さーあ、始まりました第六話!さらにひどくなる描写!!趣味しか入ってねえよこれ……。
ホント駄文に駄文重ねてるよもう……。
ああ~、おっぱいぶるんぶる~ん。
炎龍の出現、それは本来今よりも五十年以上先のことと予想されていたことである。それ故に、その襲来の報を聞いた村人たちは非常に慌てていた。
特地において炎龍とは、台風等の自然災害と同種の存在である。そのため、炎龍が近づいているとわかれば、村人たちには逃げる以外の手段は無い。村人たちは家具を、或いは財産を、それぞれが必要と思うものを馬車に括り付け、必死に逃げるための準備をしていた。
コダ村のはずれの森、小さな平屋に住む彼らもまた、逃げる準備をしている最中であった。
「まったく炎龍め、こんなに早く目覚めおってからに。こちとらいい迷惑じゃわい」
そう呟くのは白い髭に白い髪の、いかにも賢者というような老人である。
「師匠、それより早く乗ってほしい。魔法を掛ければ、これだけの荷物なら何とか持ち出せる」
そう言ってせかすのは貫頭衣を纏ったプラチナブロンドの少女である。彼女が乗っている馬車の荷台にはぎっしりと荷物が詰め込まれ、車輪は地面にめり込んでいる。
「レレイ、やはりどうにもならんか?」
そう言って師匠と呼ばれた老人は眉を寄せる。
「これでも魔法なしでは驢馬では動かない。これ以上は魔法ありでも驢馬の負担がおおきすぎる」
レレイと呼ばれた少女は、冷静な口調でしゃべり続けながら、荷物をどうにかできないか弄り続けた。しかし、いい改善案は思いつかなかったようで、仕方なく御者台に戻っていった。
「ロクデ梨もコアムの実も希少な薬になる。しかし手に入らないわけではない。この場合はあきらめるしかない」
「仕方あるまい、このまま出発するとしよう」
そういうと、レレイは杖を一振りする。すると今までびくともしなかった筈の荷馬車が動き出だす。重い荷物を驢馬にひかせながら、二人は長年住んだ家を後にしていった。
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村の中心は逃げる人々でひしめいていた。馬車を持つものは荷台に括り付け、或いは馬そのものへ直接括り付けていた。そしてそれすらも持たないものは、背中いっぱいに荷物を背負い、コダ村を後にしていった。
そういった避難民たちの馬車により、やはりというべきか道は渋滞で埋まっていた。
「しかし、この渋滞はなんじゃ?何かあったのか?」
一向に進まない渋滞にイラついた師匠は、近くにいる村人へ声をかけた。
「これはカトー先生、それにレレイも。どうやら荷物の積みすぎで前の馬車の車軸が折れたらしくて……。片付けにはまだしばらくかかるかと……」
すでに後ろには後続の馬車が来ており、別の道に行くこともできない。
仕方なく待ちながら村人たちと話していると、前の方から聞きなれない音や言語が聞こえた。どうしたのかとレレイが覗くと、前の方に見慣れない男たちが駆けていくのが見えた。
「聞いたことのない言葉じゃの?服装からして、どこかの国の兵士か何かかの」
そう考えるカトーを置いて、レレイは馬車を飛び降りた。
「あ、ちょっ、レレイ!どこ行くんじゃ!?」
「少し前を見てくる。どのみちこのままじゃ馬車は動かない」
レレイの知識に無い言語、そして見たこともない集団に彼女は興味をひかれた。
そうして前の方へかけていくと、はっきりと聞こえるようになった。
「避難支援急げ、伊丹隊長が村長から許可もらってきた!富田、ヒチコマと共同で残骸の撤去作業急げ!戸津は後続に事故を知らせて、別の道に行くように伝えろ!……言葉が通じない?何とかしろ!!ホロでも身振り手振りでもなんかあるだろ!!黒川はけが人の救護急げ!」
初老の男性が声を張り上げ、周りの同じ格好のものたちに何かの指示を出している。彼らはすさまじい速度であたりに散らばると、それぞれ行動を始めていた。
十五台ほど前へ行くと、村人の言っていた事故現場に到着する。そこには、横転した馬車と倒れて暴れる馬、そしてその横で倒れる一家の姿があった。そして、周りでは彼らと、四本の足を持った奇妙な生き物が馬車をどかしている最中であった。
とっさに倒れている一家を助けようと近づくが、これまた先ほどの男たちが危ないからとでもいうように制止する。が、レレイはその制止を振り切り一家へと近づいて検診をする。
どうやら一家のうち、両親の方は気を失っているだけのようだ。だが子供は大量の汗をかき、血の気を失っており、危険な状態であった。
そうしていると黒髪の長身な女性が現れて、少女の様子を見始めた。格好から見て、先ほどの男たちの仲間だろう。だが、レレイはそれよりも女性の左腕に目がいく。その女性の左手の、肘から先は人間のそれではなかったのだ。前腕部が無数の枝のようなものに分かれ、一本一本がそれぞれ少女の身体へと延びて動いていた。そしてその周りには光のようなものが出現し、文字のようなものを形成している。
レレイはこれをおそらく義手のようなものだと考えたが、彼女の知るどこにも類似するものは無かった。興味を惹かれ顔を近づけようとするが……。突如後ろで悲鳴が上がり、いななき声が耳に入った。
レレイがはっとして顔を上げると、先ほど倒れていた馬がこちらへ覆いかぶさろうとしていた。とっさに黒髪の女性がレレイを掴み、馬から離れようとする。
避けられない!!そう思った直後、後ろから炸裂音が響き、馬が地面へ倒れ伏した。
後ろを見ると、先ほどの初老の男性が、煙を上げる黒い棒のようなものを持って立っている。レレイにはそれが何かはわからなかったが、彼らが助けてくれたということだけはわかった。
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コダ村からの逃避行、うっとうしいほどの日差し中を、住民たちのキャラバンは進んでいた。
そしてそれに付き添うように、伊丹たち第三偵察隊の車列はゆっくりと進んでいるのであった。
「ク~ロちゃ~ん、彼女の様子はどう?」
「バイタルは安定、意識も間もなく回復するでしょう」
伊丹が聞くのは、森で保護したエルフの少女の容態である。黒川が言うには特に悪化することなく、そのまま上下もせず安定しているとのこと。
「はあ、この避難民たち、行く当てあるんすか?」
そう呟くのは、伊丹の隣で運転する倉田である。
「ないらしいよ」
「………はあ、避難民ってどこも似たようなものなんですね」
伊丹がそう返すと、まるで納得がいったかのような表情を見せる倉田。
「どこも……?ああ、お前北海道だっけ?」
「正確には函館の招慰難民居住区、その管理の部隊っすよ」
「そいつはまた……、厄介なところで」
招慰難民居住区、戦後政府主導で行われた難民受け入れのために作られた居住地区のことである。安価な労働力を期待してのものであったが、結果は失敗。国内の失業率増加や治安の悪化につながることとなり、戦後最悪の政策とすら揶揄されるほどのものとなった。
「内外問わず行く当てのない人ばかりで、そのうち疲れて薬なんかにおぼれる人ら、溢れるほど見てきましたよ」
彼には珍しい毒に伊丹は苦笑する。とはいえ……。
「とはいえ、放っておくわけにもいかんでしょ。俺ら国民に愛される自衛軍だよ?」
「そりゃあまあ、そうですけど……」
倉田も微妙な表情をする。彼も嫌というわけでは無いのである。ただ、函館で見てきたものを思うと、やはり少しためらいを覚えてしまうのだ。
「……目的地もないんじゃ、いつか消耗して倒れますよ?」
「それまでには……、まあ、何とかしてもらうしかないでしょ」
そう言って、伊丹は窓の外に顔を向ける。飢えや乾きに苦しむもの、いらだつ大人、泣き叫ぶ子供、皆が一様に暗い顔で進み続ける。
時々に車軸が折れたり、ぬかるみにはまって動けなくなるものも出てくる。自衛官たちも義体適用者を中心に救助に当たるが、それでもきりがない。脱輪であれば押し出せば何とかなる、軍用義体の出力ならば余裕で車体を動かすことが可能だ。だが、馬車そのものが壊れてしまってはどうしようもない。仕方なく持ち主を説得し、火を放たせてでもあきらめさせるしかないのだ。健常な大人たちはそれでもいい。だが、体力のない子供や老人はそうはいかない。結果、二つの高機動車の荷物を軽装甲車に詰め込み、空いたスペースに彼らを乗せることとなった。
「どうして、応援を呼べないのですか?」
そう伊丹に抗議するのは、黒川である。
「自衛軍の輸送車両、せめて輸送ドローンでもあれば、彼らの荷物を輸送することは容易なのに……」
そう悔しそうに言う黒川に、伊丹はヘルメットを目深にかぶりながら答える。
「一応ここ、敵性領域だからね。これだけの数だ、どうしても相応の数の車両やドローンが必要になる。そうすれば俺たち程度なら敵さんも見逃しても、大規模な数なら動くかもしれない。広がる戦火、無秩序な戦線の拡大、考えただけでもぞっとするってさ」
その言葉に黒川は苦笑を浮かべた。
「一応お伺いは立てたんですね」
「どれだけ技術が進化しても、結局やれることには限界がある。……今俺らにできるのは、手を貸して進んでもらうことだけさ。……ていうわけで黒川、引き続き傷病者の救護は任せるよ」
「ええ、無論です」
そういう伊丹の表情は、ヘルメットに隠れてわからない。だが黒川に異論などない。元よりそのつもりである。
延々と続くような逃避行、終わりがあるように見えない中、キャラバンはただ進み続けた。
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この特地には、幾柱もの神々が存在する。鍛造や太陽、音楽に豊穣、その数は多岐にわたる。そして、この特地においてそれらの神は
彼女の信仰する神は、殺人という罪を問わない。重要視するのは行った理由、そしてその態度である。兵士や盗賊、野盗や処刑人あらゆるものを容認する。その行いも、そして彼らが受ける報いも全て。殺すことにより起こる、盗むこと犯すこと死ぬこと殺されること罰を受けることをすべて容認し、覚悟せよと教えるのだ。そして彼女は亜神である。亜神とは、使徒とも呼ばれる神の意志を代行する者であり、後に神となるものである。
さてその彼女の足元には今、数人の死体が転がっていた。それは、コダ村から逃げる家族を襲った盗賊たちであった。
「愚劣ね……」
朝日が照らす中、盗賊たちの死体を見下げ、ロウリィはそう吐き捨てる。母子を殺したのは盗賊であるが、その盗賊を皆殺しにしたのはロウリィであった。
ロウリィには人が戦い、死んでいくのがわかる。それ故にこの盗賊たちを見つけ、神官としての務めを果たそうとした。……だが、この盗賊たちは皆死に際に放つのは言い訳ばかり。最後の一人に至っては、自分は手を汚していないなどと言いだす始末。これでは到底彼女の信じる神へ捧げられるような魂ではない。
盗賊たちに殺す前に掘らせた、殺された一家が埋葬された墓。そこへ、ロウリィは祈りをささげる。一家の長であった男は、飛びぬけて勇敢というわけではなかった。だが、彼は死ぬその最後まで家族を守ろうと戦い死んだ。そのことを彼女は称え、その死後を祈る。彼の祈りには間に合わなかったが、その魂は受け止めた。エムロイ式の供養を済ませると、ロウリィはその場を後にしていった。
青い空の下、ロウリィはどこを目指すでもなく、愛用のハルバ―トを抱えてぶらぶらと歩く。先ほどのような盗賊を何度か見つけたことから、おそらくどこかの村から大量の人間が逃げて行っているのだろう。
「確かあの男、コダ村がどうとか言っていたわねえ……」
思い出すのは、昨日の夜に盗賊の頭が言っていた言葉である。彼女が盗賊たちを襲う前、彼らはコダ村を襲う計画を立てていたのだ。
もし一連の盗賊の増加の原因であれば、様子を見てみるのもいいだろう。そう考えたロウリィは、コダ村の方向へ足を運ぶことにした。
街道沿いに歩き続け、太陽が真上近くまで昇ったころ。ロウリィは何かが近づいてくるのを感じた。
「あらぁ?何かしらぁ……」
それはほとんど勘のようなものであった。だが、それは今までの感じとは違う、何か全く異なる者が来るような気がしたのだ。ロウリィはその勘に従い、その場で待ってみることにした。どのみちこれから急ぎの用があるわけでもない。強いて言うならば最近アルヌスに開いた門、そこから現れた異界の軍に興味があった。
もしも自分の勘が外れたときは、その軍に会ってみるのもいいかもしれない。帝国軍の精鋭を蹴散らすほどの者たちである、きっと期待できるだろう。
そう思って待つこと少し。座り込んで、近寄ってきたカラスと戯れていたロウリィの耳に、かすかな音が聞こえてきた。振り向くロウリィの眼に入ってきたのは、何台もの馬車の集まりであった。
おそらく、方向からしてコダ村から来た人々だろう。……しかし、所々に奇妙なものも見られる。
亜神の眼は人間よりもずっと高い視力を持つ、それ故に彼女は、そこに混じる奇妙なもの達に気付いた。
まず目につくのは箱のようなもの、一見馬車のようにも見えるが、引手となる馬や驢馬はどこにも見当たらない。どうやら中には人が乗っているようであるから、乗り物であるのは間違いないだろう。そして、もう一つはそれと同じ色をしたナニカである。
四本足で歩く生き物のような何か、見るからに堅そうであり、生物なのかすらロウリィでも明確な確信が持てない。ロウリィがそれを生物だと思ったのは、ソレについている四歩とは別の前足のようなものである。ソレは前足や身体を、まるで生物のように動かしているからである。少なくとも中に人間が入っていたりするのであれば、このようなことをする必要はないだろう。
「へえ……。うふふ、面白そうな人たちねぇ」
ロウリィの口が面白そうにゆがむ。彼らが何者かはわからない。だが、待った甲斐はあった。彼らが罪人か、はたまたは兵士か、或いは道化師か学者か……。いずれにせよ、奇妙な格好で奇妙なモノを連れ、大勢のキャラバンとともにいることにロウリィは非常に興味がわいた。付いた砂を払い、神意であるハルバ―トを持って立ち上がる。
ここに来るまで待つか、それとも此方から歩み寄るか、ロウリィが選んでいると、荷車のような箱から人が降りてきた。全身に茶色や緑色のまだら模様の服装をした、奇妙な格好の男たちである。
その男たちに、ロウリィは声をかける。
「あなたたちぃ、どこからいらしてぇ、どこへ行かれるのかしらぁ?」
彼らはロウリィの前まで駆け寄ってくると、何やら話しかけてきた。
「あー……。さ……、さばーる、はる、うぐるー?」
が、聞いてみると何とも珍妙なしゃべり方である。おそらく、うまく言葉を話せないのだろう。
流石にこれでは彼らが何者かわからない。ロウリィは、この事情を知っているかもしれない後ろの人々が来るのを待つことにした。
そうして、寄ってきた二人が言葉に四苦八苦するのを眺めながら待っていると、例の箱のような荷車から、小さな子供たちが出てきた。
「神官様だ!」
「神官様ー!」
子供たちは口々にそういうと、ロウリィの周りへ駆け寄ってきた。
駆け寄ってくる子供たちに笑いかけながら、ロウリィは質問をする。
「あなたたちぃ、どこから来たのぉ?」
「コダ村からだよ!」
そんなことを聞きながら、ロウリィは箱のようなものへ近づいて近づいていく。
「この変な人たちは誰かしらぁ?」
「知らない。でも、ぼくたちを助けてくれたんだ。いい人たちだよ!」
その答えに、ロウリィは意外というような顔をする。彼女はこの者たちが、彼らを無理やり連れて行ってるかもしれないと考えていたからだ。……無論、その時はそのようにするだけである。
「嫌々連れていかれるわけではないのねぇ」
後ろで様子を見ていた大人たちも寄ってきて、ロウリィに祈りを捧げ始める。
「炎龍が出ると聞いて、ここまで」
「村人みんなで逃げ出しているのです」
どうやら、本当にそうらしい。様子を見るに、コダ村の住民たちは炎龍襲来の報を聞き、村から逃げている最中。緑色の彼らは、コダ村の人々が逃げるのを手伝っていたのだろう。
ところで、ロウリィはコダ村の人たちのこととは別に、緑色の彼らの乗る奇妙なものに興味があった。彼女は今年で九百年以上生きているが、こんなものは初めて見るのだ。試しに子供たちに聞いてみるが……。
「これ、どうやって動いているのかしらぁ?」
「僕たちもわからないんだ……。でも、乗り心地はすっごくいいんだよ!」
「へぇ…、乗り心地がいいのぉ?……ふふっ!」
「うん、馬車よりもずっといいんだよ!」
それ程の乗り心地のいいのであれば、ぜひ自分も乗ってみたい。そう思ってドアを開けて入ろうとするが、中にいる中年くらいの男に制止される。
少しばかりの押し合いをしていると、後ろから先ほど見えた妙な生き物がやってきた。ロウリィが不思議に眺めると、ソレは突然言葉のようなものを発し始めた。
「itamisannitamisann、dousimasita?」
「wakannneeyo、kodomotatihasinnkanntokaitterukedo」
何やら男とその生き物がしゃべっているようで、どうやらソレは言葉が通じるらしい。
「この、変なのは何なのかしらぁ?生き物ぉ?」
「ヒチコマ……?っていうらしいよ。言葉は通じないけど、人間みたいにいろんなことをして、すごくおもしろいんだ」
「へぇ、動物なのぉ?」
「……うーん。でも、しゃべるから犬や馬なんかよりはずっと賢いよ!」
どうやらこの、生き物なのかよくわからないのは、『ヒチコマ』というらしい。子供達がじゃれついたり、芸をせがんだりしているところを見ると、獰猛なわけでもないらしい。
「ふうん……。なんだか、思った以上に面白そうな人たちねぇ」
未知の動物(?)によくわからない荷車、何者かはわからないが、どうにも面白そうなにおいがするのである。
「……きーめたぁ!私もご一緒させてもらうわぁ」
こうして第三偵察隊と、特地の神は行動を共にすることとなったのである。
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「大丈夫なのかあアレ?」
「降りないんですから、しょうがないじゃないすか」
コダ村を脱出した後、伊丹たちはハルバートを抱えた奇妙なゴスロリ少女に出会った。コダ村の人々が言うには、彼女は神官というものらしい。この世界の神官が伊丹たちの使う言葉の意味と同じであれば、あの格好は宗教的な何かなのだろう。そして、その彼女はなんと……、ヒチコマの上に乗っかっていた。
「あれ、戦闘になったら危ないどころの騒ぎじゃないんじゃ?」
「住民の人たちにも聞いたけど、なんかあの娘すっごい強いらしいっすよ。……まあ、あんなごついもの持ってるから信憑性増しちゃうんですけど」
倉田につられ、伊丹は彼女が右手で持つ如何にもやばそうなハルバートを眺める。
「ヒチコマ!もし戦闘になったら流石におろせよ」
「了解ですー」
相変わらず気の抜けた返事をするヒチコマである。そのヒチコマと言えば、上のゴスロリ少女と伝わってるのか伝わってないのかよく分からない会話を続けている。もしかしたら現地語の習熟に役立つかと思い放置しているが、流石に戦闘になれば降ろさなければ危険だろう。
「…………?」
まぶしい日差し、乾いた空気、先ほどからどうということのないものである。しかし、先ほどから喉元に妙な違和感を伊丹は感じていた。……こういう時、伊丹の経験では大体嫌なことが起きる。
「このまま何もこなけりゃいいんですけどね……。ドラゴン、流石に来ませんよね」
「ばッ……!!お前いうなって。ただでさえ最近フラグ当たりまくってるのに……」
隣でフラグを爆建てしやがった
念のためあたりを義眼の高倍率モードで確認する。右よし、左よし、前よし。ほっとして残りの後ろを確認すると……、太陽の逆光を浴びる影が見えた。
「――――ッ!?総員戦闘用意!!」
全員の電脳に呼びかける。ドライバー達が状況を把握し、各車両が唸りをあげて疾走する。そのころには、『ソレ』はキャラバンの中央へ飛び込んでいた。
悲鳴と怒号が響き、住民たちが散り散りに逃げ惑う。炎龍の口から炎が放たれ、荷物が、人が、火に包まれていく。
「走れ走れ!撃ち続けろ!!」
桑原が倉田に怒鳴りながら、2-42式小銃を撃ち続ける。今の時代、軍用義体すら貫通する口径のモノであるが、炎龍相手にはどうやら効果がないらしい。だが、嫌がらせ程度の効果はあるようで、炎龍をこちらに向かせることには成功した。
「ヒチコマ!!目標をひきつけ………ろお!?お前何やってんだ!!」
伊丹は炎龍の目標をヒチコマにひきつけさせようとして、その上に載っているものに驚愕した。
なんと、あの少女を乗せたままだったのだ。ハルバートを構え、全力疾走するヒチコマをサーフボードのように乗りこなしている。現在のヒチコマは戦闘機動であり、普通はしがみつくことすら生身では困難なはずなのだが……。
「バカヤロウさっさと降ろせ!!」
「いやー、なんかこの人が降ろすなって」
「何言って……、おおう!?」
ヒチコマが両腕のガトリングでけん制しながら炎龍へと疾走し、背中の少女が……、その勢いのまま炎龍へ飛びあがり、その脳天へハルバートを叩きつける。致命傷にこそならなかったが、どうやらその衝撃に炎龍は少しひるんだようである。ヒチコマが液体ワイヤーで少女をとらえ、その背中に戻して離脱する。
「悪くない動きよぉ、中々いい乗り心地ねぇ!」
「お見事ー。あれ、よく分からないけれど、ほめられたのかなー?」
その動きに、伊丹たちはしばしあっけにとられる。……が、すぐに切り替えて先頭に集中しなおす。明確な決め手にこそ欠けるものの、逃げる村人からある程度引き離すことには成功した。
「撃ち続けろ!牽制を緩めるな!!」
ヒチコマと少女が炎龍の足元で陽動をしつつ、伊丹たちが車両から弾幕を張り続ける。
炎龍も押されてばかりではない。炎を吐き、腕や足を振るって伊丹たちをとらえようとする。
「速度緩めるな!あんなもの当たれば無事じゃすまないぞ!!」
最新の軍用車両には耐火耐衝撃は当然完備されている。だが、それでも人一人を簡単に炭化させるほどの熱に、あれだけの巨体の一撃である。もらえばただでは済まないだろう。そう考えた伊丹は、次で決めるために命令を出す。命令を受け、何かが飛び立っていく。
そして、早く終わらせたいと考えているのは炎龍も同じであった。どうやらこの短期間でどいつが指示を出しているのか気付いたらしい。炎龍は伊丹たちの乗る車両を執拗に攻撃してくる。
「ぐ、おぉおおおぉぉぉぉお!!――隊長!!アイツ執拗にこっちを……!」
「野郎この車両が指示だしてるって気づきやがったか!!倉田、絶対につかまんなよ!!」
他の二台からも援護が来るも、炎龍は振り返らずにこちらを攻撃しつづける。そして……。
「うわっ!?」
「まずっ!?」
誘い込まれた高機動車は、横から炎龍一撃をもらって横転してしまう。子供や老人達の悲鳴とともに見える世界が回転し、全身がしたたかに打ち付けられる。
栗林や他の隊員たちの心配する声が響く。そして、その全てをあざけるように、炎龍がブレスを放とうと口を広げる。
「まずい!早く脱出しろ!!」
自分たちはまだ何とかなる。だが、義体化していないもの、特に現地住民たちはまずい。
そう思い、せめてとばかりに近くの子供に手を伸ばす……。
「させないわぁ!!」
しかし炎は来ず、代わりに轟音が響き渡る。見ると、例の黒ゴス少女が炎龍の顎をハルバートでカチあげていた。炎龍の炎は出ず、口の中で暴れまわる。
いいところを邪魔させた炎龍は怒り狂い、少女へやみくもに攻撃を加える。が、ヒチコマが少女を回収してその腕を潜り抜ける。
「あと少し……、あともう少しで」
高機動車のドアを蹴り飛ばして伊丹は呟く。まだ、炎龍の動きを止める決定打にはならない。
そのとき、高機動車の中からよろめきながら立ち上がる姿があった。あの金髪のエルフ娘である。彼女は自分の碧眼を指さすと、しきりに叫ぶ。
「ono! yuniryu!! ono!」
喋っている単語の意味は分からない。だが、何を言いたいのかは理解できた。伊丹は炎龍の眼を見る、その左目には矢が刺さっており、明らかにつぶれていた。
「目だ!眼を狙え!!」
その言葉に、隊員たちが一斉に銃口を炎龍の眼に定める。この時代、全身はともかく、一部分も義体化していないものは軍ではかなり少ない。特に腕を義体化しているものは、照準のブレとはほとんど無縁である。
予想通り炎龍は嫌がり、積極的に攻撃をせずに立ち止まる。
横転した高機動車を遮蔽物にしながら銃撃をしていた伊丹は、その様子を見て命令を出す。村人たちに目と耳をふさぎ、口を開けて伏せるようジェスチャーで指示し、電脳通信を飛ばした。
「勝本、仁科!!かましてやれ!!――総員退避確認!!開始!!」
伊丹は全車両が離れたのを確認すると、GOサインをだす。
立ち止まった炎龍に向けて、上空から『ソレ』は降ってきた。先ほど飛ばしたもの、正体は小型飛行ドローンによる一斉爆撃。投下された爆弾が炎龍の周囲で一斉に起爆し、逃げ場のない衝撃が炎龍を襲う。
耳を覆いたくなる程の壮絶な爆風により、硬い鱗がボロボロに砕かれ、発生した真空の刃が炎龍の肉をズタズタに引き裂く。
今まで感じたことの無い激痛に炎龍は絶叫し、聞いたものを震え上がらせるほどの咆哮を上げる。
「やった!!」
電脳で操作していた仁科と勝本が歓声を上げる。
炎龍はそのまま数歩後ずさると、よろめきながら飛び上がる。自衛官たちの銃撃の中高度を上げ、そのまま逃げ去っていった。
炎龍が撃退された。そのことに村人たちはただ唖然としていた。彼らにとって炎龍とは、厄災の象徴であり、逃げられない恐怖である。……しかし、目の前のものたちはそれを撃退して見せた。
彼らはただ、目の前で奇跡を成し遂げた人物たちを、茫然と見つめるばかりであった。
用語集
『招慰難民居住区』
政府主導で行われた、難民受け入れ政策の実施地。核事件や、そのあとの度重なる戦争により損耗した働き手を安く補充する目的であったが。各地の治安の悪化や日本人の失業率をかえって増加させ、戦後最悪の失策とすら言われている。
(元ネタ:攻殻機動隊)
『小型飛行ドローン』
小型の飛行ドローン。複数を車に詰め込み携行できるだけの大きさで、疑似的な航空支援として用いる。爆撃のほか、哨戒や小さな物資の輸送も行える。欠点はすぐ壊れること。
(元ネタ:オリジナル)
『2-42式小銃』
対サイボーグ戦闘を目的に開発された小銃。軍用サイボーグを貫ける口径と威力を持つ国産銃器。(現行の軍用サイボーグは9㎜程度では破壊することは不可能)
(元ネタ:オリジナル)
『ヘルメット』
サイボーグが被る意味あるのかなと真剣に悩んだ以外はただのテッパチ。
ちなみに繊維強化プラ製。鉄鉢なのに。
色々な追加装備もある。テッパチ優秀。
そろそろ怖いミリオタの方に突っ込まれないかビクンビクンしております。……優しくシテね///。
こんな展開でよかったのかと真剣に悩んでおります。当初は超電磁砲でもだそうZE!とか考えていたんですけど。電力とか、まずそんなやばい火力偵察に持っていくんか?ということで急きょ違うものを探すことになりました。勢いって怖いNE!
キャラが本当にこんな感じかはほぼ手探りです。
そのほかにも、至らぬところがあればご指摘お願いします。私もなるべく改善していく次第です。