とある日の夕刻
IS学園・医療病棟エリア
A病棟ICUエリア・A-301前
「……更識か」
「はい。……デュノアさんは?」
「二人にしてほしい、とな。少し気がかりだが」
「……もう少し遅く来た方が良かったでしょうか?」
「いや、いい。お前には話があって呼んだ。少し場所を変えるぞ」
◇
とある日の夕刻
IS学園・学園棟エリア
川沿い付近
「それで、怪我の具合は?」
「完治とまではまだいきませんが、支障はありません」
「そうか」
「……一夏君を護りきれず、申し訳────」
「謝罪は受けん。今回の件の責任は私にある。お前が非を背負う必要はない」
「ですが……」
「最も気に食わないことの一つは、私の非であるにも関わらず、お前までもが目をつけられてしまったことだ。……ふん、連中には処分する対象が必要らしい」
「……一族の名に泥を塗りました。これまでの当主に、顔向けが出来ません……」
「ああ。お互い裏のヒーローにはなりそこねたということだな」
「……学園内部も、大幅に入れ替えを?」
「いや、私たちの
「……というと?」
「状況が変わった。我々にも、まだやるべきことが残っている」
「……」
「これを見ろ」
「……走り書き……これは?」
「マリアの服の中にあった。襲撃後、顔を見に行くついでにあいつの制服も持って行こうとした時だ」
「『「
「ああ、私もだ。だが、手がかりを掴むことはできた」
「……」
「────『電脳ダイブ』の話を聞いたことは?」
「……理論上可能であることくらいですが」
「うむ……IS
「……それで?」
「この電脳世界は操縦者自身の意思・解釈・願望・記憶に大きく左右される……つまり理論上であれば、
「過去へ……?」
「もちろん介入はできない。歴史を改竄できる空想上のタイムマシンとはわけが違う。あくまで体験する、という話だ」
「もしかして……」
「……ああ。一週間後、マリアにこのプロジェクトを施す」
「ですが、昏睡状態の患者を?」
「すでに医師からの許可は得られている。まだ小康状態だが、脳自体の安定はしている。あとは適度な刺激が、あいつの目覚める一つの方法だと……。ここで希望を持つか、何もせず何年も目覚めを待つか……その二択だ」
「……それで、私がするべきことは?」
「ああ。マリアだけを電脳世界に行かせてもこのプロジェクトは成功しない。あいつを舞台に再び戻らせる
「殻に閉じこもった彼女を救い出す……ということですか」
「ああ。しかし専用機持ちたちはその間無防備状態となる。お前には、あいつらを守る役目を担ってもらいたい」
「……それだけですか?」
「ああ。マリアの情報を突きとめろ」
「……そして監視、ですね」
「……思えばあいつの強さは一生徒としては異常だ。今回襲撃による大ダメージを受けたとはいえ、お前もあいつの強さは肌で感じたことはあるだろう」
「……ええ」
「『狩りを全うするために』か……これがあいつの書いたものかは私たちに知る由も無いが……ふん、確かに狩人と言われれば、少しは納得もできる」
「……」
「場合によっては、だが……。あいつが今回の襲撃を手引きしたなどという
「……本当にそう思っているのですか?」
「……」
「学園の危機を何度も救ってくれた、あの子が敵だと!?」
「……私だって信じたくはない。だが状況が変わったんだ」
「ですが────」
「何度も言わせるな…!いいか、これは学園の生徒たちを守るためでもあるんだ」
「っ……」
「結果としてあいつが何者でもなかったのなら、それはそれでいい。その時は私にとって本当の
「……学園の生徒たちは、みな織斑先生を慕っています」
「それはこの閉じこもった殻の中だけの話だ。上はそんな思い出話に興味はない」
「……本当はもう一つ、あるのでは?」
「……」
「一夏君の監視……それも引き続き行うべき任務。間違いないですね?」
「……ああ」
「今回の襲撃事件、そして以前発生した彼自身への銃撃事件……いずれも調査報告書では、彼の不可解な矛盾が読み取れます」
「……異論はない。すまんが、頼らせてもらう」
「はい……────」