Fate/Grand Order 〜Also sprach Zarathustra〜   作:ソナ刹那@大学生

3 / 8
弓トリアと槍きよひーを手に入れられてホッとしている作者です。
開拓と勉強の間で葛藤中です。
イシュカ集めようとしたら、あのクエストでスカサハ師匠が使い辛い!だから弓トリアを育てたわけですが、おかげでイベントの種火を全部使い切ったし。しかも最終再臨は出来ないし。勲章ぇ…。
まぁそんなわけであとはのんびり周回していきますかね〜
………勉強どこ行った?



第2節 霊脈地へ

「しかしまぁ、本当一面焼け野原だな」

「はい、悲惨です。…資料中の冬木市は平均的な地方都市で、2004年にこんな大災害があったという記録はなかったはずなんですが。それにこの空間の魔力濃度も異常です。先輩大丈夫ですか?身体に異常を感じたりしてませんか?」

「んーいや、特になにもないよ今のところ。確かになんか、空気が重いというか、若干気怠さがあるけど、寝不足の時の朝くらいなもんだ。大丈夫」

「そうですか…なにか異常を感じたらすぐに教えてくださいね」

 

健気だ。世の男の理想の後輩像を上げるとしたら、こんな子かもしれない。

だからこそ、余計に強く思う。

俺は変化を求めない。俗に言う退屈な毎日ってのを俺は愛している。

ドラマみたいに巨大な陰謀に巻き込まれたりとか、拗れた人間関係だとか、宇宙人などの未知との遭遇だとか。そういう非日常はいらない。

ただただ当たり前の毎日。なにも変哲のない、なに一つ変わり映えのないつまらない日常を何度も何度も味わいたい。常にそれを切望している。

だからこそ、この出会って間もないのに関わらず、俺のことを先輩と呼んで慕うこの子を………

 

「…?先輩?こちらをじっと見てどうかしましたか?」

「…あ、いや……改めて見ると、中々特徴的というか、異質というか、その…目のやり場に困るというか…」

「…!こ、これはその…デミ・サーヴァントになった際の副作用と言いますか、仕方ないことですので………もう!先輩!先輩のせいで急に恥ずかしくなってきたじゃないですか!」

「え?俺のせいなの?」

 

そりゃあこんな状況で言う必要はなかったと思うけど、どちらかって言ったら、君が契約したサーヴァントの方に申し立ててほしい。あと、大きいな。

 

「むー…先輩、もうすぐ霊脈地点です」

「そんな明らさまに不貞腐れても……」

 

拗ねたマシュの機嫌取りをどうしようか迷った時だった。

 

「キャーーー!!!」

「!?この声は!」

「行こう!」

 

何処か聞き覚えのある女性の悲鳴が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Gaaaaaaa!!」

「な、なんなのよあんたたち!どうしてわたしがこんな目に合わないといけないのよ!ねぇレフ!何処にいるのよレフ!いつもわたしを助けてくれたじゃない!」

「Gaaaaaaa!!」

「あ、あ、あぁぁぁぁぁ!!」

 

カキン

 

「………え?」

「大丈夫ですか所長?あとレフさんじゃなくてすみませんね」

「あ、貴方は…あの時の…!?」

 

大地に座り込んで俺を見上げるその目は、不安と恐怖に何故?という疑問で脚色されていた。

 

「オルガマリー所長!」

「マシュ!?貴方のその姿は!?」

「所長、説明は後です!まずは目の前の敵を排除します!先輩!」

「了解。一体だけ任せろ」

 

なんてかっこ悪い台詞。仕方ない、適切な役割分担というものだ。

 

「これくらいの敵は簡単に倒せるようにならないとなぁ…」

 

本来のマスターというのが、どういった姿勢で戦場に立つべきなのか、その答えを俺は持ち合わせていない。けれど、いくら使い魔を使役するような立場であれど、全く戦わないのは実に情け無い話だ。

魔術師の中には、当然サーヴァントには及ばなくても多少は戦闘が出来る者もいたはずだ。だったら俺は、サーヴァントの後ろで偉そうに指示するだけの中身すっからかんになるより、少しでも自分の身は自分で守れるように強くなりたい。なにからなにまで他人任せだとか、そんなの俺が生きる必要性を損なう一因にしかならない。

 

「はぁぁぁぁぁっ!」

 

だから本当は触りたくもない剣を握る。幸いただの骸骨、言ってしまえばただの腐りきった死体が動いてるだけだ。多少は加工してるのかもしれないが、そのスペックは然程人間と変わらない。ならば俺にも、それらしいことをする機会がある。あとはそれをこなす実力をつける。

 

「……ふぅ」

「お疲れ様です先輩!」

「おう、そっちもお疲れ」

 

これくらいの敵、サシの勝負なら問題ないようだ。毎回ギリギリだが。

 

「あ、あ、貴方!」

「…なんですか所長?いきなり声を荒げられるとビックリするんですけど?」

「貴方!魔術に関してはど素人だったんじゃないの!?」

 

ど素人って…そのど素人をカルデアに呼んだのはそちら側なんですけどね…。

 

「だいたいなんで貴方みたいな出来損ないが、優秀な魔術師でない貴方が!サーヴァントを使役しているの!?マシュになにか強引なことしたんでしょ!」

「……してないっすよ、そんなこと」

「だったらマシュが貴方なんかに従うわけないじゃない!」

「所長!わたしから契約を持ちかけたんです!」

「マシュから…?なんで?」

「はぁ…ひとまず所長、落ち着きません?感情論で話し始めたらまとまるものもまとまりませんって」

 

そしてなんとか聞く耳を持ったオルガマリー所長にこれまでの経緯を説明した。

鈍い顔をして深くことを考え、言葉を紡いだ。

 

「…わたしとこの魔術師が生き残ったわけは何と無く分かったわ」

「本当ですか?」

「…消去法、というよりは共通項かしらね。わたしたち2人はコフィンに入ってなかった。コフィンは、レイシフトの成功率が95%を切ると自動で停止するようになってるの。つまり彼らはレイシフトすらされなかった」

 

なるほど。生身のレイシフトの成功率が著しく低いのは言うまでもない。けど、機械のブレーキにより強制的に0%になったものよりかは可能性がある。小数点以下であろうと、「ある」と「ない」とでは大きな違いがある。

 

「落ち着くとまともですね」

「なに!?わたしがいつも騒がしくて役立たずって言いたいわけ!?」

「…誰もそこまで言ってないでしょうに」

 

自分から勝手に墓穴を掘ってるよう。

どうも、所長は被害妄想が激しい傾向がある。この人自身は気丈に振る舞っているが、やはりどこか落ち着きがない。

きっとそれは彼女の環境がそうしたこと。所長と言えど、その実は俺と然程年の変わらない少女なのだ。

ただでさえこのカルデアというのは特殊だ。そのトップとして若いながらも立たなければならない。その重圧は測りしれないだろう。人類を救う壮大な計画を率いる者、その役はまだ彼女には早すぎた。

 

「…分かりました。マシュと藤井蓮との契約を一時的に許可します。そしてこれから先はわたしの指示に従ってもらいます。まずはベースキャンプの作成ね。こういうのは霊脈を探して…」

「ドクターから聞きました。それで、霊脈ってここらしいですよ、所長が立ってるところ」

「な!?…分かってたわよえぇとっくに分かってたわよ!分かってたけど文句ある!?」

「なんで怒られるんですか…」

 

非常にピリピリしている。突然の出来事で張り詰めるのは仕方ないが、やつあたりされても困るというもの。

マシュの盾を使い召喚サークルを設置した。すると辺りが、電子的な風景へといっぺんする。

 

「これは…カルデアにあった召喚実験場と同じ…」

「シーキューシーキュー!もしもし聞こえる!?こちらDr.ロマン、返事してくれるかな!」

「はい、こちらマシュ・キリエライト。通信は良好です。無事成功したと思われます」

「そっか、ならばよし!2人ともお疲れ様。これで補給物資だって---」

「はあああぁぁぁ!?なんでロマニ、あんたが仕切ってるのよ!?」

「えええぇぇぇ!?所長!?なんで生きてるんですか!?しかも無傷!?なに化け物!?」

「誰が化け物よ誰が!この三流魔術師が出来たんだから、わたしが出来たって問題ないでしょ!なに?問題あるの!?」

「問題って…だって所長、マスター適正ゼロじゃないですか…」

「っ…知らないわよそんなこと!」

「うわっ、思考放棄したよこの人」

 

カルデアに繋がったと思ったら、親愛なるレフ教授じゃなくてゆるふわ系医療スタッフが出てきたんだ。頭の中がパニックに陥ってる今の所長が、混乱の極限まで追い込まれるのは仕方ないことだろう。

 

「なんで貴方がそこにいるの!?」

「…それは仕方ないからですよ、オルガマリー所長。ボクだってこんなこと、らしくないとは思ってますよ当然。けど、カルデアの職員で生き残ったのは僅か20名程度。そしてその中でボクが一番、役職としては上なんです。ならば一時的とはいえ、こうやってボクが指揮するほかないでしょ?」

「レフは!?レフはいないの!?」

「…彼は管制室でレイシフトの指揮を執っていた。あの爆発の中心にいた以上、生存は絶望的だ」

 

そもそもオルガマリーがここにいること自体不思議な話なのだが。彼女がここにいるという事実がある以上、レフ教授が死んだとは言い切れない。希望的観測に過ぎないけど。

 

「そんな………待って、生き残ったのが20名ってどういうことよ?マスター適正者は?コフィンはどうなったの?」

「……47名全員が危篤状態。医療スタッフも設備も足りず、助けることは出来ても全員を救えるかどうか---」

「早く凍結保存に移行しなさい!まずは死なせないことが大優先よ!」

「あ、そうか!分かりました、すぐに変更してきます!」

「………驚きです」

 

隣のマシュが唖然とした表情を浮かべている。

 

「本人の許諾なく凍結保存するのは犯罪です。所長は自分の責任より人命を優先したんですね」

「…違うわよ」

「え?」

 

マシュの優しい讃える言葉に、吐き棄てるように苦々しい顔で言葉を返した。

 

「ただわたしは、47人全員の命の責任を負うより、カルデア所長としての責任についてどやかく言われた方がマシだと思っただけ。わたしが背負いきれるわけないでしょこんなの!…レフさえいれば」

 

強い依存。それも仕方ないことだろう。

ただの少女が、父親が前任の所長だったという理由で、突然後任にさせられた。不安どころか、まるでわからなかっただろう。そんな時に支えてくれたレフ教授という存在が、彼女の中で如何なる時も必要とするものになるのは当然のことと言える。

そして、自分にとって何よりも大きな存在が、消失したという事実。きっと彼女は既にボロボロだろう。

 

「…ロマニ・アーキマン。不本意ですが、貴方にカルデアを任せます。こちらはこの両名を連れて、この特異点Fの探索を続けます」

「え?大丈夫ですか所長?所長って結構小心者ですよね?」

「…帰ったら覚えておきなさい、ロマニ。給料カットしてあげるから」

「ヒッ!」

「…幸い、それほど強大な敵はいないみたいだし、マシュとそこそこ戦える魔術師がいるから、探索だけなら問題ないでしょう」

「…分かりました。くれぐれもお気をつけて。一応、随時連絡は取れるので、なにかあったら教えてください」

「えぇ。何よりも貴方はカルデアの復興を迅速に進めなさい。そうすれば給料カットの件も検討してあげる」

「イエス、マム!直ちに!」

 

欲望に素直なのはいいことだけど、どっちかって言うと惨めさしか感じない。なんというか、参考にするべきじゃない男像というか、尻に轢かれるタイプの男代表というか、要はどうしようもないなぁ、と。

まぁお金は大切だしな。…今の状況で金の価値があるのか微妙だけどさ。

 

「…所長、安全面で言えば、ここで待機するというのも一つの策かと思いますが」

「それは出来ないわよ。今のこの状況、協会側が知ったらなんて言うと思う?ただでさえここまでの準備するのにこんなに時間がかかったのに、1カ月でどうこうならないわよ。そしたら陰湿にああだこうだ言われるに決まってる。そんなのごめんよ」

 

アニムスフィア家は魔術師の名門だと聞いた。加え父親は死に、まだまだ青い少女がその名を背負う。そんな時に作戦の失敗なんて結果は、名門という看板を取り外さなければならない理由として十分だ。

正直、彼女のお家柄とか、社会に置ける立場からの圧力とか、俺には分からない。ぶっちゃけどうでもいい。ただその面倒ごとに巻き込んでくれなければ。

別に自分のために何かをしようとするのは構わない。誰だって本来はエゴイスティックだ。俺だってそう。

自分が渇望するものなんて人それぞれだし、理解して貰えると決まった話じゃない。そもそもそう簡単に理解されてたまるか。分かるよ分かるよなんて、そんな風にフリをされる方がよっぽど腹が立つ。ふざけんな。

所長の地位に座すこの子にとって、今回のプロジェクトの成功こそが悲願であり、いや、それだけじゃない。だからこその恐怖。命の責任、家名の責任、世界の責任、その小さな背中には不釣りあいだ。

だからと言って安っぽい同情はしない。どれだけの不可抗力があったか知らないが、結局は彼女が選んだ道だ。ならば否が応でも進む他ないだろう。どれだけ嫌でも逃げることは許されない。

彼女は俺たちのことを道具だとはっきり告げた。世界を救うために何よりも統一が必要だと。言葉は悪いが、理にかなっている。全体主義と言うと聞こえが良くないかもしれないが、プライドの固まりみたいな連中には、それくらいのこと言った方が良かったと思う。それくらいの傲慢さがあった方が指導者としてはいいだろう。見せかけだけど。

結局のところ、彼女は不安ばかりを抱えてきた。

ならばせめて道具らしく、理不尽な命令に従うつもりはないが、好きに扱ってくれればいいだろう。利害と目的は一致してるんだ。そうそう対立することはないだろうし。まぁ多分、苛つくことはあると思うけどさ。

 

「それじゃあ早速調査に---」

「あーあー!ちょっと待って所長!」

「…何かしらロマニ?貴方のその宙ぶらりんな声を聞く余裕なんてないのだけれど?」

「宙ぶらりんって…なかなか斬新な表現ですね…。…って…そうじゃなくて!ちょっとこれを」

 

ドクターの言葉を継ぐようにベースキャンプに送られてきたのは、虹色の角張った固体が3つ。石だろうか?なんか昔、テレビで見たことのあるような形だ。

 

「これは聖晶石と言ってね、これを触媒とすることで英霊を召喚することが出来るというまさにカルデアの技術の賜物の1つさ!」

「貴方が誇らしげに語ることではないでしょ?一介の医療スタッフに過ぎないDr.ロマニ?」

「仰る通りですハイ」

「それで?これを送ってきたということは…」

「はい。念には念を、石橋を叩いて渡るなんて言葉も、藤井くんのいた日本にはあるくらいだからね!」

「…先輩、どういった意味でしょうか?」

「石橋を叩いて渡るってのは、頑丈な石橋を渡るときに、頑丈だと分かっているけど念のために橋を叩いて渡るぐらい、用心に用心を重ねるってこと」

「なるほど…ありがとうございます先輩!」

 

別にこれくらいのこと…って…なんで国語の授業を開講しているんだ?というかドクター、そういうことをよく知っているな。一番似合わないのに。

 

「石橋を叩いて渡るという諺がボクに似合わないとか思ってるかもしれないが、ボクは結構慎重派だからね?」

「…さも当然のように心の声を読むの止めてくれませんかね?」

「加えて、慎重派という言葉で美化していますが、正確にはDr.ロマンはただの小心者です」

「そう、ただのビビリ」

「………みんなのボクに対する評価の改訂を申請したい」

 

哀れな人。

 

「藤井蓮、その聖晶石を召喚サークルに投げ込みなさい。3つで1組、誰かしら英霊を召喚出来るはずよ」

「分かりました」

 

俺は言われた通り、石3つ纏めてサークル内に投げた。

サークルが光り、その上に3本の線が回転する。1つに収束し、そして弾ける。その中には人影が見える。

 

「成功…したのか…?」

 

俺の目に映ったのは1人の女性。黒い軍服を身に纏い、繊細に輝く金の髪は1つに結ばれている。

俯いた顔を上げて、その碧眼は真っ直ぐに俺を見つめる。

 

「召喚にお応えしまして、セイバーのクラスとしてやってまいりました。えぇっと、そうですねぇ…」

 

顎に手を添えて何か考えたあと、手の平に拳を叩くという何とも古典的な動きをしたのち、言葉を継いだ。

 

「私のことは、ヴァルキュリアとお呼びください」

 

 




最後の英霊召喚。Dies irae要素を練炭だけってのもなぁと思ったが故です。
分かる人には分かる。分からなくても気にするな問題ない。もしくは各自で調べてください。
呼ばれて飛び出て電気バチバチみんなの戦乙女なあの人です。

感想等よろしくお願いしますm(_ _)m

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。