「
「......
「大きい欠伸ですね。朝ご飯出来てますから顔を洗ってきてください」
「ああ......」
夢を見ていた気がするが、うまく思い出せない(まあいいか)。まだ寝ている頭を冷水で強引に起こし居間へ。
「あっおはよう。
「......おはよ」
「いただきます」
「その格好は、なんだ?」
「え? 何って」
「制服ですけど?」
「
「確かに、
「ちゃんと制服だよ。可愛いでしょ?」
「ああ、超かわいいな。可愛い
「ええ~、もう大げさだよ~」
嬉しそうに笑顔を見せる、
「だから、お代わりくれ」
「はぁ~......」
左隣の
「じゃあ、行ってくるね」
「行ってきます」
「ああ。そう言えば、
玄関先まで二人を見送りに来たが、
「まあ、いつもの事ですから」
「起きたら遅刻しないように、って伝えてね」
「わかった」
「それからっ。買い物、お願いしますよ?」
「ああ、任せろ。
「あ、あはは......」
念を押す
「おはようございますっ、行ってきますっ!」
食パンだけを口に放り込むと、俺が返事を返す暇もなく出ていってしまった。さて、俺も行くか。TVと
「今日は......公園の方へ行ってみるか」
昨夜、
「こいつは、ありがたいな」
芳乃家を出て、桜並木を通り、
桜公園を拠点に辺りを歩き回る。
住宅街、島中に散らばる桜の花を焼却する施設、大病院、テーマパーク、小さい島だと思っていたが初音島には充実した施設や娯楽がある。
一度、桜公園に戻り、さくらと出会ったあの桜の大木に足を伸ばした。
「デカ......」
桜公園の奥にひっそりとそびえ立つ、桜の大木。
何故だか、この桜は島に咲く他の桜と違う妙なざわつきを、俺に感じさせた。
「とーちゃん見ろっ。スゴいぞー!」
「おおっ、ホントだな」
振り向くと親子連れが居た。
頭に帽子を反対に被りタオルを肩に書けた若い父親と四、五歳くらいの子ども、ショートカットだが服装から見て女の子。
その子どもが、桜の大木に向かって走って来た。
「こら、ゆず。走ると......」
思い切り躓いた。飛んで来た身体を片手で受け止める。ケガはなさそうだ。慌てて父親が駆け寄って来くる。
「すみません!」
「いや、いい......」
倒れかかった子どもを自力で立たせた。
「ほら、ゆずもお礼言って」
「にーちゃん、ありがとなっ」
「ああ、これから気をつけろよ」
「うんっ! あっ人形だぁ!」
受け止めた拍子に
「すみません、重ね重ね」
公園に戻りベンチに座ると父親が謝罪してきた。子どもは見える範囲で公園を駆け回っている。
二人の名前は
「
「いや、外から来た」
「そうか、じゃあ同じだね。俺たちも外から来たんだ。この島には伝説があるらしくて」
「ああ~......確か人の願いを叶えてくれる魔法の桜、とか云うやつだろ」
「君も知ってるんだ、やっぱり有名なんだね。俺は雑誌で小さなコラムを書いていて。いや~、この話は実に興味深い。もっと取材を――
初音島の魔法の桜について、一人でしばらく喋り続けたあと腕時計を見た。
「あっ、もうこんな時間だ。ゆず、行くよ。長い間付き合わせてごめんね」
「いや、奢ってもらったから」
ゆずを受け止めたお礼に奢ってもらったコーヒーの缶を持ち上げて見せる。
「ははは、じゃあね」
「あっ、一つ聞きたい。今何時だ?」
「11時30分だよ」
「......まずい......」
買い物を忘れてた。ベンチから立ち上がりお互い挨拶をして、俺は急ぎ足で商店街に向かう。
「えーと......」
「先ずは......野菜か」
八百屋でネギ、白菜、大根を買い、続いて豆腐、鶏肉にしらたき等を買って風見学園へ。
食材の入った買い物袋を持って校門をくぐり、来客用の玄関から校舎に入った。
「学園長に使いを頼まれたんだが」
「はい、うかがっています。学園長室へどうぞ」
「どうも」
許可を得てスリッパに履き替えて廊下を歩く。やがて中庭らしき場所に出てた、ここから道は二方向の別れている。
「場所を聞けばよかったな。おっ」
一方の廊下から、リボンは黄色だが、
「すまない」
「はい、なんですか?」
「学園長室の場所を教えて欲しいんだが」
「良いですよ。こっちです」
「いや、場所だけで......」
「大丈夫です、わたしの目的地も同じ方向ですから」
結局、彼女に案内してもらった。
「すごい荷物ですね」
「ああ、昼飯の材料なんだ。さくら......学園長に頼まれてな」
「そうなんですか。片方持ちますよ」
「いや、いい」
断った瞬間、女子生徒の手が俺の手に触れた。まあ、そんなことはどうでもいいが、こんな重い荷物を女に持たせられるか。仮に軽くても持たせないけど。女子生徒は手を込める。何て言ったて、この食材は俺の昼飯だからな。
「優しいんですね」
「はあ?」
「ふふっ」
彼女は、意味深に小さく笑った。
「はい、着きました、ここですよ」
「助かった」
「いえいえ、じゃあ、わたしこれでっ」
女子生徒は踵を返し、来た道を戻っていった。どうやら、わざわざ嘘を言ってまで案内してくれようだ。少女に感謝しつつ扉をノックすると、さくらの声が聞こえた。ドアを開ける。
「あっ、
さくらに急かされ室内に入る。
中は掛軸や花瓶、間接照明などが設置された純和風の空間、ちょうど俺が寝泊まりをしている客間の様な感じで、部屋の中央に
「
「ありがとう。
頼まれた食材を手渡して
それにしても、
「あんあん!」
「あん!」
「なんだ、コイツ......謎の宇宙生物か?」
「にゃはは、はりまおは、宇宙生物じゃないよ」
「はりまお?」
聞いたことの無い生物名だった。新種の生命体だろうか。
「はりまおは、この子の名前だよ」
さくらの話によると、この謎の白い生命体は犬に分類されるらしい。
「これ、犬なのか......桜といい、この島は摩訶不思議だな」
改めてそう思っていると
食材をこしらえた
「はい、弟くんっ」
「ありがとう。
「お姉ちゃん。おたま取って」
「はいはい」
「けど、いいのか? こんなところで鍋なんてして」
「いいんだよー。ボクが責任者なんだからね」
軽く言うとさくらは、はりまおにお裾分けをしていた。
まあ、学園長が問題無いと言っているんだから、いいんだろうけど。何とも緩い学校のようだ。通ったことはないけど。
「けど、
「女子生徒に案内してもらったんだ」
「へぇ~、そうなんだ。どんな子?」
「ん、ああ、確か......髪は長くて、二つ結びのお下げ髪だった」
特徴を思い出しながら話す。
「ななか、かな?」
「ななかって、
「うん、そう。
「よく刺されませんでしたね」
「何だ? この学校は、道案内されると刺される校風なのか?」
「そんなの無いよ」
「だけど、ななかだからな~」
「まぁ、白河先輩ですし」
どういう事かと思っていると、
案内してくれた女子生徒、
整った容姿もさることながら、気さくな性格とやや過剰なスキンシップから男子生徒を勘違いさせる事もしばしばあるらしい。
「あと、
「ふ~ん」
知らずに声を掛けた女子生徒が、そんな有名人だったなんてな。
「ん?
「あ、本当だ。今、注ぎ足すから――」
「あ、私がやります」
「えっ!?
「......どういう意味ですか、その反応?」
「まぁまぁ弟くん、だし汁を足すだけだし......」
「いや、だって!
よくわからないが、
「あたしだって、これくらい間違える事なんてないよっ」
「ゆ、
「醤油は摂りすぎると最悪死ぬんだぞ!?」
「だ、大丈夫だよ。お水で薄めれば......」
別の瓶の中身を流し込んだ。
「それは、酢だぞ」
「か、隠し味ですっ」
「隠れてないからっ!」
大量の醤油と酢が投入された鍋からは猛烈な酸味の匂いが立ち込めた。
「とりあえず喰うか」
「えっ!?」
驚いている三人を無視して箸を伸ばし、鶏肉と野菜と次々と放り込む。
「ど、どうですか?」
「ん? 普通に不味いぞ」
「よく食べれますね......」
「コツがあってな。舌が味を認識する前に飲み込むんだ」
「あはははっ」
若干引いている三人と俺の様子を見て、さくらは嬉しそうに笑っていた。
* * *
この日の夜も夢を見た。
昨夜の続きだ。
暗闇の中、一人佇む人の影。
そいつは『ごめんね......ごめんね』と許しを乞うように謝罪繰り返していた。
何に謝っているんだ? そう聞こうとした時、俺はまたこの世界から弾かれた。