クリパ初日が終わり、俺は
「温まるな」
「そうですね」
俺たちは、湯気の立ったおしるこを食べている。クレープを買ってすぐに帰るつもりだったが「温かいモノにしましょう」と
風見学園の生徒も通う店と云うこともあってか値段も良心的。実際注文したおしるこはクレープよりも安い。常に金欠と戦う俺にとっては正直、うれしい提案だった。
「あの、お訊きしてもいいですか?」
「なんだ?」
「......。明日の予定は?」
「明日? そうだな......たぶん今日と同じだろう」
出張保健医の時間は延びるかも知れないけどな。
「お前は?」
「私も同じです。保健委員ですから。あっでも人形劇は観に行けたらなって思ってます」
ここでの人形劇は
ただ、一度も
「そうか。そう言えば、
ミスコンと聞いた
「出ませんっ、誰があんなはしたないイベントっ」
そのまま、じとーとした目で俺を見据える。
「
「いや特にない。ただ、昼にななかがしつこく勧誘されてたのを見たんだよ」
「ああ~......
ななかの名前を出した途端、納得した
「
「ふーん」
流石は学園のアイドルってやつだな。
「お前が
「えっ?」
俺も箸を動かし餅を口に運ぶ。実に美味い。餅が二つも入って(お茶付き)300円とは信じられんな。この価格でこの店はやっていけるのか心配になった。
「えっと......、それはどういう......」
「見てくれはいいからな」
照れなのか少し動揺していた
「性格はダメって事ですか?」
「美味いな、これ」
「誤魔化さないでくださいっ」
執拗に問い質してくる
公園を出て家路を歩き
「ごちそうさまでした」
「ああ、じゃあな」
「何処に行くんですか?」
うしろ声が聞こえた。振り向くと、ついさっき別れたハズの
「お前、帰ったんじゃないのか?」
「玄関にカギが掛かっていたんです」
「カギ持ってないのか?」
「や、持ってますけど、この時間にカギが掛かってるのは――」
灯りが点っている
「と、いう訳です。で
「商店街に行ってくる」
「えっ、今からですか? もう7時回ってますよ?」
「8時くらいまでなら空いてるだろ。じゃあな」
|背を向けて、片手を軽く上げ、颯爽とその場を去る。風見学園の正門前を通って商店街にやって来た。
「さて......」
着いたのはいいが、どうするか悩んでいる。5才くらいの子ども、それも女の子ときたもんだ。何を持っていけばいいのやら、さっぱり見当がつかない。
そこで俺は訊いた――
「どう思う?」
「そうですねー。無難に縫いぐるみはどうですか?」
クリスマスも兼ねて、と提案したきた。
確かに無難だな、値は張るけど。近くのおもちゃ屋に入り縫いぐるみの棚を見て回る。
「これなんてどうだ?」
アリクイの等身大縫いぐるみを担いで見せた。このつぶらで優しさを感じる瞳と全長2メートルを越す圧倒的な存在感。
「趣味悪すぎです」
完全否定されると流石にヘコむ、結構自信あったんだけどな......。北海道で
名残惜しく棚に戻すと
「これはどうですか?」
「殴ってストレス解消するのか」
「殴りませんっ! どうしたらそんな発想になるんですかっ?」
「いや、埼玉に行った時そんな内容のマンガが飯屋に」
「............」
言い訳するな、と言いたげに睨まれ
いくつか候補をあげて合格点を貰えた小さな熊の縫いぐるみを買い閉店間際の店を出る。
「ありがとな。
「いえ、どういたしまして」
商店街を歩いていると
「あら」
「あっやっほーっ。
「こんばんは。
「よう」
「ふふっ」
「ふぅ~ん」
「何ですか?」
「お邪魔しちゃったかな~って。ねー
「
「そっか、そうだねっ。二人のあっつ~い時間を――」
「もういいか?」
終わりそうにないからぶったぎる。二人は、不満気な
「つまらないわね」
「のり悪いですよー」
「俺も暇じゃないんだ」
帰って
治安の良い初音島とはいえ流石に危ないだろうと、帰る方角が同じだった事もあり送っていく事になった。
「お前たちは何をしてたんだ?」
「
「人形劇の装飾につかうんです」
「なんだ、それ?」
「そこのお店のプリンです」
目の前の洋菓子店を
「ここのプリンおいしいんですよ。あとケーキも」
「ふーん」
プリンか、確かに病人には持ってこいの見舞品だ。行くときにでも寄って買っていってやるか。
「で、実際
「はいはーいっ、私も気になりまーっす」
「俺もお前たちと同じだ。見舞の品を買っていた」
縫いぐるみがラッピングされた袋を見せる。
「
「違う。知り合いの子どもが水越病院に入院してるんだ」
「それで縫いぐるみなんですねー」
「ああ」
鬼の様に何度も
話ながら歩き
今回は、
「ただいま~」
「あんっ」
「おかえりなさい、さくらさん。今日は、はりまおも一緒なんですね」
「おい、なんだ?」
さくらの頭の上に居たはりまおが膝の上に乗ってきた。それを見てさくらが笑う。
「にゃははっ、気に入られてるみたいだねー」
「弟くんが帰ってきたらすぐに晩ごはんにします。少し待っていてくださいね」
三十分程で
割り下の絡んだ肉や焼き豆腐が実に美味い。
「うまい」
「ほんとだねー」
「そう言えば、
「ん? ああ......クリパが終わって次の日だ。港に行く前に寄ってくつもりだ」
「えっ? もう行っちゃうの」
驚く
正直、長居をし過ぎた。俺自身あまり同じ土地に留まりたくはない。情が生まれてしまう。
「
「どうして?」
「どうしてって、お給料日月末だから」
「......今月末じゃダメか?」
「年末だからね~」
「マジか......」
「うんっ。マジマジ大マジだよ~」
経理が間に合わないって事かよ......。
「ちょうどいいんじゃ無いですか?
「......もう少し世話になっていいか?」
「もちろんっ。大歓迎だよーっ。はりまおもなついてるみたいだしねー」
「あんあんっ」
膝の上で鳴くはりまお。妙なのに気に入られてしまったらしい。
「ところで弟くん」
「何?
「
「
「探し物?」
「話してもいいですか?」
「別にいいぞ」
特に隠す話でもない、むしろ何か手懸かりがあるかもしれない。
「空に居る翼を持つ女の子。う~ん......小説でも聞いたことないし、心当たりはないかな~、ゴメンね」
「私もありませんね。それにしてもっ意外とメルヘンなんですね」
「............」
バカにして笑っている
「もう~、からかっちゃダメだよ。
「はーい。って、あたしのお肉はっ?」
「に・い・さ・ん?」
「お、俺じゃないぞっ」
下からジーッと視線を感じた。
箸を口元に持っていって小声で話しかける。
「ほら、これやるから黙ってろ。いいな」
「あん」
はりまおは頷くと差し出された肉をがっついた。かっさらった
食べ終わり片付けを終えると朝倉姉妹は実家へ帰って行った。
俺は、
その深夜、ふと目が覚めた。玄関方で気配を感じたからだ。布団を出て玄関に向かう。誰かが扉を開けて出ていった。
あの後ろ姿は――さくらか。また散歩かと思ったが深夜1時を回っている。
俺は、急いで客間に戻り上着を羽織ってからさくらの後を追った。