狩人の夜明け   作:葉影

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プロローグ

「ひとつ......聞かせてくれないか......」

 

時計塔にて、月の香りの狩人に敗れたマリアはそう言った。

血塗れになって倒れ、呼吸は荒く、意識がぼんやりとする。

月の香りの狩人はマリアの側へゆっくりと歩み寄り、顔を近づけるようにして屈んだ。

睫毛は長く、鋭い目。髪は赤く肩の辺りまで伸びており、身体は全体的に少し細く、腰つきや胸の膨らみは女性のそれであった。顔は鼻の辺りまで服で隠されているため、どのような表情かは窺えない。

 

「私は......また繰り返すのか......この悪夢を......穢れた過去を......」

 

マリアがそう言うと、月の香りの狩人は少しの間目を伏せ、しばらくして静かに答える。

 

「貴女は十分に苦しんだ。もう過去の罪を背負う必要は無い」

 

そう言うと、月の香りの狩人はゆっくりと立ち上がり、マリアの側を離れ、マリアが座っていた椅子に近づく。

血塗れのマリアは動くことも出来ず、ただその背中を見ていることしか出来ない。もう彼女には月の香りの狩人を止める意思も無かった。

 

月の香りの狩人は、マリアの椅子に置いてあった星見盤を持ち、ゆっくりと頭上に掲げた。

すると、時計塔の上部にあるいくつもの鐘が鳴り響き、巨大な時計盤から地響きのような音が聞こえてくる。

月の香りの狩人は、ただ時計盤の向こう側への道が開かれるさまをずっと見続けていた。

先の秘密を見つめるその目は、狩人としての正義を持つ目にも、微かな好奇を持つ目にも見える。

 

 

 

 

マリアの視界がぼやけていく。

 

 

(もう私は死ぬのか......いや、すでに死んでいたのだったな......)

 

 

 

時計の歯車が動きだす。

 

 

(すべて消えてしまうのだろうか.......この穢れた血とともに......)

 

 

 

時計の針が動く音がする。

 

 

身体から滴る血の音も微かに聞こえる。

 

 

(すまない......)

 

 

血の音は、かつて教会の血の聖女だった彼女を思い出させた。

 

 

(私は......最後まで............君を................)

 

 

もう殆ど目は見えない。

 

ほんの少しだけ、月の香りの狩人が自分の方に振り返った気がした。

 

 

「私がこの悪夢を終わらせる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつの間にか、もう月の香りの狩人の姿はそこにはなかった。

 

もうあれからどれくらい時間が経ったのかも分からない。

 

そして、長い間開かれることのなかった時計盤の穴を見たのを最後に、マリアはゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

 

意識を手放す瞬間、どこからか声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、狩人様。また繰り返すのですね」

 

 

 

 




Bloodborneの物語、人物の解釈は本当に難しくて、正直自分でもよく分かっていません。
なので、他の人との解釈の違いは当然出てくると思います。
その部分を理解していただいたうえで読んでもらえると嬉しいです。

自分はISが物凄く好きなので、「ISとBloodborneの世界観を混ぜたらどうなるのか」と思い、このような作品を書かせてもらいました。
書いてる反面、「この二つは混ぜるべきではないかも」とも少し思ってしまっています(笑)

ゆっくり更新していく予定です。
よろしくお願いします。

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