ブラック・ブレット〜天童民間警備会社の新入社員〜   作:梨味

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1983-schwarzesmarken-中毒になりつつある。タイトルもそれっぽいやつにしました。


明日を繋げたいから

 

「中身、何も無かったの」

木更さんから放たれた言葉は、影胤のあの言葉が無ければ落ち着いてはいられなかったが、あの言葉があって今木更さんが言ったことは冷静に受け取ることができた。

「木更さん。僕、またやらかしたみたいです」

「やらかした?どういうこと?」

「影胤に撃たれて、意識が無くなりかけそうなときに『私たちは必ず行動を起こせる。君のしたことは無駄だ』って影胤が言ったんですよ。つまり、ダミーを掴ませられたってことですよ。今思えば…………………チクショウ」

あの自分の置かれていた状況を考えてれば、あのとき影胤を止め、ジュラルミンケースを取り返すのは容易では無かった。だけど、もっと早くダミーであることに気付き、何か手を打てなかったのか。それを考えると…………悔しい。

「ねぇ、前山くん」

「はい?」

「どうして、そんなに悔しがってるの?」

「え…………」

答えが分かりきっている質問。木更は今、それをした。なぜそんなことをした?彼女の中の感情が、僕に働きかけたからだ。

「君が今するのは、何?決まってるじゃない。崩壊へのカウントダウンを止めて、ここに、東京エリアに明日を繋げることじゃないの?違う?」

「木更さん…………」

「君は、対象を回収できなかったけど、崩壊へのカウントダウンはゼロになったわけじゃない。チャンスは、ごく僅かだけどある。それを、ただただ悔しがって無駄にしないで。お願い、私たちに、明日を繋げて…………」

明日を繋げる、か。……………まだ、できていないことが、たくさんある。したいことが、たくさんある。僕だって、この地に明日を繋げたい。僅かなチャンスを無駄にしようとしたけど、今は絶対にそんなことはしたくない。だったら、今からすることは1つじゃないか。

「木更さん。今すぐヘリ出せますか」

「前山くん!……………えぇ、今すぐに!」

そう言うと木更さんは足速に病室を去っていった。隣のベッドでは夏来がぐっすりと眠っている。

「夏来………」

まだ腕に痛みが残る。気を失ったのは銃撃によるものではなく、それによる貧血だ。全く情けない。昔からの相棒貧血くんが腕を撃たれて顔を出すなんて。でも、今はそんなこと嘆いていられない。

「起きたら、決戦だ」

明日を繋げたい。この思いを胸に抱いて、戦う。

 

 

「里見さん。行ってきます」

里見さんは依然沈黙を破らない。延珠ちゃんも同様にだ。どちらも峠は越えたようだが、油断はできないと言う。

「前山くん、準備できた?」

「僕はまぁ。夏来がまだ着替え中ですがね。って、その装備は?」

「決まってるじゃない。私の装備よ?一緒に戦うんだから」

「あぁまぁそうですよね……………え?」

木更さんが持っているのは日本刀。これを持っていること自体そこまで驚くことじゃない。一緒に戦う?マジかよ。

「木更さん、あなたが強いのは前々から知ってるし、戦うのは結構ですが、木更さんにもしものことがあれば僕は守りきれる自信がないし、里見さんや菫先生にも申し訳ないんですよ。だから、木更さんはここに……」

「私の身体が弱いのは自分がよく知ってるし、何かあっても自分でどうにかするから、君は余計な心配しないでいいの」

木更さん自体、根の強い人間だからこんなもんで止まらないのは分かっていた。もっと言ってやろうかとも思ったが、心が折れて、

「しょうがないですね」

と言ってしまった。後悔してるうん。

 

 

聖天子サイドによれば、影胤たちは昨日からほとんど動きがないという。未踏査領域はどんなことがあるか分からない。影胤たちもなかなか歩みを進められないのだろう。こっちにとっては好都合だが。

「ねぇ前」

「なんだ夏来」

「どうしてこの女がいるの?」

なんか、目の前の佐々木夏来という人物が気に入らない同級生を悪く言うような口調で木更さんを蔑んでいるんですが。

「この女呼ばわりはねぇだろ。したくなるのは分かるが」

「前山くん、夏来ちゃん。給料60%カットね」

「「なぜ!?」」

給料60%カットってキツすぎるだろ!某都知事だって50%カットだろ!というか、全部自分が撒いた種だろうが!

「さぁ、もうすぐ着くわね」

そして、この切り替えの速さである。さっきの軽蔑の目は何だったんだホント……あ、因みに木更さんはいつもの制服じゃないんだぜ。特に意味は無いぜ、多分。

 

 

「ねぇ、こんなところに蛭子影胤はいるの?不気味過ぎるんだけど」

「むしろこんなところにいないわけが無いでしょう。何を言ってるんですか」

「やっぱり、給料60%カットね」

もはや自分にとって不都合なことをあやふやにするときは給料カットを出せばどうにかなると思っているらしい。まぁ、不気味なのは同感だが。

 

10分前、未踏査領域に到着。行くアテもなく彷徨っていた。影胤が未踏査領域にいるというのは分かっているのだが、具体的にどこにいるかは全く分かっていない。

「前!あれ!」

「どうした?…………あれは、焚き火か?」

「もしかして…………」

「嫌な当たりクジ、引いたのかもしれない、ですね」

到着10分程で排除対象を見つけるって運いいのか悪いのかわかんねぇなこれ。なんにせよ、注意して行かなければ。

「じゃあ、木更さんはここで護衛お願いします。夏来、行くぞ」

忍び足で焚き火が焚かれているほうに向かう。どうやら、半壊したコンクリートの住居の中で焚き火を焚いているようだ。そして、人のいる気配もある。

「夏来、裏から行け」

「おっけ」

夏来を裏に回らせ、突入の準備を固める。中の人物がこちらに気付いている様子は無い。突入するなら、今だ!

「動くな!!………………ん?」

僕の眼前には、冷たい表情をした少女がいた。




ここにきて前山の貧血設定初登場。

次回、vs影胤、小比奈

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