D.C.Ⅱ.K.S 流離いの人形使い   作:ナナシの新人

13 / 40
秘策 ~secret plan~

 クリパ二日目。

 俺は、見物客が引き疎らになった中庭で売り上げを確認していた。

 一般公開最終日の売り上げは昨日以上の稼ぎを打ち出した。それは俺の一日の売り上げ最高記録を優に越える金額だ。おひねり入れの箱には、硬貨はもちろん何枚か札も見受けらた(あとピンバッチやキーホルダー等)。これだけあれば、しばらく食いっぱぐれる事もなさそうだ。

 やりきった達成感に浸りながら片付けをしていると拍手が聞こえた。手を止めて顔を上げる。ピンク色のおさげ髪の少女ななかが、俺に向けて拍手を送っていた。

 彼女は、拍手を止めて、背中に手を組み近づいてくる。

 

「こんにちはっ、国崎(くにさき)さん。劇凄かったです」

「ありがとう」

 

 爽やかにお礼の言葉を返す。ななかは、そのままはりまおを挟んで俺が座るベンチに腰を下ろした。

 

「クラスで話題になってたんです。中庭で可愛い劇をしてるって。まさか国崎(くにさき)さんだったなんて思いませんでしたよ」

「そうか」

 

 どうやら俺の人形劇の評判は風見学園中に響き渡っているらしい。今なら体育館でワンマンライブを出来るじゃないかと思える。

 カーテンが閉じらた暗い体育館。そのステージ上に当たるスポットライトを浴びて、人形(相棒)と共に颯爽と登場。

 俺は、マイクを持って観客に語りかける。

 

『みんなっ! 俺の人形劇でおおいに笑ってくれッ!』

『イヤッホォーゥッ! 国崎サイコーッ!』

『Everybody say!』

『国崎サイコーッ!』

『Love and Peace!』

『国崎サイコーッ!』

 

 鳴り止まない大歓声。体育館は揺れる。そして――。

 

「あんっ」

 

 そう。あん、だ(あん?)。妄想に浸っていると突然奇妙な声に遮られた。隣を見る。

 はりまおが、ななかの膝の上で頭を撫でられて気持ち良さそうな表情(かお)をしていた。

 

「この子の動きがすごく可愛いって評判なんですよ」

「............」

「どうしたんですか?」

「......何でもない」

 

 ななかから語られた真実。

 人気だったのは俺の人形劇じゃなくて、はりまおだった。今思えば、ななかは『劇』とは言ったが『人形劇』とは一言も言っていない。

 あれだけ大勢の客を魅了したのが謎の宇宙生物と知り、ショックのあまり方針状態で一点を見つめる俺を見て、ななかは不思議そうな表情(かお)をしながら可愛らしく首を傾げた。

 

「あっ! 白河(しらかわ)さん居ました!」

「うわっ、やばっ!」

「ん?」

 

 花壇で揺れる花を愛でていたが、何やら騒がしい。顔をあげて見ると、昨日ななかを探していた連中が数人、附属校舎から、俺たちがいる中庭に向かって走って来ている。

 隣に座るななかは、逃げること無く、面倒そうにタメ息をついていた。

 

白河(しらかわ)さんっ!」

 

 ななかの前に辿り着いた、男子生徒たちはななかの逃げ場をなくすようしてベンチを囲い込んだ。(コイツら......。女一人にここまでするのか?)。あまりに情けない行動に呆れて言葉も出ない。

 言い換えれば、それだけななかに魅力があると言うことなのだろう。

 

「ミスコン......」

「えっ?」

 

 目を合わせないように顔を下げて、はりまおを抱いているななかがぼそっと呟く。そのまま顔をあげて、正面に立つ男子生徒に向けて言った。

 

「出場考えておく」

「......本当ですかっ!? おいっ、連絡入れてくれっ」

「考えるだけだからね?」

 

 あくまでも考えるだけと念を押し、開始一時間前に姿を見せなかったら諦めて欲しいと言ったななかに、十分ですっ! と頭を下げ、スマホを取りだし操作しながら校舎へ戻っていった。

 

「はぁ~......」

「大変だな。お前も」

「あはは......」

 

 困った表情(かお)をして乾いた笑い声。小さく一つ息を吐くと俺に愚痴を溢した。

 

「ほんとっ。毎回ああなんですよ」

「苦労するな。よし、これをやろう」

 

 おひねり入れにあったキーホルダーをななかに差し出す。受け取ったななかは頭にハテナマークを浮かべている。

 

「これ、なんですか?」

「一応、ネコらしいぞ」

 

 俺も分からなかったが、裏に『ドルジ(猫)』と書かれているのを見つけて驚いた。

 とてもネコとは思えない程の丸くデカイフォルム。よく見れば背中の柄は虎模様に見えなくも無いが、初見では絶対にネコとは判別できないだろう。

 

「ネコですかー......ネコ? にゃーって鳴きそうにないんですけど」

「ああ。ぬおっ、って鳴きそうな見た目だよな」

 

 ななかは、キーホルダーから目を外すと中庭内のある場所に目を移した。そちらを見る。そこにあったのはクレープを売っている露店だった。

 

「じぃ~」

「あん」

 

 大きく青み掛かった綺麗な瞳と縦棒の視線が俺に訴える、クレープを食わせろと。チラッと箱を見る。俺にとっては今後の貴重な旅費だが、儲けははりまおのお陰。

 

「......仕方ないな」

「やったー」

「あんっ! あんっ!」

 

 はしゃぐ少女と一匹を残してクレープ屋に向かう。

 メニューは、デザート系と惣菜系クレープの二種類があった。店員のおすすめを頼むとそれぞれ一番人気のあるクレープをチョイスしてくれ、更に一つ分を無料(ただ)にしてくれた。人形劇の帰りに買っていく客が多く儲かったそうだ。

 遠慮無く好意に甘えてベンチに戻る。同じ場所に座ってからデザートクレープを渡すと、ななかはさっそく小さな口に運んだ。

 

「ありがとうございますっ。はむっ......う~んっ! 中のチョコとろとろ~。おいし~いっ」

「そらよかったな」

 

 惣菜クレープを半分に割って置くと、はりまおは尻尾をブンブン振り回しながら旨そうにがっつく。食べながら、ななかはさっきの連中についてを教えてくれた。

 さっきの連中は手芸部。クリパのミスコン主催に関わっているらしい。そこで、ななかに自分たちが作ったドレスを着て参加してもらい手芸部の宣伝を兼ねようという魂胆のようだ。

 

「なるほどな」

「ごちそうさまでしたっ」

 

 ななかは、ベンチを立ってクレープを包んでいた紙をゴミ箱に捨てに行く。背中に向かって訊く。

 

「で、出るのか?」

 

 振り返ったななかは笑顔だった。

 

「ふふっ。気になるなら見に来てください。クレープ、ありがとうございましたっ」

 

 そう言って、ななかは附属の校舎へと歩いていく。(見に来てくださいって、出るのかよ)。時計を見る、午後の仕事を始めるまであと十分。そろそろ準備をしないと間に合わない。

 人形劇のステージ代わりに使ったダンボールを畳み、人形(あいぼう)をポケットにしまう。

 

「じゃあな、はりまお」

「あんっ」

 

 はりまおは一吠えすると、校長室がある校舎へ。俺は、校舎裏の焼却炉へダンボールを片しに向かう。焼却炉前には見知った男子が居た。

 

「よう」

「ん? 約束時間は放課後のハズだぞ? 同士桜内(さくらい)......。これはこれは国崎(くにさき)殿」

 

 俺の姿を確認した杉並(すぎなみ)は、直ぐ様態度を変えた。

 

「先程の人形劇拝見させていただいた。いやー、実に素晴らしい」

 

 パチパチと拍手をくれた。

 ななかの時と同じで、劇に集中していた俺は気がつかなかったが、杉並(すぎなみ)も見に来てくれていたらしい。

 

「どうでもいいが、その殿ってなんだ?」

 

 杉並(すぎなみ)は、俺の名前の後に『殿(どの)』と付けるのがずっと気になっていた。

 

「ふむ......。未だに人形劇のカラクリが解き明かせないでる俺なりの敬意の表現と思っていただければ」

「ふーん」

 

 法術(ほうじゅつ)と云う力だど教えてやろうと思ったが、自分で謎を解き明かしたいといった雰囲気を感じたから話さなかった。

 

「おっと、忘れていた。例の少女について、少し情報を得た」

「ほんとかっ!?」

 

 一歩杉並(すぎなみ)の近づくと、腕を組んで得意気な表情(かお)

 

「ふふーん。なーに我々非公式新聞部の情報網に掛かればこれしきのこと――」

杉並(すぎなみ)ーッ!」

 

 校舎の方から、数人の人影が|杉並(ここ)を目指して走って来る。杉並(すぎなみ)は、面倒そうに言う。

 

高坂(こうさか)まゆき、か」

「お前、何かしたのか?」

「なーに。ちょっとしたサプライズ演出を企画しているとだけ。では、続きは近日中に――。さらばたっ! 高坂(こうさか)まゆき、朝倉姉(あさくらあね)! 生徒会の諸君! あーはっはっはー!」

 

 止める間もなく、杉並(すぎなみ)はフェンスを飛び越え、敷地外の雑木林の中へ消えて行った。程なくして生徒会が焼却炉に到着。

 

「くっそ~、また逃げられたかー」

「ほんと、残念」

「二手に別れて捜索を続けて。一班は校内、二班は雑木林」

 

 まゆきは、すぐに指示を出し杉並(すぎなみ)の捜索に当たらせた。焼却炉には俺とまゆき、音姫(おとめ)の三人だけになった。

 

「さて、国崎(くにさき)くん。杉並(すぎなみ)と何を話してたの?」

 

 まゆきは、俺に疑いの眼差しを向ける。どうやら面倒な事に巻き込まれたらしいが、誤魔化す必要は無い。素直に答える。

 

「探し物の話だ」

「探し物?」

「ああ、あの女の子の話ね。まゆき、国崎(くにさき)くんは関係無いよ」

「どういう事?」

 

 音姫(おとめ)は、まゆきに翼を持つ少女の話を掻い摘んで説明すると、まゆきは納得したのか、腕を組んで目を瞑り二度ほど頷いた。

 

「なるほどね。確かに、あの杉並(すぎなみ)が面白がって協力しそうなネタだわ」

「それで何か分かったの?」

「お前らのお陰で聞きそびれた」

 

 苦笑いのまゆきと、申し訳なさそうな音姫(おとめ)

 

「私らも仕事だからさ」

「あははは......、ごめんねー。まゆき、そろそろ......」

「ああー。うん、行っといで」

「うん。ありがとう。国崎(くにさき)くんもまたね」

 

 音姫(おとめ)は、附属校舎の方へ早足で歩いて行った。校舎へ消える音姫(おとめ)を見送り、ダンボールを焼却炉の隣に積んであるダンボールに重ねて置く。

 軽く手を叩き、白衣を整えるとまゆきが話しかけてきた。

 

「じゃあ私たちも行こっか」

「は? どこへ」

「今から校舎回るんでしょ? 今日も案内してあげるよ」

 

 と云うわけで、俺はまゆきと校内を回ることになった。

 始めに向かったのは部活動が入る校舎。自転車部の『空を飛ぶ予定の自転車』などけったいな物を作っている部活もあり生徒会は手を焼いているそうだ。

 各部室を回り、俺は怪我人の手当てを、まゆきは危険が無いかを調べていく。一通りの部室を回り終えて附属校舎へ歩みを向けた。

 

杉並(すぎなみ)のヤツ。こんなので何を仕出かすつもりよ」

 

 まゆきは眉をひそめ、部室や廊下で見つけたスイッチらしき物を手に持って言う。その表情(かお)の中に若干の嬉々を感じるのは気のせいだろうか。

 

「押してみたらわかるぞ」

「いや、そうだけど。とんでもないこと言うね」

杉並(あいつ)は、サプライズ演出って言ってたからな。押してもケガ人はでないだろう」

 

 隣を歩くまゆきが視界から消えた。振り向くと目を丸くして立ち止まっている。少しの間が開いてから、まゆきは目尻をつり上げ、もの凄い剣幕で詰め寄って来た。

 

国崎(くにさき)くん。その話し、詳しく訊かせてくれる?」

「別にいいが。サプライズ演出って言ってただけだ」

「本当にそれだけっ?」

 

 グイっと顔を近付けてくる。

 

「ああ。あと近い、話しづらいぞ」

「............」

 

 まゆきは、無言のまま距離を取ってからタメ息をついた。有力な情報を得られず落胆している様に見えたが、それでも、まゆきはすぐにスマホを操作して生徒会と連絡を取り始めた。

 終わるのを待って附属三年のフロア。

 廊下の一画、とある教室の前に長蛇の列ができている。行列の一番前に大きなピンク色のリボンが圧倒的な存在感を放っていた。

 

「ありゃ音姫(おとめ)?」

「あ、まゆき。国崎(くにさき)くんも」

「どうしたの? もう始まってるんじゃ」

 

 まゆきの言った始まっているの意味は、教室のプレートを見てわかった。ここは義之(よしゆき)の教室。つまり音姫(おとめ)は人形劇を見に来たということだ。

 だが、表にある看板に記された開演時間を5分程過ぎているにも関わらず入室していないところを見ると、何かトラブルが起こったのかも知れない。そして、そのトラブルになりかねる要因に心当たりがある。

 俺は、行列を無視して暗幕が貼られ中の様子を伺えない教室の扉を開け放った。

 

 

         * * *

 

 

 教室の中は重苦しい空気が漂っていたが扉を開く音に気づき、その音を響かせた俺に視線が集まる。

 

国崎(くにさき)さんっ?」

「よう、義之(よしゆき)。で、やっぱりか......」

 

 重苦しい雰囲気の要因はすぐに見つかった。教室の真ん中で苦しそうに倒れ込む一人の少女――小恋(ここ)だ。

 彼女の元へ向かい体温を測る。体温計を耳に近付けると、ピッと短い音が鳴った。液晶を見ると38℃を越える高熱。昨日倒れたにも関わらず、無理して午前の劇を行った事でぶり返しただろう。

 

義之(よしゆき)は、ダメか」

 

 義之(よしゆき)たちには人形劇がある。中止か続けるかはわからないが使う訳にはいかない。そこで入ってきた扉に向かい声を掛けた。

 

「まゆき!」

「ん? どったの。って月島(つきしま)っ!?」

 

 扉が開き、まゆきが入ってる。まゆきは俺と同様、異変に気づき小恋(ここ)の額に手を置いた。

 

「あちゃ~、そういうことかー」

「ああ、手伝ってくれ」

「はいよ。月島(つきしま)立てる?」

 

 まゆきが小恋(ここ)の腰に手を回すと、小恋(ここ)はぎゅっと義之(よしゆき)の袖を掴んだ。

 

小恋(ここ)......」

「どうした?」

「それが......」

「私が説明するわ」

 

 近くにいた(あんず)が事情を説明してくれた。小恋(ここ)は人形劇ヒロイン役。しかも準備期間があまりにも短かったため代役は立てられない。

 つまり小恋(ここ)を失えば、人形劇は中止ということだ。(この様子じゃ、どっちみち演技を成し遂げる事は出来ないだろけど)。(あんず)は、腹を括ったよのか客が行列をなす扉に向かって行く。 その後ろ姿を目で追っていると女性徒が視界に入った。(居るじゃないか、適任が)。義之(よしゆき)も俺と同じ事に気がつ秘策を思い付いたのだろう、大きな声を上げた。

 

「あっ! (あんず)、待った! 小恋(ここ)、大丈夫だ」

「......よ、よしゆき......」

 

 弱々しい小恋(ここ)の声に、義之(よしゆき)は頷いて答える。

 

「 まゆき先輩、国崎(くにさき)さん、小恋(ここ)をお願いします!」

「ああ、任せろ。まゆき、小恋(ここ)を背中に乗せてくれ」

「え? うん」

 

 小恋(ここ)は、発熱の影響からか身体が少し震え息苦しそうな呼吸。また熱が上がったかも知れないな。急ごう。まゆきの先導で教室を出る。

 列の先頭に居た音姫(おとめ)が心配そうに訊いてきた。

 

月島(つきしま)さんは、大丈夫?」

「ああ、すぐに保健室に行く。それより音姫(おとめ)

「ん? なに?」

「まあ、がんばれ」

 

 激励の言葉に、なんの事か理解出来ず首を傾げる音姫(おとめ)を残し、まゆきと共に保健室へと急いだ。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。