ぼっちな武偵   作:キリメ

29 / 41
今回はつなぎ回です。ほのぼのしてるかは捉え方次第です。

再会の会話の全文になります。期間が空いたため矛盾点なども出てると思いますが...


26.陽乃との約束

夏休みが終わるといよいよ文化祭のシーズンだ。武偵高でも変装食堂とかいうコスプレ喫茶を二年はしなければならない。まぁそれは東京武偵高の生徒だけだけどな。

 

 

 

雪ノ下陽乃と話をした次の日──水投げの日でもあった──俺は東京武偵高に転入して半年ということで、アメリカのロサンゼルス武偵高への転入を教務科に申請した。かなり急な話だったこともあり手続きが終わるのは10月下旬になるが、行くのは10月からでいいらしく、すでに俺はロスについている。とは言ってもロスでは手続きだけ終わらせて直ぐに香港、日本へと戻る。

 

俺が転校することを知っているのはキンジと理子。あとは一色ぐらいだ。レキとはあれからまともに話していない。キンジ達には、日本に来た理由は海外経験の一つという説明ぐらいしかしていないが、理解はしたようだ。因みに一色とは、アミカ契約は一年だからあと半年はメールなどのやりとりはするという約束で話がついた。

 

そんなこんなで香港に戻って来た俺は、義父にこれまでの流れを直接話している。普段は盗聴の危険性から詳しい話はできないため、自然と口数が多くなる。それに堅苦しい言葉を使う必要がないのも楽だな。

 

 

「──それで雪ノ下家の件だけど、小町さんとあれから何かあったかい?」

 

「いや、特に何も。ただ雪ノ下陽乃とはジャックの件で一度だけ」

 

「たしかその辺りの話は軽く報告を受けただけだったね」

 

「全部話したらそれなりに長くなると思うけどいい?」

 

「勿論。どうせなら久しぶりにチェスでもしようか。甘いコーヒーでも飲みながら...ね」

 

少ししてコーヒーとチェスボードが運ばれてきた。香港では最近紅茶だけではなく、甘いコーヒーを飲む習慣も出てきた。その元をだどっていけば俺がMAXコーヒーを取り寄せたことが原因だ。ただMAXコーヒーはかなりの合成甘味料が使われているため、藍幇の食品部門が一日の摂取量を制限している。

 

因みに食品部門とは生産、流通に分かれており、毎日安心安全な食材を提供してくれる。藍幇の組織力、半端ないです。

 

「さて、それじゃあ話してくれるかな」コトッ

 

「話すっていっても結構忘れてる気がするけど...確か...」コトッ

 

 

...

 

......

 

.........

 

 

 

 

 

確かあのとき雪ノ下陽乃以外に小町たち3人がいたんだよな。話の流れから絶対他言無用ということで話し始めようとしたんだが──

 

「まずは俺の本名から...。いや、でも本名か?比企谷も一応本名だし。むしろ仮名としていったほうが...いや、それだと厨二くさいしな...」ブツブツ

 

本末転倒だが、やっぱり第三者がいる前でむやみやたらに話すと藍幇にどんな影響が出るかわからない。それに話さないといっても、人間である以上漏らしてしまう可能性もある。かといってやっぱり出ていけと俺から言うわけにもいかない。そんなこんなでどうしようか悩んでいた。

 

「ごめん、みんな。今日はもう帰ってくれる?私はこいつを今から殴らないといけない気がするの」

 

「え...え?」

 

「はぁ。陽乃さん、それはさすがにないでしょ。口約束とは言え他言しないといった上でお預けって...。でもまあ、この感じだと話しにくいのも事実ですよね。ジャーナリストなのには変わらないのだし」

 

「ごめん、ひばり。この埋め合わせは必ずするから。精神的に。」

 

「はいはいわかったわよ。それにどうせ取引内容の時は出て行く約束だったしね。でも陽乃、今回の件は私のジャーナリズムに反してること、本当に特例だってこと忘れないでよね」

 

「それはわかってる。今日はありがと、小町ちゃんも...ね?」

 

「え、でも聞いていいって言ってたんじゃ」

 

「八幡はね。でもやっぱり話しにくいだろうし、あったばかりで冷静に聞けないでしょ?後で話の内容はできるだけ話してあげるから」

 

「うー...わかりました。確かに小町もワガママでした。でもちゃんと話してくださいよ」

 

「わかったわかったから」

 

「ほら小町ちゃん、行くよ」

 

「はーい」

 

2人が席を立ち、若干名残惜しそうにしながらも立ち去っていった。

 

「...姉さん、私もかしら」

 

「ごめんねー。雪ノ下に関わらせないってわけじゃないんだよ。でもね、はっきりいってここからは足手まといなの。雪乃ちゃんがきたのはニャンニャンショーがあったからだけ。久しぶりに一緒に出かけたのは楽しかったけどね」

 

「...姉さん」

 

「小町ちゃんも八幡に合わせるために呼んだだけだからこれ以上は別にいなくてもいいし、ひばりも同じ感じ」

 

「...本当に変わってしまったのね。前はあれだけ優しかったのに...」

 

「ふーん。そんなこと言うんだ。何も知らないくせに」

 

「何も知らされないだけよ」

 

「そこまでにしてください」

 

「...なに?なにが?」

 

「すまんが雪ノ下。ここは2人にしてもらえないか」

 

「...ええ。わかったわ。それじゃあ...」

 

雪ノ下雪乃が立ち去ると再び絶界に覆われた。

 

「陽乃さん、人払いすみません」

 

「それは別にいいよ。さっき言った通りだし」

 

そうなのかもしれない。だが、それ以上に雪ノ下雪乃に対して自ら悪役になろうとしている。それが雪ノ下家にどう影響するのかわからないが。もしかしたらお互いの距離がわからなくなったのかもしれないな。陽乃さんは次期当主として育てられた。一方で雪乃は葉山家と雪ノ下家の問題に巻き込まれ、腫れ物扱いされている節がある。

 

だがそれを俺からいうのは違う。これは両家の問題なのだ。だから俺は、俺からはなにもつっこまない。

 

「とりあえず話しますか」

 

「ちょっと待って...はい」

 

そう言って陽乃さんは人型の紙を机の上に置いた。

 

「なんですか、これは」

 

「嘘発見器みたいなのかな。私1人だと君の嘘を見抜けないかもしれないからね。これは嘘をついたら紙が黒くなる。勿論黙秘は可能だらか、言いたくないことは言わなくていい。だから嘘はつかないで」

 

「はぁ、わかりましたよ。じゃあ改めて諸葛八幡です」

 

「武偵高以外に所属している組織は」

 

「藍幇」

 

「...藍幇。確か香港の最大手マフィアだったと思うけど...なんの目的で日本に来たの」

 

「ある人物の監視」

 

「その目的はなに」

 

「黙秘で」

 

「その人物は政府の人間?」

 

「黙秘で」

 

「じゃあ雪ノ下家になにをするつもり」

 

「なにも。あんたと出会ったのはあの時の依頼がきっかけでしかない」

 

紙は相変わらず白いままだ

 

「...ここ日本でなにをするつもり」

 

「ある人物の監視」

 

「それ以外には」

 

「観光」

 

「日本でのスパイ行為以外に犯罪を犯したことは?起こすつもりは?」

 

「黙秘する」

 

「小町ちゃんと仕事どっちが大切?」

 

「...黙秘で」

 

「なんで藍幇に入ったの?」

 

「...黙秘で。それとこれ以上話せることもなさそうだからおわりで」

 

「じゃあ最後に、いまの環境に後悔してる?」

 

「いえ」

 

結局紙は白いままだった。

 

 

「それでそちらのもう一つの依頼はなんですか?」

 

「最初に言っておくわ。これを受けるかどうかは君に任せる。勿論受けてくれるなら最大限の支援はするわ」

 

「そうですか」

 

「依頼は...葉山隼人の能力を解放してほしい」

 

「どうやって?」

 

「今度文化祭があるんだけど、多分雪乃ちゃんは実行委員長になる。そこで君には文化祭でテロを起こしてほしいわけ」

 

「...テロ?」

 

「具体的には雪乃ちゃんを拉致し、隼人が助けるシチュエーションを作ってほしいわけ」

 

「それをするメリットがないですね。それに個人的な理由で一般人を巻き込んでいいんですか」

 

この後、新幹線ジャックを指揮する1人の発言とは思えないが、まだそのことを雪ノ下陽乃は知らない。

 

「国防のためなら多少の被害は仕方ないでしょ?それも隼人次第なんだけど。隼人の事情は本人から聞いたよね?そう聞いてるんだけど」

 

「俺が雪ノ下のために動くとでも?」

 

「ううん、思わないね。だから取引だよ。既に第三者はここにいないから別の要求をしてくれていい。あの子達が話さないことは約束する」

 

「ちなみにそれをした場合、俺たち存在を隠蔽できるんですか?雪ノ下家を含めて」

 

「可能性のある人材育成のためなら多少の融通はきくし、与党にもそれなりの発言力はある」

 

...

 

メリットはないこともない。この件をダシに、俺の関わる国内での犯罪行為を全て隠蔽するよう要求することもできる。一方でデメリットもある。隠蔽するとしても、一部の人間に俺の情報は渡るだろう。最悪、0課が出てくることもないことはない。それに、新たな戦力確保に手を貸すのは、対立組織としてどうかと言われそうだ。

 

となると、あとは俺がどうしたいかだ。これに関しては既に答えは出ている。親の一存で振り回される子供は見たくないし、生み出したくない。だが、もしここで俺が動かなくても、いずれ同じような人間を見つけて、実行するんだろう。そして失敗したら葉山も雪ノ下もまた苦しむ。

 

そのために他の人を傷つけるのか?

 

さっきの言葉が自分に問いかける。でも俺の答えは決まっている。

 

 

──他の人とか知らねーし。今知っている人をどうしたいか、それだけの理由でも動く理由にはなる。全て上手くいく方法などないのだから。

 

驕りでもいい。自意識過剰でもいい。それでも2人の境遇を少しでも知っている俺なら、ここから解放できるかもしれない。

 

「わかった。その依頼を受けることにする」

 

「!?」

 

「そしてこちらからの要求は2つだが、1つはさっきの言った小町の安全と情報秘匿。2つ目が実行日までの犯罪行為の黙認、隠蔽。そして不逮捕特権」

 

「...分かったわ。それで詳しい内容だけど...」

 

そこで雪ノ下陽乃か提示してきた内容をまとめると以下の通りだ。

 

1.一般人への過度な攻撃の禁止。但し、威嚇などで擦り傷などを負わせるのは許容する。

 

2.武偵、警察への後遺症の残る攻撃の禁止。

 

3.葉山隼人が覚醒しなくても依頼は完遂したものとする。また、その判断は本人に委ねる。

 

4.器物破損の補填費用は日本政府側が受け持つ。

 

5.諸葛八幡以外の人間を使用する場合、不逮捕特権はないものとする。但し上記の規則には従うものとする。

 

6.作戦実行日は文化祭2日目とする。

 

他にも細かい取り決めをしたが割愛。

 

 

.........

 

......

 

...

 

 

 

 

 

「とまぁこんな感じだな」コトッ

 

「なるほど...そんな背景があったとはね。でもあまり熱を入れすぎないようにしなさい」コトッ

 

「まぁ大丈夫だろ。それより殻金の解析が終わったらパトラのとこに一回持っていくわ」コトッ

 

「彼女には鍵の件があったからね。よろしく伝えといてくれるかな」コトッ

 

「はいよっと。チェック」コトッ

 

「...ないな。降参だ。あのタイミングでのキャスリングターンは予想してなかったよ」

 

「俺も話しながら思いついたんだよ。これでチェスは12勝68敗か。まだまだ先は長いな」

 

「それでも最近は全体をよく見れてると思うよ。囲碁や将棋、麻雀や人生ゲームをやってきた成果かな」

 

「そうかもな」

 

「そういえば人材はどうするんだい。何人か送れるけど」

 

「じゃあ俺の部隊を借りてもいいか?別の任務でいないならいいけど」

 

「夜蜘蛛はいまベトナムにいるけど、宣戦会議も終わったからそろそろ帰ってくるんじゃないかな。その時はウルス方面に一緒に行ってもらうけど...まぁ数日なら空いてると思うね。ただ奈落が許してくれるかなぁ」

 

「なにあいつまだ怒ってるの?」

 

「それはそうでしょう。何と言ってもいきなり部隊を抜けていなくなったんですから」

 

「イ・ウー潜入やら曹操姉妹の教育係に任命されたからなー。あー誰がいったんだろーなー」

 

「八幡?」

 

「嘘です、ごめんなさい」

 

「まったく...冗談は目だけにしなさい」

 

「それ、育て親が言うことじゃないだろ」

 

「まぁまぁ冗談はさておき夜蜘蛛を使うなら奈落としっかり話してくださいね。さて、時間も時間ですし食事にしましょう」

 

「やだなーほんとに...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これからオリキャラ(メインではない)が少しづつ増えるかもしれないです。展開がオリジナルなので。



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告