GATE SF自衛軍彼の地にて斯く戦えり   作:炎海

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ところで異世界ものといえば、ドリフターズがアニメ化しましたね、今さらですが。
あいかわらず良い意味でうんこ作品でした。うんこの活用法をここまで書いた作品ってこれくらいじゃないですかね?私は原作三巻まで友人に読ませていただきましたが、どれも夢中になるものでした。流石ヒラコ―。
戦術とか戦略とかをもっと学びたいこの頃。少なくとも私としては、いい作品に出会えたと思います。



ところでスカイリム、いまだに私のはアーンゲールと最初に会うところで止まっています。mod入れた影響のせいか、このクエストだけ進めないんですよね、敵対してしまって。他のクエストは普通に進められるのに………。
私のPCに入っているスカイリムが、バグイリムと呼ばれるようになった瞬間でした。


第十六話 狐狩りの猟師と化け狐ーSurvival of the fittest.

 東京市内をめぐる地下鉄、その中に伊丹達一行はいた。国会議事堂から避難する際、この地下鉄による移動に切り替えたのである。

 地下鉄内は人で溢れかえり、通勤のサラリーマンや、怪しげな宗教の女性などで混雑していた。

 

「やっぱり、『来客』は正規のルートに引っ掛かりましたか」

 

 地下鉄に揺られながら、伊丹は駒門からの報告を聞いていた。

 

「ああ、餌の正規ルートに全て引っ掛かったさ。あんたの予想通り、あれは移動ルートを絞り込むためのものだったとみて正解だろうな」

「問題は、いったいどうやって仕込みを入れられたか……、ですね」

「その辺はこっちで絞り込めたさ。だが妙な事があってな………」

 

 吊革を握り、二人は顔をしかめながら今回の事件について話し合う。その顔は険しく、未だに警戒を解いてはいない。

 

「犯行の主犯、どうも今回の件でマークした連中との繋がりが見えないんだわ」

「と言うと?」

「連中は中東の過激派グループ。それも絶滅宣言時の残党だ。本来なら俺らもマークされている連中も等しく、やつらにとっちゃ憎い仇だ」

 

 そう、あの爆破事件を起こしたのは、駒門のマークしていた連中とは本来関わりすら持つはずのないテログループなのである。それ故、駒門は疑問に思っていたのだ。

 

「利用された?」

「そう考えるのが普通だがねぇ。だが、奴らは仮にも国際指名手配中、国境警備隊や入国監査がそこまで無能かって話だ。何よりリスクが釣り合わない。なぜここまで強引な手に出た?」

 

 逮捕されたテログループのメンバーはいずれも、賞金付きで国際指名手配されているほどの危険人物である。みすみす見逃すとは考えづらい。

 

「考えたくねえ話だが………」

「ええ、恐らくは………」

 

 伊丹と駒門は、同時にある結論へ辿り着いた。それはあってはならない、だがそれ以外に考えづらい結論であった。

 

「ねえ、伊丹ぃ。まだつかないのぉ?」

 

 怯えたような声と共に、伊丹の上着の裾が引っ張られる。思考に埋める頭を現実へ戻すと、ロウリィか怯えたような表情でそわそわとしていた。

 

「どうかしたのかロウリィ?」

「うう……、ここは地下でしょう?ハーディの領域に、無断で踏み込むことになっちゃうのよぉ……」

 

 このままじゃお嫁にされちゃうのぉ。と、珍しいことにロウリィは本気で怯えているようであった。

 

「ハーディ?」

「ええ、冥府を司る神、あいつしつこいのよぉ………。お嫁に来いって、何度も何度も。何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も、もうしつこくってぇ………」

「そ、そうなのか………」

 

 よくわからないが、どうやら日本ではストーカー紛いに分類されることでもされたのだろう。あのロウリィにここまで言わせるとは、そこまで危険な人物なのか。冥府の神と言われて、某魔法戦隊の十神が思い浮かんだ伊丹であった。

 

「けどなロウリィ、幾ら向こうの神様でも、きっと日本まで影響力はないだろう?」

「けどぉ…………」

 

 男性として、可愛い女の子に抱き付かれるのは役得であるが、そうも言ってられまい。ロウリィの顔は本当に辛そうである。

 伊丹は少し考えていると、駅停車を告げる車内アナウンスが響いた。仕方無いかと思いながら、伊丹は富田と栗林に目で合図を出す。二人が頷くのを確認すると、伊丹は人の流れに沿って動き出した。

 

「…………………。駒門さん、俺らここで降りますわ」

「は……………?イヤイヤイヤ、ちょっと待て。おいちょっと!!おい待て、おい!!!」

 

 駒門の制止を待たず、伊丹は地下鉄を降りていく。彼らに続き、富田と栗林が、特地からのメンバーを連れて付いていった。

 

「良いんですか隊長?」

「ロウリィの怯えようが尋常じゃないからな。それに、神様のお告げに従ってみるのも有りなんじゃないかと思ってさ」

 

 要は勘だ。と、伊丹はのほほんとした顔で富田に返す。その目線はずっと斜め上を見つめていた。

 不馴れな少女達に教えながら、改札を抜けたところで、駒門が追い付いてきた。服が相当乱れていることから、かなり焦って来たのだろう。

 

「おいおいおい、勝手に行かんでくれ。こっちにも段取りってもんが…………」

 

 やつれた顔で駒門が文句を言う。護衛をする側として、想定外の自体は避けたいのだろう。だが、文句を続けようとした彼の後ろから、唐突に轟音が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

『業務連絡、業務連絡。職員各位に通達、三番ホームにて非常事態発生、最寄りの職員は…………』

『只今、運行管理システムのトラブルにより、一時運行を見合わせております。対象となる路線は…………』

『お客様へご案内致します。最寄りの職員の指示に従い、速やかに…………』

 

 

 

 

 

 

 

 電子音と共に、駅構内へアナウンスが響き渡る。悲鳴と怒号が聞こえるなか、駒門と伊丹は顔を見合わせ、周囲を警戒しはじめた。

 

「…………っ!!列車事故だと!?こいつは人身事故じゃねえ、車両同士の衝突だぞ!!!」

「運行管制システムにより、一つ一つの運転まで管理される時代に列車事故なんて普通はあり得ない…………。栗林、富田!!すぐに地上に出るぞ!急げっ!!」

 

 事情を掴めていない特地側の面々を連れ、伊丹達は人混みを掻き分けて進む。今の状況は非常に不味いのだ。

 

「恐らくは運行管制システムへの不正アクセスか………。そいつも問題だが今は………」

「俺達の動向がが漏れてますね、確実に」

 

 炙り出しの可能性を考慮しても、早急にこの場を離れるべきだろう。それが、駒門と伊丹の結論であった。国会の件、そして今回の不正アクセス。敵がなりふり構わぬ行動に出ている以上、地下に留まるのは危険すぎる。

 

「くそっ、最初から頭ブッ飛んだ事してきやがる!!」

「それくらい、敵さんも必死なんでしょうや。鬼気迫る表情が思い描けますわ」

 

 電子マップを開き、最寄りの出口を探す伊丹へ、レレイが尋ねる。

 

「イタミ、これも何らかの攻撃か?」

「恐らくはな。炙り出しか混乱に乗じての接触か、あるいはその両方か。何にせよこのままだと、地下に居続ける方が危険だ」

「では、あれもそう?」

 

 レレイが指差すのは、前方で暴れる男性であった。髪を振り乱し、正気とは思えない形相で叫んでいた。

 

「我らは暁の地平線!!怨敵たるかの国へ復讐を!!!」

 

 この男だけではなく、至るところで騒動が起こっているらしい。それぞれがまるで、何かに取り憑かれたように暴れ狂っていた。

 

「チッ!!全員電脳を自閉モードにしろ!!野郎無差別にゴーストハックをかましてやがる!!!」

 

 指示を受けた全員が、自身の電脳を完全オフラインに切り替える。見つからないように早足で通り過ぎ、最寄りの階段へ辿り着いた一行は、そのまま階段を駆け上がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「地下鉄の運行システムへの介入に、不特定多数への同時ゴーストハック。一体何者だ?」

「運行システムへの介入なんぞ、ウィザードクラスのハッカーでも困難ですわ。仮にも日本のインフラ、その一角を担う国営組織ですからねぇ。そこらの中小企業のセキュリティなんぞとはレベルが違う……」

「だが、現にあいつらはそれを可能にした。そして、今は不特定多数への同時ゴーストハックときた、人間技じゃないな」

「ですねぇ、神様か何かかってんだい全く」

 

 ホロやネオンが輝くビル街、斬りつける様な寒さの中、伊丹と駒門は敵についての推測をしあっていた。逃げ続けるだけでは埒が明かない。とは言え、打つ手がないのが現状である。

 

「いっそ神様ってんなら楽でしょうねえ。こちとらモノホンの神様が隣にいるんだから」

 

 路上で宗教と思しき勧誘を行う女性を見ながら、伊丹はそう愚痴る。電脳の普及に伴い、電子空間を主にした宗教なども増えてきているのだ。そのうち本当の神様でも現れるんじゃないかと思いながら、伊丹はビル街の向こうへ目を向けた。

 

「埒の空かない話より、とりあえず今日の寝床でも考えましょうか。駒門さん、俺らの目的地ってどこです?」

「あー、それなほら、あそこにあるビルさ。ほら、あのけばけばしい緑のホロが光りまくってる建物」

 

 駒門が指さすのは、東京でも有名な高級ホテルの一つである。こんなところに泊まればいくらかかるのだろうかと、伊丹は思わず自身の財布と貯金を思い浮かべてしまった。国から出るとはいえ、金額を気にしてしまうのが庶民感覚というやつである。

 

「さて、それじゃあ敵の警戒をしつつ目的……地……うおお!!」

 

 周囲がざわつくのが気になった伊丹が振り返ると、そこには巨大な人影が腕を振り上げていた。

 

「危ない!!」

 

 とっさに隣にいたレレイを抱え、横へと飛ぶ。直後、轟音とともに地響きと土煙が巻き起こった。伊丹はレレイの小さな身体を下にして、彼女へと覆いかぶさる。伊丹の身体であれば、少々の瓦礫程度はどうということはない。

 

「イタミ、何が……?」

「わからん。けど、そのままじっとしていろ!!」

 

 土煙の中、何か大きなものが動いているのが分かる。だが、他の面々の姿が見えない。

 

「くそっ、全員無事か!?」

 

 伊丹が呼びかけると、安否を知らせる返事が返ってきた。

 

「大丈夫です!!」

「何とか回避しました!!」

「心配いらないわぁ!!」

「大丈夫!!でもナニコレ?」

「わ、わらわは大事ないぞ!!」

「わたくしもです!!」

 

 どうやら、全員無事らしい。伊丹はレレイを抱きかかえながら立ち上がると、襲い掛かってきた実行犯へ目を向けた。

 

「強化外骨格……だと?」

 

 現れたのは、全装甲型の強化外骨格であった。大きさは五メートル弱、黄色と黒の塗装に、緑色の十字マーク。おそらくはどこかの工事現場で使われていたモノだろう。だが、建設用と侮ることなかれ、生身の人間や民間用義体の脳殻であれば、十分破壊できるほどの出力を誇る。

 

「くそっ、面倒な……」

 

 このままいけば、確実に周りで被害が出る。さらに地下とは違い、恐らくは正確にこちらをマークしているだろう。むやみに逃げ回れば、それだけ被害が拡散しかねない。

 伊丹が脱出の方法を思案していると、敵の前に躍り出る人影があった。

 

「―――ッ!?おいロウリィ!!」

 

 薄ら笑いを浮かべ、強化外骨格の前に立つのは、ハルバートを構えたロウリィであった。

 

「うふふっ、ちょうどイライラしていたところだったのぉ。ねえあなたぁ、一緒に踊ってくださらないかしらぁ?」

 

 敵が腕を振り上げ、叩き潰す様におろす。ロウリィに当たる直後、掴むように大きな機械の手のひらを広げた。だが、ロウリィはそれを踊るように躱すと、返す刃とばかりに腕へハルバートをお見舞いした。だが、工事用の装甲といえども半端な鉄板などではない。ハルバートの刃は断ち切るには至らず、へこませるのみに終わった。

 

「…………ッ!!硬いわねぇ。ふふっ、いいわぁ。そんなに大きくて硬いなんて、ゾクゾクしちゃう。……でも、テクはまだまだよぉ!!」

 

 振り下ろされた腕に飛び乗り、胴体めがけて駆け上がる。敵も振り下ろそうと暴れるが、ロウリィは意に介さず、操縦席まで距離を詰める。そしてそのまま、ハルバートを強化ガラスへ叩きつけた。

 

「ここも駄目ねぇ。……あら?ずいぶん激しく動くのねぇ。そんなに必死に動いて、貴方も気持ちいいのかしらぁ?」

 

 流石にまずいと判断したか、ロウリィが敵から飛び降りる。

 

「なら、もっと激しくイカせてあげるわぁ!!」

 

 がむしゃらに敵が振り回す腕を、ロウリィは弾き、躱し、いなす。道路のアスファルトが弾け、コンクリートが吹き飛ぶ、それでもロウリィは踊るようにそれらを避け、的確に反撃を与えていった。

 

「そこぉ!!」

 

 大ぶりの一撃によって隙のできた左腕の関節へ、ロウリィのハルバートが叩き込まれた。保護用の布や、内部の配線を引きちぎり、陳属のひしゃげるような音を立てる。素早く獲物を引き抜くと、ロウリィは強化外骨格の間合いから抜け出した。

 

「へぇ……。意外と立つのねぇ。まだ出し足りないのかしらぁ?」

 

 左腕から異質な音を立てながらも、どうやらまだ動くらしい。日本製自慢の頑丈さに呆れつつも、感心するロウリィであった。敵の次の動作を察知したロウリィは、すぐに避けられるようにハルバートを構えなおす。だが…………。

 

「おかーさーん、どこー?」

「………っ!?まずっ!!」

 

 強化外骨格の繰り出した拳、その方向に子供がいることをロウリィは見つけた。避ければ子供に当たる、抱えて避けるのは間に合わない。ならば……。

 

「――――がっ!!このォ!!!」

 

 ハルバートを両手で構え、その拳を受け止める。両足が地面のタイルを踏み砕き、その強大な出力の前に、思わず片膝をつく。

 

(…………分かってはいたけれどぉ。流石の腕力ねぇ)

 

 いくら亜神として規格外の身体能力を誇ろうと、機械の出力には長時間耐えきるのは難しい。今でさえ、辛うじて支えるのがようやくなのだ。

 

「逃げなさい!!早く!!」

「ひっ!ぐすっ……。うう……」

 

 ロウリィにせかされ、子供が這うように逃げていく。だが、足を怪我でもしているのか、中々進まない。そんな彼女らを嘲笑うように、強化外骨格の左手が振り上げられる。幾ら動作に支障が出ていても、あれだけの鉄塊に殴られればただでは済まない。ロウリィはともかく、子供は恐らく耐えられないだろう。

 

「まず……っ!!」

 

 突き込まれる拳を睨みつけながら、ロウリィは両腕に精一杯の力を籠める。だが、もはや間に合わない。そのまま拳が近づいていき…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その拳が、大声とともに逸らされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラァァァ!!!!!」

 

 割って入ったのは、なんと伊丹であった。全身を使って迫りくる拳を弾き飛ばすと、そのままロウリィを捉えている方の腕へと蹴りを叩き込んだ。

 

「………………俺、こういう直接戦闘は得意じゃないんだがなぁ。まあいいさ、相手してやるよポンコツ重機!!!」

 

 いつもののほほんとした雰囲気からは考えられない、犬歯を剝き出しにした獰猛な形相で、伊丹は強化外骨格を睨んでいた。

 

「悪いロウリィ、一般人の避難優先で遅れた!!あとはおっさんたちに任せてくれ!!」

 

 ロウリィが後ろを見ると、栗林が子供を抱えて離脱していくのが見えた。

 敵へ目を向けると、強化外骨格の装甲を駆け上がり、その背部に取り付く人影が現れる。駒門だ、彼はコートを翻しながら、ロウリィへ向けて叫ぶ。

 

「ありがとうよ嬢ちゃん、おかげで死人を出さずに済んだぜ。こっからは大人の役目さ!!」

 

 そう言うと、駒門は首筋からQRSコードの抜き、それを強化外骨格のプラグへ突き刺した。手元に拳銃を持っていることから、どうやら射撃でカバーを壊したようである。

 

「情報を扱うのはハッカーの専売特許じゃあねえ、公安の十八番でもあるのさ。ウィザード級の化けもんならともかく、工業用のプロテクトに、そうそう遅れはとらんよ!」

 

 そういうと、駒門は次々に強化外骨格のシステムプロテクトを解除にかかる。だが、敵もただやられるだけではない、全力で振り落としにかかる。

 

「くそっ!大した暴れ馬だよまったく。おおっとぉ!!」

 

 振り落とされないようにしがみつくが、それでもハッキングと同時並行での体勢保持は中々に厳しい。が、それも織り込み済みである。

 

「させるか!!!」

 

 強化外骨格の後ろから、富田が全力でタックルを叩き込む。転倒こそしないが、動きを少しだけ止めることには成功した。だが、その一瞬で十分である。

 

「これの動きを止めるだけでいい?」

 

 杖を構えたレレイが魔法を唱えると、敵の動きが鈍くなった。完全に停止はしないが、振り落とされる心配はないだろう。長くは続かないが、要は停止するまで持てばそれで良いのだ。

 

「これで……、ダメ押しよ!!」

 

 テュカが精霊魔法を唱え、駒門の身体を風が押し上げる。これで、振り落とされる心配はほば無くなった。

 

「ありがてえ、それじゃあ最後の仕上げと行くか!!」

 

 駒門が意識の大部分を侵入へ向け、システムクラックへ用いる電脳の領域が大幅に増える。そのまま防壁を突破し、システムへ強引に接続した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――システム防壁中和完了

 

――制御システムへのアクセス開始

 

 

――有線以外をオフラインに移行 完了

 

 

――全ディレクトリ閲覧開始 表示

 

――動作システムファイルに不明なデータを確認 

 

――不明ファイル削除開始 エラー

 

――動作システムファイルを閲覧 スクリプト読み込み エラー 解析不能

 

――動作システムファイル全削除 開始

 

 

 

 

 

――削除不能なファイルが存在 スキップ

 

 

 

 

 

 

――全データ削除完了

 

――機体動作にエラー発生 必要な動作OS取得に失敗 タスクの実行不能 

 

――衛星より再ダウンロード開始 エラー 

 

 

――全システムファイルおよびディレクトリ削除 開始

 

 

 

 

 

――削除不能なファイルが存在 スキップ

 

 

 

 

 

――全prおr蔵mnおskぞk……慮……う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成功だ。運転に必要なデータどころか、システムファイル丸ごと削除しちまったが、まあ持ち主の運がなかったってことだ」

 

 その言葉に、戦っていた全員がほっとする。どうやら、作戦通りに事が運んだらしい。その証拠に、今まで暴れていた強化外骨格はピクリとも動かない。

 

「これ、もはや只のスクラップっすね」

「動作用の制御データはもちろん、内部のシステムファイルを全消ししましたからね。人間で例えるなら廃人ですわ。修理にも出さずに復旧できるならしてみろってんだ。これで有線以外のシステム復旧は確実に不可能ですよ」

 

 機体から飛び降りると、駒門は鼻を鳴らす。首から音を立てながら、彼はあたりを見回した。

 

「あれまあ、ずいぶんと人目を引いちまったもんで」

「ま、あれだけ暴れりゃあ仕方ないですよ」

 

 花壇は粉砕され、アスファルトはめくりあがり、あたりには瓦礫が散らばっている。戦場もかくやの有様に、二人のおっさんは肩をすくめた。

 

「それじゃあちゃっちゃと移動しますか」

「あー、くそっ!こいつはスキュラに後始末を頼むしかねえか………。やだなあ、あの妖怪ババアに借りを作るなんざ」

 

 そう言って、二人は移動ルートを模索し始める。恐らくではあるが、次も敵に情報が洩れると想定して構築した方がよい。あまりのことに二人が頭をかかえていると、小さな子供が近づいてきた。

 

「えーと、あの……」

「君は……、えっと……」

「隊長、この子はさっきロウリィがかばった子供です。ロウリィに言いたいことがあるって」

 

 子供の隣には、先ほど抱えていった栗林の姿もある。どうやら、子供の頼みを聞いて連れてきたらしい。

 伊丹が周囲を見回していると、等のロウリィ本人がやってきた。先程まで激戦を繰り広げていたが、特に目立った外傷は無い様である。

 

「あらぁ、どうしたのかしらぁ?」

「えっと、あの……」

 

 子供は、少し両手を弄りながら思案しているようであったが、少し考えていうことが固まったのか、ロウリィの方をじっと見つめなおした。

 

「助けてくれて、ありがとうございます!!」

 

 そういうと子供は、ちょこんとかわいらしいお辞儀をした。ロウリィは少し呆気にとられた後、口元に微笑みを浮かべた。

 

「ふふっ、どういたしましてぇ。そうやって素直に感謝できるのはいいことよぉ、今後も大切にしなさいねぇ。さあ、行きなさい。あなたのご両親が待っているでしょう?」

 

 子供の頭を撫でながらそう言うと、ロウリィは彼の背中を押す。手を振りながら帰っていく子供の背中を見送りながら、ロウリィは呟いた。

 

「素直に感謝できる子供もいれば、守られているのに責め立てる議員もいる。二ホンの国民も、様々な人間がいるわねぇ………」

「女神さまのお気に召したかい?」

「ふふっ、どうかしらぁ?」

 

 伊丹が茶化す様に問いかけると、ロウリィは意味深な笑みを返した。フリルを翻しながらクルリと回ると、伊丹の方を向く。

 

「でも、悪くはないわぁ。さあ、次はどこへ行くのかしらぁ?もう少し見てみたいのよぉ、あなたたちの国ぃ」

 

 鼻歌を歌いながら、ロウリィは強化外骨格の腕に腰掛ける。伊丹は頭をかきながら苦笑すると、ルートの選別へ移り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にこのルートを通らなきゃいけないの?」

 

 路地裏の狭さに辟易しながら、テュカが不満を述べる。

 

「ああ、あそこまで強引な手段に出てくるんだ。徹底して監視の目をかいくぐる必要があるさ。

 

 彼らが逃走手段として選んだのは、街に広がる裏路地であった。この辺りは伊丹には土地勘があり、うまく出し抜けられると考えたのである。

 

「毎回お前さんは珍妙な手に出るな。少なくとも、勧められる手ではないだろうに」

「俺だって別にこんな手は使いたくないっすよ。ただ、今はそうも言ってられませんしね」

 

 そう言うと伊丹は、路地の隅に座り込む浮浪者たちへ目を向けた。

 

「ここに住む人たちは、電脳化すらまともにしていない。システムがうまく使えないって意味じゃ、一応敵のハッカーからは身を守れるさ」

 

 目下最大の問題は、地下鉄の管制システムすらハッキングした相手の手腕である。周囲の監視システムもそうだが、自分たちの電脳が特定され、ゴーストハックされる事態は何としてでも避けなければならない。伊丹がそれを回避できそうだと考えられる装備は、今は手元にはないのだ。ならば、なるべくオンラインでつながるカメラ等の機器は避けなければなるまい。

 

「とは言え、半身でしか入れないような隙間を通るのはこりごりですよ」

「そうですよ、入りにくいったらありゃしません」

 

 富田と栗林が、今までの道のりについて抗議を入れる。確かに、二人ともいろいろな意味で窮屈そうである。その声に、レレイが何のことかときょとんとし、ロウリィが一瞬でドス黒い笑みを浮かべた。

 

 

「ま、まあ、もう少しすればつくんだ、もう少し…………で」

 

 二人の部下をなだめていた伊丹は、唐突に笑顔を引っ込めて目つきを鋭くする。上官の豹変を察した二人は、すぐに周囲を警戒し始めた。伊丹は目を細めると、何かを考えるようにうつむいた後、駒門の元へ向かい始めた。

 後ろの二人の変化を察した駒門は、角の前で立ち止まる。

 

「敵か?」

 

 尋ねる駒門に、伊丹は無言で近づいていく。そのまま、入れ替わるように角に立つと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駒門を拘束し、素早く首筋に何かを押し当てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ、てめえ何……を……」

 

 抗議しようとする駒門であったが、そのまま力が抜けたように膝をついた。そのまま伊丹が身体を放すと、路地裏の地面に倒れ伏す。電脳錠、QRSプラグから直接侵入し、相手の電脳をロックする拘束具である。これに囚われたが最後、自前の脳だけで解除するのはまず不可能と言っていい。

 

「隊長、なにを!?」

「ちょっ、隊長!?」

 

 栗林と富田が警戒する中、伊丹は後ろに向けて駒門の銃を抜き放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「茶番はここまでだ。恨むなら、自分の浅はかさを呪うんだな………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




『用語集』

『ゴーストハック』
他人の電脳へ不正にアクセスし、思考や記憶などを改竄する手口。脳を電子的に接続可能にし、互いに思考を共有できるこの時代ならではの問題でもある。
無論法律において無許可での行使は違法であり、発覚すれば重罪は免れない。他人の電脳を不正に弄るとは、それだけ危険な行為なのである。

『DSK-model62』
建設作業用強化外骨格、本編にて使用されたものの型番。
従来の製品に比べ、関節部、出力の大幅な改良が施された新型重機。自動操縦にも対応し、遠隔操作の他、プログラムを組んでの独立駆動にも対応している。剣菱重工製。

『暁の地平線』
中東を拠点として活動中の過激派テログループ。核事件後に壊滅させられた組織の残党で、絶滅宣言を主導した連合国側への報復を誓っている。規模こそ中程度ではあるものの、凶暴性においては上位に存在し、自爆テロすらも辞さないことで有名。各国でのテロ行為により、すでに多くの死傷者が発生している。標語は、「あらゆる偽善に呪いあれ(كل من النفاق، لا بد من لعن)」。




 google先生は偉大、はっきりわかんだね!なお、私はアラビア語は読めません。
 もはやこの国平和(笑)状態と化してますが、向こうも自滅覚悟の攻撃をしてるからこそと思っていただければ幸いです。

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