狩人の夜明け   作:葉影

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第3話 損傷

千冬と真耶は、今までに見たことがない現象を目の当たりにしていた。

 

「これは……いったい……」

 

「お、織斑先生……ISが……」

 

真耶は予想だにしなかったISの変わり果てた姿に少し怯えたような表情を浮かべていた。

 

(どういうことだ……?マリアは女性だから、ISを作動したのは理解できる。それはいい。しかし、あの形は何だ⁉︎打鉄の、いや全ISの姿とはまるで逸脱しているではないか‼︎)

 

マリアが身に纏っているISは驚くほど形が禍々しく歪んでおり、腕や肩の装甲の半分以上は剥がれ落ち、マリアの身体の一部が見えてしまっている。脚の部分の装甲も、所々が赤黒く変色しており、形が不規則に棘のように鋭くなってしまい、非常に危険だ。背中に備わっている飛行用の翼であるカスタム・ウィングも、内部の機器回路などがほとんど見えてしまい、もはや飛ぶことすら不可能に思われる。

千冬は警戒心を保ちつつ、しかし前代未聞の出来事にどう対処すればよいか分からなかった。

一方でマリアは、自分がISを身に纏ってしまったことに対し、極めて冷静でいた。

 

(これが……ISなのか?私が想像していた搭乗のあり方とはかなりズレているが……。)

 

マリアは周囲を見渡してみる。何故だか、自分の見ている光景にノイズのような、故障寸前のような砂嵐が走っている。

 

(もしや、壊れているのか?いや、私が触れる前は不調など無いように見えたが……。しかし、視界だけでなく耳にもノイズが走っている……。それに何だか気分が悪い。吐き気もする)

 

ISについて何も知らないマリアであるが、一つだけ分かったことがあった。

 

私はこのISに拒絶されている。

 

ノイズは更に増え、気分の悪さも増してきた。

 

「マリア、どうした⁉︎顔色が良くないぞ」

 

「マリアさん、もしかして気分が悪いですか⁉︎それなら、今すぐISから降りてください!『降りる』と頭の中で念じれば、自然に解除出来ますから!」

 

「うっ……分かった」

 

マリアは頭の中で念じ、ISを解除した。ISは変わらず歪んだ形のままである。

 

「マリア……聞くが、このISに何かしたか?」

 

マリアの様子から見るに、答えは違うと分かりきってるが、それでも千冬はマリアにそう尋ねてみる。

その顔には少なからず疑いの表情を浮かべていた。

 

「いや、私はただ触れただけだ。それ以外のことは何もしていない……」

 

「そうか……」

 

千冬にも人を見る目はある。マリアの表情を見れば、嘘をついていないことなど直ぐに分かった。

 

では、一体なぜ?

 

考えても答えは出ないので、千冬は先ず、何もかもが歪んでしまったISを見ることにした。

 

「山田先生、このISを一先ず検査しよう。そしてマリア、すまないがお前も検査を受けてもらう」

 

「分かりました。ではマリアさん、こちらへ」

 

「……分かった」

 

そう言って真耶はマリアをIS搭乗者専用の診断室に連れて行った。

千冬は2人を見送った後、しばらくの間変わり果てたISを見つめていた。

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

「織斑先生、結果が出ました」

 

3人はIS搭乗者の診断室におり、マリアは千冬と真耶とガラスを隔てた検査室にて検査を受けていた。

マリアの横では先ほどのISが検査を受けていた。

白く太い機械のリングが、マリアとISの全身を上から下まで何度も往復をしている。

真耶は目の前のディスプレイを操作する手を止めた。

千冬は少し不安の表情を浮かべ、真耶の言葉を待った。

 

「打鉄のダメージレベルがE、そしてマリアさん自身のIS適性レベルは………Sです」

 

「なんだと⁉︎」

 

ISには損傷の程度を表すダメージレベルという基準値が備われており、レベルEは高度な修理技術を有する者でなければ修復はほぼ不可能とされている深刻さである。

そしてIS適性とは、操縦者がISを上手く操縦するための必要な素質であるが、一般的な操縦者のランクはC〜Aに多く分布している。

 

(ダメージレベルE……そしてIS適性がS……。適性レベルでSを出しているのはブリュンヒルデの私や他のヴァルキリーくらいしかいない……。適性レベルがSにも関わらず、ISに触れただけで破損してしまうとは一体どういうことだ……全てが理解不能だ……)

 

千冬は眉間にしわを寄せ、考え続ける。

マリアはガラスの向こう側で、深刻な顔をしている千冬と真耶を見つめ、どうすれば良いのか分からず、じっと沈黙を保っている。

 

 

 

 

 

「そういえば……」

 

「なんだ?山田先生」

 

「以前耳にしたことがあります。織斑先生も少し聞いたことありませんか?新しく入学してくるイギリス代表候補生の彼女、……」

 

「……あの話か。まさかとは思っていたが……」

 

「はい。イギリス代表候補生の彼女もマリアさんと同じく、初めてISに触れたとき、ISが変形してしまったようです。マリアさんほどの深刻なレベルにまで変形や損傷はしなかったみたいですが……」

 

千冬はマリアと、真耶の前にある投影されたディスプレイを交互に見つめる。

 

「そのイギリス代表候補生の専用機を製造した研究所に聞けば、何か分かるかもしれんな……」

 

「はい、その可能性は高いと思います」

 

千冬はしばらく考え込んだ後、何かを決心したように顔を上げる。

 

「山田先生、マリアを学園に迎えてみないか?」

 

「え⁉︎」

 

「確かに謎は多い。ISに触れたこともない人間がこのランクを出したんだ。だが、私たちに自身の素性について何か嘘をついている様子でもない。あれは本当に何も知らない表情だ。マリア自身も帰る宛が無いと言っている。このままあいつを放っておいて、ISを配備している反社会的勢力団体などに目をつけられるより、私たちがISについて一から教育し、それと並行してマリアの謎を解いていき、帰る場所を見つけてやる方が余程良いとは思わないか?」

 

正直、千冬自身もこのようなことは初めてのため、適切な対処が思いつかなかったが、現時点ではこれが最善の解決策のように思えた。

真耶は少し考え、千冬の目を見て言う。

 

「分かりました、織斑先生。私もそれが今の一番の方法だと思います」

 

「よし、では決まりだな。後はマリアの意思だが……」

 

そう言って、千冬は検査室にいるマリアを見る。

マリアも、千冬が何か決心したように見えたので、真剣な顔で目を合わせる。

 

「マリア、IS学園に来ないか?」

 

「学園に?」

 

「ああ。どのみち、これから何をするかも決まっていないのだろう?ISについて私たちと一緒に勉強してみないか?」

 

「………」

 

マリアは考え込む。

確かにこれから何処へ行くのかも宛は無い。

それに、自分がここで目覚め、ISに触れたことにも、何か意味があるのかもしれない。

ISについても深く知れる機会になる。

 

マリアは千冬と真耶に目を向けた。

 

 

 

「分かった。学園に入ろう」

 

 

 

しばらくここで過ごすのも悪くはないかもしれない。

マリアはこれから自分がどうなっていくのか、しばしの間思いを馳せた。

 

 

 




さっき親知らず抜いてもらいました。
痛い………。

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