──おめでとう、貴方は璃の意思に選ばれた
...これが、色金
──この力を使えば使うほど貴方と璃璃の結び付きが強くなり、より自在に力を使うことができます
...結び付き?
──まだ貴方は此処では異物と同じ。部族に受け入れるには色々と時間も準備も必要なのよ
...よく...わからない
──ふふっ、そんなに怯えないで
私達は皆、それを望んでいるのだから
......あれから...6年か
璃璃色金を使いこなすまでに2年、実戦で2年、距離を置いて2年。
宣戦会議が、いやそれ以上に周囲の圧力がなければ二度と使うつもりなどなかった。
はぁーとついため息が溢れる。嫌な目覚め方だ、二度寝するか。
そう掛け布を身体を潜り込まそうとして、ぶるっとした寒気が微睡みの身体を叩き起こした。
「おはようございます、諸葛さん」
「ん...だれだ」
声のする方へ目線を向けると、ゲルの入り口を全開にした一人の女性と目が合う。
身長は145センチとアリアと理子の間ぐらいで、少し青い銀髪ロングと翠玉の瞳、左目に眼帯をしているその少女は...たしかレキの妹の一人...だった気がする。
小柄な背中には白く塗装されたAS Valと呼ばれるアサルトライフルを背負っている。装弾数20発、消音効果の高い大型のサプレッサーをレシーバー先端から銃口前方まで銃身全体を覆うように装備しているのが最大の特徴で、ソ連の特殊部隊が昔使っていたものだ。ちなみに100メートル以内なら防弾チョッキすら貫通する高威力でもある。
とはいえ先ほどの寒気は入り口から入った冬の寒気が原因だろう。相変わらずここの人間は細かい気遣いができないと少しばかり不快感を視線にぶつける。
沈黙
「あー、シズ?だったか」
「はい」
「寒いんだが」
「冬だから当然、寒く無い方がおかしい」
「いやそうじゃなくでだな...」
沈黙
「先日の件を含めた今後についてエイリン様が話したい...そうです。早く準備してください」
「まぁそうだろうな」
あの戦闘の後、ウルスとの接触に成功した俺は部隊に戻らず独断でここへ来た。俺個人では藍幇であることを除くとウルス族との関係は悪くない。永琳のようにレキ個人と関係を持つことをよく思わない人間も多少はいるが...
それに雪山ということもあるし、今頃上海の方では
...それにあの作戦自体裏がありそうだったしな
大方香港側の戦力低下や後任の関係だろうが...そういや、キンジの引き抜きの件はどうなったんだ?バスカービルがこちらにつけば上海側へのカウンターになるんだが
「...諸葛、エイリン様がまってる。準備、してほしい」
「俺はこの場所から動く気は無い」
「暖布に包まりながら話してもかっこよく無い」
レキ同様、ほとんど感情の起伏がないものの変な目で見られてる感じは否めないが
「はぁ、エイリン様が待ってる。早くしないと私も怒る」カチリ
それでも忠実に役目を果たす所は同じみたいだ
「...うす」
だからその手に持ってる銃をおろしてくれませんかね?いや、マジで
─────────────
side キンジ
──俺は。
一般高での経験を得て、武偵としてら生きる腹は括ったつもりだ。他に取り柄もないし。
だが、なるならなるで『普通の武偵』を目指すべきだ。と、思っている。
それは、例えアジア圏のSDAにランキングされたり『二つ名』がつけられそうになっても、だ。
とはいえ、武偵を続けると決めた以上極東戦役についても真剣になる必要がある。
次の目標は...
「──打って出るぞ。ターゲットは藍幇だ」
「なんで急に鼻声なのよキンジ」
「うるせえなッ、人間の鼻は詰まる時には詰まるんだよ。おいジャンヌ、例の件」
だいたい作戦会議に体操服でヒロイン全員集合とか、どんな状況だよこれ!
俺がしたかったのは、作!戦!会!議!なんだよ!
しかも!女子一同との位置関係の悪さ。俺は彼女らからみてエアコンの風下にいる。
うう...アリアに思わずツっこんだら、体育でひと汗かいてからやってきた女子どもの...
クチナシ、桃、バニラ、ミント、シトラス、シナモンっぽいそれぞれの香り。
それらが混合された女子スメルのシンフォニー。
「うむ、先日遠山らが交戦したという者たちだが『夜蜘蛛』と呼ばれる藍幇の特務部隊で間違いないだろう。最近だと10月下旬に総武高校文化祭襲撃事件を起こしていた」
「...夜蜘蛛?」
アリアの膝に嫌がらせ的に座ろうとしていた理子が、その単語に引っかかりを覚える。
「そう、夜蜘蛛だ。ジーサードの部下達と交戦し撤退したそうだがこちらも被害は甚大だ。おそらくは『師団』についた彼らが弱っているうちに仕留めようとしたのだろう。実際今のジーサード達は戦力になり得ない程度には消耗させられている。
あと...その場にはいなかったようだが奴らの隊長の名は諸葛八。香港藍幇のトップ、諸葛静幻の息子で、イ・ウー時代の元No.2だ。」
ジーサードやかなめの手強さはみんな知っているので、ようやく場の空気も引き締まってくる。
「...元ってことは後でブラドに抜かされたってことなの?」
「いや、彼はブラドよりも遥かに強い。ただ
「...諸葛ってのが強いのはわかった。他にも逃亡したココ達やジーサードを一撃で斃した、猴っていう少女もいる。夜蜘蛛とは別らしいが...これも──強い。玉藻曰く、孫悟空なんだそうだ。如意棒というレーザービームを撃つ。誰も勝てないだろう。俺以外は」
と、勝算があるかのような事を言ってまずは皆を制した。こいつらが敵の強さに飲まれることなんかない豪胆な武偵なのは知っているが勢いは大事だ。それにこう言わないと、手柄を立てようとして我先に突っかけてバタバタやれかねん懸念すらあるからな。
「猴は俺に任せろ。弟のカタキだ。俺が討つ。手助けがいる時は誰かを指名してやるから、そしたら来い」
──正直、あの必殺技に勝つ方法なんてない。
その上、諸葛とかココとか強敵ぞろいの中に攻め入るなんてバカなんじゃないかとすら思えるぜ...
─────────────
side 八
「お疲れ様、これで検査は終わりよ。リラックスしていいわ」
「はぁ......やっと終わったのか?」
「お陰様でね。素晴らしい以外の言葉が出てこないくらい興味深い結果がでたわよ」
「ここまで付き合ったんだ、そろそろ本題に入ってもらうぞ」
ここに来て丸2日。主に任務中に起こった外の出来事についての情報共有こそしたものの、藍幇とウルスの今後の関係について具体的な話は一切進んでいない。なんなら半日以上全身くまなく弄り回された。これがR-18展開なら今頃快楽堕ちタグがついてるレベル
...と、冗談は抜きにしてもだ。今いる場所はウルス族の本拠地から100キロは離れている只の採掘拠点で、人数もたったの3人しかいない。シズやエイリンともう一人鍛治師兼彫金師の...
「わかっているわ。そろそろあっちも終わって──」
「すまぬ、遅くなったがこっちも終わったぞ。全く
「はいはいお喋りはここまで、でどうだった?」
「此奴の武器から璃璃粒子は一切感じられんかった。こうなっては他の鋼糸と変わらん」
「ありがと。だそうよ......八?」
...何この人こんなに怖かったっけ?
永琳に話を振られたとき、俺は全く関係ないそんなことを考えていた。
急に入って来たと思ったららそのまま永琳と話だしたこの女性こそ、(たしか)ウルス唯一の鍛治師だ。そのイメージはどちらかというと無口な鍛治屋で、決してこんなに早口ではなかったはず
そして何よりこれだけ感情がこもった抑揚ある会話?にも関わらず殆ど表情に変化がない。お面でも...と思ったが口は動くし瞬きもしている。でも目はハイライトオフ。しかもすこし考えて見れば永琳は400歳ごえの人外だしシズも人形みたいに一切動かない...っというか瞬きもしてないんじゃないか?
いや、落ち着け諸葛八
怖くなるのは其れが未知であるからだ。未だ知らずと書いて未知。なら認知し既知となれば怖く無くなるのは道理。そう彼女達はそういう性格であり何も問題はない。QED証明完了。
「...でなんだっけ?」
話を聞いていなかったわけではない。ただ他のことに気を取られて聞き流していただけだ。俺は悪くない」
「言い訳は以上?」
「諸葛...全部声に出てる...」
「たしかにエイリンが怒るのも...まぁ分からんではないな」
えーと...
.........
「...とまぁそういうわけで、貴方は璃璃色金と細胞レベルで融合したというわけ」
エイリンの話は驚くべき内容だった。色金を使うたびに精神が汚染されていく感覚はあったがいつのまにか乗っ取られているとは...
ありえない、と一笑できればどれだけ良かったか
人類初の外科なしでの色金との自然融合。
髪色は黒のままだがアイデンティティであるアホ毛と瞳は青みがかった瑠璃色に変化した。因みに残念ながら腐ったような目は健在だ。
さよなら人間の俺、ようこそ化け物の俺。
「悪いけど完全に融合するとは私も思ってなかったわ。ましてやこんなに早く...まだ6年よ。よほど好かれているのね璃璃神に」
「身体に取り付くなんてストーカーもいいとこだけどな。日本じゃストーカー規制法ってのがあってだな」
「そもそも法なんてその国ごとに違うし何より人が作ったものよ。法の下の平等に神は含まれない、そうよね?」
「パワハラかよ...」
「ハラスメントなんて受けても問題、知ったことないわ」
なんという屁理屈
それにしても、とエイリンを見る
...
......
この歳でここまで侵入できたのは褒めてあげる。でもレキに手を出したのなら楽には殺してあげないわ
...
......
お前が...お前のような部外者にあの娘はやれない
...
......
誓いなさい、今後二度とウルスに関わらないと。それを以って藍幇との停戦条約を
...
......
貴方には手を引いてもらいたいのよ
──もし断ったら?
この場で殺すわ
...
......
貴方のその考え、全て否定してあげるわ
──お前のその思想を変えてやる
...
......
うん、思い返してみてもこいつと楽しくお喋りなんて一度もなかったな、そういう意味では変化も悪くない...のか?
「なにジロジロみてるの?死にたいのかしら?そう、死にたいのね、安心して一瞬だから。楽に殺してあげる」
「まてまてまてまてっ」
前言撤回、永琳はエイリンのままだ。普通に怖いから注射器を何本も持ってこっちにこないで!おくしゅりしゅごいーー!ってなるから。おっとこれ以上は性癖がry
「ふふっ冗談も済んだし今後の話を伝えるわ」
お互いに軽く咳払いをし、砕けた雰囲気から真面目な雰囲気になったところで再び本題だ
「ウルス族は諸葛八に対し正式に求婚を申し上げます」
...は?
「ご存知の通りウルス族には男が絶え外部から来ていただく必要があります。これに対し所定の条件を満たした男性として諸葛八様が該当したというわけです」
「ちょっまっ」
「尚ウルス族は一夫多妻制ですのでレキを始めそこにいるシズ達やアリサ、シノンなどの若い女性がよりどりみどりとなっています。勿論私もウェルカムですよ。ここまでで何か質問は?」
「あ」
「あ?」
「ありまくりだっーー!!!」
八幡は実はモテていた模様