ぼっちな武偵   作:キリメ

27 / 41
今回はキンジ視点ということもあり原作引用も多くあります。文字数稼ぎではありませんが、多くなってしまったので途中で分けました。
もちろんオリジナル設定もあるのでそのままではないですが。
楽しんでいければ幸いです。


極東戦役〜島国編〜
24.宣戦会議


 

遠山キンジ殿

 

10月1日 夜0時

空き地島南端 曲がり角の風車の下にて待つ

武装の上 一人で来るように

 

ジャンヌ・ダルクより

 

 

 

 

...なんだこれ。

 

下駄箱に入っていた純白の封筒の中を巡回バスの中で開ける手紙の裏側に日本語で書いてあった。ちなみに表側にはフランス語で、しかもかなり綺麗な筆記体で書いてあった。

 

不審に思ってバスを降りてすぐにジャンヌに電話したが詳細を語らず電話を切られてしまった。

 

あまり乗り気はしなかったが、ジャンヌの態度に引っかかるものがあった俺は2馬力の小型モーターボートを借りて空き地島南端へと渡った。

 

その人口浮島は暗い上に、濃霧に覆われていた。不明瞭な視界の左右には、東西に整然と並ぶ風車の柱が続いている。

 

「遠山、こっちだ」

 

掛けられた声に振り向くと少し離れた所に、白銀の鎧を着たジャンヌが立っていた。

魔剣・デュランダルの切っ先をまっすぐ地面に突き、端麗な顔にも緊張感が見える。

 

「何だ。こんな所に、夜遅く呼び出して」

 

ジャンヌに聞くのと同時に同じく少し離れた所に見知った顔がいる。アリアのアミカ、間宮あかりだ。

 

「おいジャンヌ、なぜこいつが此処にいるんだ?」

 

「彼女は推薦枠だ」

 

ジャンヌだけが俺に近づき答える。

 

「推薦枠?なおさらわからん。なんでこんな場所に集まった?何が目的だ」

 

「詳しいことはもうすぐわかる。簡単に言うとイ・ウーの残党の殆どが今此処に集まる」

 

「イ・ウー...だと?あれは崩壊したはずだ。それにもう俺はこの件に関わりたくない」

 

「それは無理だ。そもそも全ての原因はお前にあるのだぞ」

 

「俺に?」

 

「シャーロックを倒しただろう」

 

「...わかった。100歩下がって俺が原因だとしよう。それとこいつはどう関係するんだ?まさかこいつまでイ・ウーのメンバーとか言うつもりじゃないだろうな」

 

「遠山、話を聞いていたか?彼女は推薦枠だと。イ・ウーのメンバーの一人に招待されたと言うわけだ」

 

「ジャンヌ先輩」

 

「ん?どうした」

 

俺たちの様子を見ていた間宮がしびれを切らしたようにして近づいてきた

 

「少しだけ二人で話させてもらえませんか」

 

「ふむ...0時まで残り五分といったところか...少しだけだぞ。それとあまり大きな声は出すな、誰に聞かれているかわからないからな」

 

「ありがとうございます」

 

俺の意見は聞かないのかよ。まぁ俺も言いたいことはあるけどさ

 

 

「アリア先輩とチームを組んだそうですね」

 

「そうだ。悪いがチームから抜けろとか言うのだったら」

 

「私たちのチームをバスカービルの傘下に入れてください」

 

「断るぞ...って、は?」

 

何をいってるんだこいつは

 

「そもそもチームは二年で結成するのにお前らにチームがあるのか?まさかいつものメンバーがそうだとか言わないだろうな」

 

「そのまさかですよ、遠山先輩。ジャンヌ先輩に言われて私たちもチームを結成したんです。でも私たちは弱いからバスカービルと、アリア先輩たちと一緒に戦うことにしたんです」

 

「俺がこの場に来たのはジャンヌに呼ばれたからだ。そういうことならアリアに直接言え」

 

「バスカービルのリーダーは遠山先輩ってアリア先輩がいってましたから」

 

「あれはあいつがポジションの関係でそうしただけであってだな」

 

「とにかく!所属する組織を決めるのは遠山先輩にお任せします。ただできればでいいですが死神とは違う組織にしてください」

 

死神?誰だ?

 

正直言ってそもそも何が起きているかわからないから話についていけてない。だがまぁ此処は先輩として一応承諾しておくか。

 

「...わかった、任せろ。それと、何かあったら守ってやるからお前は自分の思う道を進め」

 

「...はい!」

 

さっきまでの刺し殺すような視線が消えた。よくわからないがとりあえず正解を選んだようだな。

 

「話は済んだか?間も無く0時だ、行くぞ」

 

霧を掻き分けるようにして、4月に俺がぶつけて曲げてしまった風力発電機...武偵高では曲がり風車と揶揄されるその場所に歩いて行く。

 

「ここだ」

 

丁度曲がり風車の真下で止まる。その瞬間

 

───パッ───

 

俺たちを大きく円形に囲むように、複数の強力なライトが灯った。

 

その光に晒された霧に、幾つかの人影がある。だがその姿形が、どれもこれも普通じゃない。

 

装いこそバラバラでコスプレ集団みたいだが...そういうお遊びじゃないという事は本能的に分かる。この鈍感な俺や隣の間宮でさえ。

 

「先日は藍幇の曹操姉妹がお世話になったようで。ご迷惑をおかけしたこと陳謝致します」

 

恭しく俺たちの方にお辞儀してきたのは全身黒づくめの男。顔は黒い仮面のようなマスクで隠されており、その表情は見えない。

 

「嘘つかないで、全てあんたが仕組んだくせに」

 

「何を根拠にそう断言できるのですか?まぁここにきた勇気だけは認めて差し上げましょう」

 

間宮と話している男も気になるが、それよりも上に物がないのに影だけが動いている光景が気になる。

 

その影は次第に集まり人型になったかと思うと、地面から起き上がってきて

 

「お前がリュパン4世と共に、お父様を斃した男か。信じられないわね」

 

よく分からない衣装に全身を包んだ、金髪ツインテールの少女になった。そして背には蝙蝠のような形の大きな翼が生えている。

 

他にも3メートルはある巨人や大剣を背負ったシスター、チビだが魔女みたいな奴らが集まっている。

 

ついにはパトラやカナまで現れた...!

 

防弾ロングコートに、編み上げブーツ───あれはカナが武偵だった頃の戦闘装束だ。

 

集まっているのは明らかに普通じゃない、人外の化け物ばかりだ。そんな場にいるってこととは、俺も──コイツらと同じ『普通じゃない』人間の一人ってことにされちまってんのか

 

「では始めようか。各地の機関・結社・組織の大使たちよ。宣戦会議──イ・ウー崩壊後の、求めるものを巡り、戦い、奪いあう我々の世が──次へ進むために」

 

 

───Go For The Next───

 

 

バラバラに唱和した怪人たちを睨みつけていると最初に話しかけてきた黒仮面の男がこっちを見て苦笑した気がした。なんか腹立つな。それにしてもこいつ、俺以上に周りから見られてる気がするぞ。特に赤と黒のよく分からない服を着た銀髪の弓を持った女性なんか今にも殺しそうな視線を送ってるし。それを軽く流すあの男も異常だ。

 

「おいメーヤ、そんなに和平を望むのか?」

 

そんなことを考えている間にも話しは進んでいたようだ。メーヤとかいう女性を発端に始まった口論に口を挟む感じであの男が声を出した。

 

「ええ、その通りです」

 

「ならバチカンはもちろん中立なんだよな?」

 

「そ、それは」

 

「不思議だよなぁ、バチカンは師団の始祖、この争いの生みの親とも言える組織の片割れだ。それなのにこの争いを避けようなんざ都合が良すぎるんじゃないか?」

 

「いいえ、師団は汚らわしい闇の眷属を伐つための軍団。眷属を全て伐つことでしか真の和平は訪れないということがなぜ分からないのですか」

 

「いや分からないとは言っていない。目的の障害は排除する方が確実だからな。俺が言いたいのは不可能なのにこの場で和平しようぜっていう姿勢がおかしいだろってことだ」

 

「そう熱くなるな。だが「随分と生意気な口をきくようになったのね」...」

 

ジャンヌが話をまとめようとしたところをさっきの弓の女が遮った。あの感じだと二人も知り合いなのか...?

 

「お前を捕まえた時から生意気だとは思っていたけど...あの娘を傷つけたこと、忘れたとは言わせないわよ」

 

「約束した通り俺は手を出してないだろ」

 

「はぁやっぱりあそこが小さいと器も小さいのね」

 

...

 

......

 

沈黙が広がる。

 

あれだけ好き勝手に話していた人全員が急に黙ったため、先ほどの静けさと不安感が戻ってきた。

 

「おい、なんとか言えよ」

 

「あら?私は事実を言ったまでよ」

 

「何が事実だ、六年前のことを引っ張り出してきやがって」

 

「思えばあの時私が殺しておけば...あの娘はこんなに悩むことも苦しむこともなかったのに」

 

「それがあいつにとって幸せだと?それでも育て親か?」

 

一体誰の話をしているんだ...?他の連中もまた同じように思ったのか、次々に連中同士で話し始めた。

 

「私の役目は次の巫女を決めること。あの娘はその才能があったわ。それを...お前が歪めたの。今のあの娘を制御できる人はウルスにはいない」

 

「制御って考えがそもそも違うんだろ。親として送り出してやれよ」

 

「それが...そう、そういうこと。だったら尚更殺すしかないようね。貴方のその考え、全て否定してあげるわ」

 

「俺も同じ考えだよ。お前達のその思想を変えてやる」

 

話しは済んだとばかりに両者一言も話さない。そこでようやくジャンヌが前に出て再び話し始めた。

 

 

時代がかったセリフだが、意味は...わからなくないぞ。俺なりにまとめてみたが、つまりはこういうことだろう。

 

 

一つ、組織同士で戦うが総力戦にしない。

 

一つ、戦いは決闘に準ずるものだが、不意打ち、闇討ち、密偵、奇術の使用、侮辱は許される。

 

組織は強力な戦士のみをだし、そいつらの決闘で勝敗を決める。決闘の回数や代表者の頭数に厳密な規定はなさそうだが、無駄な犠牲、労力を費やす必要がない点、合理的と言ったら合理的だな。

 

一つ、戦いは『師団』と『眷属』のどちらかに所属して戦う。また黙秘、無所属でも許され、宣言後の鞍替えも一応認める。

 

大まかにはこんな感じだろう。間宮が言っていた所属する組織っていうのはこのことだったんだろう。問題は何を基準に決めるか...だな。

 

「まず、私たちにイ・ウー研鑽派残党は『師団』となることを宣言させてもらう。バチカンの聖女は『師団』。魔女連隊のカツェ=グラッセ、それと竜悴公姫・ヒルダは『眷属』。よもや鞍替えはないな」

 

悩んでいる間に宣言が始まった

 

「聞くまでもないでしょうジャンヌ。私は生まれながらにして闇の眷属──『眷属』よ。玉藻、貴方もそうでしょう?」

 

コウモリ少女・ヒルダがさっきから俺の後ろにいたキツネ少女に視線をおくる。

 

「すまんのうヒルダ。儂は今回、『師団』じゃ。今日の星伽は基督教会と盟約があるそうじゃからの」

 

ま、まて。おいキツネ。今星伽って言わなかったか?

 

そして宣言は続いていく。話を聞く感じだとお互い対立関係にあるもの、義理や利害関係で動いているぞ。それにしても...兄さん。あんた...この戦いに参加するつもりなのか。何が狙いなんだ。どっちにつくわけでもなくただ行く先を見届けるだけなのか...それとも...

 

「遠山。『バスカービル』はどっちに付くのだ」

 

「.........?」

 

え、もう俺の番なのか?考えに没頭してたから何も考えてないぞ

 

「い、いや。そもそもなんで俺に降るんだよ、ジャンヌ」

 

「まだわからないのか?この宣戦会議にはお前の一味───『バスカービル』という組織名ができたわけだが、そのリーダーの連盟宣言が不可欠だ」

 

ふざけんなよ!

 

そう叫びたい俺がいる。正直今すぐここから逃げ出したい気分なのに...今、俺には超人たちの視線が集まっている。それだけで身動きが取れない。ありえないくらい緊張している。

 

逃げ出せないなら答えるしかない。どっちだ。考えるんだ、考えろ。ヒントはあったはずだ。

 

(私たちイ・ウー研鑽派残党は『師団』となる...)

 

(今日の星伽は...)

 

(ブラド──私のお父様のカタキ...)

 

バスカービルに白雪がいる時点で師団に付くのが正解なのかもしれない。だがそれでいいのか。師団に付くということはイ・ウーのメンバーと手を結ぶことにならないか。そしてそれはアリアを傷つけることにならないか。

 

(彼女は推薦枠だ)

 

間宮あかりは誰に推薦された。なぜここにきた。ただ推薦されただけでここに来るほど実力差がわからないのバカではない。それはさっきの話で俺たちの傘下に入りたいという発言からもわかる。

 

いや、まて。そもそも推薦されたのならそいつの傘下に入るなり、所属する組織に入ればいいはずだ。それをしなかったということは...そいつとは敵対関係か。

 

そこまで考えて、俺がヒステリア・モードになりかけていることに気がついた。だがこの間に性的興奮をする要素なんて一切なかったぞ。それに...この血流の感じ、せいぜい常人の5倍程度しか出せないし時間も10分持つか持たないかだ。

 

とはいえ、この場でなったことは幸運としか言いようがないな。さっきまでとは違い頭の中が整理できた。最悪逃げることもできるだろう。

 

「バスカービルは『師団』だ」

 

ざわっ

 

一瞬周囲が騒つく

 

「では私たちチームAAも『師団』で」

 

間宮が続いて宣言する。

 

「バスカービルにあの娘が入った時点でこのことは決まっていたのよね...はぁ、私たちウルスは『師団』よ」

 

あの娘がバスカービルに入った...!?俺の知る限りウルスの人間はレキぐらいしか知らないが...そういうことなのか?だとするとさっきまでの話ってレキのことだったのか。だとするとあの男についてレキは知っているということになるが...

 

「我々藍幇は『眷属』。バスカービルやウルスには仕事の邪魔をされた借りがあるからな。さて...あとはお前だけだぞ」

 

その言葉とともに最後の一人らしいピエロみたいなやつが──がしゃん!

 

と、それまで聞いていた音楽プレイヤーを白いイヤホンごと足元に捨てた。

 

「チッ美しくねェ」

 

そう吐き捨てて顔を上げたそいつは...やっぱり...話を聞いてなかったみたいだな。

 

「ケッ──バカバカしいぜ。強ぇ奴が集まるかと思ってきてみりゃ、なんだこりゃ。どいつもこいつも取るに足らねぇ。ムダ足だったぜ」

 

「うるせーぞジーさん。喚くだけなら無所属で帰ったどうだ」

 

「おい、誰がジーさんだ。俺の名はGⅢ(ジサード)だ」

 

「いいや君の名はジーさんだ。ぐっさんでもいいぞ」

 

「てめぇ今すぐ殺すぞ?」

 

「まてGⅢ、ここに集うのは確かに大使。お前の求める様な面々ではないことは認めよう。だがいいのかGⅢ。このまま帰れば、お前は『無所属』となるぞ」

 

「関係ねぇなッ。今日は強そうな奴らが出てきてるみてぇだから様子見にきただけだ。いいか。次は一番強ぇのを連れてこい。それを全殺しにしてやる」

 

ジッ...ジジジッ...

 

な、なんだ。GⅢの体が──文字通り、消えている。まるで、透明人間。

 

「──下賎な男。殺す気も失せる...でも、これで全員済んだ見たいね。そうよね、ジャンヌ?」

 

「...その通りだ。最後に、この闘争は...宣戦会議の地域名を元に名付ける慣習に従い、『極東戦役(Far East WarFare)』──FEWと呼ぶ事と定める。各位の参加に感謝と、武運の祈りを...」

 

「じゃあ、いいのね?」

 

「......?もう、か?」

 

「いいでしょ別に。もう始まったんだもの」

 

「まて。今夜は...ここでは、お前は戦わないと言っていなかったか」

 

なんだ、お前ら。なんの話をしているんだ。

 

なんで...こっちを見てるんだよ。

 

「血を見なかった宣戦会議なんか、過去、無かったというし...ねぇ?」

 

冗談じゃない。このままやられてたまるか。幸い今の俺はいつもとは違う。血流は弱まってきたがこの場から間宮を連れて逃げるくらいならできるはずだ。

 

 

やるってんならやってやるさ

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告