来年の夏頃までは忙しく、あまり投稿が出来ません。
ただストーリーは最後まで考えているので、責任を持って執筆させていただきます。
優しい目で見守ってくださると嬉しいです。
クラス代表決定戦当日までマリアは一人自主鍛錬を行っていた。
最初は箒や一夏からも稽古に誘われていたが、断った。
一夏を想う箒の意を汲んで二人にしてあげようと考えたのも理由の一つだが、どちらかと言えば、クラス代表決定戦で戦うことになる一夏にあまり自分の型を見せたくなかったのだ。
マリアはセシリアにも一夏にも敗れないつもりでいたが、ISという大きな武器を皆が扱う以上、勝負では何が起きるか分からない。
一先ずは、自分で出来るだけの鍛錬を積もうと、箒に竹刀だけ借りて当日まで竹刀を振って過ごしていたのだ。
決定戦前日になり、マリアは千冬から呼び出しを受けた。
用件は、マリアの専用機が明日、つまり決定戦当日に届くという連絡をイギリスのIS研究所から受けた、というものだった。
マリアは久々に自分が狩装束を纏うことになるのか、と心の中で思った。
マリアは入学前、研究所の職員と専用機について話し合う機会があり、マリアのIS操縦時は自身の狩装束を纏えるようにし、武器は落葉にしてほしいと大まかな形で頼んでいたのだ。
研究所がそれらをどういった形で実現してくれるのかは当日実際に機体を見てから解る事であるが、研究所はマリアの依頼を快く了承してくれていた為、それらについてはしっかりと考慮されていることだろう。
そして、決定戦当日。
マリアや一夏、箒、千冬は第三アリーナ・Aピット内にいた。真耶は席を外している。
既にセシリアは専用機を纏ってアリーナ内で試合が始まるのを待っている。
「お、織斑くん織斑くん!」
「落ち着いてください、山田先生」
駆け足で一夏達の元へ来た真耶を、一夏が落ち着かせる。転びそうで、見ているこっちも心臓に悪い。
「山田先生、聞かせてください」
暫くして落ち着きを取り戻した真耶に、千冬が促す。
「は、はい!たった今、織斑君の専用機が届きました!」
「やっとか……織斑、直ぐに準備をしろ。アリーナを使用出来る時間は限られているからな。ぶっつけ本番でモノにしろ」
いきなりとんでもない事を言われた一夏は困惑する。
「え、あの」
「この程度の試練、男子たるもの軽く超えてみせろ、一夏」
千冬に続いて箒からも厳しい事を言われる。
「え?いや、えっと……」
「「「早く!」」」
千冬、真耶、箒の声が重なった。
ピット搬入口が鈍い音を立てて開き始める。斜めに噛み合う防壁扉は、重い駆動音を響かせながらゆっくりとその向こう側を晒していく。
────そこには、『白』がいた。
眩しいほどの純白を纏ったISが、その装甲を解放して搭乗者を待っていた。
「これが織斑君の専用機、『白式』です」
無機質なそれは、しかし俺を待っているように見えた。
こうなることをずっと待っていた。
この時を、ただこの時を。
早く私と一つになれと囁きかけている。
一夏はほんの僅かだが、その白から何か暗いものを感じた。
しかし一夏の疑念は直ぐに消える。
「織斑、早速準備をしろ。時間が無いからフォーマットとフィッティングは実践で行え。出来なければ負けるだけだ、分かったな」
何とまぁ先程から無茶を言う姉だと思いつつ、一夏は白式に触れる。
「あれ……?」
触れた瞬間、目の前の光景が変わった。
何だか全体的にぼんやりとした映像で、今居るはずのピットではない。
一夏は声を出すことも出来ず、ただその光景を見続けていた。
目の前には死にかけた一本の蛍光灯。
灯が自分の存在意義を捨てたのかと思えるほど部屋は暗く、殆ど見えない。
俺は手術台のようなものに仰向けでいた。
動くことが出来ない。
鋭い音がする。
古く錆び付いた車輪が回転する音だ。
この音は車椅子だ。
目を凝らせば、もう何十年も使い古されたような車椅子が此方に寄り添って来ているのが分かった。
誰かが座っている。
顔は見えない。
「成る程、君が………」
女性の声だ。
鼻から下は布で隠されており、どのような顔であるかははっきりとは分からない。
瞳と肩まで伸びた髪は血のように赤く染まっている。
「君は正しく、そして幸運だ」
「
「だが、全てを語るべき法もない」
女性は俺に顔を近づける。
「だから君、先ずは私の血を受け入れたまえよ」
女性は注射針のような物を取り出した。
「なあに、何も心配することはない」
「此処で起きた事は、全て夢のようなものさ」
「何があっても、また君に会いに行くよ」
右腕にチクリとした痛みが走る。
不思議な感覚だ。
目の前が更に暗く、ぼんやりとした輪郭を帯びた視界に変わる。
女性が静かに笑っている。
その笑い声も、次第に遠くなって………
「一夏!」
ハッと顔を上げる。
いつの間にか自分の見ている光景はピット内に変わっていた。
目の前には白式がある。
今俺を呼んだのは千冬姉みたいだ。
「おい、大丈夫か」
「あ、ああ……」
何だったんだ、今のは……。
改めて、白式に手を当て、意識を集中させる。
試験の時に、初めてISに触れた時に感じた電流のような感覚はない。
ただ、馴染む。理解できる。
これが何なのか。何のためにあるのか。
「背中を預けるように……ああそうだ、軽く座る感じでいい。後はシステムが最適化する」
千冬姉の言葉に従い、白式に身体を預ける。
受け止めてくれる感覚がした後、装甲が空気の抜けるような音を立てながら俺の身体に合わせて閉じた。
まるで、初めから自分と白式は一つの肉体であったかのように、繋がる。
自分の視界の解像度が一気に上がり、クリアな感覚が目の前と全身に行き渡る。
皆の肌の繊細な色彩やつくりがハッキリと見える。
マリアが此方を見ていた。
あまり表情を出さないようにしているのか、その顔から読み取れる感情はよく分からないが、何処か訝しげな目を向けられている気がする。
「マリア、何か俺の顔に付いてるのか?」
「いや………なんでもない。白式は問題なく作動しているのか?」
「ああ。特に異変は無いぜ」
すると、白式から警告が発せられた。
『戦闘待機状態のISを感知。操縦者セシリア・オルコット。ISネーム『
「ISのハイパーセンサーは問題無く動いているな。一夏、気分は悪くないか?」
いつもと同じように聞こえる千冬姉のその声は、僅かながら震えていた。
ああ、俺を心配してくれているんだな。それに名前で呼んでいるし。
「大丈夫、千冬姉。いける」
「そうか」
俺の返事を聞いて安心したのか、震えは無くなった。やっぱり、家族だから分かるのかな。
「いよいよだな、一夏。私との勝負も楽しみにしているぞ」
先程の表情とは変わり、自分を激励してくれるマリア。
ああ、と頷き、それとなく箒に意識を向ける。
何か言いたそうな、けれど言葉を迷っているような表情だ。これもきっと、普段なら分からないようなレベルなのだろう。
「箒」
「な、なんだ」
「行ってくる」
「あ、ああ。勝ってこい」
その言葉に頷きで応え、ゲートに進む。
身体を前に傾けるだけで、白式がふわりと空中に浮かび、前へと動いた。
ゲートが開くまで、後五秒。
相手は、すぐそこで俺を待っている。
◇◇◇
ゲートが開くと、一夏は身に纏った白式と共に空へと飛び立った。
あの時一瞬感じた、
あの悪夢で、あの時計塔で感じた
何故かその香りが私の中でフラッシュバックを起こす。
そして私をあの悪夢から解放した女。
顔は覚えていないが、赤く染まった瞳と髪を持っていたことは微かに覚えている。
「考えすぎ、か……」
考えても答えは出ないので、今は試合に向けて集中することにしよう。
◇◇◇
一夏とセシリアの試合は、セシリアの勝利という結果に終わった。
管制塔の中では真耶、千冬、箒の三人がモニターから試合の行方を見届けていた。マリアは一人で集中したいらしく、ここにはいない。
試合の内容はこうだ。
序盤、セシリアのライフル装備『スターライトmk.Ⅲ』と、このISの名前でもある6機のビット『
しかし最後、ビットを全て破壊し、白式の最大の攻撃でもある零落白夜をセシリアに当てる寸前に、一夏のシールドエネルギーがゼロになり、試合は終了してしまった。
ピット内に戻ってきた一夏は、納得のいかないような顔で白式を解除する。
「俺、なんで負けたんだ?」
「それは、一夏くんの装備、零落白夜に原因があります」
真耶は一夏達に向けて空中投影ディスプレイを出す。
そこには一夏が零落白夜を使っていた時の映像が流れていた。
「白式の最大の攻撃である零落白夜は、非常に大きな攻撃力を相手に与える反面、弱点があります」
「弱点?」
「零落白夜を発動するには、白式のシールドエネルギーを消耗する必要があります。今回、一夏くんは序盤にオルコットさんから何発もの攻撃を受けました。そのため、残り少ないシールドエネルギーで零落白夜を発動し、シールドエネルギーが底をついた、というわけです」
なるほどと思いつつ、扱い辛い機体だなと心の中で思う一夏。
「いわば、諸刃の剣というわけだ。零落白夜をどのタイミングで使うのかを常に考えなければならない。そういう面を考えると、白式は欠陥品だな。まぁ……完璧な機体なんて無いのだから、欠陥品というのも可笑しな話だが」
千冬はそう言って、一夏の手首を見る。
白式は今、一夏の手首でガントレットとなって待機状態にあった。
「次はマリアさんですね。私、呼んできますね」
真耶は三人にそう告げ、その場から席を外した。
◇◇◇
暫くして、真耶がマリアを引き連れて戻ってきた。
「よし、山田先生。マリアの専用機を」
「はい!」
千冬に促された真耶は、機械を操作し防壁扉を開く。
扉は先程と同じような重い音を出し、ゆっくりとその向こう側にある機体を晒していった。
まだ誰も見たことのないISに、皆はどんな姿なのか少しながらも期待している。
─────マリアの専用機であるISは、IS本来の姿と全く異なる形をしていた。
大きく異なる点として、ISに備われているはずの胸や腹部の装甲や翼の部分が無い。
あるのは肘から手までを覆う装甲と、膝下から足先まで伸びる装甲だ。
全体的に白と
マリアは大体のデザインをあらかじめ研究所に希望していたため、この期待の姿に然程驚かなかったが、前例の無いISの姿にマリア以外の四人は目を白黒させている。
マリアは今まで自分の部屋に置いていた落葉を持ち、そのISに近づいた。
「さて、これに触ればいいのか?」
「ち、ちょっと待ってくださいマリアさん!」
あまりの事態のついていけなさに困惑し、一人先に行こうとするマリアを留める真耶。
「織斑先生……これはISなのでしょうか……?」
「……さぁな。研究所がISというのならば、ISなのだろう。まったく、マリアが来てからというもの、イレギュラーが多いな……」
顎に手を添え、考え込む千冬。
すると、一夏が装甲についての質問をする。
「なぁマリア、このIS、形が俺たちの知っているISとかなり違うってのもあるけどさ、翼が無いぜ?これじゃ飛べないんじゃないのか?」
「ああ、翼は私の希望で外してもらった」
「外した⁉︎ど、どうしてですか⁉︎」
真耶が驚いて声を上げる。
「サイズが大きいし、邪魔だからな。私には合わない」
「じ、邪魔って……」
「だが、空へ行けるようにはしてくれているらしい。だから大丈夫だろう」
一体何が大丈夫なのかと怪訝に思う四人。
マリアはISの横に、小さい箱が添えられているのを見つける。
近づいて手に取ると、そこには“Lady Maria, you must listen to this.”と記されていた。
これは私が死ぬ前まで目にしていた言語だ。
学校でも時々見るが、イギリスでもこの言語が使われているのだろうか。
まだまだこの世界には知らないことだらけだから、もっと図書館などで調べていかなくてはいけない。
箱を開けると、そこにはテープレコーダーが入っていた。
マリアはボタンを押してみる。
すると、暫くして女性の声がレコーダーから流れ出した。
『Hello, Maria. This is from a lab in UK and......おっと、そういえばそこは日本だったわね』
自分にとってとても馴染みのある言語が聴こえてきたが、女性の声は日本語へと変わった。
少しの懐かしさを感じるとともに、日本語に変えなくてもいいのにとマリアは思う。
一方で外国語に馴染みのない一夏と箒は、日本語が聴こえるまで女性が何を言っているのかサッパリであった。
『初めまして。私は研究所の職員のエマよ。貴女がマリアね。今回は私達の研究に協力してくれてありがとう。お陰で他とは変わったISを作ることが出来たわ』
エマと呼ばれた女性は説明を続ける。
『このテープが聴かれているということは、貴女は今新しい専用機の前にいて、そしてもうすぐ対戦、ということになるのかしら。相手、ウチのセシリアみたいね。彼女、結構噛み付きやすい性格なんだけど、実は頑張り屋さんなのよ。だから、仲良くしてあげてね』
セシリアのことを言われ、少しだけため息が出るマリア。
『さて、余談は此処まで。本題の専用機に入るわ。先ずは、機体に触れてみて』
一応、マリアは千冬を見た。
千冬も此方を見て、頷く。触れても問題ないと判断したのだろう。
マリアは、白と緋が塗られた機体に触れる。
すると、機体が緋い光に包まれ、光が収まる頃には既にマリアの身体に装備されていた。
そしてマリアの服装は、かつて自分が着ていた狩装束になっていた。黒と茶色が混ざったような全体的に暗い色で、西洋風の服装だ。
背中の片側にだけマントが付けられており、ISを装備しているため手と足は機体で覆われている。
『装備出来たかしら?貴女の専用機の名前は、『
『
『貴女の要望で、IS装着時には貴女の装束が自動的に装備されるわ。これ、ISスーツに引けを取らないくらい頑丈ね。驚いたわ』
そういえばこの狩装束を着るのは久しぶりだ。
『それと貴女の持ってる『落葉』なんだけど、ISの装着時、非装着時にかかわらず量子変換出来るようにしておいたわ。部分展開みたいなものね。つまり、貴女の好きな時に『落葉』を出現させることができる』
『後は、空を飛ぶ方法なんだけど……足が翼の代わりになってくれるわ。貴女が翔べば、足の裏の大気を固定してくれる。“昇華”の現象とはちょっと違うんだけど、まぁ実際にやってみれば分かるわ。ほんと、翼を外すなんて考えるの、貴女が多分最初で最後だわ。作るの大変だったんだから。大事に使ってよね』
エマの、若干疲れたようなため息が聞こえた。
やはりISの翼を外すなんて無茶なことだったんだと改めて思うマリア以外の四人。
『他の機能とかも説明したいけれど……自分で模索していく方が分かりやすいと思うわ。じゃあ、初めての対戦、頑張ってね。良い結果を期待してるわ』
そこでテープの音声は切れた。
マリアは四人に顔を上げる。
「では、行ってくる」
エマの説明に呆気に取られていた四人はマリアの言葉で我に返る。
「全力を出していこう、マリア」
「次は俺と対戦だからな!俺みたいに負けないでくれ!」
「も、もはやISといえるのかどうか定かではないですけど……頑張ってください、マリアさん!」
「ふっ……見ものだな」
マリアに応援の言葉をかける四人。
マリアはそれに応えるかのように、しっかりとした足取りでゲートへと向かった。
◇◇◇
空を見上げると、蒼い機体が浮かんでいた。
セシリアのIS、『
マリアは膝を曲げ、空に向かって高らかにジャンプする。
エマの言っていた通り、足先の大気を踏み台にして跳ぶことが出来、5歩くらいジャンプしてセシリアの前で止まった。
セシリアは何故か、その顔を赤く染めていた。
目は少しトロンとしている。特徴的な垂れ目が細まっている。
彼女の口から微かに一夏の名前が聞こえたような気がする。
しかし、セシリアはマリアを視界に捉え、我に返る。
「お、遅かったですわね」
「風邪か?日を改めてやってもいいんだぞ」
「よ、余計なお世話ですわ!」
赤く染めた顔を指摘され、きまりが悪くなるセシリア。
しかし彼女の表情は直ぐに敵を見据えるものへと変わった。
「というか……なんですの?その機体は。まさかそれで私に勝てるとお思い?」
「御託はいい。さっさと始めるぞ」
「……‼︎いいですわ。その言葉、後悔なさらないで下さい」
セシリアはライフルを構え、マリアを睨む。
対するマリアはそれに臆することもなく、静かにセシリアを見据えている。
まるで二人の周りから音が消え去ったように静寂になり、やがて試合開始のブザーが響いた。
『
イギリスで製造された、マリアの専用機。
手足のみの装甲という、他のISとは逸脱した外見をしている。
近接武器としての機能をしており、強力な衝撃を生み出す力を持つ。
その威力は、血の性質に依存する部分が大きい。