんでした……という話です。

 企画名と話の内容がちゃんと被っているのか、ということを考えたりしていますが、どうでしょうか?
まぁ、かなり周囲からの認知も違いますし、新鮮だと感じていただければと思います。

 ご意見ご感想お待ちしています。

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