狩人の夜明け   作:葉影

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余話 深夜2:00am

「うううっ………」

 

また、これだ。

いったい、いつからこんな身体になってしまったのだろう。

俺の身体に起きる異変は、決まって満月の夜にやってくる。

確かあの時も……ラウラの機体が暴走した日の夜も満月だった。

思えばあの日から、俺は満月の夜が怖くなった。

何が原因なんだ?

暴走したラウラの機体に自分の拳を包まれたときか?

確かにあの時も、今身体に起きている異変と同じようなことが起こった。

だがあれは、なんとなくだが、一過性のようなものが気がする。

じゃあ、本当の原因は?

そんなもの、解らない。

でも共通していることは、俺はどうにも月明かりに恐怖を感じるんだ。だからこうやって今も布団に(くる)まってるんだ。

俺の身体はどうしちまったんだ?

俺のアタマはどうしちまったんだ?

考えれば考えるほど、気分が悪くなってくる。ダメだ。何も考えないようにするんだ。

 

「……一夏?」

 

千冬姉だ。

俺のおかしな様子に眠りから覚めてしまったみたいだ。ごめん、千冬姉。でも、本当に辛いんだ。

 

「おい一夏、どうした?」

 

「な、なんでもないよ……」

 

「なんでもないはずがないだろう。気分でも悪いのか?」

 

「あ、ああ……」

 

千冬姉が布団越しに俺の背中をさすってくれる。でも俺の吐き気は全く(おさま)る気配が無かった。

 

「一夏、少し顔色を見せろ。熱も計る」

 

「い、いいって」

 

「ダメだ。顔色を見ないと治しようがないだろう。さ、一旦布団から顔を出せ」

 

違う、違うんだ。

 

お願いだ、やめてくれ千冬姉。

 

 

 

だが非情にも、千冬姉は俺の布団を取った。

 

俺の視界に、たっぷりと満ちた月が現れる。

 

その満月を見た瞬間、俺の身体中の血液が騒ぎ始める。

 

全身の毛が逆立ち、大量の汗が噴き出す。

 

そして一気に吐き気がこみ上げ、俺は布団の上に嘔吐した。

 

「うおえええ!!」

 

「おい一夏!しっかりしろ!」

 

「……だ、大丈夫だから……カ、カーテンを閉め……」

 

「カーテン……?」

 

千冬姉は訳が分からないといった表情をするが、カーテンをきっちりと閉めてくれた。そしてずっと背中をさすってくれた。

 

「大丈夫か?まだ吐き気はあるか?」

 

「いや……」

 

「そうか。そのままでいい。直ぐに水を入れよう」

 

そう言って、千冬姉は横の冷蔵庫の中から水の入ったペットボトルを出して、コップに注いでくれた。

 

「ほら、ゆっくりでいいから飲め」

 

「あ、ありがとう……」

 

カーテンを閉めた真っ暗な部屋で、自分の身体にヒンヤリとした水が行き渡るのが分かる。身体の震えが少しずつ(おさま)っていく。

 

「熱を計ろう。私の布団で横になれ」

 

千冬姉は俺の背中を支えながら、自分の布団に寝かせてくれた。

 

千冬姉は救急箱の中にある体温計を、俺の腋に挟んでくれた。

 

俺が熱を計ってる間に、千冬姉は横で俺の吐いたモノを掃除してくれている。

 

ごめん、千冬姉。

 

ごめん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

枕元に置いてあるコップが目に入った。

 

 

俺はそのガラスの中で、酷く()()()()顔をしていた。


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