GATE SF自衛軍彼の地にて斯く戦えり   作:炎海

8 / 22
あー、あちい。何でもう秋なのにこんなにあちいのか。

今回はちょっとだけグロ描写が含まれます。苦手な方は決意して飛び込んで下さい。

執筆時に使用したBGMは「theater D」です。
なかなか盛り上がる曲なので、ある場面を読むときにもお勧めしますよ!


第七話 交流/傲慢の代価

「で、どうするんですか隊長?」

「…………。あー、まあやれるだけやってみるわ」

 

 起こした高機動車の後ろに乗るコダ村の住民たちを眺め、倉田は半眼で伊丹に問いかける。

 炎龍撃退より後、アルヌスへ向かう道である。基地へ帰る彼らの車両には、コダ村の子供や老人が一緒に乗っていた。

 

「……本当、どーしよ」

 

 

 話は炎龍撃退後にさかのぼる。戦いが終わった後、伊丹達は損害の確認と、避難民達の手助けをしていた。

 横転した高機動車を起こしたり、犠牲となった村人の埋葬など、その量は大変なものとなった。そのなかで一番の問題は、身寄りのない子供や老人、負傷者である。

 彼らのほとんどは炎龍の襲撃により保護者を失ったり、深刻な負傷を負った者達である。負傷に関しては車内にあった治療用の生体糊で傷の再生を早めるなどの対処はあるが、やはり万能ではない。炎龍襲撃による身寄りのない子供や老人はそれ以前の問題である。

 大多数のものは身内に頼るか、近くの街で新たな生活を歩むという。だが、先ほどの彼らにそこまでの能力はない。残った避難民達に聞いても、受け入れる余裕はないという。

 不安そうな顔で見つめる彼らに、伊丹は元気付けるためにこう言った。

 

「大丈夫!まーかせて!」

 

 

「ま、何とかしてみるさ。やれることからやっていく。それしか方法はないよ」

「その方法って、定時報告の誤魔化しも入ります?」

「さてね。磁気嵐とか何かで繋がらないんじゃね?」

 

 しらばっくれる伊丹であるが、その目は明後日の方向に向いていた。

 

「倉田はやっぱ難民が嫌いか?」

「……まあ、嫌いって程でもないですが、苦手ではありますね」

 

 そう言う彼の声は晴れやかではない。

 

「そっか」

「まあ、あの子達を助けるべきじゃない。……なんて言う気はないですよ。ただの職業病です」

「ああ、わかってるさ。けど、きっとあの子達は倉田が心配するようなことする子たちじゃないよ」

 

 伊丹はそう口元に笑みを浮かべながら言う。

 

「だって、そういうやつは大抵目が濁ってるからさ」

 

 

 

 

 『充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない』 かのSF作家はこう言ったが、では魔法を使うものにそれはどう見えるのか。

 レレイ・ラ・レレーナは、今自分が見ている光景に驚愕していた。

 地面を疾走する鋼鉄の巨像、統率のとれた動きで一斉に動く巨人の鎧兵、そして同じ人間とは思えない超人的な動きをする兵士達。

 レレイ達を助けたこの集団が、アルヌスの丘にある門からやって来た者達であることは薄々勘づいていた。だが、それにしてもここまで発達した技術を持つものに、学を修める者としてレレイは強い興味を抱いていた。

 レレイの他にも二十人程度の避難民が乗っているが、その誰もが目の前の光景に唖然としている。

 無理もない。炎龍が来ると言われて村を捨て、その炎龍が撃退され、気が付いたら理解の追い付かないものに囲まれた場所にいるのだ。冷静に観察出来るレレイの方がブッ飛んでるといえよう。

 そこから先はもう、あれよあれよと進んでいった。その光景が見えてしばらくしたら、突然降りるよう言われ、彼らのリーダーとおぼしき人物が消えてしばらくすると、目の前に巨人や馬のような何かが現れて住居のようなものを作り初める。天幕をたてていた者に聞いてみると、明日中には完成するだろうとか。そのあまりの違いに、しかし臆することなくレレイはそれらを理解しようとしはじめた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「食料に簡易の住居に衣類その他もろもろの書類……。うあー、仁科助けて!」

「はいはい、装備全部返納したらそっちいきますよ」

 

 頭を抱えて悶絶する伊丹と、それを暖かい目で見る仁科。仁科は弾薬を返納した帰り、伊丹は檜垣三佐や他の上官からたっぷり絞られて来たところであった。

 

「やっちゃったものはしゃーない、書類はお前で用意しろってさ」

「まあ、命令の拡大解釈ですからね。うわー、上層部の顔凄いことなってるだろうな」

 

 伊丹のやったことは完全に命令の拡大解釈であったが、それでも上の方ではどうにか現地住民を招けないかという話になっていたらしく、伊丹の行為は条件付きではあるが認められた。

 

「まあ、書類作成全部やれって言われただけまだましさ。最近じゃ難民に対する風当たりが強いからな」

「あー、倉田もその一人ですしね」

 

 そんな会話をしながら、建設されたプレハブ官舎の廊下を歩く。伊丹達が偵察隊として出ている間に、門周辺の施設もあらかた整ってきているようである。既に各兵器のハンガー建設も行われ始めており、電脳や義体のメンテナンス施設も建設予定だとか。

 伊丹達がプレハブを出ようとすると、後ろの方から呼び止める声がした。

 

「よお伊丹、ちょっと顔貸せよ」

 

振り替えると、そこには薄ら笑いを浮かべる眼鏡の自衛官がたっていた。

 

「あー、柳田二尉、悪いんすけどまだ俺やることが……」

 

 が、ここで応と言わないのも伊丹クオリティである。が、柳田の方も放す気はないらしい。

 

「そう言うなよつれねえな」

 

 これは絶対に放さない気だろうと思った伊丹は、仁科に先にいくようにだけ言う。

 どうやらその様子に満足したのか、柳田は再び口を開き始める。

 

「全く、とんだ茶番だな。通信不良の件、お前さんわざとだろ?」

「さあ、電離層とか磁気嵐とか、なんかあったんじゃないんすか?何しろここ異世界ですし」

 

 とぼける伊丹に柳田は面白くなさそうに鼻を鳴らす。

 

「ふんっ、とぼけやがって。お陰でこっちは段取りが狂っちまったんだよ。裏方やってる身としてはたまったもんじゃねえ」

「そりゃご苦労様で」

 

 何だか話が厄介な方向に向かってる気がする。そう感じた伊丹は早々に話を切り上げようとするが……。

 

「伊丹よぉ、その苦労の代わりにちょっくら聞いてほしいことがあるんだよなぁ」

 

 でた、恐らくこれが狙いだろう。

 

「……何をさせる気で?」

 

 その言葉に柳田は口元を歪める。逃がさないとばかりに目を細め、顎でしゃくる。

 

「河岸変えようや、話はまだ少しだぜ」

 

 

 

 柳田に連れられてやって来たのは、隊舎の屋上である。時刻はもう夕方近くなり、隊員のほとんどが仕事のシメに入っていた。

 そんな二人以外誰もいない場所で、柳田は煙草に火をつける。

 

「伊丹、この特地は宝の山だ。俺達の世界と似た環境、動物、そして人間までいると来たもんだ。今の世界情勢は分かるよな、核に始まり重力兵器や新種の環境汚染、戦争は技術を発達させると言うが、急速に発達し過ぎた結果がこれだ。対策も作られるが、問題の涌き出る速度の方が早い有り様だ。さー、そこで特地の登場さ。潤沢な環境、今までの汚染と縁の無い土地。地下資源の可能性も無視できず、おまけに文明は我々以下ときた。そして、それを考えているのは我々だけじゃない。中国、帝政アメリカ、欧州諸国に新ソと来たもんだ。世界中がここを狙ってるのさ、それも血眼でな。日本は確かにかつてより進化した、それこそある程度強弁を言える程度にはな。たが、全世界相手では流石に無理がある。第二次世界大戦(WW2)の結果がまさにそれさ。多勢に無勢、端から無理のある物量差さ。なあ伊丹よ、もしこの特地にそれだけの価値があるとすれば、それだけで全世界と渡り合えるようになるんだよ」

 

 その言葉に、伊丹は肩をすくめる。

 

「柳田さん、あんたが愛国的なのはわかったさ。だが、話が見えんね。それを俺にしてどうしろと?今俺が興味を持っているのは国際情勢より難民達の寝床と飯の手配さ。その国際情勢だって、最近のことで覚えているのは火星に生命体がいたってニュースぐらいさ」

「伊丹、伊丹よぉ、お前さん自分の立場を理解してるのか?他の偵察隊が調べてきたのは、ほとんどがこの世界の生態や文化程度だ。標本とったり陶器類を持ってきたくらいさ。だが、お前さんは人を連れてきた。現地の人間とコミュニケーションをとってきたんだよ。他の偵察隊がなし得なかったことを、お前さんらだけがやってのけやがったんだ」

「それで?あの子らに石油はどこだい金銀はどこだいと聞けと?ここには自動車どころか遠出する為の手段なんてほとんど無いさ。あの子らが知ってるとは思えんがね」

 

 伊丹はそう反論するが、柳田が次に言った言葉に耳を疑った。

 

「そうかねぇ、少なくとも現地住民とコミュニケーションをとったってのは重要さ、上層部としては重要なことなんだよ。それに上の方でも意見が割れててね、一部の連中は白菊シリーズの投入も意見しているぜ」

「白菊だと!!あの子らを使うつもりか!?」

 

 豹変する伊丹に、柳田はくっくと笑いながら答える。

 

「おいおい、絶滅宣言の時は全機投入されたのを忘れたか?それに、勘違いしないでもらいたいが、そう言っているのはタカ派の中でも過激な連中だけさ。だが、あまり長引けばそれも現実的になってくるってことだ。各国に国内、どちらにせよ情報が必要になってくるのさ。それも早急にな」

「…………」

「ま、どのみち遅かれ早かれお前さんのとこにはひとつの命令文が届くだろうよ。そして、そこには必ずひとつの目的が隠れている」

「柳田、あんたどこまで知ってるんだ?」

 

 日がほとんど落ちた空を背景に、「さてねぇ」と柳田は呟く。

 その様子を、伊丹は苦い顔をして見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 避難民用のプレハブ小屋が完成した。避難民達が荷物を運び込むのを見ながら、伊丹は隣に座る泉にコーヒーを渡している。伊丹はいつ通りの野戦服、泉は少し前まで戦術機で作業していたこともあり、強化装備のままである。周りの人間はもうほとんどがなれた。

 

「さんきゅ、手伝ってもらって悪いね」

「汎用的なのも考えものですよね。うちは土建屋じゃないって……」

 

 そう愚痴りながら、泉はコーヒーを啜る。戦術機は高い汎用性を持つため、こういった作業にも駆り出されることが多いのだ。

 

「なんかここに来てから私たち、完全に作業機械扱いされてる気がするんですけど……」

「ご苦労さん、おかわりいる?」

「ん、頂きます」

 

 そんな愚痴を聞きながら、伊丹は自分のうなじを指で二回叩き、ポケットからQRSプラグをとりだし、片方を泉に渡す。彼女が繋ぐと、有線通信で会話を始める。

 

《なんかありました?》

《まあな。そういやさ、白菊の姉妹、確か一人お前のとこの部隊にいたよな》

《ええ、対馬の時は。様子なら聞いてると思いますけど》

《ああいや、そうじゃなくてさ》

 

 頭をかく伊丹に、泉は目を細める。

 

《あの子達がこっちに配備されるかもってことですか?》

《…………》

《……へぇ、心配されてるんですねえあの子達》

 

 その言葉に、伊丹は諦めたように息を吐く。

 

《タカ派の妄言って聞いてたんだけどな……。そっちで探り入ってるならヤバイ感じ?》

《あー、絶滅宣言は無いと思いますよ。それに多分彼女達のもうひとつの方に用があるっぽいですし》

《………………あー、なるほど》

 

 伊丹は合点がいったという顔をする。

 

《ま、今はタカ派が暴走しないよう見張る程度かな?》

《頼むよ本当。さんきゅ、これで大体納得したわ》

《ま、こっちも嫌とは言えないですし》

 

 そう言うと、泉はコードを返す。

 

「所でさ、こっちで飯食べて行って良いですか?」

「あー、もしかしてこの後ぶっ通し?」

「再編成の機動演習ですよ。配置はある程度決まったんですけどね。丁度良いからこのままやれって中隊長が……」

「……鬼だな」

「誰が余計な予定入れたかわかってます?」

 

 泉が凄みのある笑顔を浮かべるが、知らんなとばかりに伊丹は受け流す。

 そんな様子に無駄だと悟ったか、「しかし」と、泉は炊事車両を見つめながらつぶやく。

 

「あの子たち、本当に興味津々ですね。さっきも作業中に近づこうとしてましたし」

「そうだな、一応丘の中腹のドローンには近づかないよう注意しとくか、軍用の半自立型だから危ないし」

 

 炊事車両では、古田とレレイが何やら話していた。どうやらレレイの方からコミュニケーションを取ろうとしているらしい。古田は料理人志望であり、そのこともあって今日の炊事も任されていた。

 呆れる伊丹に、泉は苦笑する。あの様子だと、中々苦労しているのだろう。

 

「あはは、さっきも私の格好が珍しいのか、何人か子供が寄ってきましたよ」

「まあ、向こうからして見りゃ巨人の中からいきなりすごい格好の女が出てきたんだ、そりゃ驚くわ」

 

 そう言いながら、泉は飯を分けてもらうために炊事車両へ向かう。炊事車両による食事の準備が行われているのは、難民受け入れに際し、彼らのプレハブ小屋は基地から二キロほど離れた場所に建てられていたからである。これは、戦闘において難民達を巻き込まないようにするためである。散発的ながら、帝国軍の攻撃は今だ続いているのである。

 

「さて、俺も行かんとな」

 

 難民達の世話は伊丹に一任されている。作業自体は専門の隊員達がやってくれるとはいえ、流石に直接のコミュニケーションは伊丹がとらなければならない。

 

「任されたものはしゃーないし、やれることをやっていくしかないな」

 

 今はまだ問題ばかりでも、少しずつ解決していくしかない。

 

(なんかすっごい既視感あるような……)

 

 そんなことを考えながら、伊丹は炊事車両へむかっていった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 皇帝の命令により集められた諸王国軍であるが、結論からいうとその攻撃は完全に失敗に終わった。アルヌスの丘へ向かった将兵はそのほとんどが散り、敗残兵は野に下っていった。

 アルヌス周辺にある修道院に身を寄せる老人、デュラン王もまた、その一人であった。彼は片手片足を失い、僅ばかり残った忠臣を国への帰途へつかせ、自身はこの修道院で体力の回復に勤めることとしたのである。

 そして、いま彼の傍らには一人の女性が座っていた。赤い髪に鎧をまとった気の強そうな女性である。名をピニャ・コ・ラーダ、彼女は帝国の皇女でありながら騎士団を率い、その苛烈さは帝国中の知るところであった。

 彼女がデュランを訪ねているのは、皇帝よりアルヌスの丘を偵察せよとの名を受けたからである。ピニャ自身は、己の率いる騎士団の初陣が偵察などという地味なものであることに不満であったが。

 

「例え臣民親族を人質にされようと無駄なこと。余は只のただの一つたりとも教えてはやらぬ。帝国よ、汝らの不義の罪、我らは決して忘れはしない」

 

 ここにきて数刻ほど、ピニャはデュランに戦いの詳細を話すよう何度も求めるが、彼がそれに応じることはついぞなかった。どうやら皇帝は集めた諸王国軍へ敵の情報を何も知らせず、まるで全滅させるかの如く丘へけしかけたようである。いや、皇帝はそれが目的だったのだろう。デュランもそれに気づいたからこそ、その報復として黙し、何も語らないのである。

 

「どうあっても、話はしないと?」

「そなたが我が家族、臣民を冥府へ送ると言うのなら、余は先に待っていよう。どのみちあのような怪物、我らの手に終えるものではないのだ」

 

 これ以上は完全に無駄であろうと悟ったピニャは、別れの言葉を告げると立ち去っていった。

 

 その背を見つめながら、デュランはあの戦いのことを思い出していた。

 この戦は初めから負けていたのである。だが、参加した誰もがそのことに気づくことは無かった。集まった諸王国軍は合計で十万にも上る。翼竜や重装歩兵を始め、象に剣虎、多数の投石機や弩弓とその様子は大地を埋め尽くすほどであった。

 

 だが、その大軍勢もアルヌスの敵の前には一瞬で蹴散らされた。

 

 それは一瞬であった。第一陣が丘へ迫った次の瞬間、一瞬で軍が消し飛んだのだ。その光景を見たデュランは、まるでアルヌスの丘が噴火したかと思ったほどである。

 そこからは絶望と言っていいほどの惨状を呈した。丘のいったいどこに潜んでいたのか、二本足の生き物が次々に姿を現し、諸王国軍へ襲い掛かったのである。二本の足に不気味な一つ目、大人一人分の大きさに不釣り合いな長い足。長細い口のようなものから小さく火が噴いたかと思えば、次の瞬間にはその口を向けられた味方が倒れ伏している。人数に物を言わせて押しつぶそうとも、その肌には剣を突き立てることもできず、振り払われてその足で踏み潰される。おまけに、丘の上からは断続的な音とともに『ナニカ』が無数に放たれ、兵たちの胴や頭を砕いていく。勇敢に立ち向かったものたちは皆、ハチの巣の様に穴だらけになるか、無数に蠢く異形どもの餌食となることとなった。そこには数刻前の雄姿などどこにもなかった。踏みつぶされて臓物をまき散らし、或いは脳漿をぶちまける。そこにいたのは、ただ哀れに蹂躙され、泣きわめきながら餌食となる兵たちの無残な姿だけであった。

 諸王国軍は何度も挑んだが、遂にその異形どもも、敵の武器も打ち破ることはかなわなかった。だが、そう何度も無策で行くわけではない。勝てないとわかったデュラン達諸王国軍の残りは、夜襲を慣行することに決めた。馬に轡を嵌め、蹄に処置を施す。あらゆる備えを行い、さらに攻め入る場所を入念に定める。

 そして結構の時、音を立てる鎧のほとんどを外し、あらゆる目立つ要因を徹底的に排除した。そう、誰もが確信していた。いくら敵といえ夜になれば警戒が緩むだろう。野に放されている異形達も、夜になれば寝静まるはず。彼らはそう確信し、一寸先すら見えぬ暗闇の中を突き進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗闇に無数の赤い光条が見えるまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは暗闇の中から現れ、諸王国兵たちの元へ迫る。一瞬のことに驚く兵たちであるが、自分たちに何もないのに気付くとほっと息をつく。そのまま赤い光線は動き続けると、不意に何もなかったかのように消える。きっと脅かしかまやかしの類であろう。そう考えた兵たちは、そっと息を吐くと再び歩を進め始める。すると、前方を歩く兵たちが何かにぶつかった。敵が障害物でも置いたのだろう。そう考えた兵士は、暗闇に慣れた視界で、そこに何が置かれているのかと見上げ……。

 

 

 

目線があった。

 

 

 

 自分をじっと見つめる一つ目。そして、その光景を最後にその兵士の視界を何かが覆った。

 隣の兵士が気付いた時には、その兵士がいた場所は血溜まりとなっていた。異常を察知した兵士たちがあたりを見渡すと、暗闇の中に起き上がるもの、近づいてくるものに気づいた。そして、夜空に突如昼のような明かりが輝いたかと思うと、自分たちを囲むものを照らし出した。

 

 

 

 

 それは、昼間に自分たちへ死を振りまいたあの異形どもの群れであった。そいつらが一斉に一つ目をこちらに向け、軍を囲んでいたのである。

 奥の敵陣に灯りに灯が付き、死の宴が始まる。料理人は敵兵、客は異形ども、そしてご馳走は自分たちである。異形どもが兵士へとびかかり、そこら中に血溜まりができていく。敵陣から放たれたものが兵士に当たり、程よく潰れた肉塊へ変わる。もはや攻め入るどころではない、逃げなければ、ここを去らねば次に餌食となるのは自分たちである。狂乱のさなか、デュランは己たちが何と対峙したのかを悟る。そして、なぜ帝国が自分たちを集めたのかを……。

 自分たちは餌にされたのだ。帝国がこの化け物を知らないはずはない。ならばなぜ自分たちに教えなかった?簡単だ、教えたら意味がないからだ。そう……、あろうことか奴らは、邪魔になった自分たちを焚きつけて突撃させ、敵に始末させたのである。

 ああ、いい道化である。デュランの顔には笑みが浮かんでいた。それは、追い詰められた狂人のそれであった。ああ、いっそ狂ってしまえればどれだけ楽であろう。

 敵陣の中に立ち上がる人影が見える。人間というには余りにも大きすぎるそれを見て、デュランは絶望する。皇帝の目論見は達成された、だがそれがなんだという。あれはもはや我らの手に、人の手に制せるものではない。成せるとすればそれは神か、はたまたは人外の化け物だろう。帝国は怪物の尾を踏んだのだ、いずれ自分達の国も、ここと同じように化け物に蹂躙される。

 それを考えたとき、デュランは笑った。笑って笑って笑った。狂ったようにげらげらと笑った。彼にとっては幸か不幸か、その心が壊れる前に、彼の意識は片手片足とともに刈り取られてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー諸王国連合軍、壊滅

 

ー死者、負傷者計上不能

 

 

 

 

 

 

 

 




用語集

『炊事車両』
普通の炊事車両。簡単な料理設備が整っている。
野戦時にはオススメの一つ。

『ATMD-62(ウォリアー)』
自衛軍の小型軍用ドローン。胴部前方に小型機銃とカメラを有し、オプションで背部に擲弾発射機や、粘性弾も装備可能。小型であることから輸送も容易であり、様々な戦場に投入された。
白兵戦にも長け、無数のウォリアーに押し潰される様から、「キルラプター」の名で敵国兵から恐れられている。
なお、特地にて迎撃用兵器として用いられている。
(元ネタ:オリジナル?)


さて、今回は特地住民達との交流の一部でした。もうちょい続けようか悩み所ですね。
今回は特地と日本の技術差、魔法のような技術を魔法使いが見たらどう考えるか……、って書いたはずなんですがそこの自衛官どもでしゃばりすぎじゃワレェ!!
これがプロット倒れってやつですよ、ハハハ……。
本当はささやかながらも美味しいご飯を書きたかったんですがね。誰だよ、後半からホラーもどき書いた馬鹿。


おかしい………どんどんやることが溜まっていく。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。