「ええ~っ!?」
年の瀬が近づく30日の夕食時、突然、
「よ、夜中に初詣~!?」
「そ、その後に肝試し~!?」
姉妹の
「な、なんでしょうか......?」
鬼気迫る二人の迫力に負けたのか、
「夜中に初詣に繰り出すなんて、不良です!」
「しかもその後に肝試しなんて、危険にもほどがあるよ!」
「ふ、不良? な、なにが危険なんでしょうか?」
姉妹は、たじたじの
「はんたいっ、はんた~いっ!」
わかりきっていた結論に俺は構うこと無く、箸を進める。相変わらず、美味い。
「なにゆえに?」
「夜中に肝試しなんてしたら蛇が出るよ。おへそ取られるよっ!」
「いや、それはなんか、子供だましのネタが色々混ざってるから......」
「不良です、不潔です、大人の階段登り過ぎです!」
「ただ、みんなで初詣に行くことの何が不潔なんだよ?」
「そ、それは......」
「と、とにかく不潔なんですっ! 兄さんのバカ、エッチ、変態、
「いや、意味わからんし。それから俺は、
一番どうでもいいところを否定した。前の三つは認めるんだな。何てどうでもいいことを思いながら箸を進めていると、茶碗がいつの間にか空になっていた。
「とにかく、弟くんと一緒にいられない大晦日なんて、そんなの大晦日じゃないのよー。お餅の入ってないお雑煮みたいなものなのー」
泣き落としに入る、
「じゃあ、年越し蕎麦も兼ねた晩ご飯をみんなで食べるって言うのはどうかしら?」
「あ、それいいね。ここで飯食って、みんなで一緒に初詣」
「うんうんっ!」
「賑やかになるね」
話の内容がいまいちわからないが、
「何の話だ?」
「
「
「お前らが良いなら良いんじゃないか」
反対する理由もないし、そもそも居候の俺には何の権限もない。再び箸を進める。
「わー、急に大変だー。なに作ろうかなぁ~?」
「俺も手伝うよ」
「私は、商店街でジュースとか買ってくるね。
「美味い。ん? ああ、別にいいけど」
「ありがとうございます」
明日の大晦日の晩飯の事で盛り上がっていると、居間の襖が開いて、さくらが帰ってきた。頭には、はりまおが乗っている。
「ただいまー。どうしたの? すごい盛り上がってる~」
「お帰りなさい、さくらさん」
「お帰りなさーい」
「お帰り」
三人が挨拶をするとほぼ同時に、はりまおはさくらの頭を飛び降り、俺の膝の上に乗っかってきた。
「なんだよ?」
「あん!」
「にゃははっ! はりまおは、
どうやら妙なのに好かれてしまったらしい。
「へぇー、そうなんだ、楽しそうだね。でも、あんまりはしゃぎ過ぎて怪我とかしないようにね?」
「大丈夫です、私がついてますからっ」
おぼんを持って戻ってきた
「そう言ってる
「え、うそー?」
「さすが、さくらさんです。よくわかってますね」
「あっはっは!」
* * *
翌朝、つまり大晦日の午前中。
「あ、あとこれもっ!」
重い物(ペットボトル)を次々と買い物カゴへ投入していく
俺は今、朝倉姉妹と
夕食には、
「
「これでいいか?」
腕を伸ばして、商品棚の一番高い棚にある調味料を取って、
「うん、ありがとー。じゃあ、次は~っと」
商品をカゴに入れてショッピングカートを引く。その様子を
「あの~、
「なんですか」
「私めも、カートを......」
「却下。私、入り口で持っていこうって言ったのに、
「あの時は、こんな大荷物になるなんて......」
『あれ? 兄さん、カート持っていかないの?』
『ああ、けっこう混んでるし、邪魔になりそうだから。それに、どうせ菓子とジュースだけだろ』
『私は、絶対持ってった方がいいと思うよ?』
『大丈夫だって。ほら、さっさと済ませようぜ』
『どうなっても知らないんだから』
確か、こんな感じだった。忠告を聞き入れなかった
「もー。
「だって、兄さんがー」
「カゴが壊れちゃったら、お店に迷惑が掛かるでしょ?」
「......はーい」
「た、助かった......」
「おもっ!」
元の場所に戻してからカートのカゴと持ち比べてみると、カゴの商品の数は
「ありゃ、
「あっ、まゆき~」
買い物カゴを下げた、まゆきが登場。
「おはようございます。
「よう」
「うん、おはよ。妹くん、
「うん、そうだよ。今夜、弟くんのお家でパーティーなのっ」
「へぇー、そりゃ楽しそうだねぇ」
「うんっ」
話しをしている間、
「あっ、そうだ。まゆきも一緒にどう?」
「いいねっ。って言いたいんだけど、もう年越しの準備が済んじゃってるんだよね」
「そっかぁ、残念」
「けど、私も二年参りに行くから、神社で逢えるかも。じゃ、行くね」
「うん、またね」
まゆきは、急ぎ足でレジの方へ向かって行った。それから間も無く、
「どこに行くんですか?」
「ん?」
玄関で靴を履いていると、後ろから
「下見に行くんだよ」
「下見? ああ、神社ですか。案内しますよ」
芳乃家を出て、まずは桜公園を目指す。
「結構な数の屋台が出るんだな」
「そうですね」
今準備を進めている屋台の全部が、俺の商売敵になるわけだ。暖簾を見た感じ食べ物系の露店ばかりで、出し物系が無いのが唯一救い。
「商売繁盛の祈願でもしたらどうですか?」
神頼みか。ポケットをまさぐる。お誂え向きに五円玉があった。参道を進んで賽銭箱に小銭を投げ入れて手を合わせる。
――カネ、カネ、カネ......よし、頼むぞ。
願掛けを終えて目を開けると、俺は見知らぬ場所に立っていた。
* * *
辺りを見回してみる。豪華な作りのホテルのロビーのみたいだ。前に高台で見た夢と同じ服を着た男女が大勢いた。
どうやら、俺はまた夢を見ているらしい。またかとうんざり。初音島に着てから度々訪れる意味不明の現象。俺は、何か奇病にでも掛かっているのだろうか。今度、
そんな事を思っていると、周囲のざわつきが大きくなっていた。
騒ぎの理由を知るべく耳を傾けると、思わず耳を疑ってしまった。このホテルにテロリストが爆弾を仕掛けたと騒ぎになっている。近くにいる長い銀髪の少女に詳しく訊ねる。
『どういう状況なんだ? それより、ここは何処だ?』
少女は返事をしない。無視というより、まるで俺が見えていない様な反応の無さ。
『おい、こら』
触れようと手を伸ばす。すると俺の右手は少女の身体をすり抜けた。少し驚いたが、まあ夢だ。俺には、このままあるがままに身を委ねるほかない。
そして――思った通り、場面が切り替わった。
今度は部屋。おそらくホテルの一室だろう。シングルベッドにもたれ掛かる様にして、男子生徒がヘンテコな壺を持って眠っている。近くで、ツインテールの女生徒とショートカットの女生徒が心配そうに男子を見ていた。
ショートカットの方は見覚えがある様な気がしたが、思い出す前に再び場面が切り替わった。
今度は、広いホール。図書館だろうか、四方八方見渡す限り数え切れない程の本がところ狭しと並んでいた。とりあえず、歩いて見て回る。歩きながら目を向けた本棚には、小難しい題名――というより全部英語のタイトルで意味不明。そのまま奥に進むと、ホテルで眠っていた男子が難しそうな
『何を読んでるんだ?』
どうせ反応は無いだろうが声を掛けた。
すると驚く事に男子は振り向いた。その瞬間――。
* * *
「
隣を見ると、
「どうした?」
「どうした? じゃないですっ。さっきから呼んでるのに、目を閉じたまま全然返事しないんですもんっ」
「ああ、そうか、悪い。......帰るか」
一呼吸おいてから、踵を返して参道を戻る。
「何を真剣にお願いしていたんですか?」
「ん? ああ、カネ」
冷めた目で見られた。
「お前は、何を願ったんだよ?」
「え? 教えませんよ。言ったら叶わないって言うじゃないですか」
「お前なぁ」
人には話させておいて、自分は言わないのかよ。しかも、この流れだと俺の願い叶わないって事じゃないか。
彼女の機嫌を損ねない様にしようと密かに誓った大晦日の午後になった。
「そうだ、帰りにコンビ二へ寄ってもいいですか? 紙コップを買うの忘れてました」
「ああ、好きにしてくれ」
コンビ二に寄ってから帰宅。玄関には、既に何人かの靴ある。
そして――全員が集まり午後六時。新年を迎えるパーティーが始まった。