GATE SF自衛軍彼の地にて斯く戦えり   作:炎海

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あ~、後期始まるんじゃあ~。課題めんどくせぇ。

イラスト下さったかた。ありがとうございます。何時も執筆の励みとなっています。感謝をしてもしきれません。

テクノロジーの発達した未来。
ますます不思議ガジェットが出現し、遠い未来のようなすごい物の完成しはじめてますね。なんか出そうとしていたものが実際に作られていて驚いています。


第九話 死召舞踏 招かれるは何者なるや?

 現在、アルヌス基地は怒号に包まれていた。

 その理由は、伊丹から届いた通信であった。

 いわく、戦闘に巻き込まれたとのこと。敵はその辺を襲う盗賊であるが、数は多く、六百に達するとか。

 さて、この通信を聞いて立ち上がったのは、打撃部隊の面々である。最前線なのに今まで出撃出来なかった彼らにとって、これは朗報とも言えるものであった。何しろこれでようやく戦えるのだ。最早猿山もかくやの煩さに、狭間陸将は頭を抱えていた。

 

「第一戦闘団第101中隊、多脚戦車部隊、および各ドローン隊、発進準備完了しました!各運用士官、機械化歩兵隊も配置についています」

 

 第一戦闘団長の加茂一佐が前に出る。どうやら既に、第一戦闘団は集結してしまっているらしい。狭間の頭に、重い音を立てて整列する多脚戦車部隊と、それを取り囲むように駆動音をならす強化外骨格。そして輸送車両の中に積み込まれているだろうウォリアーの群が思い浮かんだ。戦場に着けば、そのすべてが地面を蹂躙するようすが容易に浮かび、狭間は頭を抱えた。

 が、それだけでは終わらない。今度は第四戦闘団長の健軍一佐が前に出る。

 

「ダメだ!!地上戦力では遅すぎる!!陸将、ここは我々第四戦闘団におまかせ下さい」

 

 第四戦闘団は空中戦闘を主とした戦闘団である。空戦用ドローンを運用する航空管制兵、ジガバチ等の大型自動爆撃ヘリや輸送機を配備しており、機動性は全部隊最速である。

 健軍とその部下用賀が何かに憑かれた様にコンポとかワーグナーの話をしはじめるが、狭間の顔は固い。

 

「しかし……、敵の防空戦力の把握がまだだ」

 

 これは、現在の軍の一種病気の様なものだろう。航空戦力を投入する際、地上の対空戦力を過剰に警戒してしまうのだ。

 

「ならば是非我々第一戦闘団を……」

「いえ、陸将ここは是非我々第六戦闘団におまかせ下さい」

 

 ここぞとばかりに食い込もうとする加茂を退けるように、今度は女性自衛官が前に出る。

 

「我々第六戦闘団であれば、第四戦闘団の機動力についていけます。第601戦術機中隊の編成が終了し、既に戦闘可能です。我々が第四戦闘団を地上から援護します」

 

 第六戦闘団は、戦術機を中心とした打撃部隊である。その汎用性の広さから、今までは施設科に建設機がわりに使われていたが、ようやく本来の戦闘を行えると全員息巻いていた。

 第六戦闘団率いる静井一佐も、既に強化装備に着替えており、完全に行く気である。

 狭間は第四戦闘団が空中から叩き潰し、第六戦闘団が地上から踏み潰す光景を考え、深くため息をついた。それを見た人々が神の怒りだとか、巨人兵の蹂躙だとか言い出すのが目に浮かぶようである。

 どこかの火の七日間を頭に浮かべながら、狭間は判断を下す。

 

「第四戦闘団から401中隊、第六戦闘団から601中隊を出し、合同で作戦に当たれ。指揮権は健軍一佐に任せる」

 

 加茂が世界全てに絶望したような顔をし、健軍と静井がぐっと拳を握る。

 

「静井一佐!ついてこいよ、加減はしないぞ!!」

「望むところです健軍一佐。我々が地上戦力最優である由縁、是非見せましょう」

 

 腹に響くような笑い声を上げながら、二人の変人が出ていく。

 この後起こるであろう蹂躙を思い浮かべ、狭間は右手のひらで顔を覆った。

 

「どうしようこいつら……」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「発射機はそこに、自走機銃はここ」

 

桑原が隊員達に指示をだし、城壁に機銃やドローン発射機がセットされる。

 

「ドローンリンク正常。1から5番まで出せます」

「二番機銃動作正常、三番機銃動作正常」

 

 指示を受けた隊員達がそれぞれ機材を抱え、設置と動作の確認を行う。

 

「ドローンはどれくらい飛ばせる?」

「中継器を置けばもうちょいいけますけど、素だとここから屋敷くらいまでが限界です。」

「もう少し長く出来ないか?」

「出力を上げればいけますけど、フィードバックが危険ですね。中継器無しにやると落ちたときに脳が焼けます」

 

 結局、伊丹達はピニャの要請を受け入れ、イタリカの防衛に参加することとなった。

 

「ねえ、どうして防衛戦に参加したのぉ?」

 

 義眼の暗視機能を確認する伊丹に、ロウリィはそう尋ねる。

 

「貴方達にとって彼女らは敵、守る必要なんてないわぁ。それに、もし本当に市民を守りたいのだけだととしても、どうして皇女の指揮下に入ったの?わかっているとは思うけどぉ、彼女、貴方達を捨てゴマににする気よぉ」

 

 伊丹達が任されているのは南門。防備が薄く、もっとも攻めやすい場所である。しかも、伊丹達以外は誰もいない。彼女は伊丹達を囮として使おうとしているのだ。

 

「市民を見捨てられないってのは事実だよ。そこに嘘はないさ」

 

 伊丹は昔の風景を思い浮かべる。黒い煙と赤い炎で飾られた街の風景だ。あのとき伊丹はまだ若く、新兵同然であった。しかし、その地獄だけは今でも覚えている。それは、あの時現役だった桑原達も同じだろう。黒川や栗林も、学生の頃に経験しているはずだ。

 ここから見渡すイタリカの街は、夕日に照らされて、まるで絵画の様である。そして、そこには今も誰かの家族や大切な人が住んでいるのだ。

 

「ま、檜垣さんには怒られちまったけどね。それに、ロウリィの疑問の通り、それだけじゃないさ」

 

 日が沈み、向こうに見える城壁に明かりがともり始める。義眼を使えば、きっと柵や土塁を積み上げている人々が見えるだろう。上からの命令があれば、自分たちは彼らにも銃を向けねばならない。それが兵士である。

 

「自分たちと戦うより、仲良くした方がいいって思わせるためさ」

 

 今はあの頃とは違う。一人残らず殺す必要は無いのだ。

 ロウリィは伊丹の顔をじいっと見た後、口の両端を釣り上げて笑みをうかべる。

 

「ふふっ、そう、そいうことねぇ」

「満足していただけたかな?」

 

 そう聞くと、ロウリィはうなずく。そして、城壁の手すりに飛び乗ると、踊るようにクルリとお辞儀をする。

 

「ええ、とっても、とっても満足よぉ。エムロイは戦う動機を重視するわぁ。だからこそ、あなたたちが気に入ったのぉ。だからこそ私も、喜んで協力させてもらうわよぉ」

 

 星が光り始める夜空を背景にして、ロウリィはそう宣言する。

 その姿は、まるで死神の様に、妖しく美しいものであった。

 

 

 

 

 

 

 武器の設置も終わり、日が沈んでしばらく経つ。義体の身体で小銃を握り、電脳で自走機銃を幾つか通して警戒していると、自走機銃を通して喋り声が聞こえてきた。

 レレイやテュカは、近くで舟をこいでいる。日頃から訓練をしている自衛官たちと違い、彼女たちには夜通しの警戒はきついものがあるのだろう。ほかの隊員たちは、みな各々が武器を構えており、私語をする者はいない。

 

「ねえねえロウリィさん。ロウリィさんは神様なの?」

「ええ、そうよぉ。それがどうかしたのぉ?」

 

 子供のような無邪気なしゃべり方と、甘ったるい口調の話し声が聞こえる。おそらくは、ロウリィとヒチコマであろう。

 注意すべきか悩んでいた伊丹だが、その話の内容に少し興味がわいた。

 

「じゃあ、神様なら魂を知ってるの?」

「魂?」

「うん、魂。僕たちにはゴースト、いわゆる魂が無いみたいなんだ。僕たちは作られた機械だから」

 

 あっさりと言うヒチコマだが、ロウリィはその言葉に驚いた顔をする。

 

「驚いた、あなたはぁ、生き物ではないのぉ?」

「僕も、他の兄弟?達も、皆機械だよ。作られたのは剣菱重工って所で、僕たちは皆基地に帰った時に並列化するんだ。だから兄弟みんなが僕で、僕の記憶は兄弟みんなが持っているんだ」

「そう、そうなのぉ……」

 

 ほほ笑むロウリィに、ヒチコマは相変わらず小さな疑問を大人に聞く子供の様に、ロウリィへ問いかける。

 

「僕たちは魂が、個人を個人たらしめるものだと考えているんだ。じゃあ、個人じゃない僕らには、魂は無いのかな?ねえ、ロウリィさんは魂がなんだか知ってる?」

 

 ヒチコマの前に立ち、その装甲を撫でるロウリィ。その姿は、獣に洗礼を施す女神の様であった。いや、もしかしたらその通りなのかもしれない。

 

「主神様は、高潔に戦うものの魂を何より気にいられるのぉ。あなたの問いに答えることは、今はできないわぁ。でもいずれその時、貴方が神に召される時には、きっとわかるはずよぉ」

 

 

 

「戦いなさい、その時が来るまで全力でぇ。その生きざまを示せば、きっと主神はお答えになるわぁ」

 

 

 

 その言葉に、ヒチコマは疑問を示す様に身体を傾ける。

 

「………?ロウリィさんにもわからないの?」

「ふふっ、どうかしらぁ。でも、貴方のことは気に入ったわぁ。そうねえ、あなたに祝福を与えてあげる。亜神として、いずれ生まれるあなたに祝福を……」

 

 そういうと、ロウリィは撫でていた手を止め、ヒチコマの上に右手を置く。

 

「この者にエムロイの祝福を、戦う術を与え、死を遠ざけんことを」

 

 厳かに、しかし慈愛に満ちた眼差しで、ロウリィはそう呟く。

 

「やったー。よく分からないけど、経験値がはいったかな?」

「そうねえ。少しづつ、少しづつ探していくといいわぁ」

 

 子供の様にはしゃぐヒチコマにそう語りながら、ロウリィは手を放す。

 向こうを見てくるといってその場を去ったヒチコマを見送ると、ロウリィは虚空へ語り掛ける。

 

「盗み聞きかしらぁ?あまりいい趣味ではないわよぉ」

《たまたま聞こえたのさ。まあ、そのまま聞いちゃったのは事実だけどね》

 

 どうやら、自走機銃越しに聞いているのはロウリィにばれていたらしい。

 

《それで、あの子には魂はあるのかい?》

 

 話題そらしとばかりに、伊丹は先ほどの話題を出す。管理を任されている者として、知りたいことでもあるのだ。

 特別気を悪くした様子もなく、ロウリィは答えを返す。

 

「そうねえ、断言はできないわぁ。いずれ生まれるかもしれない、そうじゃ無いかもしれない。あの子はそういう、曖昧な所に位置しているのよぉ」

《なんだかはっきりしないな》

 

 そう言うと、ロウリィは少し頬を膨らませる。

 

「仕方ないわよぉ。似たようなことはあっても、滅多にあるものではないわぁ」

《こっちでも、ヒチコマのような存在は少ないのか》

「ええ、私たちの常識とも異なる者よぉ」

 

 でも、とロウリィは付け加える。

 

「あの子は私たちとは全く異なる生まれ方をしようとしている。それは、もしかしたら新たな存在としての在り方なのかもしれないわぁ」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「きた!」

 

 最初に気が付いたのは、飛行ドローンで偵察を行う勝本であった。

 

「どこだ、勝本」

「東門から火の手が上がってます。多分火矢か何かでしょう」

 

 義眼の倍率を上げて確認する。確かに火の手が上がっており、応戦する民兵たちの姿が確認できる。

 

「うっわ、当たるなよぉ。全身火傷って無茶苦茶キツいからな」

「どうします、 隊長」

 

 桑原の問いに、伊丹は少し思案する。

 

「応援の要請は来ていない……。いや、向かわせるほどの余裕すらないのか。勝本、ドローンから映像出せるか?」

「はっ。視界共有します」

 

 勝本が空中に右手を走らせると、隊員全員の視界の一部に、ドローンからの映像が表示される。

 

「うわっ……」

「これは……」

 

 そこに映し出されるのは、押され続ける民兵たちと、狂ったような笑みで戦う盗賊たちだった。

 誰の目から見てもイタリカ側の劣勢は明らか、総崩れになるのも時間の問題だろう。

 

「……?」

「どうかしたの、皆?」

 

 電脳も、共有リンクへの接続手段も持ってないテュカとレレイは、何が起こっているのかわからず困惑している。

 

「ドローンで援護できるか?」

「戦闘機動ができるほどの出力が確保できません。それにこの乱戦だと味方を巻き込む可能性もありますし」

「ドローンの航空支援は期待できないってわけか」

 

 爆弾等の武器は、それゆえに加減が効かない。銃弾なら味方への被害も減るが、重量軽減のために機銃を取り外し、空爆専用にしてしまっているのである。やはり、直接向かって援護する必要があるだろう。

 隊員達が各々の武器を持ち、移動準備を始める。が、突然艶かしい嬌声が聞こえ、思わず気をとられてしまう。

 

「く、ふぁ……ん、ダメぇ。ダメなのぉ……」

 

 振り返ると、ロウリィがその肢体をくねらせ、頬を赤くして喘いでいた。

 熱い吐息をはき、堪えるようにハルバードへしがみつく。脚を絡ませて指を這わせ、愛撫のように撫でる。

 ほっそりとした指を股の間に這わせようとし、唇を噛み締めるとそれよこらえようとする。

 その姿に、男共は顔を赤らめ、何人かは前屈みに作業へと戻る。

 

「お、おい、ロウリィ。いったいどうしたんだ?」

 

 伊丹はそのロウリィの様子に慌てて、何があったのかを尋ねるが、ロウリィは息も絶え絶えに喘ぎながら、答えられそうな様子ではない

 その代わりか、伊丹の問いにはレレイが答えた。

 

「ロウリィはエムロイの使徒。近くで戦いが起これば、戦死者の魂は彼女を通じ、エムロイの元へと召される。そしてその時、彼女の身体には激しい快感が与えられる。これがそう」

 

 快感と言うより媚薬のようなものに近いなと思いながら、伊丹はこのままだと不味いだろうと思い、レレイにどうすればいいのか尋ねる。レレイ曰く、戦いの衝動でもあるから、戦場へ出して戦わせればいいという。

 どうせ自分たちも行くのだ、ならば一緒に連れていくのが良いだろう。

 

「栗林、ロウリィに付き添って車へ行け」

「ふぇッ!?あ、はい、わかりまし……わっ!!」

 

 何故か慌ててる栗林がロウリィに近寄ろうとしたとたん、その体をはね除けるように立ち上がると、ロウリィは一直線に戦場である東門へ駆けていった。

 

「ロウリィ!!…………っ!?ヒチコマ、行くよ!!」

「あ、おい栗林!!ああもう、富田ついてこい!!」

「了解!!」

 

 その後を追うように、少し迷った後栗林が追いかける。車を出すのも億劫とばかりにヒチコマを呼び、その背中へと飛び乗った。

 いくらなんでも栗林だけで行かせるわけにはいかない。この中で最も義体化率の高い伊丹と富田が後を追うことにし、残りの隊員には後で合流させることにする。

 義体の出力制御を戦闘機動にまで外し、城壁の床を蹴る。軍用義体に使用される人工筋肉は、それこそ超人的な運動すら可能にするのである。石造りの建物であれば、落下しても屋根が抜けることはなく、伊丹と富田は屋根を走り栗林とヒチコマへ追い付く。

 

「バカヤロウ栗林、お前なに勝手に行ってんだ!!」

「すみません!でも流石にロウリィを一人にするのは……」

 

 慌てる栗林を見ながら、最近超人が多くなったなと伊丹は心の中で思う。

 

「……ああもう。栗林、ロウリィは?」

「前を全力で駆けてます」

「マジかよ、あいつ戦闘機動にまでついてこれるのか……」

 

 ロウリィに追い付くどころか、どんどん離されていく。最早人間なのか分からなくなってきたが、まあヒチコマの上に乗っていられる栗林もどっこいどっこいだろう。

 伊丹は空を見上げる。どうやら、日が昇り始めたらしい。腰から信号弾を取り出すと、上に向けて放つ。弾が通ったあとに残る煙は、遠くからでもはっきりと見える。

 

「そろそろ夜が開けるな」

「夜が開けるとどうなるんです?」

「知らんのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「日が昇るのさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな……、こんなはずでは」

 

 目の前の光景を見つめながら、信じられないという顔でピニャは呟いていた。

 当初、ピニャの考えはこうだった。

 

 敵の勢力はこちらより圧倒的に優勢である。それゆえに戦場を一ヶ所に限定して迎撃する。城門が破られることも考え、二重に策を用意した。主力を内側に配備し、最初の城壁で削られた敵戦力を内側で迎え撃つというものだ。

 

 しかし、実際にはその作戦は狂いを見せた。味方の守りが、予想以上に脆すぎたのだ。加えて、敵の異常なまでの勢いもあった。勢いが強すぎるのだ。まるで、犠牲などいくら出しても構わないと言うかのごとく、特攻に等しい突撃をただただ繰り返すだけである。

 策を弄する者にとって、一番の障害となるのは行動の読めない敵である。ピニャは、敵が相応の軍略をもって攻め行ってくると思っていたのだ。彼らは仮にも残党とはいえ諸王国軍の兵士。そこらの野盗のような無策はしないだろうと。が、その予想に反して彼らの戦いには戦略と言うものがいっさいなかった。これはピニャにとっては完全に予想外であった。それ故に、備えていた策のほとんどが無駄になってしまい、結果戦線は完全に崩れてしまったのである。

 

「騎士ノーマ、討ち死に!!」

「……っ!?ノーマが!!」

 

 そしてさらに、前線で指揮を執っていた彼女の部下、ノーマが討ち死にしてしまう。

 隣で補佐をするハミルトンが息をのみ、ピニャはその報告に顔には出さずとも動揺してしまう。

 戦場で戦う民兵達から、あの炎龍を倒したと言われる者達を探す声が聞こえる。彼らがいれば、彼等ならきっとこの状況も覆してくれると。  

 だが、彼らはピニャが南門へ追いやってしまった。ここへこれるはずなどないのだ。

 

「違う……。こんな、こんなはずでは……」

 

 わかっていた。頭の中で考えることと、実際では全く異なると。だが、その差はピニャのはるかに上を行っていたのだ。

 落ちていく、兵士達が何本もの槍で串刺しにされる。オーガ程の巨漢が腕をふるい、根こそぎに凪ぎ払われる。

 何処に温存していたのか、翼竜までもが現れ、空からイタリカへ襲いにかかる。弓矢で応戦するが、縦横無尽に空をかける翼竜には掠りもしない。

 

「ピニャ殿下!このままでは!!」

「分かっている。分かっているのだ!!」

 

 最早作戦は破綻し、指揮どころか命令一つ出すのも難しい有り様である。

 燃え落ち、崩れていく軍を見ながら、ピニャに出来ることはなにもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃっ!!」

「チッ、中まで入り込んでるな」

 

 防衛をすり抜けて侵入してきたであろう敵を仕留める。既に十人以上も見つけており、戦況の酷さがわかる。

 

「ロウリィと栗林、突撃しちゃいましたね」

「普通そういうのって義体使用者の役割なんだがねえ」

 

 二人の視線の先には、血に濡れた栗林が走っていた。無論敵兵の返り血である。

 

「俺脊髄抜きなんて始めてみたわ」

「自分もです」

 

 

 

 

 

 

 混沌とする戦場、喚きながら剣を突き立て、斧を振りかざす中へ、笑い声が響き渡る。

 背筋が凍るような不気味な笑い。何処から聞こえるのかと振り返った兵士は、そのまま首を一回転させて落とした。

 

「ふふっ、ふふふ。うふふふふふふふふふふふふ。あははははははははははははははははははははは」

 

 首から吹き出て、雨のように降るどす黒い血を受けながら、ロウリィは半月のように口元に笑いを浮かべて歩く。

 

「ねぇ、私も混ぜて頂けないかしらぁ?身体が火照って火照って仕方ないのぉ」

 

 笑顔を浮かべた兵士が歩みより、剣を構える。血走った目を彼女へ向けると、そのまま突き刺そうと突撃する。

 が、ロウリィはスカートを翻しながら回って避け、返す一撃を叩き込む。

 兵士の首筋へ当たった斬撃は、そのまま彼の骨と肉を叩き斬る。

 

「はぁ……、いいわぁ。凄くイイのぉ。……ねぇ、次はどなたぁ?狂える位にイカせてちょうだあぃ!!」

 

 目を細め、恍惚とした笑みで彼らを見やる。腰を屈めると、砲弾の様に敵軍の中へ飛び込んでいく。

 盾を構え、整列する兵士達。その中へロウリィは突っ込んでいく。

 

「もっと、もっとよぉ!!もっと気持ち良くしてぇ!!」

 

 盾の隙間から突き出される槍、それをロウリィは姿勢をさらに低くして避ける。常人では移動すらままならない体勢の中、脚を突きだして土を削りながら、逆袈裟にハルバードを振り抜く。下からかちあげるようにして体勢を崩され、兵士達がよろめく。が、一部の兵士は踏みとどまり、腰だめに再び槍を放とうとする。

 しかし、それは彼の眉間に空いた穴に阻まれた。

 ロウリィの横を小柄な体格の自衛官が駆けていく。起き上がった兵士二人に銃弾を撃ち込み、横から襲いかかる兵士を銃身で受け止める。

 蹴りだして相手の体勢を崩し、その首元へ銃剣を突き刺す。

 

「ヒヒッ!お見事!!」

 

 味方があっさり殺されたことに臆することなく、隣から別の兵士が直剣を振りかぶる。

 

「ッチ!」

 

 小銃はまだ刺さったまま、腰から拳銃かナイフを引き抜くのも間に合わない。栗林は小銃から手を放すと、身をかがめて敵の懐へ入る。そしてそのまま敵のがら空きの胴へ、正拳突きを叩き込んだ。

 

「なにを……?」

「拳で何が?……って思ったでしょ?」

 

 彼女の行動に疑問を覚える兵士に、栗林はにやりと口元をゆがめる。そして、そのままさらに拳を握り込んだ。

 

「――――――――――――ッ!!!!?」

 

 瞬間、兵士が痙攣し、白目を剝いて倒れる。栗林は拳銃を抜きながら一歩下がると、眉間に一発撃ちこみとどめを刺す。

 スタングローブ。スタンガンのグローブ型であり、サイボーグへの徒手空拳での対抗を目的に開発された武装である。多少のシールドが施された義体程度であれば無力化可能であり、無論人間には過剰すぎるものである。当然支給されてるものではなく、栗林の私物であろう。

 銃剣を抜き、ロウリィと背中合わせに立つ。これが銃撃戦であれば悪手であるが、相手は近接武器か、あっても弓矢程度である。問題は無いだろう。

 

「ははっ!まだまだぁ!!」

「ふふっ、まだまだ踊りましょぉ……」

 

 義体殺しと死神、達人(戦闘バカ)二人による殺戮は、まだ終わりはしない。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 突如乱入した二人の女に、ピニャは困惑していた。死神ロウリィはまだいい。だが、あの女はいったい何者なのか。恐らくはあの炎龍を倒した者達と同じであろう。が、彼らは南門へ配置した。なのに、一体なぜ彼らはここにいるのか?いや、それ以上に今は考えることがある。

 彼女らの活躍により辛うじて戦線は保たれた、しかしすべての敵をとどめるにはまだ足りない。圧倒的に数が足りないのである。現に何人かの敵が既に入り込んでいるのである。

 今戦う二人も、外にいる敵兵が一斉になだれ込めば、たちまち押し潰されるか、或いは苦戦するだろう。

 ピニャは唇を噛みしめる。まだ、まだ足りないのだ。せめて自分の騎士団が到着すれば、盗賊を押し返す。或いは打倒しうることも可能であろう。

 いや、可能だろうか?敵には翼竜もいる。いくら死神といえども、空を自由に飛ぶ敵相手では分が悪いだろう。

 行き詰ったピニャは、どうするかと顔を上げる。すでに日が昇り始め、当たりを太陽が照らし始めていた。

 顔を上げたピニャは、ふと朝日の中に影を見つけた。そんなことをしている暇など無いだろう。が、ピニャにはやけにそれが気になった。

 

「なんだ……あれは………?」

 

 朝日とともに、徐々に大きくなる影。だんだんとその輪郭が見えてくる。

 

「殿下、東門の戦況報告が……、殿下?」

「ハミルトン、あれは……、一体なんだ?」

 

 下からの伝令の報告を抱えたハミルトンがいぶかしげに眉を顰める。彼女も『ソレ』の異常性に気づき始めたらしい。

 

 朝日を背に進むそれに、ピニャは目を離すことができなかった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「目的地、視認可能範囲に確認。同時、信号弾も確認。送レ」

「4-com了解。全機、陣形を変更せよ。以上」

「こちらセレン3、目的地に飛行戦力『翼竜』を確認。判断願う。送レ」

「セレン1了解。セレン1から4comへ、翼竜への狙撃を進言する。送レ」

「こちら4com。はずすなよ」

「セレン1了解、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  対馬より余裕です」

 

 




用語解説

『スタングローブ』
サイボーグ鎮圧を目的に開発された、特殊グローブ。
警察等の組織へ支給され、民間サイボーグ等の犯罪へ対抗するために使用される。
生身より高い出力を持つサイボーグへの有効な白兵戦武装として、良く使用される。
(元ネタ:イノセンス)

『機械化歩兵隊』
義体使用者、及び強化外骨格により構成される歩兵部隊。単純ではあるが効果は高く、ゲリラ戦においてその真価を発揮する。
(元ネタ:オリジナル)
 
『自走機銃』
電脳操作式の機銃。車輪走行と多脚による移動の二種類の移動方法をもつ。簡易の拠点防衛用に用いられることが多く、完成した基地においても用いられることは多い。
人型、銃座型などその種類は多岐にわたる。
最近ドローンとの差別化が難しくなっていることが議論されている。
(元ネタ:オリジナル)

『ジガバチ』
陸、海において運用される自動爆撃ヘリ。型式番号は『ATH-29』。
30㎜ガトリング、プロセスミサイルなどを装備し、対地対空能力は非常に高い。
反面、その燃費は最悪であり、一部の指揮官は命令がなければギリギリまで投入を悩むほど。 
また、初期にはAIが『味方以外は全て殲滅せよ』というものであったため、識別信号を持たない味方すら攻撃し、歩兵からの評価は最悪であった。(これは他のAI兵器も同じであるが、その性能から被害はジガバチがダントツであった)
(元ネタ:攻殻機動隊)



シンゴジラ面白かったです。各兵器が東京に並んだ姿は勿論脳が震えましたし、政治の様子も良く描かれており、参考になりました。

あと、ごめんなさい。蹂躙は次でやります。栗林が予想以上に暴れやがりました。あと、駄文の大幅増加が原因です。

そして、イラストを下さった方、ありがとうございます。名前は出してよいのかわからないので伏せますが、執筆の励みとなっています。

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