Fate/Grand Order 〜Also sprach Zarathustra〜   作:ソナ刹那@大学生

2 / 8
10000文字書ける人とかなんなんだろうね。
書く気はもともとないけど。
そもそもプロローグが8000文字オーバーってのが、自分にとってかなり暴挙なんですよ。
もうあんなに書かない多分。
というか今回に至っては、本編より前置き部分の方が密度濃いってなんだよ



特異点F:炎上汚染都市 冬木
第1節 燃える街


君は既知感というものを感じたことはあるだろうか?

読んで字の如く、既に知っているように感じる感覚のこと。

色々諸説はあるが、どれもが未確定のままで裏付けのある説はないという。

一般的にデジャヴとは、「一度何処かで見たことがある」と確信するものではない。「一度何処かで見たことがあるような気がするけど、何処だったか思い出せない」という不確定要素の方が強い。

既視感という言葉に変わることもある。意味は同じく「一度何処かで見たことがあるような感覚」。この状況、この境遇、この景色。一度体感したとふんわり脳が告げる。

中には夢で見た光景が、現実の中で体感することもある。俗に言う正夢だ。これもある種既視感の一つと言えるだろう。

既知感、既視感、正夢…。

どれにしろ、現段階で科学的に絶対を証明することは出来ない。第一、既知感というのは、意識的に起こせるものじゃない。並の日常の中で、偶然に想起されるもの。それを意図して起こすのは、現技術では不可能だと言われている。

 

ならば、考え方を変えてみよう。

「発展を重ねた科学は魔法と同じである」。こんな言葉がある。確かに。言われてみればその通りだ。

遥か昔、遠く離れた知人とほぼタイムラグなしで言葉を交わせると誰が想像出来ただろう?

遥か昔、遠く離れた大地に数日と言わず数時間で辿りつけると誰が想像出来ただろう?

遥か昔、遠く離れた光景を視聴でき、自在に空間の熱を変化させ、馬よりも速く移動が可能になると誰が想像出来ただろう?

要はそういうことだ。科学とは、今持てる術を使い不可能だったことを可能にするものだ。

先に言った科学と魔法の違い。それは現時点で可能である確率があるかないかだ。

例を挙げれば瞬間移動がある。現在、距離を距離としない移動が出来るのは精々データぐらいだ。物質そのものを移動することは出来ない。故に今瞬間移動は、魔法に代表される神秘の一つである。

では仮に、幾らかの時が経ち瞬間移動が可能になった未来が訪れたとしたら?それは神秘と言えるだろうか?否、科学的に技術を用いて可能になった瞬間移動は神秘ではなく科学だ。

どういった機器を用い、どういった手段を使い、どういった代償が生じるかはわからない。だが、携帯を用い、電波による送受信を使い、代わりに費用が生じる現代の通信手段のように、瞬間移動が日常的に大衆に使われるようになれば、それは科学的発展の一例として刻まれるだろう。

 

では、現在科学で証明されない既知感は()()()()()神秘と言えるのではないか?簡単に言えば、神様の仕業だとか、世界の抑止力だとか、そういう突拍子ない世界観の話。

あくまで仮定の話ではある。だが、もし世界が既知感を与えてると言うのであれば、それは避けられぬ事象だ。

一概に否定は出来ない。魔術の存在そのものが神秘だからだ。

 

この世界において、魔術師は日の射さない陰の世界の住民だ。だからその存在はお伽話の中の一つに過ぎず、多くの人々はその存在を容認しない。それも科学が優秀だからだろう。

事実、魔術という神秘が存在する以上、既知感を始めとした現代の英知で明らかにならない事柄は、神秘による恩恵もしくは弊害かもしれない。

 

長話を経た上で、再度問おう。

君は既知感というものを感じたことはあるだろうか?

そしてそれは偶然に起こったのだろうか?

はたまた、自分たちには計り知れない何かによって起こされたものなのだろうか?

 

そして既知は、君にとって祝福だろうか?それとも、苦痛だろうか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歌声が聞こえる。

それは透き通った甘美な音色で耳へと流れ込み、俺の身体中をゆっくりと流れ、吐き出した息でさえも満ち足りた気を纏い、瞬間に完全な魅了に堕とすほどだった。

理解出来ない言葉の旋律。どうやら日本語ではなさそうだ。聞いた感じ英語でもない。聞き馴染みのないフレーズばかりが響いている。イタリアかフランスあたりだろうか?そういう雰囲気を感じる。

いったい何の歌なんだろう?詩の意味を理解出来ないから、ただ推測することしか出来ない。

だがきっとそれは、この世において賛美されるのが当然であるほどの素晴らしき歌だろう。それは確信に近い何か。その紡ぐ言葉が、何を伝えようとしているのか、何を成そうとしているのか、何一つたりとも分かりはしないが、そう確信させるほどに俺は純粋に聞き惚れていた。

そして、耳から入り込む祝詞と信じて疑わない歌う声に没頭していた意識が、視界が開けるのに伴って覚醒した。

 

「ここ…は…?」

 

視覚を取り戻し辺りを見回すと、この目に映ったのは果てが見えぬ海辺だった。

時は夕暮れ時、夕日が海の向こうに沈みかけていて、空は茜に染まって輝いている。眩く、鮮明に、全てを包み込む偉大なまでの尊さ。その景色は何にも変え難い安らぎを俺に与える。

何故だろうか?この空間が持つ気配と与える印象というのは、どう考えても日本ではない。和よりは洋。おそらく日本国内では感じることのないような感傷に浸ってしまう。

そして何より俺を心地よくさせるのは、この空間の()()感だろう。全ての時が止まっている。夕日は境界線上に留まり、海に起こる波はその場で泡立て続け、空を漂う雲はこれ以上流れてはいかない。

そう、ここは悠久の時。果てなくこの一瞬が永遠と続く、無限の黄昏時。

 

そして俺は歌が聞こえる方に目を向ける。

 

「ぁ………」

 

息を飲む、きっとこの言葉は今の俺を指すのだろう。

ただ、圧倒された。それは威圧感や恐怖ではない。有り体に言うのならば、神秘的だ。

金色の世界に溶け込むように、それでいてより美しいブロンドの髪。肌は透き通るように白く、触れただけでいとも容易く崩れてしまうような繊細な質感を持っている。碧眼の眼は濁りを知らず、ただただその純粋な眼で俺を見つめていた。身につけた衣類は、使い古されたようなボロボロの布一枚。しかし、そのみすぼらしい姿がより彼女の秀麗さを際立たせている。

純真無垢。汚れを知らず、悲しみを知らず、世界を知らず、まるで生まれた瞬間にこの世界に揺蕩う一種の固定概念のように、質量を伴って実在しているのかどうかすら疑わしくなるそんな危うさ。

そういう意味では恐怖すら覚える。あまりに現実離れしたその存在感、それは容易く籠絡してしまうほど甘く、胸が締め付けられるように儚げ。

 

L'enfant de la punition

 

これがどういう意味か、俺には分からない。けれど何故かその文字の羅列が浮かび上がる。

彼女が口にする調べ、それは不可思議で俺はただただ戸惑いまし感じていた。それすらも陶酔してしまう魅力を持ちながら。

だが………

 

「………待てよ」

 

嫌な予感がする。それは一時的なことか、永続的なこの先の未来の話か。ただ何れにせよ、()()()()がするのだ。

そんな違和感に身体が埋め尽くされていく中、その正体にやっと気付いた。

昔から黄昏時というのは、ただの昼と夜の入れ替わりの時間ではなかった。光から闇に変わる時、それは現実と非現実が交錯する時。それは時に、逢魔時と呼ばれる。

 

「血、血、血、血が欲しい。

 

ギロチンに注ごう、飲み物を。

 

ギロチンの渇きを癒すため。

 

欲しいのは血、血、血」

 

理解を可能にし、意味を持って歌がこの耳に繰り返し届く。

彼女に変わった様子はない。つまりそれは、先程からずっと聴き惚れていた魅力的な旋律は、今聞こえているものと同じであるという証明。

そこに悪はない。そこに邪はない。そこに濁はない。呪いを綴るその歌を、彼女はまるで親が子供に聴かせる子守唄であるかのように、穏やかに無感動にただ淡々と当たり前のように美しく歌う。それが故に恐怖を浴びせる。

 

「欲しいのは血、血、血」

 

俺を見つめる。その緑の目は変わらず澄み切っていて、その無垢さに身体が震えるのが分かる。

風に靡く金色の髪に透けて見えたのは、首元に痛々しく刻まれた斬首の跡。

 

「血、血、血、血が欲しい」

 

あぁ、そうか。

彼女とどういった形で関わりがあるのか知らないが、彼女がどういった理由であのようなことになっているのかはなんとなく分かった。

ありとあらゆるものに神や精霊が宿っているという話は、古今東西様々な地域にありふれているだろう。海や山、作物や動物、中には銃や剣といった武器にもいるのかもしれない。

ならば、処刑器具であるギロチンに存在していたって、別段不思議なことじゃないだろう。

 

L'enfant de la punition(罰当たりな娘)

 

「血が欲しい」

「---っ!?」

 

途端目の前が暗転し、俺の視界は変わっていた。

周りでは、先程まではいなかったはずの群衆の声が聞こえる。

自分はというと、首と手首が木板で固定され、目線を上にやれば鈍く光る重々しい刃があった。

群衆は狂気に溢れ、愉悦を満たし、高揚して大合唱する。

 

Je veux le sang, sang, sang, et sang.(血、血、血、血が欲しい)

 

Donnons le sang de guillotine.(ギロチンに注ごう、飲み物を)

 

Pour guerir la secheresse de la guillotine.(ギロチンの渇きを癒すため)

 

Je veux le sang, sang, sang, et sang.(欲しいのは血、血、血)

 

そして、歓声に包まれたまま俺の首は石ころのように、肢体から転げ落ちた。

一瞬の断罪に痛みを感じる暇もなく、繋がれたままの身体を求めるために手を伸ばそうとしても、その伸ばす手がない。

ただ頭のみになった俺が唯一出来たこと。それは、

 

「血、血、血、血が欲しい」

 

彼女の口から鈴のように鳴る、美しくも忌まわしい、呪いの歌を聞くことだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「---い、先輩!起きてください先輩!」

「キュ、キュー!」

「…起きませんね。………先輩、起きないと殺しますよ?」

 

バサッ

 

「あ、先輩、おはようございます」

「おはようマシュ、物騒なモーニングコールをどうもありがとう」

 

その起こし方は今の俺にとって、特に心臓に悪い。

 

「大丈夫でしたか先輩?」

「何が?」

「いえ、うなされているようでしたので…」

「…あぁ、大丈夫だよ。ちょっとした悪夢を見ただけだから」

 

ギロチンの刑に会うというちょっとした悪夢をね。

 

「それよりマシュ、その格好は……」

「先輩、その説明は後でゆっくりティータイムでも取りつつ話すことにしましょう。…周りを見てください」

「…こいつらは」

 

そこにいたのは異形のもの。人間とは到底言えない化け物。だいたい見た目骸骨だし。

 

「分かりやすく言えば敵です」

「この人たちを交えてティータイム…ってのは無理そうだな」

 

第一、話が通じなさそうだ。というかそもそもティーセット持ってきてないし。

 

「先輩、2人でこの状況を打破します!」

「打破って…」

 

俺たちになにか戦力があるのか?

けどマシュの今の姿と、彼女から伝わってくる只者じゃない存在感。なんでだろう?妙に安心感を感じる。

彼女のことだ。ちゃんと理由があっての発言だろう。だったら、出来損ない魔術師に出来ることは一つだけだ。

落ちていた鉄パイプを拾って強化の魔術を施す。

 

「先輩…」

「寄せ集めの急遽魔術師だけど、戦闘は一応形ぐらいにはなってるぜ?期待はしないで欲しいけど」

「大丈夫です先輩!先輩を守るためのわたし、マシュ・キリエライトですから!」

「頼もしすぎて笑えてくるな」

 

鉄パイプを持っている様はまるでチンピラのようで、そんなチンピラは骸骨に向かって駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………まさか、こんなところであいつに感謝するとはな」

 

俺の知人に剣道をやっている奴がいる。しかも多くの大会で名を連ねるような実力者だ。

いつもそいつの訓練に付き合っていた。時には相手をさせられたりもした。馬鹿を言うな。剣道馬鹿のあいつにどうやって勝てるってんだ。自慢じゃないが、万年帰宅部だった俺に、がっつり剣に青春捧げてるやつに勝とうと言うのが端から間違ってんだよ。

けどまぁ、無理矢理付き合わされた甲斐もあったというべきか。

 

「Gaaaaaaa!!」

「ったく五月蝿い…な!」

 

ずっと見て、時には直に体験して、曲がりなりにも身につけた仮初めの剣。心の正しきあり方を鍛える「剣道」を、自分の敵を斬り伏せるための「剣術」へと昇華させる。

敵が落とした剣を拾い構えてみる。

正直、こういう光り物は苦手だ。家にだって包丁すらも置いてなかった。理由を聞かれても困るが、なんかこう嫌な悪寒がする。別に身体が震えるとか、吐き気がするとかじゃない。近づきたくない、というより近づけない。

それでも自分の身を守ることが第一優先だ。好き嫌い言ってる場合じゃない。一応どちらかと言えば大人よりの年齢だし。

 

「あんたが何処の誰か知らないけど、俺らの邪魔をしないでくれ。チャンバラするなら、死者は大人しくあの世でやってろよ…!」

 

この戦場で摺り足は愚行。自分の身に魔術をかけて、筋力及び瞬発力を上げる。

正中線を削ぎ落とすように縦に剣を振る。そして胴体。次に小手。最後に首を狙う。

剣尖が骨に突き刺さり、骸骨の死霊は光の粒子となって消えていく。

 

「先輩!怪我はしていませんか?」

「おぉマシュ。俺は別に大丈夫だけど…何よりマシュ、君のその格好の方が気になるんだけど」

「あ、それはですね、わたしが---」

「あ!やっと繋がった!」

 

通信が入り、ドクターの声が聞こえる。気が抜けるな。

 

「こちらマシュ・キリエライト、特異点Fにシフト完了しました。藤井蓮先輩が同伴して活動中です。健康状態に問題はありません」

「そっか、やっぱり藤井くんもそっちへ飛んでいたか…。コフィンを使わないでレイシフトに成功したのは、本当に運がいい。宝くじで一等が当たったぐらい運がいい………多分」

「おい」

 

適当なところが多いな、相変わらず。(駄目な方向に)ゆるふわ系男子なだけある。

 

「それにしても…なんだいマシュその格好は!?ボクはそんな子に育てた覚えはないぞ!」

「安心してくださいドクター。わたしもドクターに育てられた覚えはありません」

「グサァ……これが親離れしていく娘を持つ父親の気持ちか…」

 

なに感傷に浸ってるんだよ。というか辛辣だな、マシュ?

 

「それよりもわたしの身体を調べてみてください。すぐにこの格好の意味が分かると思います」

「キミの身体状況か?………お?おおおお、おおおおお!?」

「ドクター五月蝿いって」

 

凄い興奮。いかにも衝撃を受けていますというようなリアクションをする。

 

「ご、ごめん!けどこれって…」

「はい、どうやらわたしはサーヴァントになったようです」

 

………え?サーヴァントになった?

というかなれるの?

 

「正確に言うとデミ・サーヴァントです。カルデアはレイシフト前一体の英霊との契約をしていました。しかしあの爆発により、そのサーヴァントのマスターは死亡。そこでそのサーヴァントは同じく瀕死だったわたしに交渉を持ちかけました。自分の力を譲る代わりに、この特異点の原因を排除してほしい、と」

 

つまりデミ・サーヴァントというのは、人間とサーヴァントが融合したもの。人間を強引にサーヴァントにするもの。そんなことが可能だったなんて…。

 

「どうりで身体能力、魔力回路が著しく向上しているのか。…マシュ、その英霊の意識は?」

「…ありません。わたしに能力を託したのち、すぐに消えてしまいました」

「それって、そのサーヴァントの真名も、その盾みたいな奴のちゃんとした使い方も分からないってことか?」

「はい、その通りです。…すみません先輩。先輩のこと守ると言っておきながら、肝心のわたし自身が分からないことだらけで…」

「別にいいってそんなこと。もとより、女は男に守られるもんだろ?だったら、多少不完全であっても今出来ることを、何一つ取り零さないようにやるしかないだろ?」

「…そうですね。はい、その通りです。わたしマシュ・キリエライトはマスターである先輩のために、サーヴァントとして全力で守らせていただきます!」

「だから別に…」

 

…まぁいいか。少し顔が明るくなって、心の中の不安が1つくらい取り除けたようだ。なんせ、キラキラした目でこっちを見てくる。とても健気な眼で。

 

「よし、なんとかなりそ…ん?通信が乱れて来てるな。2人とも、そこから2キロ先に霊脈がある。そこまで行けば通信も安定するだろう。道中、くれぐれも無茶はしないように!いいね!絶対にし---」

「………通信が切れました」

 

お母さんかあんたは。

 

「それじゃあ行きますか」

「はい。…先輩、意外と落ち着いてるんですね?」

「落ち着いてるっていうか…まだちゃんと把握仕切れてないだけ。…まぁそれでも、立ち止まったって出来ることもないし、だったら言われた通りやるしかないって、そういう切り替えが早いだけだって」

「いいえ、先輩。凄く頼もしいです」

「そりゃあマスターだからね。男なら頼られたいし、頼られるくらい良くなりたいもんなの」

 

女が出張ってて男がなにもしないなんて、例え仕方ない状況だとしても納得なんて出来やしない。適材適所って言葉があるけど、それよりも根本的な部分で男は女の前に立たないといけない。

だから俺はマシュのお世話になりっぱなしになるつもりはない。意地でも何でも食らいついてやる。

これ以上俺の日常(日だまり)が奪われないために…。

 




次回はいつになるやら…
所長が登場するんだっけ?
まぁいいや、なんでも

感想等お待ちしております

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。