D.C.Ⅱ.K.S 流離いの人形使い   作:ナナシの新人

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飴と鞭 -carrot and stick-

 朝、いつもの様に朝倉姉妹と風見学園へ登校。歩いている間、相変わらず男子の視線を感じるがもう三日目、多少慣れてきた。

 

「なんだか賑やかだな」

 

 校門を潜り、風見学園の敷地に入ると、屋台らしき骨組みが幾つか組まれていて、多くの生徒が慌ただしく作業をしていた。

 

「それはそうだよ」

「明後日から、クリパですから」

「マジか......」

 

 クリパって明後日だったのか、知らなかった。

 マズイな。クリパで披露する劇のネタを考えて無い、と言うかここ数日、人形劇をした記憶が無い。

 風見学園(ここ)で助手を始めるまでは毎日やってたのにな、最後に動かしたのは確か......。

 足を止めて思い出す――由夢(ゆめ)に新しいネタを見せた時だったか?

 

「どうしたの?」

「いや、何でもない......」

 

 姉妹は、不思議そうな表情(かお)をしていた。

 止まっていた足を動かし、再び校舎を目指す。

 

「お前たちは、クリパで何をするんだ?」

 

 義之(よしゆき)は、人形劇と言っていたが二人のクラスの出し物は聞いていない。

 

「私は、生徒会に所属してるから見回りだよ。クラスにも殆ど顔は出せないかな」

「私も、お姉ちゃんと似たような感じです。保健委員ですので基本的に参加は出来ません。イベントになると無茶する生徒が多いですから。大変なんです」

義之(よしゆき)とかか?」

「はい、筆頭です。ほんと兄さんはいつもいつも、妹としては恥ずかしいんですっ」

「あはは......」

 

 いつもの別れる場所で、音姫(おとめ)が振り向いた。

 

「そうだっ。国崎(くにさき)くん」

「何だ?」

「お弁当作ってきたから、お昼ご飯一緒に食べよ?」

「ああっ、もちろん食べるぞっ」

 

 音姫(おとめ)お手製の美味い飯にありつけて、おまけに節約になる。俺にとっては、まさに願ったり叶ったりだ。

 

「よかった~。じゃあ生徒会室で食べよー。迎えに行こうか?」

「いや、前に行ったから大丈夫だ」

 

 たぶん。

 

「それじゃあ、またお昼に。由夢(ゆめ)ちゃん」

「な、なに?」

「ううんっ、何でもない。ばいばーい」

 

 音姫(おとめ)は、笑顔で手を振りながら本校の方へ歩いて行った。残された俺と由夢(ゆめ)は二人きりになる。

 

音姫(おとめ)の奴どうしたんだ?」

「さ、さぁ......。では私も教室に行きますっ」

 

 何故か動揺している由夢(ゆめ)

 これはあれだ、音姫(おとめ)がお節介を焼いてるみたいだ。さて、俺も行くか。姉妹とは別の玄関から校舎に入り保健室に向かった。

 

「おはようございます......」

「おはよう、国崎(くにさき)くん。昨日は、ありがと助かったわ」

 

 昨日、水越病院まで届けた携帯の事だろう。保健室に入ると舞佳(まいか)がお礼を言ってきた。

 

「それで国崎(くにさき)くん」

「なんだ?」

 

 掃除の支度をするため用具ロッカーに手を掛けた所で呼ばれた。振り返ると舞佳(まいか)は真剣な表情(かお)をしている。

 

天枷(あまかせ)の事なんだけど」

天枷(あまかせ)?」

「ほら、昨日桜内(さくらい)くんと一緒にここに来たって言うホルスタイン柄の帽子の女生徒よ」

「ああ~、アイツか」

 

 耳から煙を出してたヤツか。

 

「そいつがどうかしたのか?」

桜内(さくらい)くんから聞いたと思うけど、天枷(あまかせ)はロボットなのよ」

 

 義之(よしゆき)は、美夏(あいつ)の事は秘密と言っていたが、ああそう言えば、舞佳(まいか)を訪ねて来たんだから知ってて当然か。

 

「ああ、そうらしいな」

芳乃(よしの)学園長から、国崎(くにさき)くんは旅をしているって聞いたけど。ロボットにまつわる事件を耳にした事はある?」

「ない」

 

 俺はろくにテレビすら見ない生活を送っているから、世間の事は正直よく分からない。

 

「そっ......。昔、いろいろあったのよ。今でも、ロボットを快く思っていない人は一定数いるし、中には過激な行動を取る人もいるわ。それで天枷(あまかせ)は、長年洞窟の奥深くで凍結してたんだけど。困ったことに、最近とある生徒が不法侵入して起こしちゃったのよ」

義之(よしゆき)か?」

「そう、桜内(さくらい)くん。だから、起こした責任も兼ねて天枷(あまかせ)の正体がバレない様にフォローを頼んだって訳なのよ」

「ふーん」

 

 昨日も由夢(ゆめ)が、義之(よしゆき)は問題ばかり起こすと嘆いていたが本当だったんだな。

 

「そう言う訳だから、天枷(あまかせ)の事は秘密にしておいてほしいの」

「ああ、わかった」

「ありがと。はいこれ、天枷(あまかせ)から国崎(くにさき)くんに」

 

 穏やかな表情(かお)で礼を言うと、俺にバナナを一房差し出した。とりあえず受け取っておく、貴重な食料を手に入れた。

 

「昨夜嬉しそうに話してたのよ。『(あんず)先輩以外にも、見込みのある人間がいたっ』って、まあそれで国崎(くにさき)くんにロボットだとバレたのを知ったんだけど」

 

 自爆してるじゃないか、そのうち自分で正体をバラしそうだな。自業自得言え、義之(よしゆき)に少し同情した。

 

「あの娘なりの感謝の気持ちなのよ。時々気にかけてくれると嬉しいわ。あの子、基本的にひとりぼっちだから......」

「わかった、一応気に止めておく」

「ありがとう。さあ今日もお仕事よろしくね」

「ああ、シャカリキ働くさ」

 

 あれ? 何かを忘れてる様な......まあいいか。

 

 

         * * *

 

 

 昼休み、美夏(みなつ)から貰ったバナナを袋に入れて音姫(おとめ)と昼飯を食べるため生徒会室に向かう。

 

「はぁ......」

 

 辺りを見回す。

 おそらくクリパの装飾や出し物で使うであろう物が廊下の至るところ飾られている。それらを避けながら記憶を頼りに進んできたのだが。

 

「どこだ? ここ......」

 

 前と校舎の様子が違い過ぎて、何処を通っているのか分からない。つまりあれだ、なんだ、完全に迷っていた(マズイな......)。このままだと昼飯にありつけない。あと音姫(おとめ)が心配する。

 

「さて、誰かに訊くか」

 

 それが一番手っ取り早い。お誂え向きに近くの教室から女生徒が出てきた。後ろから声を掛ける。

 

「そこの子」

「はい? あっ」

「お前......確か、小恋(ここ)だったか?」

 

 振り向いた女生徒は、先日知り合った小恋(ここ)だった。

 

「はい。国崎(くにさき)さんでしたよね? どうしたんですか?」

「生徒会室の場所を教えてくれ」

 

 小恋(ここ)に生徒会室まで案内をして貰う。

 

義之(よしゆき)から聞いてましたけど、本当に保健医なんですね。(あんず)も驚いてましたよ」

「俺は、ただの手伝いだ大した事はしてない」

 

 ぶっちゃけ雑用が主な仕事だ。

 

小恋(ここ)ーっ!」

 

 前から小恋(ここ)の名前を呼びながら弁当の包みを持った女生徒が駆け寄ってきた。

 

「あっ、ななか~っ」

「やっほ。って、あーっ!」

 

 俺を見て指をさした。

 

「えっ? ななか、国崎(くにさき)さんの事知ってるの?」

 

国崎(くにさき)さんって言うんですねっ」

 

 どういう訳か、白河(しらかわ)も一緒に行くことなった。

 

「しらか......」

「ななかでいいですよ」

「そうか? それでななかと小恋(ここ)は仲が良いのか?」

「はい、親友です。ねぇー小恋(ここ)っ」

 

 ななかが、小恋(ここ)抱きついた。

 

「ちょ、ちょっと苦しいよー。ななか~っ」

「あははっ、小恋(ここ)らぶぅ~」

「先、行っていいか?」

 

 と、言ったものの場所は分からん。結局、ななかの気が済むまで待つ羽目に。

 

「昨日は、ありがとうございましたっ」

「気にするな。前に助けて貰った礼だと思ってくれればいい」

「ななかと国崎(くにさき)さんって知り合いなんですか?」

 

 不思議そうに小恋(ここ)が訊いてきた。

 

「うん。昨日、公園で助けてもらったの」

「ナンパされてた所をな」

「えぇーっ、またー? もうななかったら、ちゃんと自分で断らないとダメだよ」

「はぁ~い」

 

 苦笑いをしてやり過ごそうとするななかに、小恋(ここ)が大きなタメ息をついた。廊下を曲がり階段を上ると見覚えのある廊下が現れた。

 ここまで来ればもう分かる。

 

「ここでいい。助かった」

「そうですか? どういたしまして。じゃあ行こっか? ななか」

「うんっ、屋上行こー」

 

 二人は振り返り話をしながら階段の方へ。

 

「ちょっと待て」

 

 声を掛けて近づき、バナナを一本づつ渡す。

 

「案内してくれた礼だ。デザートにでも食ってくれ」

「ありがとうございます。いただきます」

「ありがとーっ」

「それから小恋(ここ)

「はい?」

「屋上は止めとけ。お前、体調悪いだろ」

「えっ......?」

 

 まだ三日とは言え病人を何人か見てきた、なんとなくだが分かるようになった。

 

「じゃあな」

 

 振り向き生徒会室を目指す。

 生徒会室の前に辿りついた、一応ノックをしてから中に入る。

 

「よっ」

「あっ国崎(くにさき)くん。待ってたよー」

「いらっしゃい。国崎(くにさき)くん」

 

 中には、音姫(おとめ)とまゆきが居た。二人が座るテーブルには既に弁当がセッティングされている。音姫(おとめ)の正面に座って手を合わせる。

 

「いただきます」

「はい、召し上がれ。まゆき、私たちも食べよ」

「うんっ。私、もうお腹ペコペコだよー」

 

 相変わらず音姫(おとめ)の弁当は旨い。金取れるんじゃないか? 想像してみる。

 クリパで音姫(おとめ)の手作り弁当屋......校内での音姫(おとめ)の人気、更に手作り、これはいけるな。......ん? クリパ? 何かを思い出しそうな気がする

 

「そうだ、音姫(おとめ)国崎(くにさき)くんにあれ渡しとかないと」

「あ、うん。えっと......」

 

 音姫(おとめ)は、箸を置いてクリアファイルから何かを探している。

 

「あった。はい、国崎(くにさき)くん」

「なんだ?」

 

 書類を受け取る。書かれている内容は、クリパに関する物だった。

 

「クリパでの営業許可と出店場所の書類。目を通して置いてね」

 

 思い出した。そうだ、クリパだ、人形劇のネタを考えないといけなかったんだ。

 

「どうしたの?」

「いや、何でもない......。当日は、中庭を使って良いのか」

「うん、空き教室を探したんだけど空いてなくて、雨風は凌げるから」

「ああ、それで十分だ」

 

 空き教室は、先に使用申請をされていて既にすべて埋まっているらしい。俺としては、スペースを与えてくれるだけでありがたい。あとは、俺の演技力次第って事だ、マジで考えないとな。

 

音姫(おとめ)から聞いたんだけど、人形劇をするんだって? ちょっと見せてくれないかな?」

「弁当食い終わったらな」

 

 

         * * *

 

 

 夜、芳乃宅に戻ると義之(よしゆき)炬燵(コタツ)に突っ伏していた。

 白衣を脱いでハンガーに掛ける。

 

義之(よしゆき)、どうしたんだ?」

「いえ......何でもないっす」

 

 義之(よしゆき)の右隣で由夢(ゆめ)が、気まずそうな表情(かお)をしていた。由夢(ゆめ)の正面に座る。

 

「ご飯出来たよーっ。由夢(ゆめ)ちゃん、運ぶの手伝ってー」

 

 キッチンから音姫(おとめ)の声がした。由夢(ゆめ)は、立ち上がりキッチンへ歩いていった。

 

国崎(くにさき)さん......」

「なんだ?」

 

 突っ伏した状態から顔だけを動かして俺を捉えた。

 

国崎(くにさき)さんってスゴいですね......」

「はあ?」

 

 訳が分からない。

 

「......舌が味を認識する前に飲み込む。俺には無理でした......」

 

 そう言い残して再び下を向いてしまった。何か悪い物でも食べたんだろうか?

 夕飯を食べ終えて人形劇の練習。

何度も由夢(ゆめ)にダメ出しをくらい、その度音姫(おとめ)からは優しいフォローを貰った。

 

 本番(クリパ)まであと二日、絶対に由夢(ゆめ)に面白いと言わせて見せる。

 

  二人に付き合って貰い、夜が更けるまで練習を続けた。


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