ぼっちな武偵   作:キリメ

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極東戦役〜大陸編〜
33.新たな脅威


文化祭での一件から二ヶ月、1季節は完全に冬になりシロは囲炉裏で丸くなっている。俺はといえばパトラとの交渉や武器の調整、少林寺本山に修行に行くなど割と忙しかった。

 

その間に極東戦役の戦局も大きく動き、日本では眷属のヒルダや無所属だったリバティーメイソン、GⅢリーグが師団になり極東における眷属は藍幇のみとなった。

 

シャーロックの一件でもまだ、キンジを格下と見ていた連中もここへきてようやくその存在価値に気がつき始めたらしい。

 

そこで香港藍幇はキンジの拉致または戦闘不能にするプランを解放。藍幇の存在感を広げる絶好の機会である。ちょうどキンジが一般高校に転校したとの情報から、バスカービルとの正面対決も避けられそうだ。

一方で実家通いとなったことにより、何故か居候しているらしいGⅢ(ジサード)GⅣ(かなめ)が障害となった。その結果この二人を引き離すため待機中の夜蜘蛛が出撃することになり、俺も再び日本に行くことになるはずだったのだが......

 

 

 

 

 

 

 

 

───上海某所────

 

「忙しい中よく集まってくれた。本作戦部隊の隊長を務める上海藍幇所属 尉遅槍徳(ウッチ ソウトク) 武上校だ。そして」

 

「副隊長を務める香港藍幇所属 諸葛八 武小校です」

 

「香港だと?」「諸葛って確か...」「なんでこの作戦に」「あんな若造が?」────

 

俺の挨拶とともに部屋が騒つく。それも当然、ここ上海に香港から援軍が来ることなど殆どなく、しかも部下ではなく副隊長としてなど前例がない。因みに曹操達は一応上海から香港に出向扱いなので、戻ってもこうはならないだろう。

 

「静かにせんか!みっともない。今回のウルス遠征は講和以降初の公式作戦である。その意味を忘れるな!」

 

「「「リィァ」」」

 

一喝

 

それだけで場に緊張感が漂う。俺と10歳程度しか違わないはずだが、このカリスマ性は方向性こそ違うが諸葛静幻に通ずるものがある。

 

「さて、改めて作戦概要を伝える。副隊長」

 

はっ!と返事をし、スクリーンを起動する。

 

「ウルス族はモンゴルの遊牧民の一つでありながら、これまで旧ソ連寄りではありつつもどちらとも密接な関係を持たず武力による中立を保ってきた集団だ。

しかし最近KGB(国家保安委員会)の一部がとある研究にウルスのある金属に目をつけたとの情報が入った。

俺たちの任務はKGB部隊の暗殺。敵の敵は味方というが、ロシアだけではなくウルスも敵であることを忘れてはならない。また、国際関係上中露の友好関係は保つ必要があるため、失敗はそのまま死に繋がる。留意するように」

 

色金は藍幇でも上位機密の一つであるためぼかして伝えた。相手が奪う前にこちらが色金を奪えばいいとも思うが、藍幇の緋緋色金とウルスの璃璃色金は非常に仲が悪い。研究のため俺が少量所持いているが、それはあくまで契約によるもの。あれはウルスが管理している方がこちらとしても有難いというのも上層部の見解だ。

 

「では作戦を伝える。襲撃地点はアルタイ山脈南西地点。ウルス族がいると思われる地点に最も近い都市アルタイからならこの2ルートのどちらか、もしくは別れて移動する可能性が非常に高い。

また現在確認している敵戦力だが狙撃手3名を含む計12名。異能、ネームドは確認されていない。これに対しこちらの戦力は4名×2班の計8名と支援班3名。両ルートに網を張るため、場合によっては3倍の戦力差での戦闘も起こりうる。

それと各ポイントまでは防弾仕様のバギーで移動する。その後一時的に1キロ離れた場所に移動させるがをバギーには試作人工知能HALOを搭載するため、何かあれば衛星通信で呼び出すように。詳細は手元資料を見てくれ。以上だ」

 

 

 

 

 

 

モンゴル南西部に位置するアルタイ山脈に到着し野営すること6日。予定ではそろそろ現地入りしてもおかしくない頃合いだ。部下は知らないが実はこの場所、ウルス族の本拠地は見当違いの場所にある。だがその場所に行くにはウルス族の女を連れているという特殊な条件がある。この場所はそのウルス族の外の拠点の一つなのだ。

 

......

 

『所属不明の車1台α地点から確認、α班これより襲撃準備に入る』

 

「副隊長、前方1キロより報告にない民間車両1台を確認しました」

 

『...こちらβ、同じく所属不明の車一台を確認、予定通り敵と確認でき次第各個撃破で問題ないか?』

 

『こちらα、問題ない。武運を』

 

『了解...「よし、各ポイントに一台づつ所属不明車が確認された。作戦通り各個撃破に当たるぞ」

 

 

 

 

「対象車両目視」

 

「β4...撃て」

 

プシュッ

 

静かに放たれた狙撃弾は、車の左前輪に命中したがパンクすることなく弾かれた。

 

「あのタイヤ、民間用に偽装してますが防弾仕様です。おそらくフレームも同じでしょう」

 

「よし、なら直接乗り込むぞ」

 

「「「了解」」」

 

.........3...2...1...「go!」

 

───ッババババババッ!

 

敵性車両への発砲音とともにフロントガラスに多数の蜘蛛の巣ができ、方向感覚を失ったのか大きく右に逸れたかと思うとたまたまあった大きめの岩に衝突した。

 

シュババババババッ!バババババッ!

 

奇襲が成功し混乱とともと車から降りた敵と車を挟んでの射撃戦へと状況は動いた。

 

「副隊長、自分が先陣を切ります。援護を」

 

「なっおい待てっ」

 

部下の一人が射撃戦をやめ、側面からの接近戦を仕掛けようと動く。たしかに俺たちは奇襲部隊で気配を消すことにたけているから見つかる心配はない。だが数的不利の状況でさらに一人抜けられると、こちらの負担が大きすぎる。

 

「チッβ3を援護する。気取られるなよ」

 

ッバババババッ!ババババババッバババッ!

 

 

しばらくすると向こうからの発砲が完全に止まった。無事殲滅することに成功したらしいが...

 

ここでその点について攻めるのは士気に響くな。今回限りの部下だろうし、変に確執を作って上に睨まれる方が厄介だ。

 

そう考えた俺は、傷なく戻ってきた部下によくやったとだけ声をかけ、撤収作業に入るよう命令した。

 

.........

 

 

「案外あっけないものですね。この分じゃ香港から来る必要はなかったのではないですか?」

 

作戦が成功し撤収作業も片付き気が緩んだのか、少し馬鹿にしたような口調でさっき先行した部下が話しかけてきた。たしかにここにいる3人より俺の方が年下だ。それに上官とはいえ諸葛がトップになって以来《口先香港》と上海藍幇から揶揄されたりしていることも馬鹿にされる原因なんだろう。

 

「はぁ...油断するな。ここはウルス族の目の前でもある。いつ向こうから攻めて来るかわからない以上、一定の戦力はあってしかるべきだ」

 

もめたくない。もめたくない。と心の中で叫びつつ、淡々と必要なことだけを述べる。だってめんどくさいし上への心象が悪くなる。部下の管理もできず、挑発に弱い上官など上は必要としない。せいぜい武大尉...小校あたりだろう。

 

それにしてもたしかに妙だ。何か見落としているような気持ちの悪い感覚が拭えない。こいつの言う通り特例を認めてまで俺が呼ばれるまでもない......いや、俺を呼ぶ必要があったのか?

 

「ん?なんだこれ?」

 

「どーした?」

 

「ほら、死んだこいつらの左目、義眼じゃないか?」

 

...義眼?

 

「おいおいマッドアイじゃあるましそんなことあるはずないだろ」

 

「いやだけどもよ」

 

「ちょっと見せてくれ」

 

「ちょっ副隊長!?」

 

部下を押しのけ左目を見る。たしかに義眼だ。

 

「これは...録画機器だ。しかもリアルタイムで転送してやがる」

 

目をくりぬいた時点でコレは使い物にならないだろうが...マスクをしているとはいえ、バッチリ撮られたな。

 

「今すぐすべての眼を潰すんだ。それとほかにも何か仕掛けられていないか確認してくれ」

 

「...了解」

 

 

 

「終わったか?なら今すぐここから撤収するぞ。場所が割れた以上長居は無用だ」

 

その時どこか遠くから見られている感覚、狙撃される感覚がはしる

 

「副隊長!前方から車両1台をかくに「総員伏せろ!」」

 

プシュ!ボスッ!

 

次の瞬間二発の銃弾が部下達を襲った。俺への一発は伏せたお陰で近くの雪に着弾したが、もう一発が観測者にあたり倒された。

 

「ちっ『こちらβ、敵増援を確認。数不明、応援頼む!』

 

......。応答がない。

 

『こちらβ!敵増援を確認。至急応援頼む!』

 

......。

 

通信が繋がらない。通信妨害がそれとも...

 

「くそっβ3、後退してα地点へ向かってくれ。β4、敵狙撃手への牽制狙撃を頼む。俺は接近する一台を迎え撃つ」

 

「了解ッ!」

 

「副隊長!自分も行けます!」

 

「やめろ。お前はα班と合流することを一番に考えろ。ここで全滅したらこの作戦そのものが破綻するぞ」

 

「しかしっ!」

 

「お前もその歳なら伝令の重要さも危険さも理解しているはずだ。これ以上時間をかけさせるな。俺だってあんな敵相手にしたくねーが、生存率で行くなら俺が一番高い。いいな!」

 

「...了解」

 

さて、と近づいてくるであろう車の方向を見つめる。明らかに俺に向かって向けられる殺気を前に、フェイスマスクを少しずらし額の脂汗を拭う。

 

こんな感覚になるのは何年振りだろうか。シャーロックとやりあった時は殺気とは別物だったし...

 

これ以上仮とはいえ部下を死なせるわけにはいかない。

 

 

───何が何でも倒させてもらうぞ

 

 

 

 


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