D.C.Ⅱ.K.S 流離いの人形使い   作:ナナシの新人

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贈り物 ~acquisition~

 クリパ初日が終わり、俺は由夢(ゆめ)と桜公園へ足を伸ばした。

 

「温まるな」

「そうですね」

 

 俺たちは、湯気の立ったおしるこを食べている。クレープを買ってすぐに帰るつもりだったが「温かいモノにしましょう」と由夢(ゆめ)の提案で公園敷地内にある甘味処『花より団子』に来店した。

 風見学園の生徒も通う店と云うこともあってか値段も良心的。実際注文したおしるこはクレープよりも安い。常に金欠と戦う俺にとっては正直、うれしい提案だった。

 

「あの、お訊きしてもいいですか?」

「なんだ?」

 

 由夢(ゆめ)は、箸を止めて少しうつむき加減で言った。

 

「......。明日の予定は?」

 

 由夢(ゆめ)の最初の口の動きと声にした言葉は違った。本当は違う事を訊きたかったんだろう。

 

「明日? そうだな......たぶん今日と同じだろう」

 

 出張保健医の時間は延びるかも知れないけどな。

 

「お前は?」

「私も同じです。保健委員ですから。あっでも人形劇は観に行けたらなって思ってます」

 

 ここでの人形劇は義之(よしゆき)のクラスのだろう。俺の方は、もう見飽きているだろうからな。

 ただ、一度も由夢(ゆめ)から合格点を貰えていない。

 

「そうか。そう言えば、由夢(ゆめ)はミスコン出ないのか?」

 

 ミスコンと聞いた由夢(ゆめ)は、目を瞑り眉を吊り上げて不機嫌そうに言った。

 

「出ませんっ、誰があんなはしたないイベントっ」

 

 そのまま、じとーとした目で俺を見据える。

 

国崎(くにさき)さんは、ミスコンに興味があるんですかっ?」

「いや特にない。ただ、昼にななかがしつこく勧誘されてたのを見たんだよ」

「ああ~......白河(しらかわ)先輩ですか」

 

 ななかの名前を出した途端、納得した表情(かお)に変わった。止めていた箸を再び動かし始める。

 

白河(しらかわ)先輩なら毎回の事です。出場する......させられるの方が正しいですね。その時はいつも優勝しているみたいですよ」

「ふーん」

 

 流石は学園のアイドルってやつだな。

 

「お前が出場()れば、ななかを抑えて優勝もあると思うぞ。俺は」

「えっ?」

 

 俺も箸を動かし餅を口に運ぶ。実に美味い。餅が二つも入って(お茶付き)300円とは信じられんな。この価格でこの店はやっていけるのか心配になった。

 

「えっと......、それはどういう......」

「見てくれはいいからな」

 

 照れなのか少し動揺していた由夢(ゆめ)は、にっこりと笑顔を作ったが目は笑っていない。

 

「性格はダメって事ですか?」

「美味いな、これ」

「誤魔化さないでくださいっ」

 

 執拗に問い質してくる由夢(ゆめ)をやり過ごして店を出る。芳乃(よしの)宅に近い公園の出入口に向かい歩いていると、ふと水越病院の灯りが目には入った。

 (しん)との約束を思い出した。島を出る前にゆずの見舞いに行かないとな。

 公園を出て家路を歩き朝倉(あさくら)家に到着。

 

「ごちそうさまでした」

「ああ、じゃあな」

 

 由夢(ゆめ)と別れて芳乃(よしの)家の門の前を通りすぎた。

 

「何処に行くんですか?」

 

 うしろ声が聞こえた。振り向くと、ついさっき別れたハズの由夢(ゆめ)が居た。

 

「お前、帰ったんじゃないのか?」

「玄関にカギが掛かっていたんです」

「カギ持ってないのか?」

「や、持ってますけど、この時間にカギが掛かってるのは――」

 

 灯りが点っている芳乃(よしの)宅を見た。なるほど、音姫(おとめ)が来ているって事か。

 

「と、いう訳です。で国崎(くにさき)さんは?」

「商店街に行ってくる」

「えっ、今からですか? もう7時回ってますよ?」

「8時くらいまでなら空いてるだろ。じゃあな」

 

 |背を向けて、片手を軽く上げ、颯爽とその場を去る。風見学園の正門前を通って商店街にやって来た。

 

「さて......」

 

 着いたのはいいが、どうするか悩んでいる。5才くらいの子ども、それも女の子ときたもんだ。何を持っていけばいいのやら、さっぱり見当がつかない。

 そこで俺は訊いた――由夢(ゆめ)に。

 

「どう思う?」

「そうですねー。無難に縫いぐるみはどうですか?」

 

 クリスマスも兼ねて、と提案したきた。

 確かに無難だな、値は張るけど。近くのおもちゃ屋に入り縫いぐるみの棚を見て回る。

 

「これなんてどうだ?」

 

 アリクイの等身大縫いぐるみを担いで見せた。このつぶらで優しさを感じる瞳と全長2メートルを越す圧倒的な存在感。

 

「趣味悪すぎです」

 

 完全否定されると流石にヘコむ、結構自信あったんだけどな......。北海道で音姫(おとめ)くらいの女子が嬉しそうに背中にしょってたし。

 名残惜しく棚に戻すと由夢(ゆめ)は、ウサギの縫いぐるみを手に取った。

 

「これはどうですか?」

「殴ってストレス解消するのか」

「殴りませんっ! どうしたらそんな発想になるんですかっ?」

「いや、埼玉に行った時そんな内容のマンガが飯屋に」

「............」

 

 言い訳するな、と言いたげに睨まれ由夢(ゆめ)は、大きなタメ息を付いた。

 いくつか候補をあげて合格点を貰えた小さな熊の縫いぐるみを買い閉店間際の店を出る。

 

「ありがとな。由夢(ゆめ)

「いえ、どういたしまして」

 

 商店街を歩いていると由夢(ゆめ)と同じ制服を着た女子が二人が手芸店から出てきた。

 

「あら」

「あっやっほーっ。国崎(くにさき)さん、由夢(ゆめ)さん」

「こんばんは。雪村(ゆきむら)先輩、花咲(はなさき)先輩」

「よう」

 

 雪月花(せつげっか)(あんず)(あかね)。二人は、意味深な笑みを浮かべる。

 

「ふふっ」

「ふぅ~ん」

「何ですか?」

 

 由夢(ゆめ)の質問に(あかね)は、頬のちかくで人さし指を立ててニヤリとして答えた。

 

「お邪魔しちゃったかな~って。ねー(あんず)ちゃーん」

(あかね)、野暮はダメよ。男女の逢い引きを邪魔すると馬に蹴られるわ」

「そっか、そうだねっ。二人のあっつ~い時間を――」

「もういいか?」

 

 終わりそうにないからぶったぎる。二人は、不満気な表情(かお)をした。

 

「つまらないわね」

「のり悪いですよー」

「俺も暇じゃないんだ」

 

 帰って音姫(おとめ)の手料理を食べる、と云う重要な使命がある。こいつらのアホトークに付き合ってる暇はない。

 

 治安の良い初音島とはいえ流石に危ないだろうと、帰る方角が同じだった事もあり送っていく事になった。

 

「お前たちは何をしてたんだ?」

小恋(ここ)ちゃんへのお見舞いを買った帰りに布を買ってたんですよー」

「人形劇の装飾につかうんです」

 

 (あかね)は、手にもった小さな箱を胸元まで上げてた。見舞の品か、どんな物を買ったのか興味がある。

 

「なんだ、それ?」

「そこのお店のプリンです」

 

 目の前の洋菓子店を(あんず)が指を差した。それに由夢(ゆめ)が大きく反応。

 

「ここのプリンおいしいんですよ。あとケーキも」

「ふーん」

 

 プリンか、確かに病人には持ってこいの見舞品だ。行くときにでも寄って買っていってやるか。

 

「で、実際国崎(くにさき)さんたちは何をしていたんですか?」

「はいはーいっ、私も気になりまーっす」

「俺もお前たちと同じだ。見舞の品を買っていた」

 

 縫いぐるみがラッピングされた袋を見せる。

 

小恋(ここ)ちゃんへ?」

「違う。知り合いの子どもが水越病院に入院してるんだ」

「それで縫いぐるみなんですねー」

「ああ」

 

 鬼の様に何度も由夢(ゆめ)にダメ出しを喰らいながらな。

 話ながら歩き芳乃(よしの)家に到着、小恋(ここ)家は近所らしい。呼び鈴を鳴らして出てきた義之(よしゆき)を代わりに行かせる。

 今回は、由夢(ゆめ)が事前に連絡をしていたため怒られなかった。居間の炬燵(コタツ)に入って冷えた身体を暖めていると「ただいまー」と玄関から声が聞こえた。さくらの声だ。

 炬燵(コタツ)のテーブルに鍋をセットし夕飯の準備をしていた音姫(おとめ)が手を止めて出迎えに行った。

 

「ただいま~」

「あんっ」

「おかえりなさい、さくらさん。今日は、はりまおも一緒なんですね」

「おい、なんだ?」

 

 さくらの頭の上に居たはりまおが膝の上に乗ってきた。それを見てさくらが笑う。

 

「にゃははっ、気に入られてるみたいだねー」

「弟くんが帰ってきたらすぐに晩ごはんにします。少し待っていてくださいね」

 

 三十分程で義之(よしゆき)は帰ってきた。鍋を囲んで遅い晩飯。メニューはすき焼き。

 割り下の絡んだ肉や焼き豆腐が実に美味い。

 

「うまい」

「ほんとだねー」

「そう言えば、国崎(くにさき)さん。いつ渡すんですか?」

「ん? ああ......クリパが終わって次の日だ。港に行く前に寄ってくつもりだ」

「えっ? もう行っちゃうの」

 

 驚く音姫(おとめ)由夢(ゆめ)義之(よしゆき)も箸を止めて俺を見た。

 正直、長居をし過ぎた。俺自身あまり同じ土地に留まりたくはない。情が生まれてしまう。

 

往人(ゆきと)くん。来月末までは居てくれないと困るよ?」

「どうして?」

「どうしてって、お給料日月末だから」

「......今月末じゃダメか?」

「年末だからね~」

「マジか......」

「うんっ。マジマジ大マジだよ~」

 

 経理が間に合わないって事かよ......。

 

「ちょうどいいんじゃ無いですか? 杉並(すぎなみ)も色々調べてくれてますし。正月なら神社に人が集まりますよ」

「......もう少し世話になっていいか?」

「もちろんっ。大歓迎だよーっ。はりまおもなついてるみたいだしねー」

「あんあんっ」

 

 膝の上で鳴くはりまお。妙なのに気に入られてしまったらしい。

 

「ところで弟くん」

「何? 音姉(おとねえ)

杉並(すぎなみ)くんが何をしてるのかな?」

 

 音姫(おとめ)は笑顔で義之(よしゆき)に問いかけた。さっきの由夢(ゆめ)と同じで目が笑っていない。姉妹だな、と改めて思った。

 

国崎(くにさき)さんの探し物の手伝いだよ」

「探し物?」

「話してもいいですか?」

「別にいいぞ」

 

 特に隠す話でもない、むしろ何か手懸かりがあるかもしれない。

 

「空に居る翼を持つ女の子。う~ん......小説でも聞いたことないし、心当たりはないかな~、ゴメンね」

「私もありませんね。それにしてもっ意外とメルヘンなんですね」

「............」

 

 バカにして笑っている由夢(ゆめ)の取り皿から肉をかっさらう。

 

「もう~、からかっちゃダメだよ。由夢(ゆめ)ちゃん」

「はーい。って、あたしのお肉はっ?」

 

 義之(よしゆき)を笑顔で睨む。

 

「に・い・さ・ん?」

「お、俺じゃないぞっ」

 

 下からジーッと視線を感じた。

 箸を口元に持っていって小声で話しかける。

 

「ほら、これやるから黙ってろ。いいな」

「あん」

 

 はりまおは頷くと差し出された肉をがっついた。かっさらった由夢(ゆめ)の肉で買収に成功。

 食べ終わり片付けを終えると朝倉姉妹は実家へ帰って行った。

 俺は、義之(よしゆき)のあとに風呂に入って早めに床に付く。

 その深夜、ふと目が覚めた。玄関方で気配を感じたからだ。布団を出て玄関に向かう。誰かが扉を開けて出ていった。

 あの後ろ姿は――さくらか。また散歩かと思ったが深夜1時を回っている。

 俺は、急いで客間に戻り上着を羽織ってからさくらの後を追った。


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