朝、いつもの様に朝倉姉妹と風見学園へ登校。歩いている間、相変わらず男子の視線を感じるがもう三日目、多少慣れてきた。
「なんだか賑やかだな」
校門を潜り、風見学園の敷地に入ると、屋台らしき骨組みが幾つか組まれていて、多くの生徒が慌ただしく作業をしていた。
「それはそうだよ」
「明後日から、クリパですから」
「マジか......」
クリパって明後日だったのか、知らなかった。
マズイな。クリパで披露する劇のネタを考えて無い、と言うかここ数日、人形劇をした記憶が無い。
足を止めて思い出す――
「どうしたの?」
「いや、何でもない......」
姉妹は、不思議そうな
止まっていた足を動かし、再び校舎を目指す。
「お前たちは、クリパで何をするんだ?」
「私は、生徒会に所属してるから見回りだよ。クラスにも殆ど顔は出せないかな」
「私も、お姉ちゃんと似たような感じです。保健委員ですので基本的に参加は出来ません。イベントになると無茶する生徒が多いですから。大変なんです」
「
「はい、筆頭です。ほんと兄さんはいつもいつも、妹としては恥ずかしいんですっ」
「あはは......」
いつもの別れる場所で、
「そうだっ。
「何だ?」
「お弁当作ってきたから、お昼ご飯一緒に食べよ?」
「ああっ、もちろん食べるぞっ」
「よかった~。じゃあ生徒会室で食べよー。迎えに行こうか?」
「いや、前に行ったから大丈夫だ」
たぶん。
「それじゃあ、またお昼に。
「な、なに?」
「ううんっ、何でもない。ばいばーい」
「
「さ、さぁ......。では私も教室に行きますっ」
何故か動揺している
これはあれだ、
「おはようございます......」
「おはよう、
昨日、水越病院まで届けた携帯の事だろう。保健室に入ると
「それで
「なんだ?」
掃除の支度をするため用具ロッカーに手を掛けた所で呼ばれた。振り返ると
「
「
「ほら、昨日
「ああ~、アイツか」
耳から煙を出してたヤツか。
「そいつがどうかしたのか?」
「
「ああ、そうらしいな」
「
「ない」
俺はろくにテレビすら見ない生活を送っているから、世間の事は正直よく分からない。
「そっ......。昔、いろいろあったのよ。今でも、ロボットを快く思っていない人は一定数いるし、中には過激な行動を取る人もいるわ。それで
「
「そう、
「ふーん」
昨日も
「そう言う訳だから、
「ああ、わかった」
「ありがと。はいこれ、
穏やかな
「昨夜嬉しそうに話してたのよ。『
自爆してるじゃないか、そのうち自分で正体をバラしそうだな。自業自得言え、
「あの娘なりの感謝の気持ちなのよ。時々気にかけてくれると嬉しいわ。あの子、基本的にひとりぼっちだから......」
「わかった、一応気に止めておく」
「ありがとう。さあ今日もお仕事よろしくね」
「ああ、シャカリキ働くさ」
あれ? 何かを忘れてる様な......まあいいか。
* * *
昼休み、
「はぁ......」
辺りを見回す。
おそらくクリパの装飾や出し物で使うであろう物が廊下の至るところ飾られている。それらを避けながら記憶を頼りに進んできたのだが。
「どこだ? ここ......」
前と校舎の様子が違い過ぎて、何処を通っているのか分からない。つまりあれだ、なんだ、完全に迷っていた(マズイな......)。このままだと昼飯にありつけない。あと
「さて、誰かに訊くか」
それが一番手っ取り早い。お誂え向きに近くの教室から女生徒が出てきた。後ろから声を掛ける。
「そこの子」
「はい? あっ」
「お前......確か、
振り向いた女生徒は、先日知り合った
「はい。
「生徒会室の場所を教えてくれ」
「
「俺は、ただの手伝いだ大した事はしてない」
ぶっちゃけ雑用が主な仕事だ。
「
前から
「あっ、ななか~っ」
「やっほ。って、あーっ!」
俺を見て指をさした。
「えっ? ななか、
「
どういう訳か、
「しらか......」
「ななかでいいですよ」
「そうか? それでななかと
「はい、親友です。ねぇー
ななかが、
「ちょ、ちょっと苦しいよー。ななか~っ」
「あははっ、
「先、行っていいか?」
と、言ったものの場所は分からん。結局、ななかの気が済むまで待つ羽目に。
「昨日は、ありがとうございましたっ」
「気にするな。前に助けて貰った礼だと思ってくれればいい」
「ななかと
不思議そうに
「うん。昨日、公園で助けてもらったの」
「ナンパされてた所をな」
「えぇーっ、またー? もうななかったら、ちゃんと自分で断らないとダメだよ」
「はぁ~い」
苦笑いをしてやり過ごそうとするななかに、
ここまで来ればもう分かる。
「ここでいい。助かった」
「そうですか? どういたしまして。じゃあ行こっか? ななか」
「うんっ、屋上行こー」
二人は振り返り話をしながら階段の方へ。
「ちょっと待て」
声を掛けて近づき、バナナを一本づつ渡す。
「案内してくれた礼だ。デザートにでも食ってくれ」
「ありがとうございます。いただきます」
「ありがとーっ」
「それから
「はい?」
「屋上は止めとけ。お前、体調悪いだろ」
「えっ......?」
まだ三日とは言え病人を何人か見てきた、なんとなくだが分かるようになった。
「じゃあな」
振り向き生徒会室を目指す。
生徒会室の前に辿りついた、一応ノックをしてから中に入る。
「よっ」
「あっ
「いらっしゃい。
中には、
「いただきます」
「はい、召し上がれ。まゆき、私たちも食べよ」
「うんっ。私、もうお腹ペコペコだよー」
相変わらず
クリパで
「そうだ、
「あ、うん。えっと......」
「あった。はい、
「なんだ?」
書類を受け取る。書かれている内容は、クリパに関する物だった。
「クリパでの営業許可と出店場所の書類。目を通して置いてね」
思い出した。そうだ、クリパだ、人形劇のネタを考えないといけなかったんだ。
「どうしたの?」
「いや、何でもない......。当日は、中庭を使って良いのか」
「うん、空き教室を探したんだけど空いてなくて、雨風は凌げるから」
「ああ、それで十分だ」
空き教室は、先に使用申請をされていて既にすべて埋まっているらしい。俺としては、スペースを与えてくれるだけでありがたい。あとは、俺の演技力次第って事だ、マジで考えないとな。
「
「弁当食い終わったらな」
* * *
夜、芳乃宅に戻ると
白衣を脱いでハンガーに掛ける。
「
「いえ......何でもないっす」
「ご飯出来たよーっ。
キッチンから
「
「なんだ?」
突っ伏した状態から顔だけを動かして俺を捉えた。
「
「はあ?」
訳が分からない。
「......舌が味を認識する前に飲み込む。俺には無理でした......」
そう言い残して再び下を向いてしまった。何か悪い物でも食べたんだろうか?
夕飯を食べ終えて人形劇の練習。
何度も
二人に付き合って貰い、夜が更けるまで練習を続けた。