Fate/Grand Order 〜Also sprach Zarathustra〜   作:ソナ刹那@大学生

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性懲りも無く続けるか未定のSSを書き始める。
反響次第です。
絶賛無人島周回中



プロローグ

夢を見た。

それは鮮明に浮かびあがり嫌なほどにこの身に直接焼きつけ、それでいて薄い霧がかかったように不透明で、相反する感覚が同時に襲ってくるようなそんな奇妙な夢を見た。

 

ひどく辛く苦しい夢だった。

勿論のこと、いくら魔術師の才能があったとしても、そういう創作物の中のものなどに触れることはなく、極々普通の人生を送ってきた自分に、全身血みどろになった経験などない。

勿論彼の苦痛など知らない。知りようがない。当事者のようで傍観者。彼が戦う姿を後ろで見ながら、まるで戦っているのは自分のようなおかしな距離感がある。

彼は傷つきボロボロになって、満身創痍の言葉を当てはめるにはこの上ない適例だと、見ているこっちが目を逸らしたくなるような光景。

彼もまた同じなのだ。本来、自分のように何も変哲のないただ普通な人生を送るはずだったのだ。

毎朝アラームを止めて起床して、学校に行きたくないとぼやきつつ仕度をし、友人と教室でちょっとした話題で少し盛り上がり、眠気を堪えながら授業を受けて、夕暮れの中帰路につく。

そういう目立った変化のない日常を送っていく。それが人間の大半の命の期間の内容。彼もそうであったはずだった。

しかし彼は前を見ていた。微かに光る希望など、絶望という名の闇に塗り潰され、今にも消えてしまいそうな貧弱な一条。縋るには小さすぎて、追い求めるには遠すぎて、手にするには困難すぎる。

それでいても彼はそれに手を伸ばし、それから目を逸らすようなことはしない。深い深淵の中、圧倒的な敗北色に彩られながらも、決してその足を止めなかった。

ひたすら耐え抜く戦い。楽観視出来る要素など微塵もなく、あまりにも勝利は遠かった。

 

あまりに辛く苦しい夢だった。

辛く苦しい中、ただ一つの夢を望み戦い続けるその姿。

そこにいたのは、悲しみに溺れ、憤りに染めた、ただの日常を求めた1人の男だった。

 

辛く苦しい、そんな奇妙な夢を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーフォウ!キュウ…キュウ!」

「……な、んだ?」

 

誰かが俺のことを呼ぶ声が聞こえた。…いや、誰かというより何か、か。それは人の声というより、動物的な何かの鳴き声。

俺を呼ぶと言ったが、正確には俺の近くで大声で鳴いている。時々俺を心配しているかのように舐めてくる。

いやまぁ、ありがたいけど…ちょっと舐めすぎだなうん。

 

「………あの、先輩?今は朝でも夜でもありません。加えて言うならここは廊下であって寝室ではありません。それとも日本にはそういう習慣があるんですか?」

「いやない。あってたまるか。………君は?」

 

縁側で日向ぼっこして寝てしまうというのは、日本人なら誰でも分かり得る経験だろう。

って、そんなことはどうでもいいんだ。今一番気にすべきなのは、目の前の見知らぬ少女に突然()()と呼ばれた現状だ。

 

「…それは難しい質問です、返答に困ります。わたしの存在意義の証明を求めてるのか、それともなぜこの世で生きているのか、でしょうか?」

「まさか「君は?」の中でそんなに深く意味を取られてるとは思わなかった」

「では、「わたしはただの流浪人。名乗るほどの名前など持ち合わせてございやせん」…とか?」

「いつの時代の寡黙な武士だよ」

「あ、いえ、すみません。名前はあるんです、ちゃんとした名前が。ただ、あまりこういった場面に遭遇する機会がないので、印象に残るような自己紹介というものが分からなくて…」

「少なくともその印象のつけ方は正解とは言えない」

 

そもそも印象づける自己紹介をする必要がないと思うが?それよりもまずこの状況の説明をして欲しいんだ。

 

「今の状況…ですか?わたしがフォウさん…あ、この可愛らしい小動物がフォウさんです」

「フォウ!」

「あ、どうも」

「フォウさんとこの廊下を歩いていると、廊下でグッスリと寝ていらっしゃる先輩がいました。先輩はこのカルデア唯一の日本人ですので、もしや日本には硬い床の廊下で寝る習慣があるのかと。縁側なるものがあると聞きましたし。しかし、万が一そうでなかった場合、起こさないわけにもいかないので、こうやって声をかけたわけです」

「君の一般的な感覚にありがとう」

 

さもなくば、俺は起きた後に全身を痛めることになっていた。今も多少痛いが。特に首。

 

「フォウ!キュー、フォフォオ!」

 

目の前の女の子の肩で何かを伝えたいのか、あいにく人語以外喋れない俺には、彼(彼女?)と意思疎通は出来ない。

何を言いたくて鳴いたかわからないまま、その毛並み良き生物は廊下の先を駆けていった。

 

「フォウさんはああやって、突発的に活動しています」

「…不思議な動物だ」

「えぇ。わたし以外滅多に懐かないのですが、どうやら先輩は気に入られたようですね。おめでとうございます、栄えあるフォウさんお世話係第2号です」

「…え?今さらっと押し付けられた?」

 

第2号って滅多に懐かないどころか君以外ゼロじゃないか。というか君は結局誰だ?

 

「やっと見つけたぞマシュ…おや?先客がいたのか」

 

まだ第一村人の詳細も分かってないのに、第ニ村人が現れた。シルクハット的な帽子を被っている目の細い男性。

 

「君は…あぁ、今日から参加する新人さんか。私はレフ・ライノール。このカルデアの技師をやってる。よろしく」

「…よろしくお願いします」

 

差し出された右手を自分の右手で握る。ただの握手。

…けど、なんか苦手だ。別に何か嫌な思い出があったわけではない。当然だ。今初めて会ったのだから。

人間がGを本能的に嫌うように、理屈とか確証とかそういうの抜きで、根本的なところから受け付けない。…Gほど激しく嫌悪してはないぞ当然?さすがにそれは失礼だし。

ともかく、なんか苦手だ。無意識に口角を上げるのがぎこちなくなるくらいに。

 

「一般応募のようだけど…訓練期間はどれくらいだい?」

「…いいえ、俺は偶然魔術の才能が少しあって、偶然見つかって、偶然数合わせ枠が空いてたからやってきただけなんで。訓練もなにも、最近魔術について知ったくらいですよ」

「そうか…申し訳ない。配慮が欠けていた」

「いえ、慣れてるっつうか、そういう風に扱われるだろうなとは思ってたんで大丈夫です」

 

そりゃ魔術師の名門とやらから48人中38人来ているんだ。

みんなこの作戦に大きな志しや希望や願いを持ってやって来ている。なんせ世界を救おうとしているんだ。並大抵の覚悟なんかではない。

そういう人たちからしてみれば、つい最近まで世界の終わりどころか明日の確実性すら疑ってなかった一般人だった奴なんかに、ありがたく親切に接してくれと頼む方が難しい。こっちもごめんだ。

ああいうタイプはだいたいプライドが高いって相場が決まっている。勝手な憶測だけど。よく言えば自分たちが只者じゃないということに誇りを持っている。それは同時に見下しているとも言えるが。

しかも自分はギリギリのギリギリで採用された身。さっき言った48人の内の残り9人はちゃんと魔術について勉強してきている。自分以上に。付け焼き刃なんかじゃない。

俺だって、今のままでいいとは思ってない。だから空き時間も魔術の勉強してたんだし。全くの素人が強化の魔術をどうにか形にしただけ褒めてほしいくらいなものだ。いくら才能があると言われたって、本片手にあとは独学でやるのは無謀としか言いようがない。

 

「そう卑屈にならないでくれ。今回のミッションでは、誰1人も欠かせないんだ」

 

必要な人数を集められたことは喜ばしいと。

そうは言っても、いまいち現実味がない。世界は滅びますなんて言葉を、逆にどうすれば自分の確かな知識の1つとすることが出来るというのか?俺の数少ない交流関係のある人たちに、どう言い訳すればいいのか本当に悩んだんだぞ。なんとか誤魔化したけど。

 

「それでマシュ、彼とは知り合いかい?君がこうやって誰かと喋るなんて珍しい」

「いえ、先輩がここで寝ていらっしゃったので声をかけたんです」

「寝て…あぁ、きっと量子ダイブの影響だね。慣れてないと頭に来て夢遊病のようになってしまう。その時にマシュに遭遇したんだろう」

 

量子ダイブ……って、ここ入るときのよく分からないまま進められたあれか。

なんかいきなり違う空間に飛ばされたかと思えば、なんか誰か出てきて、指示くれって言われるから適当に出して、いつの間にか戦闘が終わってたあれか。

言葉から察するに、VR(Virtual Reality)つまり仮想現実の発展系的なものだろう。視覚だけではなく、全身のあらゆる感覚を電脳世界へと移行し、さも異世界トリップしたような体感を味わえる。

そういうことがあるのなら前もって言ってくれ。もしかしてパンフレットに書いてあったのか?あんなに分厚い資料の束を優雅に読み込めるほど、俺は読書家じゃない。せめて漫画がいい。…ただの責任転嫁だけど。

 

「君を今すぐ医務室に連れて行くのが最善だと思うのだが…申し訳ない。すぐに所長の説明会がある。君にもそっちへ出席してもらわないといけない」

 

所長…説明会…。面倒だ…。

 

「…確かに君の今の状況から判断するに、憂鬱なのは容易に想像出来る。だが、その顔を所長の前でするんじゃないよ?君も新しい職場だ。上司とは上手くやって行きたいものだろ?」

「いつから俺はサラリーマンになったんですか…」

「サラリーマンよりは報酬はいいぞ?その分、その肩にかかる負担と使命は重いがね」

 

そりゃあね。文字通り人類の命運を賭けたものだ。辞めたいって辞めれる代物じゃない。辞めたいけど。というか帰りたい。

 

「さぁ、中央管制室へ急ごう。彼女は秀才で優秀だが、その分使命感が強い。特に怠惰なんかは、彼女の顔を歪めるには十分過ぎるからね。私とて彼女に怒られるのは御免だ」

「わたしも同意です。普段は優しい方ですが、少々めんd…厳しい方ですので」

 

今面倒くさいって言おうとしたよねマシュ?さりげなく毒吐きそうになってたよね?ポロリと本音漏れてたよね?

 

「では行く前に何か他に質問はあるかい?」

「質問………あ、この子マシュでしたっけ?」

「はい。わたし、マシュ・キリエライトです」

「あ、はい。どうも。…なんで、マシュは俺のこと先輩って呼ぶんです?カルデア歴で言うなら彼女の方が先輩だと思うんですけど」

 

歳も同じくらいのようだし。

 

「あぁ、マシュにとって君たちくらいの子はみんな先輩なんだよ。この子はずっとこのカルデアの中で過ごしていたからね。…けど、はっきりと明言するのは珍しいな。どうしてだい?」

「…先輩は普通だからです。全く警戒心を抱かせません」

 

それ、褒められてる?

 

「人間味があるというか…驚異になる気がしません」

「なるほど!それは重要だ!このカルデアにいるのはみんな癖者ばかりだからね!」

 

なにそれ帰りたい。

 

「私もマシュの意見に参加だよ。君とはいい関係が築けそうだ」

「…そうですか」

 

俺は無理だと思う。

 

「…レフ教授が気にいるということは、所長が一番嫌いなタイプの人間ですね」

「そうなの?」

「はい。ですので、このまま全員でボイコットすることを提案します」

「賛同します」

「まぁまぁ。ここで逃げてしまえば、所長のブラックリストに名前が記載される確率が100%になってしまう」

 

それは嫌だな。穏便なオフィスライフがいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着きました。先輩は…最前列ですね」

 

なんで48人目の適合者が最前列に座らされるんだ。

 

「顔色が良くないですね…大丈夫ですか?」

「フラフラするというか、凄く眠い…」

「頑張って耐えてください。所長が目で殺そうとしているかの如く睨んでます」

 

どこの英雄ですかそれ。

 

「………」

 

…あぁ、冗談抜きで駄目なやつですねこれは。

 

「…時間通り、とは行きませんでしたが、ようやく全員揃ったようですね」

 

皮肉を隠す気もないようだ。

 

「特務機関カルデアにようこそ。所長のオルガマリー・アニムスフィアです。皆さんは、その才能が故に選ばれ、もしくは---」

 

あ、駄目だ。身体が三大欲求の1つに満たされようとしてる。限界ってやつさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後見事な平手打ちを喰らった。そっちの趣味を持ち合わせてない俺には、なにもありがたくない。悪いのは俺だって分かってるけど、いきなり一発くれなくても良かったんじゃないか?

 

「しまった…」

「しかし無事覚醒したようですね。先輩はファーストミッションから外されたので、先に先輩の自室に案内しますね」

「よろしく…」

 

道中、フォウの奇襲にあったりもしたが、無事たどり着いた。

というかライバル視ってなんだ。動物に同類とか敵対関係と見なされるって、いったい俺がなにをしたって。

マシュは自分の任務のため別れ、俺のライバルことフォウが側にいる。

 

「クー…フォウ!」

「お、おぉ…なんだ?」

「キューキュッ、フォーウ!」

「お、おぉ…さっぱりわからん」

 

いつか意思疎通は出来るのだろうか…?

 

「はーい、入ってまーすって、えぇぇぇぇぇ!?誰だいキミは?」

「今の反応と台詞をそのままセットでお返ししたい」

 

あんたが誰だよ。ここは俺の部屋だぞ。

 

「ついに最後の子が来てしまったか…これでついにボクのサボり場がなくなってしまったわけだ…」

 

だから誰だよ。

 

「ボクかい?どう見てもインテリ真面目医師じゃないか!」

「さっきの自分の発言と思いっきり矛盾してますよ、それ」

「…ゴホン。さてさて、せっかくの機会だ。自己紹介でもしようか」

 

最初からそれしか望んでないっすよ。

 

「ボクの名前はロマ二・アーキマン。みんなからはDr.ロマンと呼ばれ尊敬されてるよ」

「馬鹿にされてるの間違いじゃなくて?」

「…おかしいな。ボクたち今初めて会ったばかりだよね…?その割には結構辛辣な受け答えが帰ってきたんだけど」

 

気のせいです。

 

「まぁボク自身気に入ってるし、キミも気軽に呼んでくれよ。実際言いやすいし」

 

…この人なんかふんわりしてるな。性格が。髪もだけど。

 

「それで?だいたいの経緯は分かったよ。キミも所長の雷を頂いたんだろ?」

「えぇ。平手打ちという名の雷ですね」

「ならばボクたちは仲間だ。なにを隠そう、ボクも怒られて待機させられてるからね」

「そんなに堂々と言うくらいなら、隠しておきましょうよ…」

 

そりゃあ医者っていうなら、量子ダイブ時には必要ないだろうし、いたらいたで悪い意味で緊張感なくなって、成功するものも失敗しそう。

 

「…今、凄く失礼なことを考えてただろう」

 

勘違いですよ。

 

「ロマ二、もうすぐレイシフトが始まる。念のためこちらに来てくれないか。Aチームは問題ないが、Bチーム内に数名、それ以降にも複数名変調が見られる。不安によるものだろうが、レイシフトに響かないとは言い切れない」

「やぁレフ、それは気の毒なことだね。いるだけで緊張感が削がれると名高いボクの小粋なジョークでもいるかい?」

「それもいいが、それよりかはハズレのない麻酔の方がいい。所長の言葉を引きずってないで、早く来てくれ。医務室からなら2分程度で来れるだろ」

「オーケーオーケー、出来るだけ急ぐよ」

 

無線を切った。普通に嘘ついたよこの人。

 

「…さてどうしよう。5分はかかるぞ。…まぁいいか。多少は遅れたって怒られやしないさ」

 

…やっぱりふんわりしてるなぁこの人。

なんかレフ教授について、色々説明してくれたけど、正直難しい話でよく分からない。要は、あの人がこの施設の中枢を担う一部分を作った凄い人だということ。

 

「さて、お呼びもかかったし早く行こうか---」

 

途端、電気が消え周りが暗くなる。そしてつかの間もなく、警報が鳴り始める。

 

『緊急事態発生。緊急事態発生。中央発電所、及び中央管制室で火災が発生しました。中央区画の隔壁は90秒後に閉鎖されます。職員は速やかに第二ゲートから避難してください。繰り返します。中央発電所、及び中央管制室---』

「…爆発音!?なにが…!」

 

モニターに中央管制室の様子が映る。

そこに広がってたのは、火が一面を包んだ地獄絵図。

設備は全て崩壊して、ただの瓦礫と化している。

 

「…マシュ」

 

脳裏に過るのは、さっきまで一緒にいたあの少女。彼女は普通にミッションに参加すると言っていた。つまりそれは…、

 

「キミは避難しなさい。ボクは管制室に行く。もうじきここも閉じ込められる。その前に早く!」

 

そう言って部屋を出ていくドクター。

残されたのは、突然のことで脳内がパニクってる俺ともう一匹。

 

「フォウ………」

 

そんな声で鳴くなよ。今ならお前の言いたいこともなんとなく分かるよ。分かったという程で言わせて貰えば、そんなことわざわざ言われるまでもないんだよ。

 

「どうする?お前は逃げるか?」

「キュッ!」

「はは、勇敢だなお前。……じゃあ行きますか!」

「フォウ!」

 

なんと言えばいいか分からない奇妙な生き物を連れて、ドクターの後を追った。

…すぐに追いついた、すぐに。

 

「ちょっとなにやってるの!?第二ゲートは反対方向だよ!」

「行くよう勧められましたけど、誰も行くなんて言ってないですよドクター」

「なにを言って…!」

「それにほら、魔術師かぶれでも人手があった方がいいでしょ?八割方ドクターより働けますって」

「それはそうだけど…」

「ほら、言い合ってる時間も勿体ないって!」

「…あぁもう!閉まり切る前に戻るんだよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…生存者なし。無事なのはカルデアスのみ。明らかに人為的なものだ」

「それって…内部の人間によるものってことですか?」

「多分ね…考えたくないけど」

 

『動力源の停止を確認。発電量が不足しています。予備電源への移行に異常 が あります。職員 は 手動で 切り替 えてくだ さい。隔壁閉鎖 まで あと40 秒。中央区 画に残っ ている職員 は速やか に避---』

 

アナウンスにも異常が見え始めた。無機質な声が示した通り、制限時間が迫ってることの兆候。

火もますます大きくなり、酸素も薄くなってるようだ。変な汗が噴き出す。

 

「ボクは地下へ行く。キミは早く来た道を戻るんだ!いいね!」

 

そう言い残して、地下へ続く道を駆けて行く。

 

「さて…どうすっかなこの状況」

 

あまりにも無遠慮なまでに悲惨な状況に危機感を告げるアラームが、俺の中で喧しく響いている。

人生に一度あるかないか、むしろあった人の方がマイノリティな境遇は、俺をより宙ぶらりんな不安定な気持ちにさせる。

そのせいだろうか。妙に落ち着いてる俺がいる。すぐそこで、死が俺を食おうと口を開けて佇んでるというのに。不思議なものだ。人間というのは、あまりに絶体絶命な状況だと取り乱すんじゃなくて、むしろ一周回って落ち着くようだ。

だいたいこんな絶滅的状態下で、俺1人生き残ってなんだっていうんだ。出来損ないだから助かったとか、皮肉にしては棘が鋭利過ぎて笑えない。

 

『システム レイシフト最終段階に移行します。

座標 西暦2004年 1月 30日 日本 冬木』

 

「…なにか始まろうとしてるんですけど」

 

『ラプラスによる転移保護 成立。

特異点への因子追加枠 確保。

アンサモンプログラム セット。

マスターは最終調整に入ってください』

 

最終調整って…メンタル的な問題ですかってんだよ。

プログラムに悪態をついた時、瓦礫が動く音がした。

 

「………あ」

「マシュ!」

 

瓦礫を退けてマシュの身体を引っ張り出そうとする。しかし、マシュを押し潰さんとするそれらの重みが、俺を妨げる。

 

「今助ける!」

「………いい、です。助かり、ませんから。それ、より…逃げて…」

「あぁもう煩いな!君が決めるんじゃねぇよ!助けるか助けないかは俺が決めることだ!」

「先、輩…」

 

『観測スタッフに警告。カルデアスの状態が変化しました。シバによる近未来観測データを書き換えます。近未来百年までの地球において人類の痕跡は 発見 出来ません。人類の生存は 確認 出来ません。人類の未来は 保証 出来ません』

 

カルデアスが真っ赤に変化する。猛々しく燃え盛る炎はすぐ側まで侵している。そして隔壁も完全に閉ざされた。言わずもがな、結末が見える。

 

「閉まっちゃい、ました…。外にはもう…」

「そうだな」

「…落ち着いてるんです、ね」

「あぁ。なんでか()()()()()()()()()()()()()って強く思うんだ」

「確証、は…?」

「ないね。無根拠だ。けど、確信してる」

「そう、ですか…」

 

『コフィン内マスターのバイタル基準値に 達していません。

レイシフト 定員に 達していません。

該当マスターを検索中………発見しました。

適応番号48 藤井蓮 をマスターとして 再設定 します。

アンサモンプログラム スタート。

量子変換を開始 します』

 

俺たち2人の身体は光の粒へと溶けていく。

その行き着く先は天国だろうか?だとしたら天使のお出迎えくらい欲しいものだ。

 

「先輩………手を………」

 

俺の手を掴んだマシュがいた。

 

「わたしも……先輩の言う事……信じて、みます……」

「…あぁ」

 

『レイシフト開始まで あと3』

 

掴んだその小さな手を

 

『2』

 

決して離さないようにと

 

『1』

 

強く、強く握りしめたまま

 

『全行程 完了(クリア)

ファーストオーダー 実証を 開始 します』

 

「藤井先輩………」

 

俺の意識は途絶えた。




勉強しないといけない受験生なのにね。
無人島周回に勤しむ。
水着きよひー手に入ったはいいが、ランプ集めるの大変すぎー
感想お願いします。

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