D.C.Ⅱ.K.S 流離いの人形使い   作:ナナシの新人

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宿命 ~breakthrough~

 芳乃宅へ帰ってきた俺は、暗い部屋の布団の中で、うっすらと見える天井の木目を眺めながら、由夢(ゆめ)の話を思い返していた。

 

『私のお母さんは、私が小さな子どもの頃に亡くなりました』

 

 朝倉姉妹の母親の名前は――由姫(ゆき)、旧姓は葛木(かつらぎ)。以前、母親も音姫(おとめ)と同じで『魔法を使える魔法使い』だと、由夢(ゆめ)は言っていた。

 そんな由姫(ゆき)が病床に伏せたのは、義之(よしゆき)が朝倉家に家族として迎えられる前のことだ。元々病弱な方ではなかったらしいが、結婚して、出産をしてから徐々に体調を崩す日々が増えていった。

 

 そうまるで、今の音姫(おとめ)と同じように......。

 

 病院で検査を受け出された診断結果はよく聞く名の流行り病。しかし、処方された薬を飲んでも体調は回復せずそれどころか彼女の身体は徐々に蝕まれ衰弱していった。

 

 そして、ある春の日、帰らぬ人となった。

 

「俺に、どうしろってんだよ......?」

 

 思わず弱音が漏れた。由夢(ゆめ)は、音姫(おとめ)も母親と同じ運命を辿るのでは無いかと不安に想っているから、俺に話したんだろう。

 

 ――だけど......、俺に何が出来るんだろうか?

 

 布団から出て、洗面所で顔を流す。刺すように冷たい水で一気に目が覚めた。

 十年以上前と比べたら医学は格段に進歩している。今なら別の要因がわかるかもしれないな。よし、明日話してみるか。

 ただ、一つだけ気がかりなことがある。さくらの態度だ。......まあ、明日になればわかるだろう。

 そう思いながら、俺は目を閉じた。

 

 

           * * *

 

 

 深々と、桜が舞っていた。

 冬にも関わらず舞う桜に違和感を感じつつ目を落とすと、地面を薄紅色に染めるほどの無数の花びらが降り積もり足元を覆っていた。

 顔を上げる。目の前には、桜の大木が満開の花を咲かせていた。

 ――......いるのか? と俺は桜に問い掛けた。

 すると、一瞬桜はざわついて静寂が訪れる、そして。

 

「やっほ、往人(ゆきと)くん」

 

 背中越しから沈黙を破る軽い感じの挨拶。振り返る。

 透き通るような白い肌に青く大きな瞳。腰まで伸びる綺麗なブロンドの長い髪の毛を大小二種類の黒いリボンで結って。まるで、おとぎ話の魔女を連想させる黒いマントを羽織った少女が、初めて出会った時と変わらない同じ姿で微笑んでいた。

 

「お前なぁ......。いつも唐突過ぎるんだよ」

「なによー、キミが呼んだんじゃない」

 

 口を尖らせながら軽く頬を膨らませる。でもそれはすぐに戻って、懐かしそうに目を細めた。

 

「久しぶりね、往人(ゆきと)くん」

「ああ、そうだな、サクラ」

 

 俺たちは短く再会の挨拶を交わして。さっそく本題に入った。

 

「キミがわたしに訊きたいことは音姫(おとめ)の体調不良についてでしょ」

「ああ、話が早くて助かる。音姫(おとめ)に何が起こっているんだ......?」

「............」

 

 黙ったまま、どこか険しい表情(かお)を見せたサクラ。

 

「サクラ?」

音姫(おとめ)の体調不良は音姫(おとめ)が担った宿命。言ってしまえば『呪い』のようなものよ」

「呪い? なんだよ、それ......」

「正直なところわたしが知ってるのは由姫(ゆき)の生家、葛木(かつらぎ)の家には『お役目』と云われる使命があると言うことだけなの」

「お役目?」

「そ。ずーっと昔からあるみたいだけど詳しいことは分からないわ」

「そうか......」

 

 『呪い』に『お役目』か、これだけじゃ全体像が見えて来ないけど。サクラの話を聞く限り、医学でどうにかなる問題じゃなさそうだな。

 

「それにしてもお前にも分からないことがあるんだな」

「わたしだって、そんな昔から生きてるワケじゃないのよ。枯れて力を失ってた時期もあったんだから」

「それだよ。お前今、枯れてるよな?」

 

 桜公園の枯れない桜は枯れて、ただの冬枯れの大木になっているハズだ。サクラは桜の前に移動して振り返る。

 

「それは、ここがキミの夢の中だから。あ、そろそろ時間ね」

 

 サクラの姿がだんだんと透けていく。

 

「あ、おい! 結局、どうすればいいんだ!?」

「キミに任せるわ。往人(ゆきと)くんなら、きっと音姫(おとめ)を助けられる。わたしはそう信じるわっ。じゃあ、またね!」

 

 最後に一言言い残したサクラは光り輝き。俺の視界は白に包まれた。

 

「サクラッ!」

「わぁっ!」

 

 小さな悲鳴と共に桜姫(ゆうき)が布団の横で転がっている。その桜姫(ゆうき)のすぐそばで、はりまおが尻尾を振っていた。

 桜姫(ゆうき)に手を貸して立たせる。目覚まし時計を見ると、もう12時を回っていた。どうやら起こしに来たみたいだ。

 ひとりと一匹を先に行かせ、布団をたたみ、顔を洗ってから居間へ向かう。こたつテーブルの上には、まるでパーティーのような色とりどりの豪華な料理が並んでいた。

 

「あ、おはよー。国崎(くにさき)くん」

「ああ、おはよ。すげぇー豪華な昼飯だな」

「昨日のお礼をしようと思って。えへへ~、ちょっとはりきりすぎっちゃった」

 

 エプロン姿で取り皿を並べている音姫(おとめ)は、昨日の体調不良を感じさせないほど顔色もよく元気だった。

 

「なあ、音姫(おとめ)

「ん? なにかな」

「......いや。箸取ってくれるか?」

「まだ全部出来てないよ? みんなも来てないし」

「朝飯食ってないんだよ」

「もう~、お休みだからってちゃんと起きないとダメなんだからね」

 

 生活の乱れは心の乱れ......みたいなことを、人差し指をピンッと立てて説教を始めた。それでも箸を渡してくれるからありがたい。

 ――呪いか......。

 本当に音姫(おとめ)も母親の由姫(ゆき)と同じ運命を辿るのか......? いや、もしかしたら娘の桜姫(ゆうき)や、妹の由夢(ゆめ)も――。

 

 

           * * *

 

 

「ここが葛木(かつらぎ)の生家か」

「うん、そうみたいだね」

 

 12月下旬。俺とさくらは初音島を出て朝倉姉妹の母、由姫(ゆき)の実家。葛木(かつらぎ)の屋敷へと足を運んだ。

 まるで寺の入り口にありそうな山門を潜ると純日本家屋の屋敷へと続く姿を石畳の通路が姿を現した。

 

「デカイな......」

「さすが古来から続く魔法使いの名家だね~」

 

 なぜ俺たちが朝倉姉妹の母親の実家に来ているのかと言うと、葛木(かつらぎ)の『お役目』について詳しい話を聞くためだ。

 玄関横の呼び鈴を鳴らす。一呼吸おいて着物を着た家政婦が応対してくれた。彼女の後に続いて縁側歩く。広い中庭は隅々まで手入れが行き届き、池には鯉が泳いでいた。

 

「こちらです。お客様がおいでくださいました」

 

 家政婦は、膝を下ろし障子戸の声をかける「ありがとう。通してくれ」と中から年老いた男の返事。障子戸を開いた家政婦は頭を下げ、俺たちに入るよう促した。

 

「お邪魔します」

「邪魔する」

「いらっしゃい。遠路はるばるよくお越しくださいました」

 

 俺たちが客間へ入ると、純一(じゅんいち)と同世代くらいの爺さんが出迎えてくれた。俺たちは、爺さんの正面に用意されている座布団に座る。

 

芳乃(よしの)さん、ご無沙汰です。その節は娘が大変ご迷惑をお掛けしまして......」

「にゃはは、全然迷惑なんかじゃないよー」

 

 さくらに深々と頭を下げた爺さんは――姉妹の母親由姫(ゆき)の父親。

 

「なにかあったのか?」

「うん、ちょっとねぇー。往人(ゆきと)くん、先ずはアレを......」

「ああ、そうだったな」

 

 俺は由夢(ゆめ)に頼んで持ってきた紙袋から数冊のアルバムを出して、爺さんの前に差し出す。爺さんは受け取ると、さっそくアルバムを開いて目を細めて微笑んだ。

 

「この娘が桜姫(ゆうき)......。ずいぶんと大きくなりましたな」

「うん。音姫(おとめ)ちゃんに似て、とっても良い子だよ」

「......そうですか」

 

 爺さんはアルバムを閉じると噛み締めるようにしばらくの間、目を閉じていた。

 

「それで私に訊きたいこととは葛木(かつらぎ)の『お役目』についてですね......?」

「ああ、そうだ。教えてくれ」

 

 

           * * *

 

 

 葛木の生家を後にした俺とさくらは、最寄りの駅のベンチに座って電車が到着するのを待っている。

 

「結局、解決策は見つからなかったな」

「うん、そうだね......。ボクが考えていた以上に強固で根深い問題だよ」

 

 爺さんから聞いた『葛木(かつらぎ)のお役目』は、最低でも今から400年以上前から続く『渡り巫女』の宿命だった――。

 

 葛木家は古来から日本各地に存在する自然的力の暴走を監視する、監視者の家柄だった。

 元々は、ひとつの土地に留まらない旅の巫女で問題の起こった地域で不思議な力を使い問題を収めてきた。

 ある日、強大な力を持つ邪悪な『鬼』が村を襲い封印した。その鬼が復活しないようにその地に留まったのが、今の葛木の生家。

 そして、その鬼を封じ込めた先が巫女の身体だった。

 その後、鬼は、代々『お役目』と呼ばれる葛城一族の正当後継者(女性)の身体を憑代(よりしろ)として封印されてきた。 そのため巫女の血を引く一族の子どもには必ず一人以上『女性』が産まれるという特質がある。

 鬼の力は憑依した宿主に強大な力を貸し与え、引き換えに徐々に身体を蝕んでいく。けど、それは宿主本人の魔力でのみ抑え込むことが出来るらしいのだが――。

 

「......おとぎ話もいいところだな。だけど、マジなんだろ......?」

「......うん。ボクたち魔法使いの魔力の源は思いの力。魔法は愛情が芽生えると少しずつ魔力が弱まっていくんだ」

 

 巫女と言っても一歩役目を離れれば普通の人だ、当然恋もする。好きな人が出来て、結婚して、子どもを授かれば自身の命と引き換えになると知りながらも自然と愛情を注いでしまう。

 その結果400年以上も途切れることなくお役目は引き継がれ、災いをもたらす邪悪な鬼とやらは解き放たれることなく封じられたままでいた、皮肉な話だ。

 

「なにか方法ないのか?」

 

 さくらは首を横に振った。まあ、あればすぐにでもやってるよな。解決策がないから由姫(ゆき)も、その母親も葛木の血を引く長女は短い生涯で終えてしまう。

 

 ――それじゃあまるで、()()()と同じじゃないか......。

 

「え?」

「いや、なんでもない......」

 

 無意識に声に出してしまったらしい。

 俺はいつの間にか音姫(おとめ)に、旅の終わりに出会った少女の影を重ねていた。

 アイツも自分の宿命を受け入れ最期の時まで強く生きた。俺に出来たことは、ただ最期まで見届けることだけだった。

 

「さくら。お前は先に帰ってろ」

往人(ゆきと)くん?」

 

 俺は音姫(おとめ)葛木(かつらぎ)の血を引く由夢(ゆめ)たちをアイツと――。

 

 観鈴(みすず)と同じ道を歩ませはしない、絶対に......。

 

 

           * * *

 

 

 インターフォンを押すと反応はすぐあった。アパートの一室の玄関が開いて、義之(よしゆき)が顔を出した。

 

「どちらさま......って、国崎(くにさき)さん!?」

「よう。音姫(おとめ)居るか」

 

 年末。一週間ぶりに初音島へ帰ってきた俺は世話になっている芳乃家には戻らず、義之(よしゆき)音姫(おとめ)桜姫(ゆうき)の三人家族が生活を送るアパートへ足を運んだ。

 

国崎(くにさき)くん、どこに行ってたのっ。みんな心配してたんだよ? 何度かけても電話にも出ないって、由夢(ゆめ)ちゃん......」

「ああ、あとで話す。それより『葛木(かつらぎ)のお役目』についての話は全部聞いた。お前たちの親父さんが世界中を回って呪いを解く方法を探っていることもな」

「......そっか、知ってるんだね。全部......」

「今のまま鬼を身体に宿し続ければそう遠くない未来に、お前は死ぬんだろ?」

「――国崎(くにさき)さんッ!?」

 

 今まで口に出そうとしなかった『死』と言う言葉を聞き、血相を変えて間に入ろうとした義之(よしゆき)を制止して俺は話を続ける。

 

「後悔はないのか?」

「......後悔はないよ。覚悟もしてる、自分たちで選んだ未来だから......」

 

 ずれたタオルケットをかけ直し、気持ち良さそうに眠る桜姫(ゆうき)の頭を音姫(おとめ)は優しく撫でる。

 

「結婚、妊娠、出産、桜姫(ゆうき)ちゃんが生まれてきてくれて少しずつ成長していく姿を見守って過ごす日々は、本当に幸せな時間......」

音姉(おとねえ)......」

「弟くん......」

 

 音姫(おとめ)義之(よしゆき)は見つめ合い。黙ったままお互いの気持ちを通わせているように思えたが、今はそんなことに付き合っている時間も惜しい。

 

「感傷に浸っているところ悪いが、俺はお前を死なせるつもりはないぞ」

「え?」

「......国崎(くにさき)くん?」

「これを見ろ」

 

 蛇に睨まれた蛙のように固まった二人を尻目に俺は、見るからに脆く古ぼけた二冊の古文書をテーブルに置いた。義之(よしゆき)は、崩れない慎重にその本を手に取る。

 

「......よ、読めない。音姉(おとねえ)、読める?」

「どれ? えーっと、つばさ、ひと......」

翼人伝(よくじんでん)だ」

翼人(よくじん)って、たしか......」

国崎(くにさき)くんが探していた、空にいる女の子だよね?」

 

 俺は頷いて答え、付箋をしておいたページを開いて読み上げる。

 

「このページのこの行にはこう書いてある。『現世で生きる最期の翼人(よくじん)には、二つの呪いがかけられた。その呪いは想いを寄せた者、想い寄せられた者の双方の身体を蝕み、やがて死に至らせる』ってな」

「身体を蝕む? 音姉(おとねえ)と同じだ......」

 

 もう一つの方は関係ないから飛ばし、もう一冊の古文書を開いて置いた。

 

「ここからが重要だ。いいか良く聞け」

 

 音姫(おとめ)義之(よしゆき)も真剣な表情(かお)で俺の話に耳を傾けている。

 

「『方術(ほうじゅつ)には様々な力がある。それらにより翼人(よくじん)の呪いは、方術を用いることで受け流すことが可能』だと」

 

 本を閉じて、音姫(おとめ)を見据える。

 

音姫(おとめ)方術(ほうじゅつ)を覚えてみる気はないか? 根本的な解決にはならないかもしれない。だが、ただこのまま死を待つより可能性に賭けてみないか......?」

「そうだよ、音姉(おとねえ)! 上手くいけば鬼の力を受け流せるかも......!」

 

 もう一度愛娘の桜姫(ゆうき)を見てから目を閉じた音姫(おとめ)は、ゆっくりと目を開けて顔を上げた。

 

「......私に出来るのかな?」

「ああ、絶対に出来るさ。だってお前は『正義の魔法使い』なんだろ?」

「......うん、うんっ。私、がんばってみるよっ」

 

 

           * * *

 

 

「弟くん、おじいちゃん、桜姫(ゆうき)ちゃんのことお願いします」

 

 フェリー乗り場で二人に頭を下げた音姫(おとめ)は、桜姫(ゆうき)を抱き締めた離ればなれになる時間の分まで......。

 

「さくらさん、国崎(くにさき)さん、お姉ちゃんをお願いします」

「ボクたちに任せてー」

「わかってる。もし新学期までに俺が帰って来なかったら」

「はい、保健室は任せてください。私、保健委員でしたし」

「ああ、頼むな」

 

 いつかと同じように頭に手を置く。

 

「ちょっと髪乱れるじゃないですかっ」

「にゃははっ。往人(ゆきと)くん、ボクもー」

 

 手を退けると由夢(ゆめ)は「まったくっ」と口を尖らせながら手櫛で髪を整え。さくらは笑いながら頭を差し出してきた。

 

「さくら、国崎(くにさき)くん、そろそろ時間のようだよ」

 

 一足先にタラップまで行っている純一(じゅんいち)が、時計を指差し教えてくれた。

 

「だってよ。ほら、行くぞ」

「ええ~っ、まだ撫でてもらってないよ~」

 

 さくらをスルーして義之(よしゆき)たちと言葉を交わしてから先にフェリーに乗り込む。時間ぎりぎりまで抱いていた桜姫(ゆうき)義之(よしゆき)に預けて、音姫(おとめ)は別れを惜しみながら最後に階段を上る。

 乗客が全員乗船するとフェリーは汽笛を鳴らして、定刻通り港から少しずつ離れて行く。

 

「ママ~っ、いってらっしゃーい」

「行ってきまーす!」

 

 音姫(おとめ)は、港に居る四人の姿が見えなくなるまで手を振り続けていた。

 

「私も国崎(くにさき)くんみたいに、お人形を動かせるようになれるかな?」

 

 客室に戻ってきた音姫(おとめ)は、俺が動かしている人形を見て言った。

 

「俺なんてまだまだだぞ。俺の母親は楽器を弾きながら、三体以上の人形と幾つもの小道具を同時に動かして人形劇をしてたからな」

「それはスゴいねっ」

「ところで往人(ゆきと)くん、今から行くお寺は遠いの?」

「ああ、そうだな......」

 

 リュックから地図を取り出す。音姫(おとめ)は人形を持って地図を広げるスペースを作ってくれた。

 

「初音島はここだろ」

「うん」

「本島の港からバスに乗って、今度は電車でまたバス。で最後に山道を5キロくらい歩く。そうだな、夕方前に着ければ御の字だな」

「結構かかるんだね。音姫(おとめ)ちゃん、体調は大丈夫?」

「はい、大丈夫ですよ。それに私、実はわくわくしてるんです。風見学園を卒業して魔法学校に留学する時みたいで......」

 

 そう言うと音姫(おとめ)は胸に両手を添えた。

 

「好奇心や探求心だね」

「はいっ」

「どうでもいいけど、休める時に休んでおけよ。先は長いんだからな」

 

 持ってきたタオルを枕に俺は横になった。

 正直、これで音姫(おとめ)の運命を変えられるかは分からない。でも俺の母親は俺を生んだあとも、今の俺以上の方術(ほうじゅつ)の力を維持していた。

 

 ――大丈夫だ、必ず上手くいく。

 

 そう自分に言い聞かせて、俺は目を閉じた。

 


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