GATE SF自衛軍彼の地にて斯く戦えり   作:炎海

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きょうもおそらがあおいの☆
きれいなおそらをみてると、だんだんふしぎなきぶんになるお。゚+.(*`・∀・´*)゚+.゚
がっこうにいくみち、ともだちといっしょのほどう
わくわくのおひる゜*。・*゜ ヽ(*゚∀゚)ノ.・。*゜。





















疲れた、誰だよ大学遊びまくれるとか言った教師。
工学部に人権など無い。



第十話 鉄槌 胎動は銃火と共に

 泣きじゃくる娘を抱えながら、その女性は不安そうな顔で東門の方を眺めていた。

 散発する襲撃で兵士のほとんどは失われ、フォルマル伯爵領には盗賊が跋扈するようになった。いくつもの交易が経たれ、失業者や餓死者も増加したのである。そして今、このイタリカすらも奪われつつあるのだ。

 彼女は幼い自分の娘を背負い、運ばれてきた負傷者を手当てし続けていた。戦えない女性たちの多くは、こうして戦場の後ろで必死に今できることをこなし続けていたのである。

 自分の亭主は生きているだろうか?そんなことが頭をよぎる。夜の暗さで見えづらかった手元も、日が昇り始めたことで明るくなった。

 もう少し、あともう少し耐えればきっと。皆がそう思って戦い続けた。

 

「翼竜だ!!」

 

 しかし、その希望は打ち砕かれる。薄く色づく空、そこに二匹の翼竜が現れたのである。

 

 

「逃げろ!逃げろぉ!!」

「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「クソッ!盗賊がぁ!!!」

「女子供を守れェ!!」

 

 負傷した男たちが呻きながら武器を取り、女たちが子供を抱えて隠そうとする。あるものは傷んだ弓を、あるものは投石器を手に取り、翼竜に立ち向かおうとする。

 だが、所詮は飛ぶことなどできない者たち。空を飛ぶ翼もなく、空を自由に駆ける竜を倒すなど至難の業である。ましてや彼らは一介の民兵に過ぎない。優れた武芸も、逆境を乗り越える知恵があるわけもない。

 そんな彼らの抵抗を鼻で笑うように、翼竜とそれを操る兵は狙いを定める。弓矢も石も届かぬ空中、魔法でも届くまい。

 住民たちが覚悟を決め、竜騎兵が嗤いながら仕掛けようとした瞬間。

 

 

 

 

 

ぱんっ、という炸裂音が響いた

 

 

 

 

 

 

 聞いたこともない大きな音が聞こえ、思わず住民たちは目をつぶる。先に聞こえたのは、桶いっぱいの水を地面にぶちまけたような音。そして、何か大きなものが地面に落ちる音であった。 

 恐る恐る目を開けると。そこには、水たまりほどの大きな血だまりと、その中に横たわりながら臓物をぶちまける、翼竜とその乗り手の姿があった。

 

 

 

 

 

 最初、何が起こったのかわからなかった。

 隣を飛ぶ仲間がいきなり落ちた、わかったのはそれだけである。

 少なくとも事故ではない、ならば落とされたのだ。だが、一体誰に?

 眼下を這いずる住民たちの持つ武器に、自分たちを落とせそうなものはない。魔法?それとも卓越した武芸者か?いや重要なのはそこではない。もし奴らが翼竜に対抗する手段を持つならば、何故前線で使わなかった?

 竜騎兵の背筋に寒いものが走る。慌ててあたりを見渡すが、それらしいものは何もない。それが、彼の不安を一層加速させた。

 

(なんだ、何が起こっている?)

 

 わからない。だが、何かおかしい。それでいて、何か引っかかるものを感じるのだ。

 手がかりを求めた彼は、前線へと視線を戻す。そして、イタリカへ攻め入る味方達、そのはるか後ろに妙な集団を見つけた。そしてその瞬間、視界が暗くなり、頭から血の気が引いた。

 草原の中に、見知った人影を見つけたのである。

 それもただの人ではない。一つの屋敷ほどもあるであろう巨躯の兵士。怪異の様であるが、その実硬い鎧の下には明確な殺意を感じる、オーガなどの怪異とはまるで異なる存在。

 彼は覚えている、忘れようも筈もない。あのアルヌスの丘だ。あそこで自分たちを蹂躙した化け物の中に、確かにあれはいたのだ。

 あのとき、自分たちは必死に逃げたおかげか助かった。だが、あの棒が向けられればどうなるか、横を飛ぶ仲間達の末路から、彼は嫌というほど知っていた。

 翼竜の手綱を引き、彼は必死に西へ向かう。なぜ、なぜ、なぜ、何故奴らがいる?どうしてアルヌスから出てきた?

 胸の動悸は高まり、痛いほどになる。いやだイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ。

 まだ、まだ死にたくない。あの日の夜の地獄がよみがえる。

 

「イヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダいや…………………っ!?」

 

 壊れたようにつぶやく言葉と、痛いほどの風切り音。それが、彼の最後に聞いた言葉だった。

 

 

 

 

 

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「こちらセレン1。敵空戦力、すべて沈黙。送レ」

「了解。全機通達、これより作戦を第三段階へ移す」

「アモフ1了解」

「アモフ2了解」

「ハイブ1了解」

「ライズ1了解」

「フェンス1了解」

「セレン1了解」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………逃げるなら、最初から出てくるんじゃないわよ……………」

 

 

 

 

 

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 翼竜が落とされた。

 その報が広まるのにはさして時間はかからなかった。だが、ほとんどの者はそのことをさして気にしなかった。殺し殺される、そしてそれらを楽しむ。彼らの頭にあるのは、それだけであった。

 だが、一部の者はその異常性に気づき始めていた。彼女、ミューティ・ルナ・サイレスもその一人であった。

 彼女はもともと離島に住むセイレーンの一族の一人であったが、ある日男と駆け落ちして傭兵となったのである。だからこそ、彼女は普通の人種に比べ、第六感ともいうべきものがより鋭かった。

 イタリカ城壁の外で、風の精霊を使い援護していたミューティは、何か不吉なものを感じてた。

 

「ねえ、なんだかまずいよ……」

「ああ?まずいってなにがさ?もう少しでイタリカを落とせるだろうに」

 

 隣にいる男にそのことを伝えるが、彼は全く聞く耳をもとうともしない。もともと冷え込んでいた関係、この戦いが終わったら、いっそのこと切ってやろうか。そんなことを思いつつも、ミューティは「今すぐここを離れるべき」、という考えが頭に張り付いて離れなかった。

 喉がチリチリと痛い。ゆっくりと後ずさり、少しずつ横にずれる。予感がする、こんなことをしている場合じゃない。ふと、背筋に寒気がして後ろを振り返る。まさか、まさか、まさか……。ああ、外れてくれればいいのに。頭の中に思い浮かぶ影。そして、…………その予感は的中する。

 

 

 

 

 

「あ…………」

 

 

 

 

 

 こちらへ向かってくる巨大な影たち、人の形をした異形に、翼竜など比べ物にならない空を飛ぶ化け物たち。

 姿形は違うが間違いない。あれはあの時、自分たちを踏みつぶした者たちだ。

 轟音が聞こえる。耳をふさぎたくなるような轟音だ。風が舞い、鼓膜に轟音がと叩きつけられる。何度も何度も棍棒を叩きつける様な音に、思わず耳をふさぎ、思わずしゃがみ込む。

 ミューティの行動は、結果的には正しかった。さらに重ねるような爆音が響き、地面がめくれたように土がミューティを襲う。その感覚にさらに身体を縮こまらせる。動けば死ぬ、間違いなく死ぬ。一緒にいた盗賊たちがどうなったかなど、考える余裕はなかった。

 気の遠くなるような時間が経ったように感じた。しばらくすると衝撃も爆音も収まり、あの叩きつける様な音だけが聞こえる。そっとミューティは目を開け、あたりを見回した。しかし、土煙で何も見えない。どこかに誰かいないかと探し続けるミューティは、ふと自分が影の中にいることに気が付いた。

 ここはイタリカ前の草原、建物なんてない。それ以上に自分はさっきまで屋外にいたのだ。ならばなぜ、自分は影の中にいるのか。

 恐る恐る顔を上げる。……ああ、ありえない。なんで、なんでこんなことが。

 

 

 

 

 ミューティの目の前には、昇り始めた太陽を覆い隠す様に、あの巨兵が立っていた。

 

「ひッ………!?」

 

 思わず息をのむ。が、巨兵はまるでミューティなど見えていないように何もしてこない。そのまま、腕を上げると、なにか弦のない石弓のようなものを構える。

 まさか、とミューティの顔から血の気が引く。さっきの爆音の煙は既に晴れている。ああ、そこには逃げ惑う盗賊たちがいるのだ。

 音が響く、さっきより大きな音だ。耳をふさぎ、目をつぶる。何が起こっているかなどもうわかっているのだ。

 ミューティはただひたすら耳をふさぎ、この厄災が過ぎるのを待ち続けた。

 

 

 

 

 

 

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「派手にやるなあ……」

 

 東門近くの建物の屋根から栗林とロウリィを援護していた伊丹は、城壁の外で行われる戦闘を眺めながらそう呟いていた。

 城壁の外では対地攻撃ヘリが地面を掃討し、地面では『62式戦術歩行戦闘機(TSF-TYPE62) 月夜見』が対空、対地攻撃をおこなっていた。

 30㎜チェーンガンから放たれた弾丸が地面をえぐり、取り付こうとするものは近接用短刀で払われる。マニピュレーターで潰さないのは、肉片などが隙間に入ることで、関節等の動作不良が起こるのを避けるためだ。

 城壁に近づき、投石機などの対空兵器を破壊する。先ほど翼竜にしたように狙撃や銃撃で破壊しないのは、万一に盗賊以外への被害が得ることを避けるためである。

 空からはヘリのほか、飛行ドローン『ATFD-64 バッキー』が射出され、輸送ヘリからはハッチが開き、『ATMD-62 ウォリアー』が次々に投下される。投下されたウォリア―達は、盗賊たちを追い詰め、射殺か拘束していく。どうやら盗賊たちも相当おびえているのか、必死に抵抗しているが、ドローンの出力の前にはなすすべなく取り押さえられていった。

 そして、遂に城壁外だけでなく、中の掃討も始まる。バッキ―が空中から、ウォリア―が地上から盗賊たちを追い込み、包囲していく。

 そして、伊丹達の電脳に通信が入った。

 

《こちらアモフ1。警告、これより一定時間後に掃討射撃に入る。繰り返すこれから……》

「やっべ!」

 

 その通信を聞き、慌てて伊丹と富田は建物から飛び降りる。見る限り栗林は気が付いていない。ロウリィはそもそも通信手段がない。

 栗林はともかく、ロウリィは識別信号タグを着けていないのだ。巻き込まれれば大惨事になりかねない。

 そして、張本人二人であるが、やばい。この二人、もう色々とアレな顔をしているのだ。表情だけを見れば、極めて魅力的な笑みなのだが、いかんせん状況が良くない。顔に化粧のごとく血が付いた状態で微笑まれても、恐ろしさの方が際立つのである。

 ロウリィはハルバートを構え、栗林は弾が切れたのか、持ち出した高周波ブレードを展開していた。

 

「あいつ剣道やってましたっけ?」

「あいつの合計段位数、十段いってるぜ」

「…………はぁ!?」

 

 今日一番の驚きを見せる富田なぞ知らぬとばかりに、栗林はブレードを振るう。いなし、躱し、袈裟に切り裂く。もうこいつ本当に自衛官なのだろうか?

 とは言え、このまま放って置くわけにもいかない。彼女は生身なのである、流石に巻き込まれればまずい。意を決して二人が振るう殺意の嵐に飛び込むと、富田は栗林を、伊丹はロウリィを抱えて離脱する。

 

「ヒチコマ、二人をかばえ!!」

「あいさ―」

 

 二人を受け取ったヒチコマが、盾になるように抱える。

 通信からカウントが始まり、各ドローンが対象をロックする。不知火が銃口を向け、逃がさないとばかりに東門を包囲していった。

 カウントがゼロとなり、30㎜チェーンガンが、機銃が火を噴く。東門前にいた者達は、身体を抉られ、或いは肉体そのものが千切れとんでいく。

 今の今まで剣戟や雄叫びの響き渡っていた場所は、悲鳴と銃声のする屠殺場に変わり果てていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「なんだあれは……」

 

 手摺から半身を乗り出しながら、ピニャはその光景を眺めていた。

 空飛ぶ荷車が羽音を鳴らしながら死をまき散らし、重装の巨兵が地面を這う盗賊を叩き潰す。

 あまりにも荒唐無稽な、気でも狂ったかのような光景に、ピニャは絶句していた。

 

「殿下、あれは一体……」

「わらわにもわからん。だが、白昼夢や幻覚の類ではないだろう。なんなのだいったい……」

 

 巨兵の持つ石弓のようなものが火を噴き、荷車が轟音を鳴らすと、地面も人も瞬く間に抉れていく。もっとひどいものは、原形すらも残さずに吹き飛んでいった。

 絶望的な暴力にさらされた盗賊達が、我先にと城壁の中へ飛び込んでいく。内側にも死、外側にも死、逃げ場など何処にもないと言うのに。

 逃げ惑う盗賊達へと、荷車から放たれた二本脚の獣が追い込み、或いは踏み潰していく。盗賊達の様子は明らかにおかしく、獣を見るなり蜘蛛の子を散らす様に逃げ出していった。

 

「こっちに来るぞ!」

「あの獣達もです」

 

 獣達は盗賊に追いすがり、或いは飛び越えていく。そして、イタリカに入り込んだ獣達は、逃げ場を塞ぐように包囲していった。

 

「巨兵が!!」

 

 城壁の外に目をやると、巨兵どもが手に持った武器を構え、城門へその先を向けていた。

 この先はピニャでも予想がつく。ああ、この哀れな盗賊達は皆死ぬのだ。きっと皆一人残らず、豚のように殺されていくのである。

 地面が抉れる音、盗賊達の悲鳴を聞きながら、ピニャは茫然と立ち尽くしていた。

 こんなもの、こんなものはもう戦いではない。一方的な蹂躙だ。害虫を取り除くように、ただ淡々と始末されていくのだ。

 城壁の前、土埃を浴びながら立つ巨兵達には、帝国の擁するオーガ達のような野蛮さは欠片もない。朝日の逆光を受けるその姿は身動ぎ一つせず、石像と見間違うほど静かにしている。この兵一つとっても、帝国に勝ち目など無いだろう。当たり前だ、体格も同じ、いやそれ以上の相手に力だけが取り柄のオーガが勝てるものか。その武器で、或いは腕で捩じ伏せられるのが結末だろう。

 理性が、本能が同時に警告する。あれと戦ってはならない。戦えば、今のような地獄が帝都を襲うだろう。

 まるで神の軍勢、神話にある裁きの様ではないか。ピニャの頭に、昔読んだ神話の戦いが浮かび上がった。

 古龍が天を舞い、神の軍勢が国を火で包む話だ。かつてお伽噺で聞いたようなものが、目の前に現れたのだ。

 

「ひっ…………!?」

 

 天を舞う荷車、その一台がピニャの前を通り過ぎる。距離は手すらも届かない場所、しかし、ピニャを殺すにはその距離でも充分であろう。

 

「ハミルトン、わらわは夢でも見ておるのか?だとしたら、なんという悪夢なのだ……」

「殿下、夢ではありません。私も、このハミルトンも、同じ悪夢を見ています」

 

 この日、ピニャ・コ・ラーダは戦わずして敗北した。その悪夢、その圧倒的な絶望に、戦わずして屈したのだ。だが、誰も責めはできないだろう。あれはそれだけの力と絶望を彼女へ示したのだから。

 

 

 

 

 

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 少し前は盗賊達が暴れ、そのすぐあとにはドローンやヘリが蹂躙した東門を、伊丹はロウリィを抱えながら歩いていた。

 

「まさか編成中の第六戦闘団まで来るとはねぇ」

「護衛とはいえ、中隊一つ丸々寄越すとは……。中々壮観ですね」

 

 城壁外には、月夜見をはじめ、第六戦闘団601中隊の戦術機が整列して並んでいる。その近くには簡易整備用ヘリが着陸し、各駆動系等のメンテを行っていた。

 

「各小隊でシフトを組んで、整備と警戒のローテーション。ちょっと多すぎじゃね?」

「降下してきた隊員も熱気が凄かったですからね。打撃部隊の出撃って、特地だとこれがはじめてでしたっけ」

「あーね」

 

 富田の返しに納得したように苦笑いする伊丹。城門の近くまで来ると、見知った影を見つけた。

 

「あ、伊丹二尉。お久しぶりです」

「泉じゃん。やっぱ編成されていたか」

 

 端末を片手に部下に指示を出していた泉が、伊丹に気付いて敬礼をした。

 

「あーらまあ仲良くなっちゃってまあ。おやおやまあまあ」

「あ、やっべ。悪いなロウリィ、降ろすの忘れてたわ」

 

 何時までもロウリィを抱えていた伊丹に、泉はニヤニヤしながらはやし立てる。

 

「編成の完了した小隊をかき集めて、即席の一個中隊を編成。指揮にはあの静井一佐が直々に行う大盤振る舞い。まったく、夕食のパスタを食べかけで準備したんですよ」

「御苦労様。戦術機は人型だし、近代兵器を知らない特地の人にも明確に脅威としてわかる。とりあえずは目的達成かな?」

「そうですねぇ……、人の夕食台無しにしたことを除けば、中々良い作戦でしたねチクショウ」

 

 余程パスタを食べられなかったのが残念だったのか、凄みのある笑顔を泉は見せる。最も伊丹は気付かないふりをしているが。

 泉もそこまで執着する気はなく、一通り毒を吐くと話を切り替えた。

 

「……ああ、それと。伊丹二尉がいない間に、上の方にこないだの炎龍の件で、国会への参考人招致の話が出ているらしいですよ」

「参考人招致、ですか……」

「どーせ、左巻きの人とかが煩かったんでしょ?」

 

 富田が驚いた様に、伊丹が苦虫を噛み潰したような顔で泉の話を聞く。泉は伊丹に笑みを含んだ視線を向けると、面白そうに口を開いた。

 

「で、その件に関して伊丹二尉を行かせようってのが今のところ上の方針っぽいですね」

「ま、当事者だから当然か……」

「あら、意外と穏やかですね」

「予感はしてたしね。で、なぜそれを今?」

 

 伊丹の指摘に、泉は鋭く目を細める。

 

「あら、尊敬する先輩への善意の助言ですよ」

「尊敬する先輩ねぇ。あんたがそれを言うのか?」

 

 ま、尊敬しているは本当ですよ。と言いながら彼女は伊丹の後ろ、富田とロウリィへ目を向ける。

 

「…………富田、ロウリィ連れて栗林拾って、おやっさんのとこ合流してくれ。」

「……?了解です」

 

 暇そうにしていたロウリィを連れ、富田が城門の中に入っていくのを見届けると、泉は口を開き始めた。

 

「今回の件、貴方だけではなく、特地の人物にも来てもらえないかという話になってきています」

「あの中でいくと、テュカとレレイか……」

「ええ、それに合わせて国内の『お客様』も動きを見せています」

「そらまあ、向こうさんにとっちゃ喉から手が出るほどつながりが欲しいだろうに……」

 

 当然という顔をする伊丹だったが、泉が次に言った内容に眉をひそめた。

 

「それだけなら良いんですがね。別の方からも匂ってます」

「どこよ?」

「タカの皆さん。しびれ切らしてモジモジしてますよ」

 

 伊丹は嫌な顔をして声を漏らす。この時点で既に嫌な感じがしているからだ。

 

「おっさんの羞恥顔とか悪夢見そうだわ。それ、つながりは?」

「中野が洗っていますけど、今のところ有力なのは無いですね」

 

 変に黒いところがない分余計に面倒ですよね、と泉がため息をつく。

 

「それと白菊の件ですけど、別のルートでねじ込まれてます」

「ああ、詳しくは閣下から聞いたよ。武力としてじゃなく、外交戦力として特地入りさせるとはな」

 

 暗い顔で伊丹は呟く。覚悟はしていても、いまいち気が乗らないのだ。

 

「まだ承認されたわけではないですし、国防戦力との調整もありますから、すぐにというわけではないですけどね。ですが投入される可能性は非常に高いです。現状は極めて特殊な状況ですし、仕方ないでしょう。それに、当人達は会えると喜んでいましたよ」

「複雑なんだよな。手放しに喜べないさ」

「一応は護衛役ですけど、実質戦力増強が本音でしょうし。もし会ったらちゃんと相手してくださいよ?後始末は嫌ですから」

「分かってるさ。……はあ、まさかこんなに引き摺ることになるとはな」

 

 城門の方を眺めながら、仕方なく伊丹は頷く。イタリカの子供たちが自衛官やドローンに群がり、興味津々に眺めている。伊丹の視線に気が付いたのか、泉も同じように子どもたちへ視線を向けた。

 

「子供達、元気そうですね」

「ああ、コダ村にいた子供たちもあんな感じだったな」

 

 伊丹は子供たちが騒ぐ様子に微笑を浮かべた後、すぐにそれを引っ込めた。

 

「俺たちはあの子供達にも銃口を向けるかもしれない。そして、同じ位の歳の彼女たちにもだ。それをさせることになるかもしれないんだ」

「後悔ですか?今さら無意味でしょうに。絶滅に加担したのは、私達もあの子も一緒でしょう?」

「だからさ、だからこれ以上同じ轍は踏まない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ以上、あの子たちに背負わせはしないさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




用語集

『TSF-type62 月夜見』

日本自衛軍第三世代戦術機。国産第一世代戦術機『花月』の後継機であり、高い狙撃性能を有する。
翼竜を始めとした特殊な空戦力が特地に存在する事を受け、第六戦闘団への配備が決定した。
ヤタノカガミのバックアップは受けられないものの、その機体本来の対空狙撃における長所は特地においても健在であり、多くの自衛官の要望も採用の一因となった。
欠点はその変態じみた精密さ故の、整備の難易度の高さである。某A国の技術者がその鬱陶しさにキレたとの噂も存在しているらしい。
「Fu〇k!どんな頭してたらこんなイカれた部品の組み方するんだjpめ!!」

『ATFD64 バッキー」
軍用飛行ドローンの一つ。装備しているものは機銃のみ、耐久性も貧弱であり単体では脅威としては他に劣る。
しかし、小型であることから一度に大量の持ち運びが可能であり、その物量と狙いづらい機動力は中々の驚異となる。
(元ネタ:MGSPW キッドナッパー)



♯define使えたら便利なのになぁ。設定した名称変えるだけで全部の名称が変わるんだから。
これ書いてるとき夜中なのでレムレムしながら誤字ってたらすみません。

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