時が過ぎるとは……、残酷なものだな。
回を増すごとに意味不明になっていくタイトル。傍から見りゃ只の痛い詩だなこれ。
ついに色が付きました!点数付けていただいた皆様、ありがとうございます。うれしく、そしてガクブルが止まりません!!
「はあ……、人間って身勝手よねぇ」
「クリ?どうしたのです?」
集合の号令をかけられて集まった隊員たちを見て、栗林はそう呟いていた。
そこには、最年長でもあり『おやっさん』とみんなからしたわれている桑原陸士長の号令で、第三偵察隊の面々が整列していた。
そのメンツを見た栗林が抱いた第一印象は、「なんだこれ?」であった。
別段偵察隊の面々が悪いわけでは……個性の強い面々のため無いとは言い切れないが、とにかく栗林としては精強なイメージを期待していたのである。
だが、桑原の勧めでお互いに自己紹介をしたところ、写真やオタク趣味、果ては注射が趣味(注射が趣味とはいったい?)という何ともコメントのしづらいものであった。特に、彼女は昔学生時代にその手の人間から不快な行為を受けており、中々嫌悪感が抜けきらないのである。
彼女は最後の希望と思い、『二重橋の英雄』と呼ばれる伊丹二尉へ希望を向ける。あれだけ称賛される人間なのだ、きっと素晴らしい人物だろう。
桑原が「そろそろ来る頃だろう」と言い、栗林の期待は一気に高まる。あこがれの人物、一体どんな人なのか。
そうして待つこと少し、栗林の耳に聞こえてきたのは。
「メ~タボを何にたとえよう~、やらかした過去の残りかす~」
なんというか……、間抜けな歌だった。
「え…………………………?」
何かがおかしい。これがあの伊丹隊長?……いや、そういう以前にそもそもこの歌はいったい……。
様々な疑問に駆られてその方向に顔を向けると、そこには巨大な物体がいた。
「ヒチコマ、お前何歌ってるんだ?」
「自作の歌ですよー。自らの犯した過ちと、その末路を知ってなお破滅に突き進む人間の愚かしくもまっすぐな人生の歌!」
「俺にはダイエットに失敗したメタボの歌にしか聞こえないんだが……?」
訂正しよう、あれは歩行戦車と、それの質問に答え続ける自衛官だ。
彼と一匹(?)は自分たちの前に来ると、桑原に話しかけた。
「ああ、おやっさんわるいね。こいつの受領に時間かかっちゃって」
「いえ、隊長。第三偵察隊、全員揃いました」
そういって、彼は自分たちの目の前に立つ。
「今回、第三偵察隊隊長に上番した伊丹です。みんな、これからよろしく。こっちは思考戦車のヒチコマ、今回各偵察隊に一機づつ配備されることになった。仲良くしてやってくれ」
それは、あのとき栗林がやらかした時の自衛官であった。
そしてこの瞬間、栗林の理想が粉々に砕け散ったのであった。
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絶望のどん底のような暗い顔をした栗林や他の第三偵察隊を乗せた高機動車二台と装甲車一台、そしてその後ろを追尾するヒチコマが広い草原をかける。
「青い空、緑の平原、のどかだねえ」
家一つ無く、飛行機も何も飛ばない平原を見て伊丹は呟く。
「まあそうですけど、もっとこう異世界に行ってる感じの……。ほら、ドラゴンとか妖精とかいないっすかねえ。さっきから見えるのって羊とか牛ばっかだし」
つまらなさそうにぶーたれる倉田に、通信機から声がかかる。
「でも倉田クン、こ~いうのって山頂とかにいるんじゃないの?ほら、古の遺跡を護ってるような」
そういうのは、隊列の最後尾から無線で話しかけるヒチコマである。自分の管理権限をもつ隊長の影響なのか、徐々にそっち方面の知識を持ち始めている。
今回上が各偵察隊にヒチコマを配備させたのは、こういった通信もできず情報も少ない中で、いかに民間人を撃たないかという実験も含まれているらしい。さらにAIの育成という目的もあるらしく、隊員には積極的にヒチコマとしゃべることが推奨されているのだ。
「古の力でも眠ってそうな場所だな。声とか」
「やだよー、骸骨相手に銃ぶっ放すとか」
そんなことを喋りながら、車列は平原を進んでいく。
「倉田、この先に川があるはずだ。そしたら右に行って川沿いにすすめ。そうすればコダ村の村長が言ってた森につくはずだ」
戦術機とドローンの偵察により作成された地図を確認しながら桑原が指示する。この世界には衛星もGPSも存在せず、目印となる建造物さえこの辺りにはろくにないのだ。視界投影型のナビゲーションシステムを作ろうにも、それを作るのは自分たち偵察隊の情報である。そのため、方位磁針や地図を用いた位置の正確な確認が必須となる。こういった支援を受けられないときに前時代的な方法に頼らざるを得ないのは、技術が進歩しようと変わらないものである。
「流石おやっさん、頼りになるわあ」
「頼られついでに意見具申を、森には入らずに、手前で野営の準備を行いましょう」
「賛成」
伊丹は電脳通信で第三偵察隊全員の電脳へその決定を送信する。特地では人工衛星どころかネットすら存在しないことから通常の通信を行うことはできないが、偵察隊には全員QRSプラグ接続式の無線装置が配られており、それを介することで直接電脳でやり取りを行うことができるのだ。
「このまま森に入らないんですか?」
「この時間だし、入るころには夜になってるよ。ただでさえ暗い森の中、どんな生き物がいるかもわからない場所で夜を過ごすとかぞっとするよ」
そういいながら、伊丹は解析されたこの地の言語の一覧を視界AR(拡張現実)に表示させる。片手にメモや書類を持たずに文章を確認できるAR技術は、こういう時に非常に役に立つ。音声ファイルを一緒に再生させながら、挨拶の予習をはじめる。
「サヴァール、ハル、ウグルゥー?(こんにちは、ごきげんいかが?)」
「いくら電脳でカンニングできても、使う本人がこれじゃあ意味ないっすね」
「ほっとけや!」
倉田の頭を軽くはたき、前方へ視界を戻すと、義眼が何かをとらえて視界に警告を発する。
「倉田!」
「こっちにも警告出てます!」
義眼がその部分の解析を終了しその結果を表示させる。同時、伊丹は視界を拡大させ、その結果を表示する。
「煙?それも大規模な火災の可能性あり…………まさか!」
「―――山火事ですか!?」
すでに高機動車は肉眼レベルでもそれを確認できる位置にある。
「まずいな…………」
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「うわあ……」
「ひでえ……」
隊員たちがそう呻くのも無理はないほど、それは悲惨なものであった。
見渡す森のあちらこちらで火の手が上がり、煉獄のように炎が燃え広がっていく。
毒々しい赤が立ち上り、黒い夜空を地上から彩っていく。
地獄のような惨状、その光景に伊丹を始めとした数人の自衛官が呻く。
「……くそっ、やなもん思い出させやがる」
「あの時とは違うとわかってはいても、気分のいいものじゃありませんね」
毒づく伊丹に、桑原が同意する。
「どうします?ここ、確か集落があるんじゃ……」
そう尋ねるのは栗林である。彼女も見ていて気分がいいものではないのだろう。考えているのは、この森にいるらしい住民のことか。
「幾ら何でもこの装備で突入するのはまずい。二次災害出して帰ってくるのがオチだ。それにほら……、何も炎だけが脅威じゃないみたいだしな……」
そう言われて、栗林は携帯していた双眼鏡をのぞいて「あっ!」、と声を上げる。
そこには、デカい恐竜か何かに翼をくっつけたような生き物が飛び回っていた。
「ドラゴン……?」
「ぽいね。見てる感じ、この火事の元凶もあいつっぽいし」
伊丹が指をさす中、そいつは地面に火炎放射器のように炎を吐く。
「あれさ、何もないとこに火を吐くと思う?」
「まさか……っ!!」
「やべえ!まさか襲われてるんじゃ!?」
焦りだす隊員たちに指示を出しながら、伊丹は今の状況を秤にかける。
「あんな化けもんと火災の組み合わせ……、いくら義体適用者でも危険だな。野営は後回しだ!全員移動準備にかかれ!!」
伊丹は夜空を見上げる。これだけの火事だ、運が良ければ雨が降り、すぐにでも突入できるだろう。巨大生物に関しては、今のところは飛び去るまで待つしかあるまい。
夜はまだ明けず、炎だけが燃えさかっていく。
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夜が明け、森の日がほぼ鎮火した頃、伊丹たち偵察隊は森の中へ入っていった。
木々は黒く焦げ、緑豊かであっただろう面影はどこにもない。
動物たちの影も見当たらず、半長靴を通してほのかに温かい地面と、柔らかな灰の感触がする。
伊丹の予想した通り、森の中の村は灰と炭の山となっていた。
「ひでえもんだ……」
「これ、生存者いるんですかね?」
義眼やスキャンデバイス、様々な機器を用いて生存反応を確認する。開けた場所はもちろん、焼け崩れた建物や集落であったであろう場所の周囲もくまなく調べ上げる。ヒチコマには対空警戒を命じた、またあの怪物が戻ってくる可能性もあるからだ。
生存者は見つからないが、所々に
「………隊長あれって」
「ああ、倉田の思ってると通りだよ」
「うう……、吐きそうっす」
伊丹と違い、倉田は直接核事件を経験していない。そのため、二人の反応では差が出るのだ。それはほかの隊員にも表れており、経験しているものとしていないものでは表情が全く違う。核事件を経験していないものは、そこまで簡単に焼死体に対し割り切れないのだ。
伊丹たちも、別に平気なわけではない。ただ、そうやって割り切らなければいけない程、多くの焼死体を見てきたのだ。
周囲の捜索があらかた終わり、栗林から伊丹へその報告がまとめられる。
「およそ三十二件の建物が確認できましが、確認された死体は27体。幾らなんでも少なすぎます」
「建物の下は?」
「生体反応は確認できず、死体に関しても焼け残った建物と一緒になっており、確認は困難かと……」
「下敷きになったうえの焼死の可能性あり……、酷いもんだ。確認できない死体も、食われてる可能性があるな」
「食料にされた……、ということですか」
栗林が眉をしかめる。やはり考えたくはないのだろう。
「ここのドラゴン、肉食性、および人間を襲う可能性があるって報告しなきゃな」
「……ですね。銀座に現れた翼竜も、何とか12,2㎜徹甲弾で貫通できるかどうかでした」
「あいつはその倍くらいあったし、同じように通用するとも限らない。ちょっとした自動爆撃ヘリだな」
そういいつつ、伊丹は井戸へ桶を放り込んだ。水をくむためである。毒物などの危険もあるが、伊丹は全身義体のため体内でほぼろ過される。
しかし、井戸の底から聞こえてきたのは、スコーーンという甲高い音だった。
「あら、なんだろこれ?」
「いま、コーーンって音がしましたよね」
つい少し前まで人が住んでた集落の井戸だ、まさか枯れているということはあるまい。
何かあるかと覗き見ると、何かが浮かんでいるのがわかる。
義眼によるスキャンが表示された結果を確認した伊丹は、その結果に血相を変えて叫んだ。
「――――ッ!?人だ!!人命救助急げ!!…………いや、人……なのかな?」
井戸の底には長い耳の少女が、金色の髪を乱して倒れていた。
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「エルフっすね」
「エルフだな」
ヒチコマにワイヤーを垂らさせて井戸の底から少女を回収し、現在は黒川と栗林が少女の様子を見ている。
「たとえ違う世界でも環境が同じなら、知的生物は同じ進化をたどる。やっぱりあの教授の説は正しかったんだねー」
「エルフかあ……。なんだか異世界って実感わいてきましたねえ」
そう感想をこぼすのはヒチコマと倉田である。この二人、ある意味当然と言うべきか仲がいいのである。
「倉田お前ケモ耳好きだったんじゃないのか?」
「エルフがいるんだったら、ケモ耳っ娘とかも期待できるじゃないですか!?」
尚の力説をする倉田と、エルフ少女の身体を調べようとして近づいて、栗林に脚部装甲を殴られるヒチコマ。
「緊張感もへったくれもないねえ……。ま、その方が気楽でいいんだが」
濡れた半長靴を脱ぎながら伊丹は呟く。義体化しようと濡れた半長靴が気持ち悪いのは変わらないのである。
他の隊員たちは、みな瓦礫を掘り起こして日用品なんかを資料にしたり、円匙を使って埋葬用の穴を掘ったりしている。
半長靴の中の水を捨てて乾かしていると、エルフの少女を診終わったのか黒川が近づいてくる。
彼女の左腕は簡易医療装置内蔵の義手になっているようで、左手から無数のアームが展開されていた。
彼女の腕の周りにはホロが展開され、少女のバイタルが表示されている。
「人間の基準で見るなら各バイタルは全て安定。心音、体温、脳波その他すべて異常なし。頭に出きていたこぶも問題ないでしょう。ですが……」
「そうだな、連れまわすのもそれはそれでまずいし、かといってこの近くには民家とかはなさそうだしな、この森に女の子一人でおいていくのも不人情だろうしな。OK、一応保護ってことで基地に連れ帰りましょう」
「お持ち帰りー、朝帰りー」
「誤解を招く言い方すんなヒチコマ……。黒川、それで文句ないな?」
その言葉に、黒川はにっこりと微笑む。
「はい、二尉ならそうおっしゃると持っていましたわ」
「人道的でしょ?僕」
「どうでしょう?二尉が特殊な趣味をお持ち、とか何とか言っては失礼ですわね」
そう言って黒川はにっこりとほほ笑みながら、カチャカチャと義手を鳴らす。その様子を見て、伊丹は気のせいか無いはずの汗腺から汗が吹き出るような気がした。
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周囲が熱い、燃えるような空気が肺まで焦がす。
立ち向かった親友は食い殺された。
父が私の手を引いて走る。
走る
走る
走る
戦士たちが弓を引き、怪物へ矢を放つ。
だが、その射は無残に阻まれた。
父の矢が怪物の左眼に突き刺さる。精霊の加護を得た一射、閃光に迫る一撃。
しかし、それでも怪物は止まらない。
見知った顔が食い殺される。
引き裂かれる、焼かれる、踏みつぶされる。
父が私を担ぎ、井戸へ投げ入れた。
隠れていろと、ここに居ろと言って。
笑う父とその後ろの口。
それが、私が最後に見た光景だった。
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コダ村
本部に少女を保護した旨を伝えると「しゃあないな、はよ帰ってこい」という感じの返信が返ってきたため、伊丹たちは来た道を戻り、途中のコダ村で村長に森であったことを伝えていた。
どうやら村の子供たちはヒチコマのことが気にいったらしく、アームや胴体に取り付いて遊んでいた。ヒチコマの方も乗り気らしく、日の丸の書かれた扇子を取り出して(どこから手に入れた!?)、ちょっとした芸を見せている。……いよいよこの戦車が兵器なのかわからなくなってきたが……。
一方伊丹は、ヒチコマが変なことを起こさないか義眼の端でチェックしながら、たどたどしい現地語で村長に説明していた。
「ええっと……、大きな鳥いた。森、村、焼けた」
イラストを見せながら説明をする。すると、その絵をみた長老が血相を変える。
「こ、これは『古代龍』じゃ!!それも炎龍だと!!」
伊丹はドラゴンの現地語をデータに記録する。
「炎龍火出す。人、沢山焼けた」
「人ではなくエルフじゃ。あそこにはエルフが住んで居る」
村長がエルフを示すであろう単語を繰り返し、それを伊丹は音声ファイルとともに記録する。
村長は村の人間を何人か呼び寄せると、村に迫るであろう危機を伝える。それを聞いた村人たちは大慌てで村中に知らせ、あたりはあわただしくなる。
伊丹は、高機動車に乗せていたエルフの少女を村長に見せる。この村で保護できないかと尋ねたが、村長の返事はすげないものであった。
自分たちは村を捨てて逃げねばならない。何より、種族の違うものたちでは習慣も異なるとのことだ。
「村、捨てる?」
「………ああ、生き延びるにはそれしかあるまい。エルフの味を覚えた炎龍はきっとここも襲うじゃろう。どこの者と知らぬ方、炎龍の報を伝えてくださって感謝する。おかげで我らは生き延びることができた。このまま知らなければ、きっと我らも食われていただろう」
そういうと、村長は後ろで慌ただしく逃げる準備をする村人たちへ混じっていった。
用語解説
『思考戦車』
歩行戦車、および無人機の一種。人工知能を搭載し、自律的に攻撃、作戦行動を行う。衛星通信能力も有し、ネットワークを介した命令の受け付けも行う。軍用のほか、一部公安警察等にも配備されており、高度なものになるとゴースト(魂のようなもの、個人を個人たらしめる脳の情報)を有している可能性も確認される。
(元ネタ:攻殻機動隊)
『ヒチコマ』
剣菱重工製思考戦車の一つ。四脚の足とマニピュレーター付きのアームを装備する。内部に搭乗スペースも有し、強化外骨格としても運用可能(単座)。武装は各アームにガトリングガン12.7㎜弾使用)と背部に擲弾発射器を有する。また、その他に液体ワイヤーや熱光学迷彩を有している。大さも含め戦車よりも自立駆動する強化外骨格に近く、AIの性格も含め不信感を持たれにくいことから今回の偵察に配備された。サイズは一般的な大人より少し大きい程度、車両程度の大きさ。また、AIは高度な思考、会話が可能である。カラーはオリーブドラブ。
余談ではあるが、フルアーマーモードは非常にごついとか。
(元ネタ:タチコマ、フチコマ『攻殻機動隊』)
『黒川の義手』
名前の通り黒川二曹が有する義手。簡易医療装置を内蔵し、対象のバイタルの検査、診断を行うことができる。展開時の形態は前腕部が展開しいくつかのアームが現れるもの。腕部にはホロ投影機能も内蔵し、これにより救護対象や周囲の人間と診断情報を共有可能。衛生の問題があるため使用できるのは診断まで。
(元ネタ:オリジナル)
誰だ黒川をすごく不思議な義手にしたやつ。
なお、他のメンバーにも義体適用者は普通にいます。そういう時代だもの。
熱光学迷彩はチート過ぎたか?もしかしたら削るかも。
テュカの部分、削れないし削りたいしで謎ポエムっぽくしたのは内緒だよ?