ウルス族との接触から数日、
突然の求婚に言葉を濁しつつもウルス族と香港藍幇の内密な協力関係の再度構築に向けた話し合いは進み...
俺は久し振りに香港へと帰ってきた。
───比企谷八幡として
諸葛八と比企谷八幡が同一人物であるということを知っている人間は実の所そう多くない。曹操姉妹や夜蜘蛛、イ・ウーやウルスなどから数名といったところだ。そう、上海側に比企谷八幡=諸葛八と結びつける情報はない。向こうにはまだ行方不明と思ってもらいたい。俺が自由に動くためにも。
...とりあえず親父に連絡入れるか
prrrr...
「おはよう、そろそろ電話が来る頃だと思ってたよ。それで報告書の件だけど」
「ああ、それについては見てもらった方が早いと思う。それより」
「バスカービルなら
「自ら餌を撒きにきたか...俺は休んでて良いんだよな?」
普段のバスカービルのリーダーがアリアであるなら時間をかけて、なんて事はしないだろう。自ら餌となって接触し、そのまま倒し情報を聞き出すぐらいの事をしかねない。
そうなっても別に困るわけではないけどさ。
「ええ、勿論。目立たない程度にゆっくり羽を伸ばして良いですよ。今日だと
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side キンジ
東洋と西洋が混じったような香港島の、
『合流できたみたいね。海外でキンジがタクシーに乗れるか、そこから心配してたけど』
俺・白雪を含む4人はozone基地にいるアリア長官にテレビ電話をかけたところ、ももまんを画面の外に隠してから上から目線でそんなことを言ってきた。
あ、理子といいこいつも飯食ってたな
「──今のところ猿はシッポを出していない。とはいえ俺と白雪は繁華街を歩き回ったし、飯ばっか食べてたバカとレキもレストランを何軒もハシゴしたそうだ。相当な人数に姿を見せることには成功しただろう」
猿っていうのは事前に決めた、藍幇の隠語だ。
ヤツらは孫悟空を出してきたからな。
『OKよ。じゃあこれからは作戦の第2フェーズ。バラバラに動いて、猿が食いつくのを待ちなさい。...それと理子、八幡と連絡は取れた?戦役に直接参加してないとはいえ藍幇側に付かれると不味いわ。諜報系は苦手なのよ』
「んー、やっぱ繋がんないねー。最後に繋がったのも1週間以上前だし、まだどっかで作戦中なんじゃない?」
『ふーん、そう。分かったわ。それじゃあ作戦開始よ』
腹が減ってはなんとやら。本場のラーメンを食べようとしてかた焼きそばが出てきたりしつつ、簡単に食事を済まし俺たちは香港島を東西に横断する路面電車の駅へと向かった。
レキを上環に残し、のこりの3人は路面電車に乗り込む。
「じゃあ理子はここで降りるねー!キーくん一人で迷わないように!」
「あ、キンちゃん。私ここで降りるね。頑張ってね!」
作戦通り上環から東周りに各車駅ごとに一人づつ降りていく。
次は......彎仔、俺が降りる駅だな
俺はサイフを出し、多角形の2香港ドル玉と端数の30セントを握っておいた。そして狭い階段を他の乗客と揉み合うようにして下りて、いよいよ......
──単独行動、開始だ
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side 八
ワンチャイの市場をひと通り満喫した後、俺は
「お久しぶりです。張さん」
「あ?ああ、誰かと思ったらあんたか。元気そうだな。で、それだけなら帰っておくれ。私は忙しいんだ」
「うっ、あー...食べます」
「そうかい。
「う、うす」
「どうも...お久しぶりです、珍さん」
「ん?おお、八幡か、久しいな。何年ぶりだ?」
「最後に来たのが香港永住権の時だから...4年前になります」
「もうそんなになるか...あの腐った目が...ふっ、元気そうで何よりだ」
この口の悪い、ヒビをテープで修理した丸サングラスをかけ煙管を咥えた爺さんだが、実は藍幇の構成員だったりする。とはいえ向こうは俺が藍幇の構成員だとは知らないんだけど。
それにこの人と出会ったのはもっと前──俺がまだ
珍さんに盗みを働こうとして見た目からは想像できないほどの中国拳法で返り討ちに遭い、なぜか言葉も通じないのに同情され飯を貰い、張さんの店で簡単な仕事まで紹介してくれた恩師とも恩人とも呼べる人だ。親父に出会うまでの2年間の中で最も暖かい食事をしたと思う。よく食べたのは店の残り物を一椀にした麺炒飯だ。幸せだった、と今でも思う。親に捨てられた俺に人としての愛を教えてくれたのだから。
「ほら、麺炒飯。ゆっくり食いな」
怒ったような口調で乱雑にお皿を置いてすぐに別の客の方へ行く張さんを見て、珍さんと苦笑いする。いつだってあの人は素っ気なくて、でも誰よりも優しい人だと珍さんは言う。俺も今はそう思えるくらいには人生経験を積んだようだ。アリアや永琳?などの暴力女子に比べれば、だけど。これが理子の言うツンデレの最高位なんだろうか?
「今は武偵高か?ランクはどうなんだ?」
「諜報科でSランク武偵ですよ」
「そうか...付属中の時も思ったが...強くなったな」
「ええ、強くなれたと思います」
──あの時よりも
張さんの店で真っ当な生活を送る時間はそう長くなかった。一つの場所にとどまると自然と自分の居場所がばれやすくなる。今まで俺に盗まれたり襲われたりした奴は香港という狭いが広い場所にいる一人の少年を探すことなどできなかった。だが居場所が判明すれば話は別だ。俺個人への恨みは匿っている店にまで広がり、ついに店への嫌がらせまで行われた。徐々にエスカレートする中、2人はそれでも、あの文句ばかり言う張さんでさえ俺を責めることはしなかった。
そして俺は...そこから逃げた。思いつく限りの罵詈雑言をぶつけ嫌われようと、嫌ってもらおうとした。そんな浅知恵を見抜かれていたとも知らず謝りに行った四年前を思い出すだけで恥ずかしいが。
「そういや八幡、彼女はできたのか?」
「え、いや...まだですよ、俺には早いです」
「何を、18なら遅いくらいじゃ。儂なんぞ...」
などとそんな他愛もない話で弾み...
「珍さーん!ちょっといい?スリにあった日本人だってっ!」
気がつくと22時を大きくすぎていた。こんな時間に外を出歩く日本人って...随分と危機管理の低いやつだ。
「ん?おぉすぐ行く...八幡よ、無一文の日本人だとよ。どっかで聞いたことあるなぁ」
「やめてくれよ、昔のことだし俺はスられたんじゃない捨てられたんだ」
「そこを偉そうに言えるのがすごいのかどうかは置いておくとして...見てくるがあんたはどうする?」
「せっかくだ、ついて行く」
店の裏口から細い通路──そっちの方が早い──からスられたという可哀想な日本人の元へ行く。そいつは珍さんを見て警戒したあと、その後ろにいる俺を見て口を大きくひらけポカンとしている。
「なんだキンジか」
何を隠そうバスカービルのリーダー、遠山キンジである。どうやら散開しての囮作戦はキンジのスリにより失敗しているようだ。普段のキンジは結構抜けているところがあるとは思ってたが...
「えっ...!?八幡じゃねーか!ビックリしたぜ、言葉も通じないしさ」
「ん?八幡、こいつと知り合いか?」
「あぁ、日本に行ってた時のルームメイトだ」
「はっはっはっ、それはまた不思議な縁じゃ。見たとこ腹を空かしてるようだし、何か食わしてやるか。ユアンもどうだ?」
「いいの?まだご飯食べてないから嬉しいわ。そっちの方は?」
「比企谷だ。そこの高校に行ってる学生だ」
「ふーん、私は
「ああ」
「...なぁ八幡、何話してるんだ?」
「ん、あぁ悪い。これも何かの縁だ、4人で飯食おうぜってなった。まぁ俺と珍さんはもう食べたけど」
「いいのか?」
「別に俺がいいわけじゃない。珍さんが優しいだけだ」
「悪いな、助かった」
気にするな、とドヤ顔で言ったところを珍さんに弄られながらさっきの席まで戻り、2人分の追加注文と珍さんの分のお酒を注文する。
話は自然と俺とキンジの関係になり気恥ずかしい気持ちになりつつも時間は過ぎていき...
「キンジは今からどうするんだ、交通機関は止まってるし...」
「あー...八幡はどうするつもりなんだ?」
「バイク、原付だから二人乗りは無理だぞ?」
「マジか...」
「じゃああたしの家に泊めてあげるから。明るくなってから動きなさいよ」
「いや、そんな。女子の家になんて...」
「あたしは男より強いから大丈夫。話してて悪い奴じゃないみたいだしね。ヘンな事しようとしたら、窓から外に放り投げるけど。ちなみにあたしの部屋は5階。その代わり、起きてられるだけ起きて、あたしとお喋りして。日本語で。あたしの日本語、発音がヘンなのわかるでしょ?」
「よし、じゃあそれでいいか。そういやお前どこに泊まってるんだ?修学旅行Ⅱで一緒に来てるやついるなら連絡しておくぞ?」
「ICCビルのozoneってところだ。そこにアリア達がいるはずだ。連絡したら喜ぶんじゃないか?最近不通だったんだし」
「だから任務だったって...悪かったけどさ」
「いや、こっちこそ頼むぜ、八幡」
そして日が昇り
───香港は大きな転換を迎えることとなる
原作通り香港人は日本人に優しい、ということで。八幡も珍さんに世話になるという。縁というのはいいものですね、