遅くなってしまいすみません。
文化祭も2日目にはいり...というか2日しかないから最終日なんだが、まぁとにかく、このイベントは初日以上の盛り上がりを見せていた。その盛り上がりに一役かっているのが外部からのバンドメンバーの参加だろう。
総武高校でバンドを組んでいる人たちだけでなく近くの私立、国立大学の有志バンド、さらにはジャガーなどそれなりに知名度のある地元アーティストも参加している。
そして今そのバンド会場は最高の盛り上がりを見せていた。その中心にいるのは雪ノ下陽乃。その圧倒的な美貌とカリスマのせいか此処が一瞬コンサートホールかと思えたくらいだ。
さらには雪ノ下家の次期当主がこれでいいのだろうかとすら思えてくる。似たような境遇であろう星伽ではかなり閉鎖的でそれもどうかと思うし、もう少し普通でもいいのではないだろうか?俺があれこれいうことでもないけど。
さて、その雪ノ下陽乃たちの演奏も終わり、残るバンドも二組となった。この時間になると文化祭実行委員が慌ただしく動き出す。残念なことにエンディングセレモニーが予定通り行われることはない。年に一度の文化祭を壊すような真似をして申し訳ないと思いつつ、陽乃さんの演奏を一番後ろの二回席から見ていた雪ノ下雪乃が人気のない場所にいくのを待つ。
実のところシロを餌にするつもりはなかっただったが最初の計画が全てうまくいくことはほぼない。いつだって不確定要素が邪魔をする。今回だと雪ノ下が文化祭実行委員長ではなく副委員長だったことにより誤差を修正することになった。委員長であればいくつかのデータを盗み雪ノ下を呼びつけ拘束した後、陽乃さんが葉山を体育館から追い出し俺が呼び出す予定だった。まぁ過去の計画についてあれこれ言うのはこれくらいしよう。
俺は今屋上に一人の女子生徒と一緒にいる。その女子生徒の名は相模南。雪ノ下に変わって文化祭実行委員長になったものの途中でその役職を放棄していた。しかもありがたいことに委員長しか知らないデータを持ってだ。詳しい理由はわからないし興味もないがこれを利用しない理由もない。
「あ、あんたは誰?」
全身黒ずくめの男を手足を拘束された状況下でよく質問できたものだと思いながら相模の方を見る。目が合うと小さく悲鳴をあげたものの目をそらそうともしない。これはあれだな、度胸とかそう言うのじゃなくて自分は人質だろうから殺されないとかすぐに警察がなんとかすると思っているタイプだな。そういう打算的な考えが委員長を引き受けた原因にありそうなんだが...
と、そんなことを考えながら目を逸らし陽乃さんや葉山のいる体育館に視線を向けた。
side 雪ノ下陽乃
私は自分たちの演奏が終わり知り合いのメンバーと解散したあと雪乃ちゃんの元へ向かった。あの子のことだから私と会おうとはしないだろうけど副委員長という肩書きからは逃れられないからいやでも舞台裏に来るだろう。
機材を仕舞い舞台裏に戻ると案の定雪乃ちゃんがいた。少し立て込んでるのか静ちゃんと何やら話してるようだけど関係ないよね。
「やっはろ〜、雪乃ちゃん」
「...姉さん」
「陽乃か、久しぶりだな」
「まぁね卒業してから合う機会なんてなかったしねー。それでどうしたの?大変そうだけど」
「別に...なんでもないわ」
「ふう〜ん。で、どしたの静ちゃん?」
少し圧を込めて再度問いかける。もちろん笑顔のままで。
「はぁ、実はな...」
要は文化祭実行委員長が行方不明と。それと同時にいくつかの集計結果を持ってるせいで閉会式ができないかもしれないと。
ここで考えられる予想は二つ。一つは職務放棄。そしてもう一つが拉致。拉致だったら八幡だと思うし...
全く...雪乃ちゃんを使って何かするくらいしか知らさせてないこっちの身にもなって欲しいよ。
「...探しに行くわ」
「まて雪ノ下。君までいなくなったら困る」
「でも話聞いてると雪乃ちゃんが原因の部分もありそうだしいった方がいいんじゃない?」
「陽乃...しかしだな」
「大丈夫だって。いざとなったら私がなんとかするから」
ニコッと笑いかけると二人とも引きつったような表情になる。此奴ならやりかねないと思われているんだろうけど...まっどっちでもいいや
「だが雪ノ下1人で探すのには無理があるんじゃないのか?」
「大丈夫だって。雪乃ちゃんなら...ね」
その一言だけで何を言ってるのか分かってくれたのか雪乃ちゃんの表情が曇る。
「私は姉さんとは違うわ...」
「できないと言わなくなったあたり成長したのかな?比企谷くんのおかげ?」
「っ姉さん!」
「いい加減にしたまえ。ただでさえ時間がないんだ。雪ノ下に手があるなら任せるしかないが...本当に大丈夫か?」
「...わかりました。できる限り頑張ります」
そういうと私と目を合わせることなく裏口から出ていった。
「...嫌われてるな」
「愛情の裏返しじゃない?」
「はぁ、雪ノ下が雪ノ下なら君も君だな」
失礼なことをいう。私の、雪ノ下のなにがわかるというのだろうか。静ちゃんには感謝してるけどあんまり触れて欲しくないかな。
そんなことを考えていると隼人たちの演奏も終わったのか舞台裏に戻ってきた。全体を見てここに漂う緊張感を感じ取ったのか私たちの方に近づいてくる。
「何かあったんですか」
「まぁね。相模ちゃん関連って言ったらわかる?」
その一言で状況を察したのだろう。顔が強張る。
「委員長ちゃんを探しに雪乃ちゃんはいったけど、隼人も探しに行くよね?」
「陽乃さん...俺は...」
「本来なら雪乃ちゃんが過労で倒れた時点で潰しても良かったんだけど、それをしなかった私の思いを隼人ならわかってくれるよね?」
まだ挽回できるチャンスがあるととれる言葉。しかし雪ノ下陽乃はただチャンスを与えるだけの女神などではない。これは遠回しな最終警告なのだ。相模だけでなく葉山隼人、ひいてはその関係者をもためらいなく潰す。それが雪ノ下陽乃である。
「わかりました。先生、あとはお願いします」
「任したまえ」
隼人も裏口から出て行く。このバンドが終わると閉会式だ。さてどうしてやろうか。