※
「やぁ前山くん、また会ったね」
「…………………」
僕の眼前には、蛭子影胤と小比奈がいた。やはり変わらない。いかなる状況であろうと癪に触る仮面を付けていやがる。
「よくのうのうと姿を見せられたもんだな影胤さん」
「ハハハ、僕が何をしたというんだね。私は自分自身の存在意義を証明したいだけなんだよ」
「…………………………存在意義だか何だか知らんが、癪に触るんだよ、言動といい顔といい」
「ほう、そんなことを言われるとは心外だな。それより、そのジュラルミンケース、こちらに渡してもらおうか」
「生憎、はいどうぞと言って渡せるような代物じゃない。今すぐ回れ右をして帰ってくれることを願いたいな」
「なるほど。しかしこちらもはい分かりましたと言って引き下がるほど簡単じゃないくらい分かっているだろう?」
「ま、そうだな」
納得してしまった自分が憎たらしい。確かに、影胤が簡単に引き下がるほどポンコツな野郎だとは思っていない。
「ねぇパパ。アイツ、斬っていい?」
「ダメだ。まだ天に送るときじゃない」
なにが天に送るときじゃないだ。脳筋野郎と思われるかもしれないが、今すぐ影胤を完膚なきまでに叩きのめしてやりたい。
「いや、気が変わった。今君の拍動を止めよう」
腰の刀を鞘から抜き出そうとしたが、反応速度が影胤の発砲に間に合わなかった。しかし、かなりの至近距離にも関わらず腕に被弾した。
「そんな怖い顔しないでくれよ」
「………………どういうつもり、だ」
「後ろを、見たまえ」
後ろを向く。しかし、振り向いた瞬間に腹部のあたりになにか刺さるのを感じた。この感じ、サバイバルナイフだろうか。
「お前もかよ………」
「…………………………」
「なんか、喋ったら、どうだ」
ナイフが腹から抜けて行く。サバイバルナイフってこんな痛かったっけ?そんなことを思っていると影胤が
「私たちは、必ず行動に移せる。君のしたことは、無に帰った」
と、意味の分からないことを言った。無に帰った?どういう、ことだ?それより、意識が、とお、のいて……………
※
「前ちゃん!」
「…………………」
どこだ、ここは。
「しっかりしてよ!」
あぁ、これはあの時かぁ。そこまで遠くないでも、記憶から無くなりかけていたあれか。
バチン!!
「何でなの…………」
この先は確か………
「前山くん?起きた?」
「………………木更さん、ですか?」
さっきのは、夢だったのか。記憶から無くなりかけていて、この先は思い出せない。いや、嫌な思い出だから、記憶から消えたのだろうか。…………まぁ、どうでもいいか。
「僕は、あれからどうなったんですか?」
「うん。あの後、ここに運び込まれて緊急オペをしたの。それで、1日近く寝てたわ。オペのとき、かなり危ない状態だったけど、なんとか、持ちこたえてくれた。頑張ったわね」
「そう、ですかね」
「そう、社長にとって、社員が行きて帰ってくるのが、何より嬉しいことなの」
この安堵した顔、アイツと重なる。何度も見てきたから。どれだけ、アイツを心配さしてきたのかよく分かる。
「ところで、夏来は?」
「夏来ちゃんだったら、隣のベッド眠ってるわ。君が目覚ますのをずっと待ってたけど、眠くなっちゃったみたい。あ、特に怪我は無いみたいよ」
「そうですか」
安らかに、すうすうと夏来は眠っている。やはり、こうして見るとかわいいな。寝顔はいつも見ているが、今のこの状況下で見ると、より愛おしく感じる。この寝顔が無くなってしまわないか、そんな心配に駆られてしまう。
「あ、話変わりますけど、やっぱジュラルミンケースは………」
「あぁそのことなんだけどね。ケース、奪われてなかったの。けど……」
「けど?」
「中身、何も無かったの」
その瞬間、影胤の言葉の意味が理解できた。どうやら、まんまと騙されたみたいだ。僕たち。
大分遅くなってしまいました。(いないと思うけど)待ってた人がいたらごめんなさい。最新話やっとだぁ。