ぼっちな武偵   作:キリメ

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3.アミカ試験

「ハチマンオキロ!ハチマンオキロ!」

 

「...zzz」

 

「ハチマンオキロ!ハチマンオキロ!」

 

「......」

 

「ハチマンオキロ!ハチマ」

 

「うるせー!起きるから静かにしろ、ハロ!」

 

 朝から騒いでいるこいつはハロ。某アニメに出てくる緑色の球体の機械を機嬢が俺専用に作った万能型ロボットで、俺が部屋にいない時のセキュリティを管理している。

 

「メール!メール!」

 

 どうやら教務科から連絡があったらしい......アミカ申請...だと...!?いや驚くことでもないか。香港でもSランク武偵だった俺にアミカ申請してくるインターンの連中は結構いた。東京に来て一週間で俺の噂を聞いた新一年が何人も申請してきたが全員アミカ試験に落ちて一気に申請がなくなったというのに...変わった奴もいるものだ。で、そいつのプロフィールはっと...CVRCランクの一色いろは...聞いたことないな...ハロ!

 

「データベースケンサク!データベースケンサク!...イッシキイロハヲメインモニターニヒョウジ!」

 

ふむ...cランクとしては妥当なものか。教務科の評価は...

 

『男子からの人気は高く特殊捜査においても結果を出している一方、女子からの印象は悪く捜査にまで影響が出ている。尚、女友達は殆どいない模様。』

 

 何というか酷いな。いや、クセがあるというべきなのか...取り敢えず試験だけはしてやるか...

 

 自室を出てリビングへ向かう。まだ6時半なのでどちらも寝ているようだ、アリアがいる?気にしたら負けだ。朝食を食べようと準備を始めてしばらくするとアリアが起きてきた。

 

「うーん、ん?あら八幡、あんた意外と起きるの早いのね。」

 

「意外ってなんだ意外って。目か?この目のせいか?」

 

「で、いつできるの?」

 

「いや、何がだよ。」

 

アリアの言葉には主語が殆どないから理解するのが難しい。

 

「朝食に決まってるでしょ!私はお腹が空いたの!早く用意しなさい!」

 

「いや...一応作ってはあるが...はぁ、まあいい、ほらよ。」

 

そう言ってフレンチトーストをだす。俺の自信作の一つだ。コーヒーはインスタントしかないが文句はでないレベルだろ。 余談だがフレンチトーストにメイプルシロップの代わりに練乳をかけアイスを乗せて食べるとかなり美味しい。

 

「あら、キンジと違って有能なのね。あんたは食べないの?」

 

「今まさに俺が食べようとしていたものをお前が食ってんだよ。」

 

「ふーん」

 

どうでもいいとばかりに食べ続けるアリアを見て俺は小さなため息をついた。このお嬢様の前に理屈など通じるはずもなかったのだと。そしてそんなこいつに付きまとわれるキンジに改めて同情した。

 

そんなこんなで時間が過ぎ俺は一足先に学校に向かう。一色いろはの教室って1-Aだったよな...

 

 

 

 

 

 

 

 

  sideいろは

 

 諜報科の比企谷先輩にアミカ申請してから全く眠れずに朝が来てしまった。そもそもなんで申請したかっていうと、同じグループのあかりちゃんがあの神崎アリア先輩のアミカになって、志乃ちゃんも星伽白雪先輩のアミカになって...私もアミカになりたいって思ったから。

 

でもSランクじゃないと他に負けたみたいで...アリア先輩と同じくらいすごいって噂の比企谷先輩に勢いで申請したまでは良かったんだけど...正直すごく後悔してるんだよね。今申請したなんてばれたら、他の生徒からまた何か言われそうだし。

 

まぁ今も女子からの嫌がらせは普通にあるんだけどね。とにかく絶対にアミカになるまでばれないようにしないと!

 

「いろはちゃんどうしたの?顔色悪いように見えるけど?」

 

「元気ないんですか?だったら帰りにみんなで遊びに行きましょう。」

 

「そうだな、どこ行く?ららぽ?」

 

「アハハ...ありがと、でもごめん今日はいいかな。また今度お願い。」

 

「本当に大丈夫?しんどいんだったら保険しつ「お前が一色いろはか?」 」

 

「え?」

 

 不意に頭から声がした。クラスが一気に静かになり視線が私の頭上に集まる。恐る恐る上を見上げてみると、比企谷八幡先輩が天井に足をつけて立って?いる。いつの間にいたのか全くわからなかった…これがSランク!?

 

「結果は人によって違えど機会は平等に与えられるべきだ。一色いろは、これよりアミカ試験を開始する。詳細はここに書いておく、お前の力示してみろ。」

 

「はっはい!」

 

 そう言って私に封筒を渡してきた。いきなりの事で頭が追いついていないけど、試験が始まったってことでいいのかな?もう一度上を見たらもう先輩はいなくなってるし。なんか...もうアミカになるなんて不可能なんじゃないの?

 

「いろはちゃん...あの先輩誰?なんかすごい人だけど。」

 

「おい!あかり、お前あの人のことも知らないのか!?香港武偵高から来た諜報科の比企谷八幡、諜報科で唯一のSランクだ。噂だと遠山キンジと同室だとか。それよりいろは、アミカ試験で連続五十人失格にしているあの人にアミカ申請なんて正気か?なんで申請したんだよ?」

 

「つい勢いで申請しちゃったっていうか...あかりちゃんがアリア先輩のアミカになれたから私もアミカ欲しいな〜なんて思って...」

 

「それでその封筒にはなんと書いてあるんですか?」

 

「え〜と、」

 

 

アミカ試験について

諜報科Sランク.比企谷八幡

 

『鬼ごっこ』

 

 本日18時から4時間の間に比企谷八幡に一度でも触れることができたら合格。

フィールド制限・お台場。

参加条件・一色いろは及び一色いろはの''親友''のみ。開始場所・正門前。使用武器自由。

 

以上

 

 

「ライカ〜お願い手伝って〜」

 

そう言いながらライカに抱きつく。

 

「べっ別にいいぞ、ルール的にも問題ないしな。あかりもいいか?」

 

「うん、いいよだって親友だもん!」

 

「あかりちゃん!」

 

「取り敢えず作戦を練るぞ、ただ追いかけてあの人に追いつくはずがないからな。」

 

「そうですね。いろはちゃんのためにも絶対に負けられません。」

 

「昼休みにアリア先輩に聞いてみる? 」

 

みんなが私のために動いてくれている。親友だと言ってくれる。そのことが只々嬉しかった。決して上辺だけの友達なんかじゃない、そういう友達の大切さを感じることができた。先輩は知っていたのだろうか、でないとわざわざ親友のみ参加可能なんて書かないと思う。だとしたら凄くかっこいい。あったこともない私の不安をこんなにも簡単に解決して、しかもそのことを自然な感じで起こすなんて。打算だけじゃない、本心から先輩のアミカになりたいと思う。みんなと一緒にやってやります! ...勝算はほぼないけど

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正門前で待つ私たちの前に18時ジャストに比企谷先輩が姿を現した。

 

「全員揃ったようだな...」

 

「「「「はい!」」」」

 

「それじゃ、スタートだ」

 

そう言って先輩は校舎に向かって走っていく。手を抜いているのか姿ははっきりと見えます。

 

「行くぞ!」

 

予定どおりライカとあかりちゃんが先輩を追い、私と志乃ちゃんは通信機から来る連絡で行き先を包囲する作戦に出ました。

 

「しまった!」

 

「ライカ!」

 

別れて五分も経たないうちにあかりから叫び声が聞こえてきました。

 

「あかりは先輩を追え!私はこのワイヤーを何とかする。」

 

「わかった!あっ!」グワーン

 

「おい!あかり!」

 

「あかりちゃん大丈夫!どうしたの?」

 

「...上からタライが落ちてきた。」グス

 

随分と舐めた妨害ですね...

 

「先輩はどっちに行ったかわかる?」

 

「ええと強襲科棟に向かっていったと思う。」

 

「わかった!志乃ちゃんいくよ!」

 

 

 

 

 

 それから3時間以上ひたすら先輩を追い続けた。ワイヤー以外にマキビシや落とし穴などのトラップやワイヤーを使った三次元的な移動、挙句にはひっつき虫やペイント弾などの嫌がらせなど様々な方法で妨害してきました。残り時間は5分、先輩は逃げるのをやめ私たちと対峙ししている。

 

「今度こそ触ってみせます、せんぱい!」ビシッ

 

 何度目かわからないセリフを繰り返す。満身創痍の体で気力だけで動いている。

 

「ここまで続けるとは...正直意外だ。こんなに頑張った奴はお前らが初めてだよ。」

 

 確かに今までの私ならこんなにも必死にやっていなかったと思う。今回だって何度もリタイヤしようか悩んだ。でも...

 

「でも...みんなが私のために頑張ってくれてると思ったら...頑張らない訳ないじゃないですか!」

 

「「いろはちゃん...」」

 

「仲間のためだ、途中で諦めるなんてできるかよ。」

 

「そうですよ、アミカ試験合格するって約束したんですから。」

 

「だから友達を見捨てるようなことなんて...私はしたくない!」

 

「みんな...」

 

「.................................合格だ。」

 

「え!?」

 

「合格って...?」

 

「あー、今回の試験で見たかったのは実力じゃない。心から身をまかせることができる仲間がいるか判断する試験だ。」

 

「それってどういう?」

 

「今回の試験、なぜトラップだけだかわかるか?しかも嫌がらせ程度の。」

 

「私たちをなめてたんじゃないんですか?」

 

「違う。普通自分のためならまだしも、他人のためにここまでやられ続けるか?服はずぶ濡れ、所々にひっつき虫やガムテープ、絵の具がついてまで他人のためだけに力を入れられるか?クリアしたところで自分がアミカになれる訳でもない。実益を得るのはたった一人、しかもスポーツと違って団体としての意義がない。実際今までのアミカ試験では途中で仲間がリタイヤし本人もやる気を失ってリタイヤという構図ばかりだった。中には一人で挑んでくる奴もいたが触れる訳もなく失格だ。だから初めてなんだよ、お前らみたいな純粋な友情でチーム一丸で挑んでくる奴は。...当たり前のように見えてほとんどいないんだよ。まぁそういう意味では一色は危なかったな。友情以外の負の感情が渦巻いていた...今はもうないようだがな。」

 

「先輩は全部わかったうえでこの試験をうけてくれたんですか?」

 

「ちげーよ、最初に言ったろ。『結果は違えど機会は平等に与えられるべきだ』ってな。アミカになる可能性があろうがなかろうがチャンスは与える。だが、結果に導く努力をするのはお前らだってことだとよ。そしてお前らは俺に示した、だから...合格だ、一色いろは、お前をアミカに任命する。」

 

「先輩...ありがとうございました。...みんな、本当にありがと〜!本当に嬉しかったよ!」

 

「いろはちゃんおめでと〜」

 

「良かったないろは、これから頑張れよ!」

 

「おめでとうございます!わたしもうれしいです!」

 

 今日1日で私の人生は大きく変わった。みんなと本当の友達になれたし、先輩のアミカになれたし、何より私は先輩に恋したのかもしれない。でもこの気持ちはまだバレる訳にはいかない。確実に先輩を私の虜にして私に告白してもらうんですから!CVRの本気見せてあげます!

 

覚悟してくださいね、せ〜んぱい!

 

 

 


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