GATE SF自衛軍彼の地にて斯く戦えり   作:炎海

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ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ~!

やったよもうすぐ銀座だよ!ついにやりたい放題が出来るぞ~!!!

え?まだ少しかかる?













うぞだどんどこどぉぉぉぉぉおぉおぉぉぉん!!!!!!!!


第十二話 その罪は誰が背負うかー Who will stand in front of the guillotine ?

「何てことをしてくれたんだ!!!!!」

 

 援軍として到着し、意気揚々と敵国の捕虜を見せた部下二人に、ピニャは片手に持っていた銀杯を投げつけた。

 

「もうやだぁ……。どうしてくれるんだこの始末……」

「い、一体どうしたというのですか殿下?」

 

 いきなり銀杯を投げつけられて頭を押さえているのは、彼女の部下であるボーゼス・コ・パレスティーである。

 やはりというか当然というか、彼女達は日本との条約を知らなかったのである。それ故に、何故叱責を受けているのか、その理由が分からないのだ。

 

「で、殿下。いきなり何をなさるのですか?ボーゼスが一体何をしたというのです?」

「何もこうもあるか……。ああ、もう本当どうしよう」

 

 叱責の意味がわからずに抗議するのは、ボーゼスの隣で報告をする、パナシュ・フレ・カルギーである。ピニャは頭を抱えると、今の状況を説明し始めた。

 日本と暫定的に条約を結んでいること、アルヌスとイタリカの往来が保証されていること、伊丹がその日本の軍人あることを知った二人は、自分達がやらかしたことの重大さに気が付き、顔を青くした。

 

「そ、それでは我々は……」

「ああ、協定を結んだその日の内に、此方からそれを破ったということだ」

 

 ピニャはボーゼス達に伊丹へ何をしたかと聞く。彼女達は伊丹に、捕虜への当然の扱いをしたという。帝国でのそれは、殴る蹴るの暴行に始まり、馬で引きずるといった数々の虐待行為である。

 

「これだけのこと、向こうが知ったらなんというか……。ハミルトン、彼はどのような状た……い、で…………あっれぇ!!?」

 

 これだけの事をしたのだ、どれだけ酷いことになっているかと目を向けたピニャであったが、そこには予想の斜め上をいく姿があった。

 

「あ、どうも。お世話になってます」

「あ、いえ。こちらこそとんだ失礼を」

 

 そこにはピンピンしながらハミルトンに挨拶をする伊丹と、そのユルい雰囲気に半分取り込まれるハミルトンの姿であった。

 

「い、イタミ殿、身体の方は……?」

「あ、ピニャ殿下。ついさっきぶりです」

 

 ユルい雰囲気を醸し出しながら、片手をあげて挨拶をする伊丹に、ピニャは訳がわからず困惑する。

 

「で、殿下。あの男、籠手で殴り付けようと馬で引きずろうと、一切堪えた様子がないのです。どれだけ痛め付けようと、まるでそよ風のごとく受け流して……」

「ああ、お前達が何をしたのかも大体わかった。しかし、あれは一体?」

 

 着ているものがボロボロであることからも、どれだけのことをされたか察しがつく。しかし、この何事もなかったかのような様子は一体何なのか……。

 

「あのー、あの、ピニャ殿下?」

「いや、あの兵士達は皆強靭な肉体を持つ。ならばあの男も……」

「あの、ピニャ殿下?ピニャさん?おーい!!」

「………ふぇ!!?あ、どうしたのだ?」

 

 考え込んでいたために暫く気が付かず、咄嗟にピニャは変な声が出てしまう。

 

「あの、何もないならもう帰っていいですか?俺……、特にここに用事があるわけでもないので」

 

 言葉とは、受けとる側のその時の感情によって、意味が違ってしまうものである。伊丹としてはただ、出来ればさっさと帰って寝てしまいたい、という考えから出た発言であった。しかしピニャは、「直ぐに帰ってこの不始末を報告してやる」という風にとってしまったのだ。

 

「ま、待て!いや、待ってくれ!!そ、そうだイタミ殿。疲れているだろう?良かったら休んでいくのはどうだ?どのみちアルヌスまでの足が無いだろう。部屋を用意しよう」

 

 いきなり慌て始めるピニャに、伊丹は内心で首をかしげる。とは言え、既に今は夜である。例え全身義体でも、確かに一人でアルヌスまで行くのは、余り得策とは言えないのも事実だ。

 

「まあ、それならお言葉に甘えて」

 

 伊丹も疲れており、休めるならどこでもいいやという感じであった。

 

「あ、ああ。今案内の下女を呼ぼう。それと、部屋の方も上物を用意しよう」

 

 その様子にホッとしたのか、ピニャは口元を緩めるとベルをならす。直ぐにフォルマル家のメイド達が駆けつけ、ピニャから事情を聞かされる。

 伊丹が呼び出された女性について行き部屋を出ると、ピニャは椅子にもたれこみ、深く溜め息をついた。

 

 

「さて、どーしよ……?」

 

 

 

 

  

 

 

 伊丹はついていくメイドの後ろ姿を、珍しげに眺めていた。

 

「どうしましたか?」

「ん、いや、何でもないっすよ」

 

 振り向いて不思議そうに首をかしげる彼女に、伊丹は誤魔化すように笑い返した。日本流アイソワライ=ジツである。

 

(ケモ耳メイド、やはり倉田は正しかったか)

 

 表現すれば劇画調になるような顔で、伊丹はそんなアホみたいなことを考える。何せ、目の前を先に歩くメイドは、頭の上からウサギの様な耳の生えていたのだ。

 しかし、彼女は含んだ笑みを浮かべてこう返した。

 

「先代様は開明的な方でして、我々のような多種族も多く働いているのです。その……、伊丹様は多種族出身者はお嫌いでしょうか?」

 

 どうやら疑問に関しては察されていたらしい。しかし、最後の質問に関しては、伊丹のオタクとしてのスタンスから、明確に否定しておくことにした。

 

「そんなことはないさ。ここに来てから余りそういう人には会わなくてね、むしろ部下ならきっと大喜びするだろうし」

 

 最も、日本だとカニ腕や四本腕、挙げ句は名状しがたい形状の義体など幾らでもあるのだ。この程度の違いなど、伊丹にしてみればどうということはない。むしろ需要があるくらいである。

 

「それは良かったです。帝都の方だと、嫌悪を示す人も多いので」

 

 伊丹のその言葉に、ホッとしたように彼女は頬を緩めた。

 

「あ、申し訳ありません、自己紹介が遅れましたね。私はマミーナと申します」

「そうだね、じゃあ俺も改めて。伊丹耀司です。伊丹が苗字で耀司が名前、どっちでも好きに呼んでくれ」

「わかりました、ではヨウジ様と。改めて、このイタリカを救っていただいたこと、深く感謝致します」

 

 そう言うと、マミーナは伊丹の方を向き、深くお辞儀をした。

 

「そして、もしヨウジ様がピニャ様を許さず、攻め滅ぼす所存でしたら、イタリカ一同、惜しみなく助力する次第です。それは私も、この先で待つ同僚達も、既に賛同しております。ただ、何卒フォルマル伯爵家、ミュイ様にだけは危害を加えられないようお願い致します」

 

 彼女達は帝国に忠誠を誓っているのではなく、イタリカのフォルマル伯爵家にこそ忠誠を誓っているのだろう。そう思いながら、伊丹はいやいやと首を振る。

 

「構わないさ、これくらいの事は慣れてるしね。イタリカの戦いも、半分は俺達が自己満足でやったことだよ」

「自己満足……、ですか?」

 

 影のある笑みを浮かべながら、伊丹は頷いた。まるで自分に言い聞かせるかのように、彼は呟く。

 

「…………ああそうさ。結局は負け犬の一人遊び、惨めに重ね合わせてただけさ」

 

 自嘲気味に言葉を吐く伊丹に、マミーナは思案する。彼らは誇るべきことをしたのに、何故そんな顔をするのかと。

 その視線に気が付き、伊丹はばつが悪そうに笑った。

 

「………あ、悪かったね、誉めて貰ったのにこんなこと言って」

「い、いえ、気にしてはおりませんので」

 

 そう言うと、マミーナもぶんぶんと首を振った。そして、一つ咳払いをすると、伊丹に笑いかけながら尋ねた。  

 

「……少し、昔のことを話してもいいですか?私の過去のことです」

「……ん?いいけれど……」

 

 マミーナは、伊丹のその様子がまるで自己嫌悪に感じられたのだ。そして、自分も昔、似たようなことを考えていたことも思い出した。

 

「ありがとうございます。私は昔……、自分の住む部族と故郷を、帝国に攻め滅ぼされたんです」

 

 

「その後はずっと、各地をさまよい続けました。売れるものは全て売って、地面を這うように生き続けました」

 

 遠い過去の事、今でも思い出す記憶。階段をのぼりながら、マミーナはぽつりぽつりと言葉にし続けた。

 

「でもある日フォルマル伯爵に拾われて、ここでメイドとして雇ってもらえたんです。ここには他にも、行き場の無い多種族なんかが大勢いさせてもらえてて、待遇もずっと良いものでした」

 

 でも、と。断ち切るようにマミーナは話す。

 

「それでもたまに思うんです。伯爵を守った後、通りすがりの誰かを守った後。手を見ながら思うんです」

 

 

 

「何故あのとき守れなかった。何故あのとき助けられなかった。何故、何故、何故、守れなかった自分が、どうしてのうのうと生きているんだろうって」

 

 

 

「これはただの逃避なんかじゃないかって。守った気になって、自分を慰めてるだけじゃないかって。そう思う時があるんです」

 

 

 本当は分かっているのだ、あの場で自分に出来ることなど、何もなかったのだと。だが、それでも考えずにはいられないのだ。何か無かったかと、何か出来はしなかったかと。

 

「そんな事を先代様に一度だけ、相談したことがあるんです。あの方は最後まで聞いて下さると、こう仰られました」

 

 

「それでも、救われた者はいる。それが自己満足でも、確かに救われた者はいるんだ。例え過去を後悔し続けても、その事は誇りに思ってくれ。と」

 

 

 全てを救うことなど出来はしない。例え神様の手のひらでも、零れていく命はある。だが、それでも誰も救われなかったわけではない。伊丹は、そんなある人から言われた言葉を思い出した。どれだけ手が血に濡れようと、どれだけ後悔を味わおうと、それだけは忘れないでくれと。

 

「ありがとうマミーナさん。そうだな、そんな風に言っちゃいけなかった。君達を守れたことは、誇りに思うよ」

 

 気がつけば、既に部屋についていた。光の漏れるドアを押しながら、その言葉にマミーナも笑い返した。

 

「私も、ミュイ様も、街のみんなも、貴方達に感謝しています。その事は、どうか忘れないでいてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は遡り少し前、イタリカ周辺に近づく影があった。

 

「隊長、貴方の事は忘れません!」

「いや倉田、勝手に隊長を殺すなよ……」

「最悪は隊長の装備品と、ドックタグだけでも回収するわよ」

「いやだから殺すなって栗林……」

 

 イタリカ周辺の地形に隠れるのは、第三偵察隊から富田と倉田と栗林。他にもロウリィやレレイ、テュカの姿もあった。

 

「まあ実際のとこ、伊丹隊長は無事だろうけどな」

「あー、それってあの人全身義体だから?」

「それもあるけど、あの人特殊部隊出だぞ」

「…………は?マジ?嘘でしょう!!?」

 

 女としてアレな顔をしながら、栗林が叫ぶ。耳元で怒鳴られたことに顔をしかめながら、富田は言葉を続けた。

 

「マジさ。中東のラッカ絶滅作戦の時も、最前線にいたって噂だ」

「それって第三次世界大戦中の戦場の、特にヤバかった時期のことじゃない!!いやいやいやいや、あり得ないって。あの人が特殊部隊?ないわー、絶対ないわー」

 

 余裕を取り戻したのか笑う栗林に、富田はさらに付け加える。

 

「でも実際にあの人の義体操作って相当レベル高いし、電脳戦もなかなかの手練れだぞ。と言うか、電戦徽章とレンジャー徽章持ちだし」

「そりゃあまあ………ん?今なんつった?」

 

 その一言に栗林は一瞬凍りつき、富田の胸ぐらを掴み上げた。

 

「い・ま・な・ん・つ・っ・た?」

「え、いや、だから電戦徽章とレンジャー徽章持ち……」

「うっそあり得ないって!!あの伊丹隊長よ?」

 

 電戦徽章とは、電脳戦に長けたものに与えられる徽章である。公安などの情報を扱う職には及ばなくとも、相応の電脳スキルを持つ者に与えられる徽章である。レンジャー徽章は言わずもがなだ。

 

「イタミに何かあった?栗林は何に驚いている?」

 

 事情のよくわからないレレイが、説明を求める。  

 

「あー、えっと、どう言えばいいのかな?伊丹隊長が精神と肉体、そして……。ねぇ富田、電脳戦ってどう説明すれば良いだろ?」

「俺が知るかよ!」

「なんかあれですよ、催眠魔法とかそんな感じじゃないですか?」

「そ、それ、それよ!えーと、精神と肉体、それに魔法の使い手……あっれぇ?なにこの完璧そうな人……」

 

 説明した栗林自身が困惑し、聞いた三人娘が吹き出した。説明された人物は、まるで精悍な軍人を連想させて、とても彼女らのよく知る伊丹とはかけ離れていたのだ。

 

「つ、つまり!隊長のキャラじゃないのよ!!」

「……確かに、普段のイタミからは想像できないわね」

 

 栗林のその締め括りに、テュカが苦笑する。

 

「栗林……、お前その説明……」

「うっさい行くよ!!」

 

 余計な口を挟む富田を、今度言ったらその口縫い合わすとばかりに栗林は睨み付けた。

 

 

 

 

 

 

 イタリカ城壁の下、その直ぐ近くまで近づいていく。

 

移動開始(ムーブ)

 

 富田の号令を受け、全員が真下へ駆け寄る。倉田が視界ARに内部マップを投影させる。これは前回の戦いの時に記録したもので、余程のことが無い限りはそのまま使用できるだろう。

 

「AR同期完了しました」

「了解。そろそろだな」

 

 そう富田が呟いた直後、上で青白い光が輝いた。

 

「こっちは完了」

 

 上から顔をだし、そう言うのはレレイである。作戦としては、レレイ達が中から警備兵を無力化し、そこから第三偵察隊が入ってくる。というものである。

 

「これ、正面から入っても問題無かったんじゃ?」

「いや、イタリカの人はともかく、ここには騎士団もいる。いちいち説明するのも時間を食うからな」

 

 ぼやく栗林に、富田は潜入にした理由を説明する。

 今彼女達に、自分達第三偵察隊がどう思われているかわからない。車を飛ばせば逃げ切れた前回と違い、今回は個々の足に頼ることになる。生身の足では、どうしても限界があるのだ。

 

「余計な軋轢を生む必要はないさ。隊長を回収したら直ぐに撤収、今夜はなにも起こらなかった、だ」

 

 下手をすれば、こちらの報復を叩き込むことになりかねない。それが本人の意思に関わらず、である。そうした事態を避けるには、今回の件を最小限に処理する必要があるのだ。

 

行け、行け、行け(ゴー ゴー ゴー)

 

 サーモビジョンで死角の住民を確認しつつ、フォルマル伯爵家の屋敷へと進んでいく。夜の街にはほとんど人がおらず、またAR投影された誘導により、道に迷うことなく到着した。

 

「ドローン」

 

 富田が指示すると、栗林が幾つかの小さな球体を取り出す。それらは彼女の手を離れると震えだし、孵化した雛のようにわれた。隣のテュカが不思議そうに眺めるなか、それは足を生やし、屋敷の中へと向かっていった。

 「MRD-23 ポリー」。電脳操作式の、小型偵察機である。ポリーが先行し、屋敷の人間をマークして報告する。その報告を受け取り、ARに位置を投影しながら、彼らは屋敷の窓へと近づいていった。

 窓の鎧戸を抉じ開け、中へ侵入する。ARを調整し、フォルマル家屋敷の内部構造が全て丸見えになる。

 

「隊長の居場所は?」

「ポリーより一階での確認出来ず。捜索を続行します」

「わかった。サーマルビジョンで死角を確認しつつ、慎重に進め」

 

 富田がそう命令すると、全員が闇に紛れて動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お水をどうぞ、ですにゃ」

 

 用意された部屋、その中には猫耳、メデューサと様々なメイドが待機していた。

 その中の猫耳の女性から水を貰い、伊丹は部屋を見回していた。

 

「でか……」

 

 伊丹が案内されたのは、この屋敷でも上等の類いではないかという部屋であった。庶民節丸出しでそう考えながら、伊丹は貰った水をいただく。

 

(水質は硬水、毒性は確認できず、か)

 

 この部屋にいるメイドは五人、一番年齢の高いメイド長から全員を紹介された。

 マミーナはボーヴァルバニー。猫耳の女性はペルシア、キャットピープルと言う種族らしい。蛇の髪を持った、この中で最も幼い容姿の娘はアウレア、最後の一人はメイド長と同じヒト種で、モームと言う名前である。

 

「この四人を、イタミ様の専属メイドと致します。何なりとお申し付けください」

 

 どうやら、ここにいる間はこの四人に面倒を見てもらえるらしい。調子に乗るようなことはしないが、ちょっとぐらいなら、と言う思考が沸かないでもない。まあ、そんな事をすれば信用ダダ下がりの上、倉田辺りから後ろ弾を頂戴しかねないが。

 彼女達とのコミュニケーションはスムーズに行った。社交的スマイルなのかもしれないが、少なくとも悪感情は持たれていないだろう。アウレアが興味半分で髪を伸ばしてきたり、それに気がついたモームが、アウレアの頭をはたいたりする。

 そんな和やかな雰囲気の中、マミーナの耳がピンと揺れた。

 

「メイド長、一階に物音が。鎧戸を抉じ開ける音です」

 

 その言葉を受けた瞬間、周囲の全員の空気が変わる。いきなりの殺気に、伊丹は一瞬腰に手を伸ばすが、武器は外してることに気付き、再び腰を下ろした。

 

「恐らく、伊丹様のお仲間でしょう。マミーナ、ペルシア、丁重にお迎えなさい。もし鼠であれば、いつも通り『処理』しなさい」

「「はい」」

 

 目付きの変わった二人が、部屋を出ていく。その手には、いつのまにか短剣が握られていた。

 

「モーム、アウレア、貴方達は念のため伊丹様の警護を」

 

 アウレアが髪を蠢かせ、モームがいつの間にか手に持ったナイフを弄ぶ。

 

「えっと……、皆さん確かメイドでしたよね」

「先代様は開明的であると同時に、多くの敵をお持ちでしたから。ここのメイドの多くは、警護も兼ねているのです」

 

 そう言えば□アナプラにも戦闘メイドがいたし、最近だと刀を持った□イヤル使いもいる。庶民が知らないだけで、メイドってそういうものなのかな?と、伊丹の中でメイドの概念が崩壊し始めていた。

 

「明らかにヤバい目してますよね。何人か殺ってる類いの」

「そう言うイタミ様も、先程はなかなかの顔をしておりましたよ」 

 

 そのメイド長さんの方が、何倍もヤバい目をしているんだよなぁ。と、彼女の握る六本のダークを見ながら、伊丹は座り直しつつ考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に、ヒヤヒヤしましたよ、隊長」

 

 部屋の椅子に座りながら、桑原はそう言って溜め息をついた。

 ペルシアとマミーナに案内された彼らは、すっかりメイド達と意気投合し、部屋には和やかな雰囲気が満ちていた。富田、倉田、栗林以外の偵察隊も追加で呼ばれ、彼らはおのおの自由に部屋でくつろいでいた。

 

「悪いね、おやっさん。世話をかけるよ」

「隊長が無事でなによりです。義体とはいえ、脳をやられればひとたまりもありません。特地にそんな技術が無いとは言い切れませんからね。気を抜くのは戦死の元ですから」

「魔法か……、確かにそうだな」

 

 その魔法を使うレレイは、アウレアの髪に興味津々のようである。似たような精霊魔法を使うテュカは、モームと楽しそうにしゃべっている。

 栗林はマミーナと格闘技の話で盛上がり、倉田はペルシアと仲良く話していた。

 

「みんな、楽しそうだな」

「ええ、特に若い者は柔軟ですからね。直ぐに馴染みましたよ」

 

 ここには様々な種族がいるが、その誰もが笑いあっていた。異なる国、異なる世界、見た目も文化も違う彼らが、皆楽しそうにお茶をのみ、談笑をしているのだ。

 

「おやっさんは混じらないんで?」

「老人が若い者の会話に水を差すのも、野暮ってもんでしょう。こんな人がいたぞって話すだけで、孫への土産話にもなりますしな。隊長こそ、こういうの好きでしょう?」

「俺はもう充分話したもんで。見ているだけでも楽しいもんですよ。そうは思いません?」

「確かに、その通りで」

 

 そんなことを話しながら、頂いた紅茶に口をつける。紅茶に詳しくなくとも、なかなか良いものだというのがわかった。

 

「こっちにも、紅茶の様なものがあるのですね」

「美味しいお菓子でもあれば、是非買って帰ってやりたいもんだよ」

「おや、隊長にもそんな方がおられるので?」

「まあ、菓子を買って帰れば喜ぶ子達が数人くらいは……」

「なら、そんな子達に押し付けんよう、自分等が頑張らないといけませんな」

 

 そう言いながら、桑原は紅茶を飲み干す。伊丹の脳裏に、日本にいる知り合い達の顔が浮かんだ。

 

「ええ、俺ら次第ですからね」

 

 伊丹も紅茶を飲み干す。淹れて貰った紅茶は、程よい柑橘系の香りがしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「俺らが次へ、引き継いでいかないとな」

 

 

 

 




用語集

『MRD-23 ポリー』
小型調査用ドローン。直径3cm程度の大きさで、主に人の入れない場所、或いは敵拠点の偵察を目的としたもの。軽量なため持ち運びも容易であり、警察関係から軍まで幅広く運用される。愛称はダンゴムシ。




メイドって何だっけ?(哲学)
お盆の上に銃器とか手榴弾とか載せて、お出迎えとか大好きです。太ももにホルスターとか着けたかった。

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