艦隊これくしょん 横須賀鎮守府の話 特別編短編集   作:しゅーがく

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※他の特別編企画とは関連はありません。


門兵女性隊員 暴走 その3

 

 相変わらず、執務室に南風さん以下数名の女性門兵が居るが、俺は少し気にしつつも本を読んでいた。

執務も終わっていたし、やることが無かったからな。

 そんなことをしていると、フェルトが俺の机のカップを置く。

いつも何も言わなくても、フェルトはコーヒーを淹れてくれる。もちろん、豆を挽いて淹れている。粉のコーヒーではないからな。

 

「あ、ありがとう」

 

「あぁ」

 

 俺はそのまま本に目を落としたまま、コーヒーカップに手を伸ばし口に運ぶ。

その時、フェルトが俺に話しかけてきた。

 

「アトミラール。その、少し良いか?」

 

「ん?」

 

 秘書艦の席から椅子を持って、俺の横に腰を下ろす。

なんだいきなり。

 

「さっき考えていて思ったのだが、門兵の女性隊員たちはアトミラールに求婚しているのか?」

 

「今更だなおい!」

 

 本当に今さらだ。オイゲンは早々に気付いて、助け舟を出したり出さなかったりしているというのに。

 俺は読んでいた本に栞を挟み、机の上に置く。

 

「どれだけ時間が掛かっているんだ。……まぁ、フェルトの言う通りだ。どういう訳かそういう状況になっている」

 

 そう言いつつ、俺はフェルトにしか聞こえない程度の声量で話を続けた。

 

「俺のどこが良いのか分からん。非モテ男子筆頭じゃないか」

 

「はあぁぁぁぁぁぁ……」

 

 なんだかフェルトに大きな溜息を吐かれたんだが、どういうことだろう。

 

「なんだよ。大きな溜息なんか吐いて」

 

「いいや。苦労するなぁ、って思っただけだ」

 

 俺のことを残念な奴を見るような目で見てくるフェルトに不満を保ちつつ、俺は机に肘を突いた。

 

「酷い奴だな。それより訊きたいことがある」

 

 そう言って、俺はあることをポッと思い出したので、それをフェルトに訊いてみることにした。

 

「なんだ?」

 

「あぁ。フェルトのスツーカあるだろう?」

 

「そうだな。アトミラールが魔改造を繰り返して、元の原型がほとんどないが」

 

 フェルトのスツーカを俺は工廠に言って改造しているのだ。

本人には一応、改造内容などの説明をした後に許可は取っているので問題ない。

 

「良いだろ。性能は向上している訳だし。……んでだ。今のスツーカはD-3型かD-5型。どっちだったっけ?」

 

「混同して運用している。が、対艦能力が高いのはD-3型だ。妖精の評判もD-3型の方が良い」

 

「そうか。……んまぁ、アレだ。フェルトの艦爆隊に補給で回されている爆弾ってどれくらいの大きさなんだ?」

 

「確か500kgで統一されていたと思う。あ、そうだアトミラール。爆弾も変えただろう! 炸薬量が多くなっていると言っていたぞ!」

 

 実は艦載機に関しては装備する本人に話をしているが、それ以外のものに関しては俺は勝手に工廠に口出ししている。

実は艦娘にもそういった類が変更になったという趣旨の話を、工廠の妖精たちが話をしているはずなんだがな。

 

「それはフェルトが覚えていなかっただけだ。……まぁ、500kgで統一ってのは分かった。まぁ、それが確認取れただけでも良い」

 

「……何をする気だ? いい加減にしないと赤城がスツーカを欲しがっていて困っているんだからな!」

 

「そんなもの知らん。彗星でも投げておけ」

 

 俺はフェルトにそう言いつつ、机から工廠への書類を取り出して書き込んだ。

そしてペンを置き、フェルトにそれを渡す。

 

「はい。工廠に」

 

「あぁ。……ん”?! 何だこれは!」

 

「1000kg爆弾の搭載が出来ることを今思い出した。てな訳で、艦爆隊にはその趣旨で通達を頼んだ。使い分けてくれ」

 

「はぁぁぁぁ……。赤城との演習が不安だ」

 

 フェルトは突き返すことはせず、渋々といった感じで立ち上がり、書類を片手に執務室を出て行った。早速提出してきてくれるみたいだ。ありがたい。

 フェルトを見送った姉貴が俺の前に来た。

どういう要件だろうか。俺は特に無いんだが。

 

「紅くんも結構やり手ですよね」

 

「何が?」

 

「赤城さんからよく聞きますけど、艦載機の改造、フェルトさんの艦載機をかなり弄くり回しているらしいですね。『一般配備の烈風とか彗星も改造して欲しいものです!』とか言っていましたよ」

 

 初耳だ。そんなこと、赤城が言っていたんだな。知らなかった。

 姉貴が言った赤城の言葉の中に『一般配備』という言葉がある。それは航空隊で艦載機が違うことを指しているのだ。特にフェルトとフェルト以外の航空隊。

フェルトの特性上、運用するのはドイツ製のモノが好ましい。日本製の艦載機を装備しても良いんだが、そうするとカタパルトが云々と言い出すのだ。だから、フェルトには艦戦隊と艦爆隊中心の航空隊を運用してもらっている。装備はFw-190やBf-109、スツーカだ。

 発展性があり、史実でも改造が繰り返されたそれらは、俺にとってもいじりやすい代物なのだ。だからフェルトの航空隊が改造の贔屓にされていると思われてしまったのかもしれない。

 まぁそんなことはどうでもいい。一般配備。つまり、日本機で構成された航空隊も良いところが多いのも事実だ。赤城航空隊は別だが。

 

「知らん」

 

「拗ねちゃいますよ、赤城さん」

 

「別に良い」

 

 俺はそう言って机の上に置いてある本に手を伸ばす。

手が本に触れようとした瞬間、本が持って行かれた。誰に持って行かれたのかというと、南風さんだ。

 

「紅提督?」

 

「は、はい。なんですか? というか、返して下さい」

 

 何だか笑っているんだが、怖い。どうしてだろうか。

俺はすぐに今まで空気だったオイゲンに顔を向ける。

 

「ぷいっ!」

 

 今、口で『ぷいっ!』って言ってそっぽ向いた。確信犯だろ今の。

 

「オイゲンさん! ちょーっと、紅提督借りますね」

 

「あ、どうぞどうぞ!」

 

 何勝手に決めているんだ。

 

「オイゲン?! ちょっと待って、南風さん!!」

 

「はいはい、知りませんよー」

 

「力強いな!! てぇ!! 締まってる締まってる!!」

 

 首根っこ掴まれて、そのまま俺は廊下に出されてしまった。そしてそのまま俺は、執務室に居た女性門兵たちに連れて行かれる。

どこに連れて行く気なんだろうか。あと、そろそろ気を失うから、そうやって引きずっていくのを止めて欲しい。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 連れて来られたのは、門兵用に建設された寮だ。

一応、外へ出ていく門が一番近いところに作られている。

 そんな門兵寮の女性棟に問答無用で引きずり込まれ、そのまま一室に入れられてしまった。

壁にネームプレートが掛かっていて、そこに『南風』の文字があったから、多分南風さんの部屋なんだろうな。

 中は整理が行き届いていて、ベッドの上のシーツやらがビシっと畳まれている。

そんな軍隊風の部屋ではあるが、やはり色々特殊なんだろう。壁にはコルク板が掛かっており、写真がピンで止められている。枕カバーもどうやら私物みたいだし、何より部屋の中心に机も置かれている。支給された机もあるけどな。

 

「えっと……どうしてココに? それに男子禁制だったんじゃ?」

「そんなもの、小銃で空にぶっ放せば良いんです」

 

 物騒なことを口走っているが、まぁ良いだろう。

それとこの部屋には俺と南風さん以外の、執務室に居た門兵の女性隊員はどうやら室内に入ってこないみたいだ。

 

「紅提督」

 

「は、はい?!」

 

 何も言ってはいけないような雰囲気に包まれたので、俺は何も言わないように心構える。

何か口走って、変なことになっても仕方ない。それにそんな事態は避けたい。ココに助けは来ないからな。

 

「日本皇国の法律では、男子の婚姻下限年齢が18歳なんですよ? 紅提督は既にそれを超えていますよね?」

 

 確かに。俺がこの世界に来て数ヶ月後に18になったから、既にそれ以上は行っていることになる。

 

「軍人は早くに結婚します。任地が移ってしまう場合もありますからね」

 

 そりゃそうだ。だがしかし、ここに所属している以上、そう異動は無いと思うんだが。

 

「私の原隊、知っていますか?」

 

 突然、話の内容が変わったな。

 

「知りませんが……?」

 

「日本皇国海軍海軍部直轄『諜報機関』所属です。表向きには日本皇国海軍海軍部直轄 特殊作戦統合部ってところなんですけどね」

 

 知らない上に知らない。聞いたことない。

そもそも俺は日本皇国軍内部の組織情報の詳細を知らないのだ。そんなことを言われても全然分からないのだ。

 

「それで原隊を言わずに自己紹介をすると、勤務地を聞かれるじゃないですか?」

 

 ですか? って言われても……。

 

「別に機密は無いですし、軍規に反しないので勤務地を『横須賀鎮守府艦隊司令部』って言うんですよ。嘘を言っても仕方ないですからね」

 

 そりゃ嘘は言わないだろうな。言ったところで仕方ない。

 

「戦闘員か非戦闘員かなんて、まず軍隊に居る時点で戦闘員認定されますよ。それで、勤務地を言ったら、『じゃああのデモ隊の壁を少人数で押さえ込んでいる? それとも、提督が抱えている『気に食わない人間絶対殺すマン&ウーマン』の集団?』って聞かれて、私はデモ隊の壁云々なんて知りませんからもう!!」

 

 つまり、『気に食わない人間絶対殺すマン&ウーマン』だと認定されるということだろう。

それは知らない。

それに『気に食わない人間絶対殺すマン&ウーマン』ってなんだよ。初耳なんだが。闇討ちとか暗殺とか、俺は命令した記憶が無いんだが。

世間で俺のイメージがどうなっているのか気になる。

 

「……つまり、何が言いたいんですか?」

 

 俺は恐る恐る、そう聞く。

ちなみにこの発言の後、すぐに地雷を踏み抜いたことに気付いた。

 それを聞いた俺の肩を南風さんは、ガシッと掴む。もちろん、それを振り払うことは出来ない。そしてそのまま、うなだれてしまう。

 

「グスッ……なんで私は特殊部隊の人間なんですかねぇ……」

 

 何か泣き出したよ! この人!

 

「……紅提督から見て、私はどうですか?」

 

 とんでもない質問が飛んできたが、真面目に答えないといけないだろうな。

 俺は自ら地雷原に足を入れる。

 

「えぇと……南風さんはですね……。……珍しい赤黒い髪色ですし、サラサラで綺麗ですね。……それと軍人って肌が焼けますけど、色白ですし……。それにび、美人だと思います、よ?」

 

 バッと南風さんの顔が上がる。

目尻に涙を溜めているが、どうしたものか。出来るならば、すぐに執務室に帰りたい。

 そんな俺の心情をお構いなしに、南風さんはまくし立てる。

 

「そうですかっ!! 結構、同僚からは筋肉ゴリラとか、馬鹿馬力とか、人間アメ車とか言われるんですよ!!」

 

 何その不名誉な渾名。女軍人で筋肉ゴリラとかなら分かるけど、馬鹿馬力って聞いたこと無い。馬鹿力の間違いなんじゃないか? それに、人間アメ車ってそれって馬鹿馬力に掛けた渾名だな。

 と、冷静な解釈をするが、俺がピンチなのには変わりない。

 俺の両肩を掴んでいる南風さんは、そのまま俺の身体を自分の身体に引き寄せてくる。

 

「ちょ」

 

 そしてそのまま俺は南風さんに包み込まれた。

身体はもちろん俺の方が大きいんだが、俺が座っている状態だったからだろう。身体に覆いかぶさるように、俺を抱き締めたのだ。

色々問題あるので離して欲しいんだが。

 

「どう思います? そんなに私、筋肉でガチガチじゃないと思うんですけど……」

 

「え、えぇ。柔らかいと、思い、ます……はい」

 

 良いから離して欲しい。素直に感想を言ったんだから。

だが、俺のそんな願いが届くははずもなく、そのまま包み込まれた体勢のままになる。

 

「ふふふっ、ありがとうございます」

 

「あの、離して貰っても良いですか? 恥ずかしいので」

 

「いいえ、離しません」

 

 なんで離してくれないだろう。

 そんなことを考えながら、俺は抵抗してみる。だがそこから脱出することはできなかった。

 

「どうですか? 私と結婚する気になりました?」

 

 そんな風に優しい声で囁いてきます。

さっきから包み込まれているせいで、良い匂いが鼻から入ってきて頭が……。それと、柔らかいのも相まって、本当に離して欲しい状態になっていた。

長い赤黒い髪が首筋に掛かって、こそばゆいのもある。それに、いつものBDU姿では無いのもある。なんで私服を着ているんですかね。

 ちなみに、大会議堂で見た獣耳と尻尾が視界に入っている。

 

「そ、そもそも、付き合うとかそういう段階を踏みましょうよ。……南風さんとは仕事でしか話をしたことがありませんし、普段はどういう人なのかも知りません」

 

 そんな事を言っているが、端から見たらそんな姿で言うものでもないだろうな。

 

「そういう段階を踏んでから、ちゃんと考えましょうよ。……そもそも、俺にどんな魅力があるのか謎ですけどね」

 

 そう言ったら、南風さんは離してくれました。

俺は座っていた体勢に戻し、南風さんもその場にぺたんと座り込みます。

 なんというか、こうやって改めて見ると普通の女性にしか見えないんですよね。

どこか筋肉ゴリラなんでしょうか。

 

「……分かりました。紅提督、これまでのご無礼、申し訳ありませんでした」

 

「……気にしませんよ」

 

 いきなりかしこまって驚いたが、多分考えを改めてくれたんだろう。

 

「皆にもこの事は伝えておきます。本日は、誠に申し訳ありませんでした」

 

「いいえ、気にしません。ですけど、首根っこを掴んで連れ出すのは勘弁して下さい」

 

「はい」

 

 こうして俺は南風さんの部屋から脱出し、執務室に戻ることが出来た。

執務室には誰も付いてこなかったので、多分南風さんがさっき言っていた『皆に伝える』というのをしているのだろう。何を伝えているのか、俺にはよく分からないがな。

 執務室に戻ると、フェルトが俺の机の前で腕を組んで待っていた。

 

「アトミラール。提出してきたぞ」

 

「あ、あぁ。ありがとう」

 

 そう言って俺は自分の椅子に腰を下ろす。

なんだか、横を通る時に『スンスン』と鼻を鳴らす音が聞こえたんだが、気の所為だろうか。

 

「アトミラール」

 

 何だか怖い顔をしているんだが、フェルトが。

 

「何だ?」

 

 あくまで俺は平静を装って返答をした。

 

「随分と良いことがあったみたいだな。良かったな」

 

「何言ってんだ。良いこと……だったかもしれないが」

 

「そら見ろ!! 良かったな!!」

 

「何怒ってんだ。俺からした訳でも無いのに……。それにフェルト、話の全容は知っているだろう? どうやったらそんな勘違いをするんだ」

 

 何やら勘違いをされているようだったので、俺はそう言った。

それにはフェルトも気付いたみたいで、少ししょんぼりとしてしまう。

すぐに口を開いた。だが、今までの強気な言い方では無い。

 

「……私だって」

 

「私だって、何?」

 

 よく話で出て来る主人公が、そういう言葉だけ聞こえない症候群みたいなものは俺にはない。というか普通聞こえるだろう。

 俺が聞き返すと、カーっとフェルトは顔を赤くした。

どうして赤くなるんだろうか。

 

「私だって紅提督のことg」

 

「ワー!!! ワー!!! 何を言っているんだ、オイゲンっ!!!」

 

「モゴモゴ」

 

 ずっと執務室で静かにしていたオイゲンが突然フェルトの隣に来て、フェルトの言いかけた言葉を代弁しようとした。

だがそれはフェルトに止められてしまう。

 俺だって察しが悪い訳じゃない。気づかない訳でも無いんだ。

遠い記憶にあることがある。

それは、鎮守府の全艦娘が婚姻届を持って俺を追いかけてくるというものだ。何故だか頭に残っている。

その追いかけてきている艦娘の中にはフェルトの姿もあったのを覚えているのだ。

つまりはそういうことだ。

 

「オイゲン。別に言わなくたって分かっている」

 

「モゴモゴ?」

 

「どうして俺なんか……」

 

 そう言おうとした瞬間、オイゲンと同じく執務室にいた姉貴が俺の言葉を遮った。

 

「それは駄目ですよ」

 

「ん? うーん。納得行かない」

 

「それでもです」

 

 何だか、本気の声で言われたような気がしたので、俺も話すのを止めた。

 こうしてこの日も夜になり、この後は普通にいつも通りに過ごした。

姉貴がずっと執務室に居る以外は。

 

 




 一気に予約投稿をしているので、投稿準備って結構疲れるんですよね(メタ発言)

 ということで、残すところあと1話になりました。
色々ぶっ飛んでいますが、こっちではいつも通りです。それと、何だか本編に触れるような内容を入れてしまっていると思われた方もいるかもしれませんが、一応、本編の方にも同じ記述をするので問題ありません。

 ご意見ご感想お待ちしています。

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