狩人の夜明け   作:葉影

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Twitterの方では更新のお知らせをする時、一緒にイメージ画像も添付してるので、ハーメルンの方でも画像を付けたいのですが、なんか容量が大きくて無理と言われます……どうすれば良いのか……(´ω`)


第41話 傷心

2020年7月7日 20:50

花月荘 臨時待機室

 

 

───箒さんを、探しに行きましょう。

 

 

セシリア……

 

 

ここで泣いていても仕方がありません。それに今、私たちには為さねばならないことがあります。

 

 

……そうね、よく言ったわ。

 

 

決まりだな。箒を迎えに行くぞ。

 

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

夜の真っ暗な海岸沿いを、箒は息を切らして走っていた。暗くて砂に足が(もつ)れるが、無我夢中で走り続ける。

 

そして、ふと足を止めた。

 

(私は……何をしているのだろう……)

 

自分のせいで、一夏を危ない目に合わせてしまった。

一夏はいつ目覚めるかは分からない。

いや、もう一夏は目覚めないかもしれない。

それなのに、自分は……。

 

『新しい力を手に入れて、弱い人間が見えなくなったのか?』

 

一夏が放った言葉が、箒の頭の中で想起する。

 

『変わっちまったな、箒』

 

「わ、私は……」

 

そんなつもりじゃなかった。

だがあの時、私は確かに自分の力に溺れ、周囲が見えなくなっていた。

一夏を守りたい────ただそれだけのはずだった。

 

ISを開発した姉のせいで、篠ノ之家は政府に保護されることとなり、そのため学校を転々とすることを強いられた。

新しい環境ばかりに順応しなければならない生活に、私は心身ともに疲弊していた。

中学の時、剣道の全国大会での決勝戦………私は自分のストレスを竹刀にのせた。

酷いものだった。私はただ力任せに相手を痛めつけていたのだ。強い力を持ったが故に。

試合は私の勝ちとなり、優勝という結果になった。だが私は、その後試合相手が涙を流しているのを見たとき、自分の浅はかさを思い知った。

 

それなのに、私はまた同じ過ちを繰り返してしまった。最早私には、ISという力を持つ権利など何処にも無い。

 

箒の目の内に、熱いものが込み上げてくる。

すると、後ろから砂の足音がした。

 

「はぁ……分かりやすいわねぇ。アンタって」

 

鈴の声だった。彼女は呆れた顔で箒を見る。

 

「で?落ち込んでますってポーズ?」

 

「………」

 

「───ざっけんじゃないわよ!!やるべきことがあるでしょうが!!今戦わなくてどうすんのよ!!」

 

鈴は箒の胸ぐらを掴み、怒号を浴びせる。

しかし箒は鈴に目を向けられず、足元の砂に目を落とした。

 

「もうISは………使わない」

 

「っ……!」

 

パァン!

 

鈴が箒の頰を思いっきり叩いた。箒は力無く砂浜に倒れる。顔にかかった砂は湿っていて、それが海水なのか自分の涙なのかは箒自身もよく分からなかった。

 

「甘ったれてんじゃないわよ!!専用機持ちってのはね、そんなわがままが許される立場じゃないのよ!!」

 

「っ……」

 

「それともアンタは、戦うべき時に戦えない臆病者なわけ⁉︎」

 

箒は肩を震わせ、拳を握る。

 

「どうしろというのだ……もう敵の居場所も分からない……」

 

「………」

 

「私だって……戦えるなら戦う!」

 

箒の意志に、鈴は真剣な笑みを見せた。

 

「……やっとやる気になったわね」

 

「え……?」

 

暗くて気付かなかったが、いつの間にか近くには、セシリアやシャルロット、そしてラウラがいた。

 

「あーあ、めんどくさかった」

 

「み、皆……どうして……」

 

「みんな気持ちは一つってこと!」

 

「負けたまま終わっていいはずがないでしょう?」

 

シャルロットとセシリアが箒に応える。

仲間に励まされた箒は、再び意志を固めた。

 

もう、逃げない。

 

敵からも。そして何より、自分からも。

 

 

 

 

 

 

「ラウラ、福音は?」

 

「確認済みだ」

 

ラウラはシュヴァルツェア・レーゲンを右腕だけ部分展開し、皆の前でディスプレイを投影する。

 

「ここから約30km離れた沖合上空に福音を確認した。ステルスモードに入っていたが、どうも光学迷彩は持っていないようだ。衛星による目視で発見した」

 

「さすがドイツ軍特殊部隊♪やるわね」

 

「お前たちの方はどうなんだ?準備は出来ているのか?」

 

「当然!甲龍(シェンロン)の攻撃特化型パッケージはインストール済み♪」

 

「こちらも完了していますわ」

 

「僕も準備OKだよ。いつでもいける」

 

「ま、待ってくれ!行くというのか……?命令違反ではないのか……?」

 

箒の問いかけに、鈴がなんでもないような笑みを見せた。

 

「だから?アンタ今、戦うって言ったでしょ?」

 

「お前はどうする?」

 

ラウラが箒に問いかける。

箒は拳を強く握りしめた。

 

「私……私は……」

 

そして力強い目で、皆を見る。

 

「戦う!今度こそ勝ってみせる!」

 

「決まりね。今度こそ確実に落とすわ!」

 

一致団結した専用機持ちたちは、各自ISを展開し、海の上を飛び始める。

銀の福音を目指して────。

 

 

 

 

 

 

海を飛び始めた時、シャルロットが皆に尋ねた。

 

「マリアはどうするの?」

 

ラウラがその問いに応える。

 

「福音は私たちだけで倒そう。マリアには、旅館とその近辺を守る砦になってもらう」

 

「シャルロットさん、マリアさんが気になりますか?」

 

マリアとシャルロットの関係を知っているセシリアは、心配そうな顔でシャルロットに聞いた。

シャルロットは一度だけ旅館の方を見て、しかし首を振った。

 

「ううん、今は福音の殲滅が最優先だよ。行こう!」

 

「分かりましたわ!」

 

専用機持ちたちは飛行速度を更に加速し、彼方にいるであろう福音の方向へと向かう。

 

 

すると突然、水平線上の遠く彼方から強い衝撃波が来た。

 

「くっ…!」

 

「敵か⁉︎」

 

ISを身に纏ってさえも直に伝わってくる衝撃風に、専用機持ちたちは腕で顔を隠す。

そして風が収まり、一同が顔を上げると、目の前は信じられない景色に変わっていた。

 

「な、なんだ⁉︎」

 

「さっきまで曇っていた空が、一気に晴れましたわ……」

 

「それに……何なのよ……この赤い空と月は……」

 

「……不気味だな………本当に夜なのか………?」

 

ラウラは今の衝撃波の原因を探るために、再び投影型ディスプレイを出現させた。そして衛星写真などを見ていると、ラウラは驚きの表情を浮かべた。

 

「こ、これは……!」

 

「ラウラさん?どうされましたか?」

 

「皆これを見ろ!福音が……暴走を始めた!」

 

「な、何だと⁉︎」

 

一同はラウラから送られたデータを確認する。

 

「な、何ですのこれは……」

 

「この暴走の様子……さっきの比じゃないよ!」

 

「それに機体の姿も……」

 

「まるで……あの時みたい……。アタシと一夏がアリーナで襲撃された時の様子と似てるわ……!」

 

「とにかく急ぐぞ!」

 

ラウラの呼び掛けに、専用機持ちたちは真っ直ぐに福音のもとへと加速を始めた。

 

 

 

 

 

海を飛んでいる最中、シャルロットは遠く彼方にある、血に染まったように赤い月を見て、あの日のことを思い出していた。

一ヶ月前……シャルロットがマリアと一緒に出掛けて、寮に帰って来たときのこと。シャルロットが電源を入れたラジオからは、こんなニュースが聞こえていた。

 

『………来月、日本で珍しい〝皆既月食〟が起こるようですが───』

 

『………月食という現象は、地球が太陽と月の間に入ることで───』

 

『………地球の大気に入った光……それが屈折して、赤い色だけ月面に───』

 

そう、今日はあの日から一ヶ月。

 

皆既月食が起きる日だった。

 

「赤い、月……」

 


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