風見学園へ続く桜並木を歩きながら隣にいる
「お前が、予知夢を見始めたのは枯れない桜が咲いてからか?」
「違いますよ。桜が咲く前に、兄さんが
――
まあ
「じゃあ
「う~ん......どうかな? 私は、ときどき受動的に予知夢を見るだけですし」
意識して見ようと思っても見れません。と付け加えた。知りたい未来を自由に見れる訳ではなく、
「あっ、でも私のお母さんは
「マジか?」
「マジです。小さい頃に見せてもらいました」
――魔法を使える魔法使い、ね。言葉としてはおかしく感じるけど、
今俺の頭に浮かんだ考えが当たっているのなら、
「――
「お姉ちゃんですか? う~ん......言っちゃってもいいのかなー? まあ
風見学園が近づくにつれて増えてきた生徒の耳を避けるように、通学路を少し外れた公園のベンチに座ると、
「お姉ちゃんもお母さんと同じで魔法を使える魔法使いです」
やはり俺の考えは当たっていた。
さくらが消えた翌朝、
「
「
さくらが
「おじいちゃん
――二人とも秘密にしてますけど......。と、面白くなさそうに呟いた。
「さあ行きましょう。遅刻しちゃいます」
反動をつけてベンチから立ち上がり、俺に向かって身を翻した。
頷いて通学路に戻り数分、風見学園の正門前に到着。聞き覚えのある声が、わざと俺たちに聞こえるトーンで背中から聞こえてきた。
「
「ふふっ、当然アレよ」
「アレだよね~」
そんな
「学校帰りに商店街でお買い物してたり、前から怪しいと思ってたけどぉ~」
「ええ、あの時より一歩距離が近いわ。二人の仲は、既に深い男女関係......日本海溝よりも深い関係へ発展しているわね。夜になると同居人の目を盗んで......」
「いやぁ~んっ」
好き勝手言っている二人のアホトークを無視して、付属昇降口の前に到着。いつもと同じくここで
「じゃあな、
「はい。あ、そうだ、兄さんに会ったら伝えてください。今朝の件は今夜ゆっくり聞かせてもらいます、って」
「伝えておく」
――今朝の件、とは。桜公園から帰って朝飯を食べている時に「
その行動が更に
「もぅ~っ! 構ってよーっ!」
背中から抗議の声。無視を決め込んでいたのを忘れてた。後からネチネチ言われるのも面倒だ、仕方なく相手をしてやることに。
「ん? なんだ、お前ら居たのか」
「居たのか? じゃないですよーっ」
「ふふっ、違うわ、
「ん~?」
「狙いは、私たちを無視し続けた時の反応よ。つまり放置プレイを楽しんでいたのよ」
――違う。
しかも
「
「おはよー、
「おはよ」
「私、日直ですので失礼します」
危険を察知したのか
「さて、俺も
片手を上げて、颯爽とこの場を離脱。
「あっ、逃げた~!」
「逃げたわね。仕方ないわ、
「ふぇっ!?」
「
「いきなり、なに!?」
「その反応は黒ね」
「ち、ちがうよーっ」
「じゃあ紫? もう
「そんなの穿かないよっ。今日はっ......。言わないもんっ」
俺は、生け贄になった
普段通り掃除を済ませて救急箱の補充をしていると、学園中に非常ベルが鳴り響いた。
「なんだ? 避難訓練か?」
「そんな予定はないハズだけど。ちょっと確認してくるわ」
状況を把握するため保健室を出て行って間も無く非常ベルが鳴り止む。直後、
「大変よ、理科の実験中に火が上がったみたいっ」
「マジかよ」
怪我人の有無はまだわからないが、俺たちは救急箱を持って現場へと向かった。事故が起きた場所は、保健室と同じ特別校舎棟内の理科室。
出入り口のドア付近には、ここで授業を受けていたであろう付属の生徒を本校の生徒会役員が誘導していた。その生徒たちの中に、今朝一緒に登校した女生徒と見覚えのある牛柄帽子の女生徒を見つけ、彼女たちの元へ。
「
「あっ、
「おおっ、
見た感じ二人に怪我は無さそうだが、念のため確認しておく。
「お前たち、ケガはないか?」
「はい、大丈夫です」
「
「そっか。授業は、お前たちのクラスなのか?」
「はい、理科の実験中に突然アルコールランプが割れて、それで火が......」
閉じられたドアの小窓から理科室の中を見る。
消火器を持った数人の教師が火が上がった机を囲む様に確認作業をしていた。火の手が上がったと思われる机の真上には火災報知器が設置されている。どうやら火の熱か煙があれに反応したみたいだ。
「あの、これも枯れない桜が......?」
「さあな、わからん」
考えたくないが劣化などが無く突然割れたのなら可能性は高いだろう。やはり
「ほら、あんたら教室に戻りなさいっ」
「
理科室の近くで話しをしていた俺たちに声をかけてきたのは、生徒会副会長のまゆきだった。
「あれ、妹くん? 妹くんのクラスだったの?」
「はい」
「まゆき、
「
残った生徒も
「
「ありがと、だってさ。さあ妹くんと
「ああ、
「はい、失礼します」
「お前は、教室へ帰らなくていいのか?」
「
「なんだ?」
「最近、
真剣な目と声色。まゆきもここ数日の
「家に飯を食べに来なくなった」
「ありゃ~......そりゃまた重症だ。あの
「
まゆきの声からは、どこか確信があるように聞こえた。どうして
「
「そりゃ、気になるな」
「そうでしょ。こんなこと今までに一度も無かったから、ちょっと心配で......」
『
理科室から、まゆきを呼ぶ教師の声。
「はい。じゃあ行くね」
「ああ。まゆき、それとなく探ってみる」
「うんっ。ありがと」
まゆきを見送り、俺は保健室へ戻る。
俺より後に戻って来た
肝心のアルコールランプは、新学期に合わせて新しく新調した物であることが判明。火がついた状態で唐突に割れたらしく、落としたりぶつけたり等の強い衝撃を加えた訳では無いそうだ。
最初からヒビや亀裂が入っていたか等は不明で原因は調査中らしいが、おそらく結論は出ないだろう。
だから、俺は――枯れない桜へと向かった。
放課後、風見学園を出て桜公園へ着いた時には、東の空に幾つか星が見え始めた。徐々に暗くなる足下に注意して公園の奥へ奥へと進んでいく。
枯れない桜の前に風見学園本校の制服を着たポニーテールの女生徒が桜を見上げていた。
「よう」
背中に声をかけると彼女の身体がビクっと震えた。彼女は恐る恐るゆっくりと振り向く。
振り向いた女生徒――
「
「何してるんだよ? こんなところで」
「............」
体の前で手を組んだまま何も答えない。
俺は、
「......
「っ!? わかる......の?」
絞り出す様な震える声。
「ああ......、何となくな」
「そう、なんだ......。
公園内のベンチに座って
「今朝、おじいちゃんにお願いされた。もし自分が失敗したら、桜を頼む――。って」
俺が、今朝二人に会う前。もしくは先に桜公園へ行った後の話しか。
「信じられないと思うけど、わたし、魔法使いなの」
「そっか」
予め
「うん、だから、この島の異変を止めないといけないの。だって、私は――『正義の魔法使い』だから」
「『正義の魔法使い』?」
「正義の魔法使いはね、困っている人を助ける正義の味方なのっ」
得意気に胸を張った。だが、それは一瞬ですぐに顔を伏せた。
「でも、どうすればいいか分からなくて......。どうして、どっちかしか選べないの......? わかってるんだよっ? この桜は初音島のみんなをっ。今日だって
足下に涙の粒が幾つも落ち、アスファルトを滲ませていく。
「桜を枯らしたら......弟くんが......。私の大好きな人が......」
顔も上げた
――わたしは......どうすればいいの?
俺は、その問いかけに答える事が出来なかった。