ぼっちな武偵   作:キリメ

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6.過去

アリアが入院してから数日がたち、そろそろお見舞いに行こうかと思い病院へ向かう。受付を済ませ部屋に入ろうとした瞬間ドアが開く。

 

「あら、どうしたの。お見舞い?悪いけど今から行くとこがあるの。高千穂からあかりの様子が変だから来てくださいって、あんたも来る?」

 

「怪我はもう大丈夫なのか」

 

「キズは残るわ。でもそんなことで止まってる余裕なんてないの」

 

「...そうか」

 

きっとあの人のことなんだろう。だがここで俺が何かを言うことは憚られた。その原因に間接的だが俺も関わっているから。とはいえ少し気まずい空気になったが特に用事もなかったのでついていくことにした。

 

「そういえばさ...キンジの過去に何があったか聞いてる?」

 

ふとアリアが俺に質問してきた。 その表情は怪我を隠すために垂らした前髪で見えない。

 

「...何かあったのか?」

 

「別に大したことじゃないんだけどね...昨日キンジがお見舞いに来たの。そこで少し口論になって、キンジが武偵をやめたがっていることを知ったの。でもあたしには時間がないから、あんたの事情なんて大したことないって...そしたらキンジすごく怒った。あんなキンジ初めて見た。だから理由が知りたいの。」

 

大したことない...か、確かにキンジが武偵をやめること自体は一般的にはどうでもいいことだ。だがアリアはキンジがなぜやめたがっているかを知らない。理子のこともあるしこのペアはしばらく続けさせるべきだ。

 

「情報料はマッカンでいい。それとこれはキンジから直接聞いたわけではないぞ。それでもいいか?」

 

「ええ、いいわ。お願い」

 

「そうだな何処から話すか...キンジには2つ年上の兄がいた」

 

「いた?」

 

「そうだ、2008年12月24日、浦賀沖で海難事故が起きた。幸い乗客、乗組員全員無事だった...キンジの兄、遠山金一を除いてな。彼は何も悪いことはしてなかったんだが船の関係者やマスコミは武偵だった彼に責任を押し付けて責任逃れをした。その被害は兄弟であるキンジにもおよび...キンジは武偵そのものを嫌った。それが理由だ。あとは自分で調べるなり、キンジと話すなりしろ。」

 

「そう...わかった、ありがと」

 

そんな話をしていると目的の病室についた。間宮ののか様と書いてある。間宮の関係者か?

 

「ついてこないで‼......あたしが犠牲になれば...いいの!」

 

 間宮の叫び声と共に扉が開く。予想外の出来事に混乱しているのかアリアを押しのけてまで行く勇気がないのかその場で立ちすくむ。

 

「自己犠牲が『美談』になるのはおとぎ話の中だけよ。自己犠牲は現実では『逃げ』の手段よ。逃げれば逃げるほど、事態は深刻化する。敵のことも自分自身のことも...何もかも隠したまま、何もかも解決できるの?」

 

「解決すればいい。自己犠牲だろうが逃げだろうが今の現状を解決する最善策ならなんだっていい。手段なんてものは結果が伴わなければ何の意味もない。だが間宮、お前のその行動は本当に最善策か?」

 

アリアの間宮への質問を遮り間宮に質問する。

 

「...でも、今のあたしは何も持ってないんです...」

 

「ちがうわ。見落としてるわよ、あかり。あんたが持ってる、大事なものを。」

 

「...何を、ですか...?」

 

「振り返れば、そこにあるわ。」

 

間宮が後ろを振り向く。そこには間宮の見舞いに来た佐々木、火野、一色、風磨が、間宮の仲間がいる。

 

「...みんな...」

 

「一年暗唱!武偵憲章第1条!」

 

湿っぽい空気を吹き飛ばすようにアリアが声を上げた。

 

「仲間を信じ、仲間を助けよ!」

 

こいつらには仲間がいる。上辺の関係なんかじゃない本物の関係。誰かが逃げたくなっても、あきらめたくなっても、お互いに傷つきあいながら勇気を出して前に進んでいくのだろう。それはきっときれいなもじゃない。逃げたくても逃げれない”籠の鳥”それでも俺は少しだけ、ほんの少しだけうらやましく、そして妬ましく思った。

 

その後、アリアは間宮に作戦命令を下した。コードネーム『AA』アリアと間宮、両方が同時に犯人を捕まえるそうだ。アリアは武偵殺し、間宮たちは夾竹桃、どちらもイ・ウーのメンバーだ。そのまま解散かと思ったら間宮が私の過去を知ってほしいと2年前の事件について話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 4年前、諸葛にイ・ウーで特訓して来いといわれイ・ウーに参加した。実力テストだといわれ理子、ジャンヌ、ブラド、パトラなどイ・ウーのメンバーと対戦し、全勝した。ただし、イ・ウーのトップ、教授と呼ばれる人には全く勝てなかった。諸葛が昔現役のころいい勝負だったと聞いていたから実力試しで挑んだが、俺のステルスがほとんど効かなかった。全部予想通りさ、なんて言われたら腹が立つ。

 

 結果イ・ウーのナンバー2になりいろんな任務に就いているうちに『死神』なんて二つ名がつけられてかなり恥ずかしかった。死神だよ、死神。目が合ったら死んでるってメデューサかよ、いや、あれは石になるだけか。

 

 そして2年前、間宮の秘術を奪うため間宮町に向かった。メンバーは5人.曹操、カナ、夾竹桃、パトラ、そして俺。カナとは遠山金一のことで女装癖のある男の娘だ。一年前からイ・ウーに参加しているが潜入捜査の可能性が高く警戒して当時はあまり会話はしていなかった。

 

 任務は簡単に終わった。間宮の人間は術が漏れるのを恐れてか逃げるだけでほとんど反撃してこない。緑の多かった町は紅蓮の炎に包まれいたるところに瓦礫が落ちている。というかあまり働いた気がしない、働いたら負けだけどな。パトラの砂人形が破壊工作を行っており俺が殺したのはせいぜい2、3人だ。それも老人男性2人と若い女性1人だけだ。女性のほうはなかなか強く砂人形を倒しながら子供2人を守りながら逃げていた。ステルス85%で近づいたらナイフが首に触れる瞬間に気づかれ躱された。しかも俺ののどを引きちぎろうと反撃してきたため少し後ろに下がり様子を見る。だが俺のナイフには夾竹桃直伝の麻痺毒が塗ってあり女性はその場で倒れこむ。いつの間にか子供の姿が見えない。おそらく反撃されたときに意識が逸れたためだろう。子供のために身を挺して守る母親、子供の時わけもわからないまま捨てられた俺からすると理解できない行動だ。そして人間は自分の理解できないことを恐れ嫌悪し排除しようとする。俺も例外ではなく情報を聞き出すつもりが、気づけば刺し殺していた。

 

 今思えばあれは復讐から来た行動だと思う。親を憎んでいるつもりはなかった。俺の態度が、性格が、行動が、すべてが悪かったから捨てられたんだと考えた、いや考えようとした。でも無意識のうちにわかっていたんだろう、俺が悪いと考えるのは親に対する甘い希望だと。両親の態度が激変したのは小町が生まれてからだ。何も知らない小町のせいにしたくはなかった、だから原因が俺にあると思い込んだ。

 

 母親を殺害し広場へと向かう。そこには夾竹桃に首をつかまれた2人の子供がいる。間宮あかりと妹の間宮ののかだ。間宮の過去、今回の夾竹桃の事件に俺はかかわっていたらしい。それよりも後輩の母親を殺しそれを忘れていた自分に嫌気がさした。

 

 間宮の話が終わり解散になる。『AA』お互いにどちらが勝利するのかはまだわからない。因縁を断ち切るため理子や間宮、アリアも戦う。夾竹桃は好奇心だな。間宮の母親を殺し間宮一族をばらばらにし、アリアの母親に罪をなすりつけた俺。ここでそのことを告白したらどうなるのだろう、少しは楽になるのだろうか。だが俺は罪を背負い続ける。それが俺にできる唯一の贖罪だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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