Fate/Grand Order 〜Also sprach Zarathustra〜 作:ソナ刹那@大学生
次回は来年度と言ったな?あれは嘘だ。
はい、忘れた頃にやってくること作者です。
お気に入り登録が600件みたいで、ありがとうございますm(_ _)m
我ながらどうしてここまで応援して頂けるのだろうなぁと不思議ですね。他の方のfate含め色々なSS読んでますけど、やっぱり劣等感ですよね〜…
支持して頂いてる以上、自分は自分なりに書いていくだけですが
今回から通信相手の会話は『』を使うことにしました。今回で言えばロマンですね。
……ロマン。゚(゚´Д`゚)゚。
あとがきで個人的な報告がありますので、良かったら見てください。
………受験勉強ェ
「蓮!」
「……ヴァルキュリア、か」
戦いを終えて倒れ込んでいた時、おそらく戦闘を終えたヴァルキュリアがやってきて思い切り抱きついてきた。
「った…おい、そんな勢いよく飛びついてくんなよ…痛い」
「でも心配したんです!それくらい許しなさい!」
なんて横暴な。でも、嫌じゃない。
そんなに目を潤しているのに、逆にどうやって咎められるというのか。
「…そっちこそ、無事に終わったようだな。お疲れ」
「お疲れって…貴方はそんな口を利く前に言う言葉があるでしょ!」
「…
口を利くどころか、口を引っ張られて碌に喋れないのだけれど?と、訴えるのは心の中だけにする。
まだヴァルキュリアに会ってからそれほど時間が経っていないにも拘らず、これほどまでに自分のことを心配してくれているというのは、少しばかり友好な関係にあるのではないかと、少なからず期待する。
けど…
「…………イタイ」
「ヴァルキュリアさん!このままでは先輩が落ちてしまいます!」
「あ…」
マシュの少し焦った声で、ようやく俺はがっちりホールドから解放される。こんなことで生命の危機を感じたくはなかった。
「それにしても蓮…いったいどうやって…」
「そうですよ先輩!さっきのあれはなんなんですか!?」
ヴァルキュリアも、俺たち2人だけで方がつくとは思ってなかっただろう。だから急いで来てくれたわけだし。
だがそれは、当事者の1人であるマシュも同じ。よく分からないまま事が済み、一件落着。……で納得してくれるような彼女じゃない。好奇心に輝かせるその目は有無を言わさぬ威圧があった。
「まぁそのことは追々な。……それよりはまず、ヴァルキュリア。そこの見ず知らずのゲストを紹介してくれないか?」
「あぁ!そうでした!すっかり忘れてました」
「っておい」
ヴァルキュリアの横に立っているフードを被った男が、思わず自分の扱いにツッコミを入れる。
見たところサーヴァントか?いや、そもそも普通の人間がいるはずがないか。
「紹介します。こちらキャスター、今回の聖杯戦争で生き残った1人です。真名は……そういえば聞いてませんでしたね」
「っておい」
今度は俺がツッコミを入れる。
つまり、何処の誰かも分からないような奴を連れて来たってことか?何かしら理由があるんだろうけど、ちょっと危険じゃないのか?
「そしてこっちが私のマスター、蓮です。隣の盾を持った少女がマシュ、その後ろでまだ恐怖から立ち直れずに震えているのがオルガマリーです」
毒が入ってますよ?
というか、さっきから一言も喋っていないと思っていたけど、やっぱりまだ怖いのか。少しケアが必要かもしれない。
「えぇっと…キャスター、でいいのか?」
「おう、好きに呼んでくれて構わねぇぜ?つっても、それ以外呼びようがねぇけどな」
別に、フードの人とかでもいいんだけど。さすがに申し訳ないが。
「それじゃあ聞くけど、キャスター、あんたの目的は?」
「…随分と直接的じゃねぇか」
「まどろっこしい真似したって意味がない。早くはっきりさせたいからなこっちは。それに、あんたの目的が俺たちに通ずる可能性だってある」
こんなところ、早くやることやってとっとと帰りたい。そういう意味でも、現地民に話を聞くのが一番早い。
「……聖杯戦争ってのが、どういうもんか分かってるな」
「だいたいは」
7人の魔術師と7体のサーヴァント、一人と一体で一組。計七つの陣営が1つの聖杯をかけて争うというもの。
その聖杯は願望機と呼ばれ、あらゆる願いを叶えるという。胡散臭いことこの上ない。
「俺たちは普通に戦争をしていた。そんな時だ、突然街が焼かれ始め、あっという間に一面焼け野原になっちまった。そうしたらよ、どういうわけかセイバーが他のサーヴァントどもを斬り伏せやがる。その結果がお前たちが戦った相手、あの影ってことだ。俺はなんとか息潜めながら切り抜けてきたから今こうして無事だけどよ、他の連中は全員やられちまった。……つまり、分かるな?」
「……俺たちの目的は知っているのか?」
「あぁ、そこのヴァルキュリアの姉ちゃんからおおよそは聞いた。こりゃあまた、えらいことになったもんだ」
そんなこと言いながらヘラヘラ笑ってるが、本当に分かってるのだろうか?それだけの余裕があるってことは、それだけの猛者でもあるということだろうが、さすがにちょっともう少し大袈裟なリアクションが欲しい。違った意味で心配になる。
「残りの生き残ったサーヴァントは?」
「俺の他にはセイバー1人だな」
「…分かった。つまり、セイバーが特異点攻略の鍵ってわけか」
「そういうこと、話が早くて助かるぜ」
特異点を修復するために聖杯を回収することが必須だと言う。だとしたら聖杯の持ち主は生き残りのサーヴァント、つまり、他のサーヴァントを倒したセイバーの確率が高いということだろう。
「この街には大聖杯ってのがあってだな、ようはこの街の心臓だ。そいつがこの事態を招いたとみて、まず間違いねぇだろ。ただ問題は、そこに居座ってるセイバーをどうするかだな」
「そんなに強いのか?」
「まぁな、剣にゆかりある英霊の中じゃトップクラスの知名度だろ。…ったく、俺がランサーだったらもう少しどうにかなるんだけどよ。キャスターってのは性に合わねぇ」
「ランサーだったら…?」
「先輩、サーヴァントというのは、その人のある側面のみを形にして降臨させる場合がほとんどです。つまりこの方は槍の名手として名を馳せながらも、魔術師としても相当な腕だったということだと思います」
なるほど、「槍兵として名高い英霊」ながらも「魔術に長けた英霊」でもあるということか。
そして今回は後者が取り上げられてキャスターとして現界した。本人的には不服らしいが。
『それでMr.キャスター?残ったシャドウサーヴァント、アーチャーとバーサーカーは如何程に?』
「あぁそういう畏まったのはいいから、面倒くさい。……アーチャーは俺一人いればどうにかなる。問題はバーサーカーだな。あいつはセイバーでも手を焼くほどの奴だ。こっちから仕掛けない限り襲ってくるこたぁねぇだろうから、無視するのが一番堅実的だろうな」
狂戦士なれどその実力は健在、か。
むしろ理性を代償に全ステータスを上げているために、より厄介か。
あまり無駄に消耗したくない。それほどに困難なのであれば、わざわざやり合う必要もないだろう。
「よく分かったわ。それで?手を貸してくれるってことでいいのかしら?」
「そういうことで構わねぇよ。そんでもって、そのためにも俺と仮契約を頼むわ。こっちも自分の魔力だけでやってたら、戦う以前にいるだけで精一杯になっちまう。なんでもそっちの魔力供給はちっと特別仕様みたいじゃねぇの」
さすがに喋りすぎじゃないのか?というかヴァルキュリア、そんな話をいつ知ったよ?
「ということは、俺が臨時マスターってわけ?」
「それ以外に無いだろ。そこの嬢ちゃんも立派な魔術師みたいだが、マスター適正はからっきしみたいだしな。いやぁ珍しいもんだな」
「うるさいわよ、放っておいて!」
槍兵、それは鬼門だ。彼女はこう見えて、然程メンタルは強くないんだ。あまりそれ以上キズを抉るような真似はやめてあげてくれ。
事実、少し目が潤んでいる。
『えぇっと…それでいいのかい?オルガマリー』
「…仕方ないでしょう。貴重な戦力増強の機会をみすみす逃すわけにはいかないわ。藤井蓮、貴方にこのサーヴァントを任せます。精々上手く使いこなしなさい」
「了解です。…それじゃあよろしく、キャスター…でいいのか?」
「あぁそれで構わねぇよ。真名は今度正式に会った時のお楽しみってことで。まぁ別に?隠す必要もねぇけどな」
「それじゃあ、この先も無事に生き残れるようにっていう願掛けってことで、真名は楽しみに取っておくよ」
そのためにもまずは目の前の試練を乗り越えなくてはいけない。
頼れる兄貴肌ってのが勘違いじゃないことを祈りつつ、次の目的へと向かう。
「……あの」
そう新たに心付いた時、ヴァルキュリアが恐る恐る手を挙げて話を切り出した。
「どうした?」
「あのぉ、蓮のことについて話したいことがあって…」
俺?
「先輩……あぁ!そうですよ先輩!先輩がランサーのサーヴァントを倒した理由をまだ聞いていませんでした!」
『そういえばそうだ!藤井君、いったいどういうことなんだい!?だいたいバイタルからして…』
「あーあー煩い煩い一気に喋るな、俺は聖徳太子じゃない」
いるかもわからない人物を上げつつ、質問の嵐を遮る。
「……正直な話をするとだな」
「はい…!」
期待で目をキラキラさせてるんじゃないよ。
「…………分からん」
「…………」
『…………』
「…………は?」
所長の間の抜けた声が妙に突き刺さるのだが、開いた口が塞がらないというのはこういうことなんだろう。他人事だけど。
「あ、あ、ああ貴方!本気で言ってるのそれ!」
「本気も何も、なんでこんな状況で大して面白くもない冗談を言わないといけないんですか」
「開き直らない!」
どうやら御怒りのようだ。というか、俺に関することに対してもう少し沸点の調整をしっかりして欲しい。甘めの方向に。
「ちょっといいですか?その点について、私から話があるのですが…」
またヴァルキュリアが恐る恐る以下略。
「蓮がその力を得た理由…それは分かりませんが、それがどういったものかは多分分かります」
「え?」
『本当かい、ヴァルキュリア?』
「なぜ貴方が……?」
これには俺も唖然とする。まさかこんな近くに事情を把握できる人物がいるとは。けどなんで?
「おそらく………それ、私の魔術と同じですから」
暗く、暗く、暗く………
その闇の奥にその空間はあった。
そこには中心を取り囲むように座席が置かれていて、それぞれからそれぞれ違った異質な気配を放っていた。
その一席に一人、腰掛けている者がいた。
「………」
頬杖をつきながら何かを見ているようで、実際に目の前の虚空をただ見つめているわけではない。遠く遠い、ここではない何処かをその眼は見ていた。
「………いつまでそこで隠れているつもりだ、カール」
何気なく出た言葉。見ている先は変わらないが、その声を投げかけた先はその男の後ろ。
「…おや、分かっておられたか」
「何を言う。最初から真剣に隠す気など無かっただろう」
それは靄。あまりにも不安定ではっきりしない、流動的な気配そのもののような存在。
それが徐々に人の形を取り、そして人を成す。
「卿が新たに催した歌劇、中々に興味深い。完全にこの世の理を外れた別物。よもやここまで大きく創り上げるとは、流石と言ったところか」
「お褒めに預り光栄ですぞ、獣殿。しかしこれは偶然の産物。意図して生み出したものではござらんよ。私自身、森羅万象須らく取るに足らぬ飽き飽きしたものと思っていたが…いやはや、存外分からぬものですな。座とも違う、若しくはそれよりも高次元な存在。まさか私の管轄外に値うるとは。認めるのは癪なのだがね」
やれやれと、その顔は呆れているようで、かつ何処か不服そうで、それでいて何処か歓喜しているようで。
その一色に表わせない複雑に入り混じった表情は、妙に悪寒を誘う。
「そうは言うが、カールよ、それでいても卿は既に手を加えたのだろう?十分に我々が知るところの埒外であると思うが」
「確かに、それは否定しますまい。この世には幾つもの平行に並ぶ世界が幾万と有ります。その群を一つと見なし一つのより大きな枠組みで言う『次元』が成立するのです。その次元を扱うこと自体、我が座ならば然程難しく有りますまい。…だが」
「極稀に、卿でも御することの出来ぬ、或いは感知することすら出来ぬより高度なものがある。…
言葉を引き継ぎ紡いだ後に、視線を変えず見ていたその先にもう一人の男の目を差し向ける。
「英霊……か」
「おや?御興味が?」
「無いと言えば嘘になろう。根本的に我々と違えど、その魂の在りようは実に様々だ。故に、触れてみたいと思う。永遠の刹那のように、我が愛を持ってしても壊せぬ、そんな存在がいる可能性があるのだろう?………あぁ、カール。私は確かに渇望している。再びあの極地に至りたいと魂が欲動して止まらない」
大気が震える。
この黄金に満ちた男が、一瞬、ほんの一瞬口角を上げただけで、まるで彼を取り巻く世界そのものが彼に恐怖しているかのように鼓動している。
「………落ち着くがよろしい、獣殿。貴方の心中も察し出来ぬわけではないが、まだ時期尚早だと理解して頂こう。第一、この世界でさえもスワスチカを完成させなければ十分に成れぬというのに、その上私にも扱いきれぬ領域で貴方が満足するような結果を生み出せるとお思いか?今はまだ準備の段階であるが故に、暫し待たれよ。いずれ貴方が躍り出るに相応しい舞台が完成出来るだろう」
「……そうか」
鋭く、荒々しく、猛々しい微笑は、僅かに穏やかになった。
「ならば期待しよう。…だがカール、あまり私を失望させないでくれよ?そうであれば、無理を承知でこの身を地に落とし宴に参加するやもしれん。なに、それでこの身が崩れ落ちるならそれはそれで興味深い。進んでそう在ろうとは思わぬがな」
「承知しておるよ。ただ一つ、理解しておいて貰わぬといけないのは、此度の歌劇の役者に演出家、その台本も、あくまで向こうの者たちだ。出来うる限り、より面白い筋書きになるよう努めるつもりだが、あまり第三者が出しゃばると、向こう側に目をつけられかねんし、そうなると少々面倒だ。そして何より、それではあまりにも滑稽だ、興が冷める。とどのつまり、この歌劇が獣殿を満足させるか否か、それは向こうが決めることであるということ。私に全ての責任を求められても困るのだよ」
「卿ともあろう者が弱腰か?これは珍妙なことだ。…案ずるな。そのようなこと、卿に言われずとも理解している。だが、それでも此度の興に多少なりとも危惧があるのも事実。期待があればそれと同程度の危惧が存ずるのも、この世の真理であろう?ならばその僅かな可能性をも取り除き、より質の高い一幕にするのが卿の役目であろう」
それはその怪しげな男に向けての期待なのか?それとも単なる圧力なのか?
何方とも取れる黄金の男の言葉に、その人を象った影の集合地は、不気味に笑みと共に返す。
「あぁそうだとも、確かにその通りだ。他人の脚本に口を出したがるのも、また同職に就く者としての定め。未知を求めるが故に、私は介入せずにはいられぬ。例えそれがどれほどの愚行や蛮行でも、だ。だが同業者だからこそ、失敗作を目撃すると、まるで我が事のように羞恥に身を攀じるというものなのだよ。故に見過ごせぬ。我が腕に所信があるのならば、行き過ぎだと分かっていても誇示したくなるというもの。彼方の演出家に目を瞑って貰えることを願うことにするよ」
「そうするといい。程度を履き違えないのであれば問題無かろう。友人としての忠告だ。卿は興味ないものには微塵も目を留めぬが、逆の場合は少々熱が入りすぎる。其処のみ注意しているならば、私も傍観者としてい続けられるだろうからな」
「心配いらぬよ獣殿、執拗に何度も申し上げるが、過度な干渉は愚の骨頂としか形容できん。何故ならば、触れた値の比が勝ってしまえば、その瞬間に作品の創作者が変わってしまう。出来うる限り客人でいたいのだよ私は。長らく創り出す側にいた手前、純粋な観客というのも偶には恋い焦がれるものよ。……さて、それでは此度はここまでとしよう。獣殿、身体が疼くとはまさにその様だろうが、暫し来るべき時まで休息とするがよろしい。よく言うであろう?楽しみは待つと尚良し、と。あぁ、あまりにも陳腐な台詞だが、敢えて貴方に贈らせて頂くよ」
その言葉を最後に、その影のような男は消えた。
音も無く、まるで初めからそこにいなかったかのように、極自然に姿を消した。
「……………」
黄金を体現し者は、変わらずに其の眼で虚空を見つめていた。
見定めるかのように、嘗て自分と対等に渡り合った、我が黄金の光沢を幻想だと一蹴し、何よりもここに輝く刹那を愛した、その男の姿を見た。
厳密に言えばそれは、同じ器の中に注いだ別の美酒。限りなく過程は近しくても細かに差異があり、結果として近しいが遠い、そんな一品が出来上がる。
だが根本にあるものは同一。元を辿り、生まれ出づるところに細見すれば、世界を違えた故に僅かにその先の道をも違えたのだと、自ずと知得出来る。
故に、面白い。
僅かだ。確かに差異は僅かだ。
だが、その僅かが、大きな差異を生み出す可能性など潤沢とある。
だからこの身が歓喜と期待で湧き上がる。結末はどうであれ、この身に刻んだことのない未知との遭遇が叶うかもしれない。
まるで異なる、この身を置いて委ねた世界とは違う世界。既に未知であるようで、まだ確信には至らない。ほんの不安も渦巻いている。これも既知ならば、と。
そして黄金は揺らめく。
一切威光は衰えず、目を眩ませるほどのそれは真夏の陽炎のようで、悍ましい覇気を纏ったままだった。
そしてそれは、在るべきところに還るかのように、鎮座したその場から姿を消した。
突拍子も無いと言わざるを得ないのが、まず突然すぎるということだ。
元より俺が、こういった神秘だとか超絶摩訶不思議なことの側の人間だと言うのならば、まだ少しは許容出来る。いやそれを踏まえて見ても実感の無い話だろうが。
確かに曲がりなりにも基本的な魔術は、一応使える程度には形にした。それだけでも、我ながらそれなりにその手の才能はあったんじゃないかと自惚れるくらいにはなる。
と言っても割合的にはまだ一般人だ。平凡の類の域を出ないと思ってる。うちの家系に何か関係する筋があったとか聞いたことがない。聞いてたら完全に向こうサイドだろうけど。
だから不思議で仕方がないんだ。何故俺なんだ、って。
「……ヴァルキュリアと、同じ?」
「えぇ、そうです」
まだこの戦乙女について詳しいことが知れてないから、強い実感とか共感とかそういうのはない。
それでも、僅かに覚えているという自分の力の仕組み。それと俺のは同じだと言う。
ヴァルキュリアが使うのは一種の魔術らしい。つまるところ、生前は少なくとも魔術使いだったってこと。
その使ってた魔術というのが少々特殊らしく、幾つかの段階に分けられているという。ゲームで言うところのレベルアップだ。
「そもそもこの術を使うには、付属して必要なものがあります。…聖遺物です」
『聖遺物?それってブッダの歯とか、マリアの腕とかのことかい?』
「本来の意味のそれとは違います。この術を使うために必要な聖遺物というのは、その器物に強大な念が込められることで、特殊な力を得たもののことです。怨念、信仰心、敬愛、どのような形であれ狂気じみた強い想いがあれば、それが聖遺物を作ります。日本で言うところの付喪神という奴でしょうか。ようは曰く付きということです」
生前馬鹿みたいに狂った人間がいて、そいつが馬鹿みたいに狂ったことやってる時に、肌身離さず持ってるような奴とか、何人も殺して血を吸って、挙句には持ち主も殺してしまうような妖刀とか、そういう物騒なものがあるということらしい。
「俺はそんなヤバそうな奴なんか持ってないぞ?」
「うーん…心当たりは何もありませんか?」
「………ない、な」
「そうですか…」
実のところある。
というかむしろ、あれ以外に思えない。
悠久が満ちた黄昏の浜辺、其処に揺蕩う無垢な少女。最近現われたそれらが、今回の一件に関わってると見れば特に違和感はない。
ただそれはまだ確証じゃない。具体的に説明しろと言われても、感じた雰囲気のような曖昧なものを伝えることしか出来ないくらい、それぐらい彼女のことはまるで分からない。
そもそも彼女はなんだ?害なのか益なのか、それすらも把握出来ない。実際こっちは処刑台に固定されて首を斬り落とされたのだ。妙にリアルで、思い出したら今でも身体が拒否を示している。それを躊躇いなく信じるなんて出来ようがない。だから来るべき時まで言わない。それがきっかけで本当に首を斬り落とされたら洒落にならない。
「先ほども言いましたが、この術には段階があります。おそらく推測が正しければ、蓮はその第一段階。聖遺物の力を限定的に使えるところでしょう。おそらく蓮がサーヴァントを斬ったことから考えるに、鋭利なもの、刃の付随している剣の類でしょうか?」
………ギロチン、か。
「この段階はまだ完全に聖遺物を使いこなせていません。いつ暴走するか分からない、とても不安定な状態です。それが第一段階、《活動》です」
まだ完全に支配下ではないと。何と無く分かる。妙に右腕が疼いている。…中学二年生みたいな台詞だが。
それに俺の思考までも侵されているような感覚。なんというか、バイオレントじみてる。殺人衝動という奴か?今は然程激しくないが、危険は感じられる。
「第二段階が《形成》、内包した聖遺物を具現化して実際に武器とすることが出来る段階です」
ヴァルキュリアの手には先程の戦いで見せた細剣が握られていた。
「それがお前の聖遺物なのか?」
「はい、これを実際に形を成して扱える段階、ひとまずコントロールは出来た、というところですね。………そしてまだ上があります。それは《創造》位階」
《創造》。
ヴァルキュリアの言うところ、平たく言えば必殺技を覚える段階。
この段階に達すると、世の中の常識と隔たれていて、尚且つそれに拘束されない一つの強大な異界を創り出すのだという。
それはルール。世界の法則と違えた、独自の独自で完結するルール。つまり、心の底から頭をおかしくしろということ。まともな人間が成れる領域ではない。明らかに出たら打たれる杭のような奴、変人とか狂人とかそう呼ばれるような人間のみが成せる業。
「それって固有結界ってこと!?そんな…」
「厳密には違うと思いますが、簡単に言えばそのようなものです。これにも色々とあるのですが……今話しても仕方がないでしょう。ここに到達する人間は、良くも悪くも普通じゃありませんから」
「つまりヴァルキュリアは普通じゃないってことか?」
「グッ……ま、まぁ、そういうことになっちゃいますね……」
見た目ちょっとおつむがあれなだけで、まともそうに見えるのだが、案外中身はどこか螺子が抜けてるのかもしれない。
「私が分かるのはそこまでです。もしかすると、さらに上があるのかもしれませんが、憶測を話しても何にもなりませんしね。ひとまず蓮は、《形成》に至れるようにしてください。今のままでは危ないですから。《活動》を使いこなせば、先ほど遭遇した骸骨兵の程度は蹴散らせます。《形成》を使いこなせば、影のサーヴァント、或いはサーヴァントとも渡り合えるでしょう。《創造》はつまりサーヴァントの切り札、宝具に対抗出来るものです。……飛び級はありません。まずは力を使いこなす事だけを考えてください。上を見すぎると足元掬われますよ」
「………ヴァルキュリア」
「はい?なんでしょう?」
「お前………頼もしいんだな」
「………」
「………」
「………え?今私は褒められたんです?愚弄されてるんです?」
失礼な、心の底からの賛美だぞ。
だからそんな目で見るな。
「それで?どうやったら次の段階に行けるんだ?」
「さぁ?知りません」
「おいこら」
何が知りませんだよ、今の流れからして教えてくれるんじゃないのかよ。
「だって私、記憶無いですし?」
都合良い言い訳を持ってやがるその上に遠慮なく振りかざしてきやがった。
前言撤回、やっぱりこいつは駄目だ。なんか色々残念だ。
「…なんですか、その可哀想なものを見るような目は。マスターにそういう目で見られると、さすがの私も辛いのですが………」
目を麗してそんなこと言っても、何も解決にならないんだぞ。悠長に待ってれば自ずと強くなるって代物でもないだろうし。
「……戦えばいいんじゃないの?」
「…所長?」
「ようは使い慣れてないから、それが暴れて持てる力を発揮出来ないということでしょう?……《フェイト》の影響で完全なるサーヴァントが不完全で召喚される。けど今のヴァルキュリアの霊基は、召喚した時よりも僅かだけど高まっている。それが意味するところはつまり、戦闘を重ねることで霊基が成長するということ。…それがヴァルキュリアの魔術にだけ適用されるものなのか、それとも全サーヴァントなのか、それは分からないわ。けれど、どちらにしろヴァルキュリアに近いであろう貴方には、同じような結果が出ると考えるのが自然じゃないかしら」
……この人、ちゃんと偉い人だったんだなぁと。いつも後ろに逃げて隠れて影が薄かったから。言ったら怒られそうだけど。
「……藤井蓮、次わたしのことをそんな目で見たら、許さないわよ?」
みなさん視線に敏感すぎじゃないですかね……。
ともかく、所長の言うことは最もだと思う。現状それが最適解だと考えるのが、一番落ち着くだろう。というか分からないし。
「………あの、先輩」
「どうした?」
何と無く話が纏まったところでマシュが口を開いた。
「先ほどヴァルキュリアさんの話で出てた宝具なんですが…」
「あぁ。……あ、マシュもデミ・サーヴァントだから宝具使えたりするのか?」
「………」
………あれ?
なんか物凄く泣きそうなんだけど……俺変なこと言った?
「………使えないのね、宝具」
「え…」
「………はい」
所長の言葉に申し訳なさそうに答える。
顔を下に向けたまま続けた言葉は、弱々しかった。
「……わたしは、わたしと融合したサーヴァントの真名も本当の力の使い方も知りません。だから宝具も使えません…」
傷を抉るような真似をしてしまったようだ。
そこまで気にすることじゃないと正直思うのだが、それを言ったところでこの子は、むしろ逆に後ろめたくなってしまうのだろう。
責任感が強いがために、デミとは言えサーヴァント、その重圧に苦しんでいる。
「なんだ嬢ちゃん、宝具使えねぇのか?」
だんまり決め込んでいたキャスターが変わらずちゃらついた喋りをする。
「そうだなぁ……よし。おい嬢ちゃん」
「は、はい!」
マシュが返事をした時キャスターを文字を空中に綴っていた。
「……アンザス!」
「え…」
呆けに取られたマシュに向かって放たれたのは火球。一直線に少女へと飛んでいく。
だがそれは直前で掻き消えた。
いや、斬られた。
「へぇ〜…やるじゃねぇの」
「………どういうつもりだ、キャスター」
我ながら低い声がよく出たものだと思う。
瞳孔が開いてるのが分かる。完全に殺意が篭ってる。
「なーに簡単なこったよ。こういうのは理屈じゃねぇんだ、精神論なんだよ。ようは気合いってことだ」
「それって…」
片目だけ瞬いてその魔術師は告げた。
「何事もやってみるのが一番だろ?…実戦だよ、実戦」
報告というのは、
自分、FGO辞めようと思っています。
まだ確定じゃないですけど、おそらくそうなるかと。
理由は客観的に見れば大したことじゃないんですが、個人的にちょっとくるものがあって、このSSも辞めようかと思いました
趣味でしかないSSならば、そこに義務も強制もないと思ってますが、これだけ支持してくださってる方々がいるので、このSSは引き続き書いていきます
なのでまだFGOのデータは残っています
とりあえず最終章まで書いていこうかと思ってます
一応ヒロイン別にルート考えたりしてるんですけど、詳細は考えてないので未定ですね。とりあえず原作に近いエンディングを書いていこうと思ってます
最後に、FGO辞めることで、このSSが意図していい加減になることはありません。
不思議なことにこのSSを書くこと自体は、変わらず結構楽しいんで
良かったらこれからも読んでやってください
失礼しますm(_ _)m