狩人の夜明け   作:葉影

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真耶が束を見てビックリしてるシーンはもうすでに過ぎたテイでお願いします笑


第37話 侵入

専用機持ちが連れられたのは旅館の一室。

壁一面には大きなディスプレイに映った衛星写真、そして専用機持ちたちに囲まれるようにしてディスプレイが投影されている。真耶は他の職員とともにディスプレイの前に座って調査をしており、千冬は専用機持ちたちの前で状況の説明を行う。

 

「お前たちに確認したいのだが、アメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型軍用IS『シルバリオ・ゴスペル』が数ヶ月前に突如行方不明となったという報告は、各々政府から受けているな?」

 

千冬は専用機持ちたちが既に各国からその報告を受けていることを知っていたが、それぞれの状況把握を促すために今一度確認を行う。

ちなみに箒とマリアは、現時点では専用機を持っているが、国に帰属している立場ではないため、この事実は初めて耳にする。

 

「はい」

 

「確認済みですわ」

 

シャルロットとセシリアが返事をする。千冬は頷き、話を続ける。

 

「原因不明の失踪事件とされていたシルバリオ・ゴスペル────通称『福音』だが、突如南シナ海とフィリピン海の境界線付近でセンサーを感知。機体は暴走、衛星によれば両海の監視空域を離脱したとの連絡があった」

 

「何ヶ月も行方不明だったのに、いきなり出現って……」

 

「どういうことだ……?」

 

鈴とラウラが疑問の表情を浮かべる。

 

「この問題に関してアメリカとイスラエルに問い質してみたが、両国とも全くの無実を訴えている。事実、両国は福音が失踪してからずっと捜索をしていたとのことだ。今回突然現れ、日本に危機が迫っていることは、アメリカ及びイスラエルにとっても予想を遥かに超えた出来事だと主張している」

 

つまり黒幕はアメリカでもイスラエルでもない、ということだ。

 

「情報によれば、無人のISということだ────」

 

「無人……」

 

マリアは以前学園に襲撃してきたゴーレムⅠを思い起こす。獣のような姿をした機体。無人機という結論になり、襲撃者の保管されたあの地下特別区画は閉鎖されたが、しかしあの機体は恐らく────。

 

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから2キロ先の空域を通過することが分かった。時間にして50分後。学園上層部から の通達により、我々がこの事態に対処することになった。教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。よって本作戦の要は、専用機持ちに担当してもらう」

 

「は、はい⁉︎」

 

一夏が驚きの声を上げる。

 

「つまり、暴走したISを我々が止めるということだ」

 

「ま、マジ⁉︎」

 

「いちいち驚かないの!」

 

鈴が一夏を落ち着かせる。鈴に怒られた一夏は、渋々その場に座る。

 

「それでは作戦会議を始める。意見がある者は挙手をするように」

 

「はい。目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

 

セシリアが手を挙げて意見を述べる。

 

「うむ。だが決して口外するな。万が一情報が漏洩した場合、諸君らには査問委員会による裁判と、最低でも二年の監視がつけられる」

 

「了解しました」

 

「……よし、山田先生」

 

「はい」

 

真耶は福音のスペックデータをディスプレイに投影させる。

 

「広域殲滅を目的とした特殊射撃型……私のISと同じ、オールレンジ攻撃を行えるようですわね」

 

「攻撃と機動の両方に特化した機体ね……厄介だわ」

 

「この特殊武装が曲者って感じがするね……連続しての防御は難しい気がするよ」

 

「このデータでは格闘性能が未知数……偵察は行えないのですか?」

 

各々冷静な分析をし、そして千冬がラウラの質問に答える。

 

「……それは無理だな。この機体は現在も超音速飛行を続けている。 アプローチは……一回が限界だ」

 

千冬が深刻な顔で皆に伝える。

 

「一回きりのチャンス……ということはやっぱり、一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかありませんね」

 

横にいる真耶も、『一回』という言葉に賭けているようだ。

 

「一撃必殺……」

 

一夏は白式の必殺技を思い出す。

 

(俺に……全てがかかっているのか……?)

 

「一夏、あんたの零落白夜なら……」

 

鈴の言葉が一夏の耳に響く。一夏は拳に、力が籠る。

 

分かってる、分かってるんだ。俺の零落白夜なら福音を倒せるかもしれないってことくらい。でも……

 

一夏の脳裏に、過去の襲撃者の記憶が蘇る。

あの時───零落白夜を使ってゴーレムに攻撃した時………

斬り落とした右腕……機械であるはずの断面は、機器回路などは無く、人肉のようなものしか存在しなかった。IS機能による視界の高解像度のせいで、変色した肌、血肉、骨、血管、そこから溢れ出す血が鮮明に見えていた。

千冬姉は無人機だったと報告してくれた。その場にいた当事者であるマリアも、あれは無人機だったと保健室で言ってくれた。

 

そうだよ、あれは無人機だったんだ。それっぽく作った、見せかけの機械だ。そして今回も無人機なんだ。なに恐がってるんだよ、俺───。

 

しかし一夏はあの時のことを思い出し、恐怖で手が震えていた。それを感じ取った千冬は、一夏の背中に告げる。

 

「織斑……これは訓練ではない。実戦だ。もし覚悟がないなら、無理強いはしない」

 

一夏は自分が辞退した後のことを想像する。

もし……もし俺が行かなかったせいで作戦が失敗したら……。

一夏は自分の恐怖を打ち殺し、勇気を持って答える。

 

「……やります。俺が、俺がやってみせます」

 

一夏を見つめるセシリアの目に浮かぶ、不安と心配の色が、一層強くなった。

 

「……よし。だが問題は……」

 

「どうやって一夏をそこまで運ぶか。エネルギーは全部攻撃に使わないと難しいだろうから、移動をどうするか」

 

「目標に追いつける速度が出せるISでなければいけないな。超高感度ハイパーセンサーも必要だな」

 

シャルロットとラウラが千冬に続いて対処法を提案する。千冬も頷き、同意する。

 

「それでは、専用機持ちの中で最高速度の出せる機体は────」

 

バンッ!

 

「ちょっと待って、ちーちゃん」

 

天井裏をいきなり破って出てきたのは束だった。束は相変わらず(やつ)れた作り笑いをしながら静かに畳に降り立つ。

 

「出て行け束。今は───」

 

「聞いてよちーちゃん。ここはね、紅椿が最適の手段になると思うよ」

 

「何だと……?」

 

 

 

 

 

 

離れの森、その中にある滝の側で、一同は準備をしていた。

 

「いくぞ、紅椿!」

 

箒が紅椿を展開する。

 

「それじゃあ箒ちゃん、展開装甲をオープンしてみて」

 

「はい」

 

箒は紅椿の要・展開装甲を出現させる。両の腕肩脚部と背部に装備され、その一つ一つが自動支援プログラムによるエネルギーソード、エネルギーシールド、スラスターへの切り替えと独立した稼動が可能であり、背部の2機は切り離してビットとしての使用も可能となっている。

 

「展開装甲はね、第四世代型ISの装備で、一言で言うと……紅椿は、『雪片弐型』が進化したものなんだよ」

 

一同にざわめきが起きる。攻撃と防御の両性能を持った装甲………あまりにも進化し過ぎたISだった。

だが、今はそれに驚く暇もない。こうしている間にも、福音は着々と近づいてきている。

 

「それで束、紅椿の調整にはどのくらいかかる?」

 

「織斑先生!」

 

「なんだ?」

 

千冬を呼んだのはセシリアだった。

 

「私とブルー・ティアーズなら、必ずや成功してみせます」

 

セシリアは強く主張する。彼女がこれほどに自己推薦をする理由には、二つの理由があった。

 

「高機動パッケージ、ストライク・ガンナーが本国から送られてきています」

 

この装備なら、福音を倒せる可能性は大いにある。だが、これはあくまで理由の一つに過ぎない。

もう一つの本当の理由は、一夏をなるべく危険な目に合わせたくないからだ。

専用機持ちといえど、一夏はまだ実戦慣れをしていない。確かに零落白夜は強力だ。だがもし一夏が危険な目に合うと想像してしまうと、自分は居ても立っても居られなくなる。

想い人のために、少しでも自分が力になりたい。

 

だが、千冬はセシリアの期待した答えを口に出さなかった。

 

「ダメだ」

 

「何故ですの⁉︎」

 

「そのパッケージは量子変換させてあるのか?」

 

「そ、それはまだですが……」

 

セシリアは俯いてしまう。

千冬の言っていることは正しかった。装備の量子変換にはかなりの時間を要する。一度変換すれば、次からは瞬時に出来るようになるのだが、ストライク・ガンナーはまだ開封したばかりで手をつけていない。量子変換させていなければ、強力な武器も闘いに不利となるだろう。

悔しい気持ちで落ち込むセシリアに、束が優しく声をかける。

 

「大丈夫だよ」

 

「え……」

 

「紅椿なら白式と一緒に迎撃できる。それに、7分あれば紅椿の調整も出来ちゃうからね」

 

そう言って、束は箒の下へと向かった。

 

「よし。本作戦は、織斑・篠ノ之両名による目標の追跡及び撃墜を目的とする。作戦開始は30分後。各員、準備にかかれ!」

 

千冬が手を打ち鳴らし、準備開始の合図をした。

 

箒は向こうにいる一夏の真剣な横顔を見つめている。その横顔を見て、自分が一夏の力になれるのだと改めて認識し、口元がつい綻ぶ。

 

「ふふ、なんかいい感じだね」

 

いつのまにか、下から束が覗いていた。箒は姉に見られたくない顔を見られた気分になり、恥ずかしくなる。

 

「そ、そんなことはない!」

 

「そんなむすっとした顔しないで。笑って笑って!」

 

「この顔は生まれつきなので」

 

「ふふ、まーいいけど。箒ちゃんの笑顔、もう一回まっすぐ見てみたかったな……」

 

束はしんみりとした声で呟いた。束の弱気な声に、箒も変に気まずくなる。

 

「じゃあ、早いとこ紅椿の調整終わらしちゃおっか!」

 

 

 

 

 

 

ピッ、ピッ、ピッ、………

 

 

カチャ、カチャ、……

 

 

「紅椿の調整、もうちょっとで終わるからね〜」

 

 

「は、はい」

 

 

「緊張してる?」

 

 

「ええ、まぁ……」

 

 

「そっか。いきなりだもんね」

 

 

「………」

 

 

「………」

 

 

「………」

 

 

「……ねぇ、箒ちゃん」

 

 

「………?」

 

 

「お姉ちゃんが居なくて、寂しかった?」

 

 

「……いえ」

 

 

「お姉ちゃんはね、ずっと寂しかったよ」

 

 

「……それを選んだのは、姉さん自身です」

 

 

「っ………そうだよね。ごめんね……」

 

 

「謝らないでください。もう……慣れましたから」

 

 

「うん……」

 

 

「………」

 

 

「………」

 

 

「………」

 

 

「………」

 

 

「……姉さん」

 

 

「なあに?箒ちゃん」

 

 

「『雨月』と『空裂』………どうしてこの名前にしようと思ったんですか?」

 

 

「………」

 

 

「……姉さん?」

 

 

「……今は知る必要は無いよ。本当は、知らないで終わるのが一番、だけどね……」

 

 

「……?それはどういう───」

 

 

「さ、調整終わったよ!ちーちゃんに伝えてくるね!」

 

 

「あ、姉さ……ん……───」

 

 

タッタッタッタッ………


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