Fate/Grand Order 〜Also sprach Zarathustra〜   作:ソナ刹那@大学生

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皆さんが忘れた頃にやってくること、作者です。
そして次回は、来年度になるでしょう。気長にお待ちを
FGO、色々なことが起こりましたね
まぁそのことは別所で
ネロ、邪ンヌ、クレオパトラ……知らない子ですねぇ……



第4節 覚醒

「はぁ…はぁ…はぁ…!」

 

走っていた。ただ前を見て走っていた。逃げるために全力で走っていた。

 

なにから逃げるのか?勿論、敵からだ。あの状況下、あまりにもこっちの分が悪い。仮にサーヴァントのおかわりが一杯だけというなら、まだマシュとヴァルキュリアでどうにか出来ただろう。さっき以上の苦戦になるだろうが。

しかし実際は二杯と来た。誰もそんなサービスなんか望んでない。ありがたくもないただの迷惑だ。ふざけるな。

 

しかし現状はヴァルキュリア一人を残し、自分たちは逃亡を図っている始末。

俺が逃げてるのは敵だけじゃない。きっとこんなザマの自分からだ。

 

「どうしてサーヴァントが湧いてるのよ!?」

「………聖杯戦争。そうだよ聖杯戦争!ここでは聖杯戦争が行われていた!だったらサーヴァントがいたってなにもおかしくない!」

 

その事実、おかしなことで終わらせて欲しかったな全く。

つくづく嫌になる。今のこの状況というか、運命というかそういうのが。

神様なんて端っから信じちゃいないけど、どうせ碌でもないに決まってる。

 

俺は平穏が欲しいって言ってるのに、こんな仕打ちをしてくる。俺のエゴなのは分かってるが、マジで失せろよ。

こんな悪態をついてても、頭が冷静に回る。と言っても具体策が出てるわけじゃない。分かるのは現実。ヴァルキュリアを疑っていないし当然信じてるけど、さすがに2人を相手するのは無理だろうという、そんな推測が悲しいことに形になってしまったという現実。

 

「…!気をつけてサーヴァントだ!」

「っ!!」

 

アナウンスと同時に俺たちの目の前に立ちはだかるは、影のサーヴァント。

長い得物…おそらく薙刀だろうか?ということはおそらくランサーか。近中距離を得意とするサーヴァント。

 

「そこを退いてそんでもってそのまま帰ってくれ…なんて、聞いてはくれないよなぁ…」

「然り。拙者の目的はサーヴァントの排除。汝らを逃してしまっては、それが完遂出来ぬ」

「そうですよね…」

 

どうやら話は通じるようだが、話を聞く気がないようだ。

一心に俺たちを倒すことのみを行動する上での理念としている。

 

「疲れてるだろうけど、マシュ…」

「はい、分かっています」

 

俺の言葉を遮って、敵と俺をも遮るように間に盾を構えて立つ。

 

「マシュ……」

 

それ以上は語らない。けれど言わんとすることは分かる。その小さな背中が語っている。俺を守る、と。

 

「…頼んだ」

「はい…!」

 

苦々しく呟いた言葉に、彼女は声を強めて応える。

身体が震えてる。恐怖。死ぬかもしれないという状況に、身体を震わせて恐怖している。それでも前を見て立っている。

 

だからこそ、余計に惨めになるんだ。そんな強くもない彼女の強い姿を見ると。

だからこそ、欲しがるんだ。あの背中に届くようなそんな…力…。

 

「はぁぁぁぁああああっ!!」

 

槍兵へと突撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

静かな戦いだった。

ヴァルキュリアはその身を必要以上に動かすことはなく、その場でただ立っていた。

 

神経を研ぎ澄まし、姿無き敵を斬る、自らをそのための剣とする。敵は暗殺者。クラス的な相性で言えば、アサシンは戦闘に特化したものではないため、最優とも言われるセイバーが奇襲でもない戦闘で劣る道理はない。

 

だがそれは、あくまで個体値がある程度拮抗していた場合。レベルが50と50の時。力が拮抗していれば、戦闘に特化したクラスと隠密に特化したクラスの差は、この場において絶対的なものになる。しかし今、そのレベルに差がある。

 

(目で見るな。耳で聞くな。肌で感じるな。…直感だけにのみ従う)

 

敵のアサシンのクラス特有の保有スキル『気配遮断』。しかもこの様子はかなりの高ランクのようだ。実際今も、まるで敵の存在が掴めない。

 

だからこそ洗練させる。視覚は捨てる。聴覚も捨てる。研ぎ澄ますのは記憶の闇に消えた過去の自分。

 

自分を軍人だと推測した彼らの言葉はおそらく間違いないだろう。確かな根拠なんてない。これは感覚。彼らの言葉に何も違和感がないのがきっと証拠。()()()()()()()()と簡単に納得してしまうような調和。頭では分からなくても、身体が覚えているのだろう。そんな曖昧なものに縋るようだけど、それを愚かとは思わない。

 

自分が託すのは、自分がこれまで培ってきた経験と時間。目でも耳でも肌でも追えないのなら、第六感(シックスセンス)。今の自分を自分として確固たるものにすべく、鍛え上げられてきた『直感』。あらゆる場を生き抜いてきたと言うのならば、淘汰された『心眼』だってあるだろう。

 

…いや、あるものだと信じ込む。言い聞かせるのだ、まるで子供のような自己暗示。私は出来る、と。

 

「………」

 

静かだ。心はまるで波打たぬ穏やかな海のよう。凪に満ちた自分が静寂の底に落ちていくのが全身で感じられる。

自分をその他と同化する。それはこの身を剣とすること。身体は剣であると、敵を斬るための主の剣なのだと。

 

心に灯る意思という火は、風に揺れることなく照らし続けている。

意識的に消した音が、やがて聞こえるはずのない殺意を響かせて身体の中で反響させるのだと。ただその一瞬を待つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗殺者は息を潜めていた。

それは至って普通のことで、この英霊にとっても大したことではなかった。

例えこの身が忌まわしき陰に侵されていようと、自分の技術を疑うような考えは持ち合わせていなかった。

 

その自信が故だろうか。標的が静粛に佇んだのを見て、一瞬諦めたのかと錯覚した。が、すぐにその考えを否定する。

この剣士は、自分の主人を先に逃がすためにここに残ったのだ。それにセイバーというクラスからして、主従より仮初めの命を優先するとは考えにくい。ましてや彼女からは気高さが溢れ出ている。

結論を出すと、尋常じゃない集中力の中にいるのだろうと。自分のスキルを理解した上で、自分を捉えようとしている。

 

愚かな。

見縊ってもらっては困る。こちらはただ暗殺者であるために生きてきた純粋な一品だ。いかなる状況においても自分の役目を果たす。それだけのためにそれだけをする人種。

 

ならばこそここで見せしめるしかない。暗殺者たる所以を。私の一刀を。

 

背後へと周り、静か且つ激しい殺意を込めた短刀を投げ打った。

一寸の狂いもない。当たれば確実に致命に辿る一撃。故に確信した。

 

「ーーーッ!」

 

だが違った。

 

急所に当たり命を穿つはずだった一刀は、あろうことか振り回された彼女の()()に突き刺さった。

 

「なにっ!?」

「………そこぉぉっ!!」

 

正面に対峙したセイバーがアサシンに向けて駆ける。

 

「くっ!」

 

セイバーの打突に僅かに反応し、腹を数センチ掠めただけに留めた。と言っても、軽傷というには重く、ましてやセイバーの剣が纏う雷撃がより傷を抉る。

 

「…こうして私の目の前で貴方をはっきりと捉えました。ならば……」

 

再び剣士は打突へと構える。バチバチと音を鳴らし、燃ゆる闘士の如くその火花は激烈に瞬いていた。

 

「もう見逃す道理はありません!!」

 

一心にこっちを射抜くその目を仮面の奥から睨み返してアサシンは問う。

 

「何故…見抜いた…!?」

「…おそらく完璧に気配を遮断した貴方からの攻撃を完全に凌ぐことは出来ないでしょう。だから、貴方が攻撃に移る際に僅かに漏れた殺気の方向に、()()()()()()()()()直撃を凌ぎました」

「いくらそれでも、我が一刀を…!」

「貴方がその陰に呑まれてるというのもあるでしょうが、ただ運が良かっただけです。ただ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と私の『直感』が冴えていただけです」

 

たかが陰に堕ちた英霊の身ならば、いくら本元が優秀な英雄であっても、その技巧の精度は低下するというもの。

例え絶速の一撃であっても、例え自分が未熟な状態であるとしても、敵が同じように完全ではなくその速度も下がっていると言うのなら、たかが腕の一本で事は済む。

 

代償として消えた左腕の腱はまるで感覚がないが、ここで量子となって消えてしまうよりはだいぶマシだと考えることにする。軽く腕を振るうがやはり駄目のようだ。

 

だが問題ない。

 

「行きますよ、アサシン。ここから先はこちらの土俵です」

「っ…容易く譲ると思うな…!貴様1人で易々勝てると…」

「そうかよ、じゃあ1人じゃなかったら問題ないんだな?」

「!?」

 

向こうより現れたのはフードを被りローブを羽織った杖を持つ男。

 

「貴方は…?」

「貴様………!」

 

振りかざした杖から炎を繰り出しアサシンへと飛んでいく。

 

それらの攻撃を躱しつつ、その元へアサシンは睨みを利かす。

 

「なぜそちら側につく、キャスター!」

「キャスター………」

 

セイバーはその存在を理解する。対峙しているアサシンとは違って、その身は黒く染まっていないことから察するに、この聖杯戦争での生き残ったサーヴァントなのだろう。

 

「なぜって簡単な消去法だろ。そっち側になっちまうくらいなら、この嬢ちゃんたちに付き合った方がマシってだけだ。おたくらよりよっぽどまともだろ」

 

やれやれと言ったように素っ気なく告げる。

 

その急な新キャストの登場に、セイバーは心の中で密かに動揺する。

無理もない。ただでさえこの一体を倒すのに苦労しているというのに、こっちまで仇なすとは心労が尋常じゃないことになる。

 

「…一つだけ問います。貴方は私の敵ですか?味方ですか?」

 

剣尖を新たな面子に向けて、この場において確かめなければいけない最小限の事柄の答えを促す。

 

「味方…とは言い切れねぇな」

「っ!」

 

柄を握る手に力が入る。最大の警戒を持ってして、今すぐにでもその喉元を突貫出来るように。

 

「おいおい、最後まで聞けって。味方とは言えないが、敵は同じだろ?あんたもここは早く終わらせて、マスターのとこへ早く行きたいわけだ。だったらここは一度友好的に組むとしようや」

「…貴方のメリットは?」

「メリットも何も、聖杯戦争ってのは互いに互いを潰し合うもんだろ。サーヴァント倒すのにそれ以上の理由がいるかよ。まぁ、この状況を聖杯戦争だなんて言うには、もう遅すぎるけどな。…それと」

 

セイバーを見てニヤッと、新しい玩具を見つけた子供のように笑う。

 

「あんたのマスターに興味がある。ああいう奴の行く末ってのは見ていたくなるもんだ」

「………そうですか」

 

少しの沈黙。そして少しの脳内会議ののち、剣士は魔術師に答えを出す。

 

「では力を貸してもらいます、名も知らぬキャスター」

「おおよ、任された」

 

…すぐに行きます、蓮。だからどうか………

 

より強く、剣が握られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁっ!!」

「……ふんっ!」

 

巨大な盾を振るう少女は、薙刀を構えた僧伽に悪戦を強いられていた。

 

重みは力へと繋がり、勢いのままに振り下ろせばそれは破壊力を得る。たかが長い刀ならそれを弾き返すのは無理な所業。へし折れるのが末だ。

 

だがこの槍兵はいとも容易くそれを返す。

それも当然なのだろう。ランサーであると言うのなら、少なからず生前にそれに腕の覚えがあるのだろうから。

 

それ以上に存在するのは、明らかな英霊としての実力差。半英霊と純粋な英霊。及ばない域が存在するのは確かだ。

 

しかしそれを覆す何かが必要だ。

瞬間的に実力差をひっくり返す奇跡とか、神様からの素敵なご都合なプレゼントなんかありはしない。そもそも願ったところで来たりしないくせに、気まぐれで現れるような代物がご都合たる奇跡だと言うのだから、それに縋っている未来は想像したところで意味を成さない。

それでいても、それに値する何かが必要だ。欠いたらこの状況を打開できない。奇跡を自ら創り出す。具体的な方法なんか知りはしないが、そんな芸当を生み出すしかない。

 

「………それで」

 

距離を置いたあと、静かにランサーは口を開いた。

 

「汝らはどうする?このまま中弛みした争いを続ける気か?」

 

途端にそんなことを聞いてくる。

 

「………何が言いたい?」

「そのままの意味。このままの状態を続けるようであれば、汝らには勝機がないと見えるが?それとも打開策の一つや二つ持ち合わせているのだろうか?」

 

全く、痛いところを突く。煽りにすら聞こえてくる。打開策なんて持ってるんだったら、今こんなに心内のざわつきは激しくない。

 

「…それを聞いてあんたはどうしたいんだ?」

 

なんだ?提案なんて一つもないって言ったら、心ある手助けでもしてくれるのか?ないなそれは。

 

「…開き直るのもどうかと思うけど、確かに言う通り。こっちには今の所あんたを確実に倒せる作戦なんて無い」

「せ、先輩?」

「実際、こうやってか弱い女の子に頼りっきりなんだ。策があるなら既にやってる。じゃないとそんなチキンな自分が嫌でとっくに死んでる」

 

か弱いってのは単純な強さじゃない。

出会って間もない彼女は、よく知りもしない殆ど赤の他人である俺のために戦っている。文字通り命がけだ。

その心の在りようってのは、言わずとも強いものだ。健気で必死で見栄を張って俺の前に立つ。見せかけだろうと、擬似的なものであろうと、それを否定することなど出来るはずがない。していいはずがないんだ。

 

けどそれでも彼女はか弱いんだ。男尊女卑とか前時代的なことを言うつもりはないけど、やっぱり男は女を守ってこそだろ。おんぶにだっこのただのヒモなんか、生きる価値なんてない。だったら死んで保険でお金をくれてやった方がよっぽど貢献してる。

 

「逆に聞くが、だったらなんだってんだ?中弛み、無策、自分を蔑む言葉なら幾らでもあるけど、それらを踏まえて敢えて言う」

 

せめて顔だけはそれっぽく繕う。

 

「それでも勝つ。俺たちの邪魔をするな」

 

吐き捨てた言葉は、見栄を張ると言うにも及ばないただの言葉の塊。言霊なるものがあるならそれに縋ろうとしか出来ない自分を、逸らしたくなる目を覚まして直視するための言葉。言えば自分にも責任が出来る。否が応でも逃げの選択肢は消える。一度口に出した言葉は戻ってこない。だから見栄を見栄じゃなくする。

根拠も作戦も自信もないけど、分かってることはある。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「流れ流されて、その結果今ここにいる。その過程にたいして立派な志望動機なんてない。運良く俺だけが無事だった。たったそれだけのことだ。何も褒められるようなことはない。……けど、そんななあなあだからって、勝手に投げ出していいわけがないんだよ」

 

正義の味方とか世界の救世主だとか、そんな大層な名分なんてどうでもいい。最初から興味ない。

俺は俺が守りたいもののため、救いたいもののため、取り戻したいもののために戦うんだ。

 

だいたい英雄なんて碌でもない。

死が蔓延る大地の上で、自分に仇する奴をただ殺意を持って排除して、積み重ねた屍の数が多ければ多いほど、そいつは祖国の誉れとして名を連ねる。

 

「………見た感じ、あんたは意外と近しい間柄の英霊なのかもな。知ってるか?日本には大黒柱って言葉があるんだ。要するに……」

 

身体強化、物質特性強化……。

 

「男は女より常に出張ってろってことだっ……!」

 

拾い物の剣を力の限り叩きつける。

 

「………その意気や良し」

 

だがそれはいとも容易く、持ち合わせている長刀に防がれる。

 

「っ!!…こん、やろぉっ!!」

 

強化の魔術を集中した右足で、胴体めがけて蹴りあげる。

だがそれももう片方の空いた腕に阻まれる。

 

身体を捻りつつ左足を胴体横にめがけて蹴り入れる。

 

「…っ!」

 

僅かに溢れた声。ほんの少しは効いたようだ。

先ほど右足の強化、比率で言うならば剣に20、右足に80していたものを左足に100集めて叩き込んだ。要は今俺が生み出せる最大の攻撃力。

それでも当てられたのは僅かな衝撃。英霊を名乗るものにその程度の一発など、子供の喧嘩じゃあるまいし、はい、これで終わりなどとなるはずがない。

 

だから追撃が必要だ。一発一発が期待するには頼りないものならば、それを補う物量を浴びせる。塵も積もれば山となると言うし、元よりこちらの手札にそういった山なんて代物はない。

 

しかし俺には手がもうない。

だから頼る。俺を守ろうと、小さな背中を震わせて戦ってくれる彼女を。

 

「マシュ!」

「はいっ!」

 

俺が辛うじて生み出した隙にマシュは仕掛ける。

全速力で突撃(チャージ)し、槍兵を吹き飛ばす。

 

「ぐぉっ…!」

 

止まっていられない。

体力で物を語ったところで、明らかにこっちの分が悪い。

それでも止まることは出来ない。一寸の隙も与えてはいけない。敵に反撃する間を与えてしまえば、こちら側が打ち負かされるのが時間の問題どころではない。

 

「止まるなよ!」

「分かっています!」

 

着地してすぐ、踏み切りチャージをかける。

 

「…そう何度も……!」

 

対し槍兵は、得物の長刀で真正面から受け止める。若干後ろに押されるランサー。

だがそれでも霊気の格の違いは存在する。マシュの動きはすぐさまに止まる。

 

「っ!…こっ、のぉぉ!」

 

それでいても止まろうとはしない。止められた瞬間に前方へ踏み切り出して、勢いを完全に殺されないように全身全霊を体現する。

しかしそれでも遂げられないものがある。

だから、追撃を仕掛ける。

 

「喰らえ…よっ!」

「なっ!?…づっ!」

 

大きな盾は単純に制圧力を持つ突進武器だけじゃない。デカいというのは、身を隠すにはもってこいというものだ。

 

マシュの盾に隠れ、敵がその対処に一瞬でも手間取った隙に、盾の陰より飛び出で敵へめがけ剣を横に斬りつける。

死角より不意を突き、胴体を真っ二つにするがために全力で振るう。

 

だがその一刀を槍兵は、片足を蹴り上げることで剣を弾き飛ばし防ぐ。

次いで自らの重心をずらし、長刀を横払いすることでマシュを去なし、バランスを崩したところで俺の腕を蹴り上げた脚を遠心力を利用し少女を蹴飛ばす。

 

「…っづ!!」

 

さっきまでの攻防はなんだと言うのか。

こっちも間髪入れずそれなりに畳み掛けたつもりだが、簡単に返されてしまった。

さすがはサーヴァントと言うべきか。こちらの2人分の格以上なのだと改めて実感した。

 

そして彼は俺の首を掴んで持ち上げる。

 

「…っ……がっ…ぁっ…!」

 

息が出来ない。必死にその手を退かそうとしても、英霊に力で敵うはずもない。変わらず俺の首を絞めたままだ。

 

「…さて、どうする?」

 

そんな俺のことは御構い無しに、少し前にも聞いたような言葉をまた俺に投げかける。

一方的にリピート再生させるのはやめていただきたいのだが、僅かばかりのかけ無しの情けということなのだろう。ありがた迷惑だ。

 

「諦めることなく、果敢に挑む姿は賞賛に能う。だがそれもここまで。これ以上の時間の浪費は、拙者としても望むものではない。汝の連れに来られると厳しいのも事実であるからな」

 

だと思ってる。だからこうして馬鹿みたいなザマ晒して、必死にやってるんだ。

時間稼ぎをして全員で事に当たる。全然そっちの方が確実だ。一つ戦闘を終えて疲れてるところで申し訳ないが、確実性を求めたいのだ。理解してくれよ。

 

だが、そんなことを言ってる暇も無さそうだ。

悠長に望むタイミングを待ってたら、先にこっちの命が尽きるタイミングが来てしまう。

ならばどうするか?さっき以上に足掻くしかないだろう。

 

「勝…手に言……ってろ……!」

 

考えろ。考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ。

この状況で何が出来る?駄目だ、神頼みしか思い浮かばない。

情け無い。イライラする。他人任せな弱い自分に。

 

どうする?どうすればいい……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーやるかね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何、度…でも言って、やる……っ!」

 

考えろ。思い出せ。何かあるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーならばよろしい、君に助言しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺に、は…俺なりの、矜持ってのが……あるんだよ……!」

 

最悪、神頼みだろうとなんだってしてやる。あるかどうかも知らない偶像崇拝の対象物なんかに頼るのは癪だが、使える手はなんでも使ってやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー英霊というのは知っての通り、人間の埒外に座す有り体に言えば化け物だ。人の業では倒せぬよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どん…なに弱く、ても…!諦められないものってのが…あるん、だよっ……!」

 

だって俺は……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーさて、どうする()()()()()()()()。ここで私の手を取って前へ進むかい?それとも、半身君が嫌う非日常に浸かった中途半端な日常とやらの為にこの道を退けるかい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「取り戻しに、来たんだ…!!どんなに些細だろうが、どんなに小さかろうが、失わないために……!!」

 

………認めないっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー()()()()()()()()()…君はそれを嫌うかね?では君は、既知を求めると?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それだけは譲れない……!折るわけにはいかない…!」

 

死ぬわけにいかない。…いや、死ぬはずがない。

こんなところで、こんな意味のわからない終わり方なんて………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー凡ての事象を知っている。知っているからこそ、幸福は消えて喜びは喪われる。知っているからこそ、恐怖は消えて不安は喪われる。君はそれを至上と謳う。変化のない普遍を無限に繰り返す。未知を渇望する私とは対をなすわけだ。

………ならば……そうならば、受け取るといいツァラトゥストラ。それは君の欲しいものを手に入れるための贈り物だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなところで、終われない…んだよ……!」

 

認められるわけがないだろ………!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー私が君に贈るのは、人類最悪にて最美の魂。例え名高き英雄の魂としても、それを雑魂と見做すほどの代物だ。

 

罰当たりな娘(L'enfant de la punition )

 

君と彼女にこの言葉を贈ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大人しく…引き下がってろ!この…部外者が!」

 

ーーーおなじ

 

頭に過ぎる。それは見覚えのある上で、何かも分からないそんな不安定な存在。

 

ーーーあなたもおなじ

 

だけどきっとそういうことだろう。

ここで()が現れるってことは、きっとそういうことなんだろう。

 

ーーー彼とおなじ

 

薄々気づいてたけど、今確信に変わる。

ならば俺は、君を………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー時よ止まれ(Verweile doch )おまえは美しい(Du bist so schon )

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーその瞬間、

 

ーーー俺の右腕に

 

ーーー鋼鉄の何かが降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

感じたのは違和感。右腕が妙に重い。

だがそれを嫌だとは思わない。

どちらかで言えば、神聖な類いではないのは分かる。常人が触れてはいけない、そういう危険な類いだ。

 

だがそれを嫌だとは思わないのだ。

理由は分からない。だがこの確信を行動に移す。

 

俺は右腕を振るった。

 

「ーーーーーっ!?」

 

そして同時に、俺の喉を掴んで離さなかった槍兵の片腕の、肘から先が飛んだ。

 

「なっ…!!?」

 

驚きを隠せないランサー。マシュも今のこの光景に現実を見出していないよう。

だが不思議と自分は落ち着いている。何故だ?知るかそんなこと。今は些細な話。

 

「……!!」

 

もう一度右腕を振ってその身体を真っ二つにしようと試みる。

不可視の斬撃が翔ぶ。その肢体から飛び散る朱を欲するかのように。

 

ただ冷静に、ただ繰り返し、ただ刃を走らせる。そうしてるのではなくそうせざるを得ない。そうすることだけが精一杯なのだ。

暴馬を乗りこなす、ではないが、気を緩めたら何よりもまずこちらが先に吹っ飛ばされそうな力を擁している。腕を振るったら、そのまま俺の腕ごと飛んでいくのではないか、と思うほどに。

 

「っ!いったい何が!?」

 

そう零す槍兵は、何かしら攻撃が俺から発生していることは、さすがに理解出来ているようで、自分の身体の前に薙刀を構え防ごうとしている。

 

「……あんたには世話になった」

 

だがそれを超えていく。構えた得物を切り裂いて先へ。

影に堕ちた英霊ならば、俺でだってどうにかなる。

 

「…くっ!」

「…だから、終わらせる。ここで…退場だ」

 

そして、その首を斬り落とした。

 




FGO等何かあったら、活動報告にでも書いていこうと思うので、よろしくどうぞ
まぁ、自分のTwitterを見て貰った方が早いとは思いますが。創作宣伝垢じゃなくて、趣味垢のほう
その趣味垢で最近LINE風SSなるものも書き始めたんで、よかったらよろしくどうぞ
それではいつになるか分からない次話まで、気長にお待ちください

感想、誤字報告等よろしくお願いします


*追記

前回の番外編の解答を載せるのを忘れてたので、追記します

キャスター➡︎ハンス・ブルクマイアー
ランサー➡︎関羽
アサシン➡︎アルセーヌ・ルパン
アーチャー➡︎カスパールもしくはマックス(正直どちらでもいいかなって)
ライダー➡︎デュラハン
セイバー➡︎日本武尊
バーサーカー➡︎リリン

各人物詳細は各々調べてみてください

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