場面も原稿も全く進まん。『絶望せよ、それが地獄だ』ってか?
ああ~、大学後期始まるんじゃぁ~。行きたくないよお~、成績見たくないよお~。
「うあー、だりい……」
頭をばりばりとかきながら、伊丹は廊下を歩いていた。
「書式に始まり丸の付け方、ほんと俺特別がつく方の公務員でよかったよ」
昨日から必死で書類の作成、今日の午後に至り、ようやくすべての提出まで完了したのだ。
「これを余裕でこなすんだから仁科本当すげえわ」
「これ、普通の公務員なら余裕でこなす量なんですけどね」
そう返すのは隣で歩く仁科である。書類関連が得意であることから、伊丹の補佐をしていたのである。
「だが、その苦労も今日で全部水に流せるぜ」
「ええ!今日はなんといっても……」
そう、今日はなんとアルヌス基地に浴場施設が設置されたのだ。今まで身体を洗う施設がシャワーくらいしかなかったため、これで温かい湯槽に身体を休めることがでするのだ。
「いくぞ仁科!!熱い風呂が俺達を待っている!!」
「ええ!一番風呂はいただき……」
「あ、伊丹二尉!避難民の件で施設科から呼び出しが来てます」
今、なにか不穏な声が聞こえたような。
錆び付いたような音を立て、伊丹が振り替える。
「今じゃなきゃだめ?」
「はい☆」
伊丹は天を仰ぐ。
どうやら、仕事はまだ続くらしい。
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「はふう」
自衛軍がアルヌス基地に設置した浴場施設。天幕の中に浴槽と脱衣場、シャワーなどを最低限置いたそこで、ロウリィは肩までお湯に浸かっていた。
「まさかこんなところに本格的な浴場があるなんてねぇ。運がいいわぁ♪」
特地では浴場、特にお湯を並々と注いだものは滅多にない。それこそ、高貴な身分や祭典のときぐらいである。
「彼らの技術は信じられないほど進んでいる。この浴場も毎日使えるらしい」
「本当ぉ!!」
この浴場の外で見張っている小柄な女性から聞いたことをレレイがいうと、ロウリィは花のような笑みを浮かべる。
「神官様は、余り浴場に入らない?神殿にはあると聞いたが?」
「ロウリィでいいわよぉ。そうねぇ、私は各地を使徒として巡り歩いていたから、余り機会はなかったわねぇ。それにしてもぉ、これだけのお湯をそう毎日調達出来るなんてぇ、一体何者なのかしらぁ」
そう、この浴槽いっぱいのお湯を毎日調達出来ることといい、謎が大きすぎるのである。
「幻術の類いに幾体もの怪異の使役、他にも未知の技術を彼らは多数持っている。まだ推測の域を出ないが、念話を使用する者もいるかもしれない」
「そうねぇ、私の見た限りでも、恐らく高度な文明を有しているのでしょうねぇ。貴方はなにか知らないかしらぁ?」
ロウリィが話を振ったのは、隣で同じく湯船に浸かる金髪のエルフの少女である。
「……え、私!?ええと……、悪い人じゃないと思う……よ?」
いきなり話を振られたからか、かなり慌ててるようすである。
「……ふふっ、そうねぇ。少なくとも、粗野な人間ではないことは確かね。……確かテュカ……って言ったかしら?あなた」
「え、ええ。コアンの村、テュカ・ルナ・マルソーよ……」
「マルソー?……ふふっ、あのマルソーかしらぁ」
「??」
首を傾げるテュカであるが、ロウリィはそのまま話を続ける。
「そう、そういえば貴女ぁ、彼らに助けられたんでしたっけぇ」
「……そうみたい。その時のことは、余り覚えてないけど」
暗く顔をふせるテュカ。
「ふうん……。レレイの住んでた村も、彼らに?」
「同じく、ここまで手助けをしてもらった。炎龍との戦いは、貴女も知る通り」
「そうねぇ、一緒に戦って、悪い気はしなかったわぁ」
「なら、信用できる?」
レレイが気にしているのは、彼らがなんの目的で自分たちを助けてくれるのかである。レレイとカトー、ロウリィはともかく、他の子供はいく当てがない。それゆえ仕方なくここに身を寄せたが、彼らにとって見知らぬ軍隊である自衛軍は、恩があると同時に、それでも信用できるか判断しかねていたのだ。
「見返りを求めるならわかる。だが、彼らはなにも求めない。それが不思議」
「そうねぇ、全くの善意というわけではないでしょうけど、今は任せてもいいんじゃないかしらぁ」
その言葉にレレイは首を傾げる。ロウリィは何を根拠にそれを言うのか、レレイには今一つわからないのだ。
「どうしてそう言い切れる?」
「彼らが炎龍と戦ったこと、そしてそれを撃退したことよぉ。正直な話、彼らは逃げることもできたわぁ。あの速さなら可能でしょうねぇ。でも、それをしなかったぁ。彼らは自分たちに炎龍を引き付けて、避難民達の逃げる時間を稼いだわぁ。つい最近あったばかりの異国の人間に命を懸けるのは、そう簡単に出来ることではないわぁ。だからこそ、私は彼らを、少なくとも信じられる人間だと思っているのぉ」
その言葉にレレイが考え込んでいると、外の方から高い声がして、コダ村の子供たちが浴室に入ってきた。
子供達の笑い声や驚く声、楽しげな声を聞いて、レレイもこの事は一旦おいておこうと考え、お湯に深く身体を沈める。生まれて初めての浴槽は気持ちよく、身体中を温かく包み込んでくれた。
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さて、今のところコダ村の避難民の面倒は伊丹達自衛官が見ているが、いずれは彼ら自身で独立して生活をしなければならない。しかし、それにも問題がある。
それは、彼らのほとんどは何処にも行けなかったからこそ自衛軍に保護されているということ。つまり、自活能力が低い、或いはないと言うことである。
簡易居住区に身を寄せている人間は、ほとんどが子供、或いは老人や負傷者である。一部の例外を除けば、ほとんどが木を伐って売るとこも、狩猟を行うことも困難なのである。
「どうしよう、このままじゃ身売りでもするしか……」
そう苦い顔をするのはテュカである。彼女は健常ではあるが、近くのエルフの集落が全滅してしまった以上、身を寄せる場所がここしかないのである。街へ出ようにも一人ではエルフであることが足枷となってしまうのである。
それ故に、この近辺で出来ることを探さねばならないのだが、何しろここは本来人の住み着かないアルヌスの丘である。やれることがほとんど無いのだ。
だが、テュカの手詰まりと言うような顔に、レレイは否と言う。
「その必要はない。先ほど自衛軍から、丘の中腹にある翼龍の死体から、好きなだけ鱗をとって良いと言われた。翼竜の鱗は高く売れる。それである程度の生活費は稼げるはず」
「で、隊長。俺たち今度は運送業者ですか?」
ドライバーの倉田が、遠慮なく伊丹へ不満を告げる。
「あの量の鱗を売るには、ここからかなり離れたイタリカまで行った方が信用は確実らしい。それに、難民の自活は良いことだよ。上の方からも特地の経済状況を見てこいって指示もあるしな」
既に車内にはレレイを初め、ロウリィやテュカが乗っている。伊丹達も装備の確認が終われば直ぐに出発できる状態である。
翼竜の鱗は日本円に換算すると、綺麗な物で三万円位の値がつくらしい。当然それだけの値段となると、相応の街で売る必要が出てくる。そこらの店では安く買い叩かれるかもしれないからだ。
「ドローンの積み込み、全機完了しました」
確認報告をするのは勝本である。特地では炎龍の様な危険生物がいることから、効果のあった飛行ドローンを初めとして、様々な武器が加えられていた。
「しかし対戦車用粘性弾はともかく、高周波ブレードなんてどうしろってんだよ……。俺たちはサイボー○忍者じゃないんだぞ」
支給された武器に混じっていたそれに嘆息しつつ、伊丹はそれを手に取る。
単体完結型の高周波ブレード。内部電源で動いているため使用が容易であり、切れ味も鋭い。が、卓越した義体使いならともかく、伊丹達一般の自衛官にこれで炎龍の様な化け物と戦えと言っているとは思いたくはないものである。
「○奪でもしろと?」
「むしろホドリゲス新陰流かも」
そんな事を話ながら、伊丹は武器が積み終わるのを待ちつつ、今日のニュースを電脳で日本から受け取っていた。普段受け取らないようなニュースまで見ているのは、あのときの柳田との会話を引きずっているからかもしれないが。
「火星の探査機故障に、スウェーデンで不死身のヤギが暴れまわってる。……あれ、割りとえらいことになってないか向こう?」
「隊長、荷物の積込が終わりました。……どうしたんですか?」
「いや、何でもない。おやっさん、点呼!」
ARで展開していたニュースを閉じ、伊丹は仕事へ戻る。桑原が点呼や陣形確認を行い、第三偵察隊とヒチコマを連れた車列は、基地の外へ走り去っていった。
さて、翼竜の鱗をどこに売りにいくかと言うことであるが、これに関しては当てがある。カトーの知り合いに信用に足る商人が居るとのことで、その人物がいるイタリカの街というところへ行くこととなった。
「テッサリア街道、それにロマリア山麓……と」
隣に座るレレイから地名を聞き、桑原が地図に名前を入れていく。使用する地図は、桑原の電脳内のデータと紙の二つである。紙の地図を用いる理由としては、特地が門の日本側と比べて、衛星などの支援すら期待できない程の場所だからだ。紙などの媒体が、電子機器に比べて単純であるがゆえである。
外を追走するヒチコマが、通信機を通してロウリィ達と談笑する声が車内に響く。どうやらAIゆえの学習能力か、それくらいの会話ができる程度には特地の言語を使いこなし始めているらしい。
レレイは桑原の持つ地図や、彼らが電脳を弄るときの様子に興味があるらしい。
そんな様子を前で聞きながら、倉田は笑いながらつぶやく。
「おやっさん、小さい女の子相手に楽しそうっすね」
「ばっか、その言い方だとおやっさんロリコンみたいだろ」
そんな、本人に聞かれたらただでは済まないことを言い出す倉田に、伊丹は軽くヘルメットを叩いて突っ込みを入れる。
「な、杞憂だったろ」
「はは、皆ずいぶん打ち解けてきましたしね。ヒチコマも楽しそうですし」
倉田自身もコダ村の子供達相手に何度か遊んでおり、一番の懸念は既に解いている。もともと彼が心配していたのも、難民区画の警備であった時の名残のようなものであったからだ。
ロウリィがテュカをからかったり、レレイが桑原に質問する声をBGMに、車列は街道を通ってイタリカへ走っていく。
「……ん?伊丹二尉、アレを見てください」
走りつづけてしばらく経ち、もう直ぐイタリカが見えるだろうというころ。倉田が何かを見つけたらしく、指をさす。
「あれは……煙か?」
指差された方向を義眼で拡大した伊丹は、遠くの方で煙が上がっているのを見つけた。前回見たエルフの里が襲撃されたときの煙と比較するが、その規模ははるかに小さい。が、それだけで楽観視するのは危険だろう。
「なあ倉田、あれなんだと思う」
「少なくとも焼き畑とかじゃないですよね。炎龍にしては小さいですし。というかあれ、俺らの行き先じゃないですか?」
「うわ、面倒ごとの匂いしかしねえ。――全車に通達、周囲への警戒を厳に、対空警戒も怠るな。――以上」
各応答を聞きつつ、伊丹はどうするか考える。
鱗を売るにはイタリカでなければならない、というのがレレイの意見である。が、伊丹の勘が囁いているのだ。あそこは何か面倒なことが起きていると。
「こういう時あの人なら、ゴーストの囁きって言うんだろうな。……レレイ、本当にあそこじゃなきゃダメ?」
予想通りと言うべきか、レレイの返答はイエスである。伊丹がどうしたものかと困っていると、座席の間からロウリィがひょっこりと顔をだす。そのまま暫く前を見ていたが、やがて不気味な笑みと共にこう呟いた。
「血の臭いがするわぁ。とっても、とぉってもたくさんのぉ」
伊丹達には上手く聞き取れなかったが、少なくとも物騒な事を呟いていることだけはわかった。
鉛色の空を見上げながら、伊丹はこの先に起こるであろう面倒事を思い、深々とため息をついた。
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殺せ、殺せ、殺せ!!
破城鎚が城門を砕き、弓矢が民兵の胸へと吸い込まれる。
落ちてきた兵士に群がり、剣が針山のように突き立てられる。
ここにいるのは盗賊達、皆がかつて諸王国連合に属していたものたちである。
アルヌスの丘で壊滅し、全滅した彼らの一部は盗賊へと身をやつしていたのだ。
彼らは戦争をしていたのだ。あの日、アルヌスの丘で起きたことを彼らは忘れない。忘れることなどできない。
あの日彼らは無造作に踏み潰された。刃を交えることも、肉を断つ感触を感じることもなく、ただ餌のように追いたてられた。彼らは今でも夢に見る。遠くから聞こえる爆音を、襲いかかる異形どもの姿を。
彼らは憎んだ。アルヌスの敵を、帝国を、自分たちの指揮官どもを憎んだ。そしてその憎悪は、破壊と暴力という形で吹き出たのである。
元々は強大な連合軍である。残党の寄せ集めとはいえ、その戦力は強大だ。なまじその強大な暴力が無作為に暴れまわるから始末に終えない。
そしてその暴力は、近くの街や村を次々と襲った。そして、イタリカもまた、その矛先となったのである。
犯し、殺し、奪う。それが彼らの求める戦争である。
彼らは思う。決して……、決してあのような一方的な物であってはならない。あのような……、理不尽なものであってはならないのだと。
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「どう思うよ、あれ」
イタリカの街、その城壁前で停車した伊丹達は、その門から少し離れたところで観察していた。
「そのまま突っ込んでったら、間違いなく敵と思われるでしょうね」
「むこうさんからしたら、襲われた直後だろうしね。怪しい者は殺っちまえ、みたいな感じになってたら洒落にならんな」
城壁の上には石弓や弩、熱湯を沸かしているであろう鍋等がずらりと並んでいる。城門は壊れ、如何にも少し前に戦いましたという風である。いや、事実戦っていたのだ。伊丹たちが見た煙が、恐らくはその時のものである。そして、鎧を纏った兵士であろう人物が、大きな声でこちらに叫んでいるのだ。
「翻訳しますねー。『何者かー!?敵でないなら姿を見せろー!』――とのことです」
この中で一番特地の言葉に精通しているであろうヒチコマが翻訳を行う。が、どうにも言い方のせいか緊張感が抜けてしまう。
どうやら敵と誤解されているのかもしれない。
「なら、私がいく。迷惑はかけられない」
そういうとレレイが降車しようとする。どうやら他の特地側二人も同じ考えのようで、次々と外へ出ていく。
どうやら誤解を解きにいくらしい。しかし、自分より年下の女の子だけを危険な所へ立たせられるほど伊丹は神経が図太くはない。少し頭を掻いたのち、伊丹はヒチコマへ指示をだし、自分も外へ出る。
「あー、悪いけどちょっと一緒に行ってくるわ。ヒチコマ、ついてこい。もしもの場合は彼女達を回収して離脱しろ」
「アイアイサー」
「それと、こっちからは手を出すなよ。何かあったら全車引き返せ。もしもの時、三人娘は俺とヒチコマで回収する」
《了解》
ヒチコマがアームで敬礼の物真似をし、伊丹の隣へやって来る。多少警戒されるかもしれないが、そこはヒチコマの人格?へ期待しよう。万一の場合は1人と1機が矢避けになれば良いだろう。戦闘機動であれば、伊丹なら人を抱えてこの場を離脱することは余裕である。無論ヒチコマは言わずもがな。
「ヒチコマ、俺の電脳に通信繋げろ、同時通訳してくれ」
「了解ですー」
敵戦力を義眼でスキャンする。すると、顔をだしてる兵士の他に、何人かの反応を見つけた。どうやら、まだ他にも兵士が隠れているらしい。
敵の攻撃に警戒しつつ、伊丹はレレイ達の所へかけていった。
「敵か味方か……、一体」
ピニャは通用口から外を覗き、近づいてくる彼らを観察していた。
なぜアルヌスの敵を視察する任務を受けた彼女がここにいるのか。それは今から少しばかり前へ遡る。
アルヌス周囲の聞き込みをし、敵の軍が何者か調べていたピニャは、炎龍の襲来とそれを撃退した戦士達の話を耳にした。
この噂を聞いたピニャは、その者達がアルヌスの彼らではないかという推測を立て、いよいよ敵が出てきたのではと警戒した。そして、イタリカ襲撃の話を聞いたとき、ついに攻撃が始まったと思ったのだ。ピニャは敵の戦力を探るため、少数を率いてイタリカへと向かった。
が、蓋を開けてみれば襲撃者はただの盗賊。しかも自分たち帝国が呼び集めた諸王国連合の残党である。
完全なスカであることにピニャは落胆したが、かといってイタリカを放置することもできない。こうして、なし崩し的にピニャがイタリカの防衛指揮に当たることとなってしまったのである。
そんなピニャの覗く先、イタリカ城壁の外にやって来た謎の集団に、彼女はどう対応するか悩んでいた。
馬の無い荷車?3台に奇妙は生物一匹、おそらくはその硬そうな外見と大きさから、噂に聞く蟲獣とやらかもしれない。そして、その集団に警告する騎士ノーマの声を聞いてか、幾人かがこちらへ向かってきていた。
やって来るのは三人。魔導師とおぼしき少女と、風変わりな格好のエルフはまだいい。が、問題はもう1人である。
「エムロイの神官服……、かなりの手練れと思われますが」
「手練れもなにも、あれはエムロイの亜神ロウリィだぞ!よりにもよってあの『死神ロウリィ』がこんな時に……」
隣でピニャと覗いていた彼女の部下、グレイ・コ・アルドはその言葉に驚愕する。『死神ロウリィ』と言えば、亜神の中でも特に恐れられる危険人物である。故に、一部のものからは厄災と同義にすら扱われているのである。
そんな本人が聞けばぶーたれそうな事を思い、グレイとピニャの背筋に寒いものが走る。先ほどの盗賊の襲撃もある。彼女達が敵にならない保障はどこにもないのだ。
「エルフに魔術師、それに亜神や蟲獣、戦えば苦戦どころではありませんな」
「とは言え、敵であるとも言い切れまい。」
そう、敵ならば少し前の防衛戦に参加しているはずである。その後に加わったとしても、これだけの少数で来た理由がわからない。なら、ここは味方、あるいは関わっていない第三者と考えてもよいだろう。
あとはどうやって引き込むかである。あれだけの者が加わってくれれば戦力としては申し分ない。しかし、普通に頼んでも加わってくれる見込みは薄いだろう。そこでピニャは勢いに任せて引き込んでしまうことにした。ここには街の住民達の目がある。上手く巻き込む流れにしてしまえば、向こうも退けはしないだろう。
「よく来てくれた!!さあ入ってくれ!」
勢いつけて通用口を開ける。目の前にいるのは驚く三人と一匹?そして……。
「イイッタイメガーァァァ!!」
顔を覆いながらふらつく男の声が聞こえた。
「……………………………ゑ?」
ーーーーーーーーーーーーーーー
「……いってぇ。痛覚切ってない上に直撃とか、これが特地流オモテナシなの?」
顔面をさすりながら、伊丹はそう呟く。隣ではテュカが何やらドアをぶち開けた女性に抗議している。どうやら、いきなり開けて伊丹に当たったことを抗議しているらしい。伊丹自身はほぼ全身義体の為影響はないが、知らない人から見てみれば思いっきりドアが当たったのである、十分に詰られる要因になるだろう。
「あら、意外と頑丈なのねぇ」(ヒチコマ翻訳中)
そんな伊丹の様子にロウリィは少し感心したように笑う。
「この程度で倒れてられないしね。テュカは?」
「想像の通りよぉ。貴方のことでぇ、皇女に抗議しているらしいのよぉ」(ヒチコマ翻訳中)
「へぇ、彼女が皇女様………なんだって?」
伊丹は驚き、ヒチコマに確認する。
《ヒチコマ!マジでそう言ってたのか?》
《そうですよー?本当にお尻の穴とか弱いのかなー?》
《誰から学んだか知らないが直ぐに忘れなさい……》
どうやら本当のようである。電脳通信のため突然黙りこんだ伊丹に怪訝な顔をするロウリィとレレイ。が、伊丹にはそれを気にしている余裕はない。何せ皇女様(……らしい)なのだ。完全な確証はないが、いきなり敵国のトップクラスが現れるとか、予想外にもほどがあるのである。
とにかく、もし本当ならば自分たちの素性がばれるのは不味い。
ふむ。と伊丹は考える。幸いにこちらの素性はまだバレていないだろう。なら、先ほどのことの理由を聞くのも含めて、さっさとやることやっちゃった方が良いだろう。そう考えると、伊丹はテュカと、その皇女とやらの間に入っていった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「はい…、はい、ではそのように」
「命令は?」
「近日中、日本に特地の住民が招かれるらしい。そのタイミングで、特地住民を此方へ『招待』しろ、とのことだ」
「性急すぎないか?今の日本は以前より動くのは困難だ。」
「問題は無い、我々が動き辛ければ、『スタッフ』に動いてもらえばいい話だ。少しつつけば出ていくはずさ。それに、政府も血眼になっている。潤沢な資源と環境の手がかりなのだから」
「わかった、こちらも人員と装備の手配をしよう。場所は?」
「ポイントB-6だ。ぬかるなよ、公安と審議局の犬がかぎまわっている」
「ああ、見つかるヘマはしないさ」
「我が国のため、是が非でも手に入れさせてもらうぞ」
用語解説
『対戦車用粘性弾』
通称粘着弾。主に兵器の鹵獲や行動阻害用に使用されるもの。着弾すれば半ゲル状の速乾性の物質をあたりにまき散らす。この物質は乾燥すれば非常に強固なものとなり、多脚戦車や強化外骨格の出力でも引きちぎるのは困難となる。特に関節等の部位に着弾すれば、内部で硬化し、関節の駆動を阻害、或いは破損させることがある。溶解液で除去可能。
(元ネタ:攻殻機動隊、元ネタ内での名称は不明)
『高周波ブレード』
義体、及び戦術機に配備される近接武装。高周波により刃を振動させ、その振動を用いて切断する武器。言葉にすればその仕組みは単純であるが、近接武器としてはかなりのモノであり、熟練した使い手であれば攻撃においてその真価を発揮する。
(元ネタ:メタルギアライジング リベンジェンス『MGR』)
『火星探査機』
月軌道外進出を目的に打ち上げられた探査機。今までにも多数のモノが打ち上げられており、今回もその一つに当たる。
送られてきた映像に生命体らしき映像が映っていたが、直後に交信が途絶、詳細は不明となってしまった。なお、色は赤かったらしい。
『ヤギ』
スウェーデンで暴れまわるヤギ。理不尽な生命力を持っており、高所から落下した程度では死なないヤギっぽいナニカ。魔術の儀式を始めたり月に行ったりしてるが多分ヤギ。運転するけど多分ヤギ。多分ウシ科ヤギ属の生き物。
フラフープとかレンガかったほがマシ。
MGRの続編は出ないんですか?
それはともかく、あの作品にはSFのロマンがこれでもかってくらい詰まっていると思うんですよ。
泉二尉ですが、色を付けてみました。……原稿ほったらかして何やってんだろ。
それに伴い前の方は消させていただきます。容量食うので。
【挿絵表示】
予想以上に話が進まない、早く下巻の方行きたいのに。正直大幅に活躍できるのってあの辺からなんですよね。まあ日本のホームグラウンドですから当たり前なんですが。