granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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書く書く詐欺でごめんなさい。
アプデで重周回多過ぎてGW中も全然書けず。
個ラン分稼いだので戦場中に書き上げました。

それではお楽しみください。


メインシナリオ 第64幕

 

 

「久方ぶりだな。欠片よ」

 

 

 目の前に現れた見覚えのある顔。

 嘗て自身の手で屠った星晶獣を前にして、セルグは戸惑いを隠せなかった。

 

「星晶獣ナタク……なんでお前が」

 

「ふっ、驚いているようだな。

 そなたのその顔を見れただけでも一興か。長らくそなたの内に眠っていた甲斐があったと言うものだ」

 

 星晶獣だというのに、ヒトに似せて妙に整った顔が感情豊かな様子で笑った。

 それを見てセルグの中に無性に苛立ちが募る。まるで我が子に向けて微笑むような表情は、嘗て死闘の末に自身を屠った相手に向ける様なものではない。

 そしてナタクのその雰囲気はどことなくセルグの母親に酷似しているように感じられた。

 苛立ちを表に出さぬ様、セルグは無表情を装いナタクへと口を開く。

 

「なんで……どうしてお前が出てくる。そもそもオレの内に眠っていた? ここは一体なんだってんだ」

 

「うむ、当然の疑問だな。

 ここは、そなたが形成した内なる世界。そなたが翼の欠片から覚醒へと至るためにその身へチカラを取り込むその器、といった所か」

 

「器? チカラを取り込む……って事はあれか。もしかしてお前意外にもオレが戦ってきた奴等がいるってのか」

 

 ナタクの言葉で、セルグの脳裏に次々と思い浮かぶ星晶獣達。

 目の前にいるナタクも含め、これまでセルグは数えきれないような数の星晶獣を屠ってきた。

 母親である少女からも、セルグのこれまでは覚醒へと至るための準備期間であることをほのめかされている。

 であるなら、ナタクがここに出て来た以上あるこの状況に対する答えにはある程度の察しが付いた。

 

「残念ながらこうして意識を持つのは我だけだ。我が託した魂……あれがそなたの内に影響を及ぼしたのだろう。我がチカラを取り込み、そなたは我が魂にも触れたのだ」

 

「って事はやはり、オレが倒してきた星晶獣達がこの世界にいるのか?」

 

「母君が言っていたであろう。そなたは覚醒へと至るためにこの世界で生きてきたと。

 対アーカーシャとして、そなたは覚醒へと至るためにこの世界で戦い続け、幾多の星晶獣を倒しそのチカラを内へと取り込んできているのだ。

 そうして行き付く先で……そなたはセルグと呼ばれる存在の格を引き上げる必要があった」

 

「存在の格を、引き上げる?」

 

「万象の全てをチカラとする……そなたに母君が与えた魂の持つ特性だ。

 母君が言っていた様に、世界に存在できる万象の総量は決まっている。その中で世界に負担を掛けずに母君が顕現するのは不可能であった────世界という器に、母君の存在は大きすぎるのだ」

 

「だからオレを創り、世界の器の中で母上と同じ存在へと昇華させる……そう言う事か」

 

「然り。故にそなたは空の民を守る事を義務付けられた。星の民が残した遺物が跋扈するこの世界で、全ての空の民を守らんとする使命を与えられた。

 そなたはその心のままに我らを倒し続け、この内なる世界へと我らのチカラを取り込んできたのだ」

 

「それで? いきなり出て来たお前がその事実を語り、一体何をさせ──」

 

 問いかけようとした瞬間、世界が揺らぐ。

 正しく文字通り。視界に映るセルグの内なる世界は数秒に渡り揺らぎを見せ、その感触は不安を掻き立てるには十分な何かを孕んでいた。

 

「──どうやらあまり語る時間は無いようだな」

 

「ナタク、今の揺らぎは一体」

 

「欠片よ、剣を取れ」

 

 再び問いかけようとしたセルグの機先を制し、ナタクは言葉と共にその手に持つ大槍を向ける。

 

「いきなり何を……これは!?」

 

 何のつもりだ。そんな疑問に応える様に周囲に次々と顕現していく気配。

 10、20……いやもっとあるだろうか。どれもこれも、セルグにとって見覚えのある存在達ばかりであった。

 

「ここにいるのは皆、そなたの器の崩壊と共に解き放たれてしまったチカラの残滓達だ。我も含めて。

 自我こそ無いものの、その強さはそなたの魂に刻まれた通り。遜色などなかろう」

 

 氷炎纏う摂理の化身。大弓構える太陽神。死を振りまく不死の王に鳴雷従える地霊の使者等、記憶を遡ればキリがない。

 ナタクも含め、そこにいたのは属性のチカラを……世界の摂理を体現したかのようなチカラを持つ星晶獣達。

 その強さ、その全てはセルグの記憶に深く刻まれており、大星晶獣と比べても勝るとも劣らない強大な星晶獣ばかりであった。

 

「総出でお出迎えとはな……懐かしい顔ぶれに再び見えた事は嬉しい限りだが。一体どういうつもりだ?」

 

 意思の無い瞳から向けられる視線に突き刺されながら、セルグはこの中で唯一会話を成せるナタクへと問う。

 既に気配は警戒状態に入り、隙を見せる事なく顕現した星晶獣達を睨み付けていた。

 そんなセルグに応えるよう、ナタクは星晶獣達の元へと歩み寄り並び立つ。

 振り返り見せるは、意思の無い視線の中で一際目立って見える力強い瞳。

 武神。そう謳われるに相応しい戦いの意思を湛えた姿であった。

 

「────欠片よ、今一度我らを討ち、失ったチカラを繋ぎ留めよ。

 できなくばそなたの魂はここで消え、蘇生された肉体に回帰できずに死に至る」

 

「バカな、今のオレは身体を失って闘うチカラなんか何も残っちゃいない」

 

 セルグは直前の記憶を呼び起こす。

 酷使して崩壊へと向かう身体……バハムートの攻撃により折れた相棒。

 今の自身に、戦うチカラなど残っているはずが無い。

 

「間の抜けたことを言っている……ここはそなたの内なる世界。であれば、今そなたがそなたの姿を成しているのは何故だ?」

 

 呆れたようなナタクの指摘に、セルグは僅かに目を見開いて自身の身体を見つめる。

 不思議に思わなかった。疑問を抱かなかったが確かに今セルグの身体は全くと言って良い程に無傷である。

 いや、もっと言うならば疲労やチカラの消耗ですら感じられない。直前の出来事を考えれば、まともに立っている事すらできないはずだというのに。

 万全──その言葉がふさわしかった。

 

「──自分が記憶している、最も自身と呼べる正しい姿、って所か?」

 

「左様。そなたの魂に刻まれし記憶から当たり前なはずのそなたの姿が再現されている。あとは分かるな?」

 

「成るほど……上等だナタク。状況はまだよくわからねえが、今ここでやるべきことは理解したよ。

 ついでに、ここで出来る事もな────ヴェリウス!」

 

 ナタクの指摘と言葉に、この世界の仕組みを理解したセルグは小さく笑った。

 いつもの彼らしい不敵な笑み。目の前に嘗て屠った星晶獣達が一堂に会するこの絶望的な状況においてそれでも尚、セルグは余裕の笑みを浮かべていた。

 

 “ふっ、我のチカラ無しに倒してきた者達を今度は我と共に討つか。貴様の目論見通りであればこの程度もはや相手にもなるまい”

 

 それはセルグの傍らに並ぶヴェリウスも同様。表情こそ伺い知る事が出来なくとも、その声音には多分に余裕が見られる。

 

「これだけ囲まれていても……か?」

 

 ”──自身が無いか? ”

 

「ならばやるぞ。さっさと片付けて向こうに戻る!」

 

 やれるだろう? 互いの声音がそう語る。

 セルグとヴェリウス。二人は今再び混ざり合った。

 内なる世界とも言えるこの場において、彼らを形作るのは魂に刻まれし記憶。

 記憶が形作る彼等は、現実であった器の崩壊からセルグを解放し、嘗ての……最高の状態を再現して見せる。そして記憶が肉体を再現しているに過ぎないこの空間において、融合による器の崩壊は存在し得ない。

 器の崩壊というリスクを取り去った時、そこに残るのはセルグとヴェリウスにとって真の意味で最深融合となるだろう。

 記憶から万全の状態を創りだせるのなら、リスク度外視の最強の自身ですらここでは創りだす事ができるのだ。

 

「絶刀天ノ羽斬よ。我が意に応えその力を示せ。立ちはだかる災厄の全てを払い、全てを断て」

 

 記憶から呼び出した天ノ羽斬を抜刀。

 抜き放たれた刀身に宿る光。幾何学的な紋様に青白く光りが灯り、言霊で解放された愛刀をセルグは頭上に掲げた。

 

「全開解放──光来」

 

 切っ先が描く真円から、雷の如く落ちる光の奔流。

 鍔元まで有り余るチカラを蓄えた絶刀は言霊通りに全てを断つ一振りである。

 最深融合と全開解放。

 自身の肉体に強化を重ねた……セルグの魂が記憶する正に最強の自分。

 

「見事……と言いたいところだが、それだけではまだ足りぬ」

 

 圧倒的なチカラを湛えるセルグを見て、ナタクもまた不敵に笑う。

 侮りではないだろう。嘗て自身を屠った相手に対しそのような感覚は微塵もない。

 だが、ナタクは……正確にはセルグの内なる世界にいた彼等はまだこれでは足りない事を知っている。

 

「そなたの存在。その全てを、まだそなたは取り戻していない。

 だから欠片よ……我らを倒し、己の深淵へと辿り着くがいい」

 

「とどのつまりはお前らをもう一回倒せばいいって事だろう? 一度下した相手に負けるつもりは毛頭ない。今一度思い出させてやる。お前らを屠ったのは誰かって事を!」

 

 互いの挑戦的な言葉と共に、世界を揺り動かすようなチカラが発現していく。

 空間を支配していくのは、ヒト非ざる者同士が見せる強大なチカラ。各々が発するチカラがそれぞれの領域を主張せんばかりに範囲を拡げていった。

 

 そしてセルグとナタク。二人のチカラの領域が触れ合う刹那。

 

 

「絶刀招来!!」

「火尖槍!!」

 

 

 内なる世界で”セルグ”の最後の戦いが幕を開けた。

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

 タワーの上層へと向かい、グラン達はひた走る。

 幾つもの階層を抜け、都度現れる兵士達を薙ぎ払い、正に一丸となって突き進んでいた。

 ジータ達を置いて走り出してから既に十数分。

 タワー突入からいきなりガンダルヴァが出て来た事を考えると、以後の侵攻を防ぐ障害は拍子抜けであり、然程消耗することなく進んでこれた。

 それが却って不安を煽る心理状態を作るが、そんなことに構ってはいられない。

 時間も状況も切羽詰まっている。グラン達は世界を守るべくひたすらにタワーの上層へと向かって走り続けた。

 

 

「黒騎士、いまどのくらいだ!」

 

「さぁな、私とてこの建造物の全てを網羅しているわけではない。殊更私は外にいる事が多かったからな……だがまぁ、登ってきた感触から考えても、ざっと三割といった所だろう」

 

「三割……そいつは心許ねぇ数字だなアポロ。ガンダルヴァの野郎がいきなりお出迎えだった事から考えて、この先いくらでも強敵が待ち構えているだろう。当然っちゃ当然だが、状況的にこれから先は誰かにその場を任せて進むしかなくなってくるぞ」

 

「今更それができないなどと甘えた事はぬかせんぞ。小娘共をあの場に置いてきたんだ……奴等の想い、無下にはできまい」

 

「やめなさい黒騎士。

 決断したのはまだ若い団長二人なのよ。無為に責任を押し付けるような言い回しは許さないわ」

 

「そんな気は毛頭ない。何を責任に感じる事がある? お前達は全員そろってアーカーシャを止めてみせるのだろう? 

 だったら、疑うことなく進み続けるしかあるまい」

 

「ありがとうロゼッタ。僕なら大丈夫だから気にしないでくれ……ジータ達もセルグも、必ず無事に合流してくれる。

 だから今はとにかく進むだけだ。リアクターのある最上部を目指してね」

 

 ロゼッタの気遣いを制して、グランはアポロの言葉に頷いた。

 事ここに至って、置いてきた仲間を気にして戦えない等と言う気はなかった。そして彼女達をおいて行く決断をした以上、ここから先同じ決断に迫られても迷う気はなかった。

 今ここに共にいる仲間達に、そのような無粋な心配等不要であると。グランは自身の心へと言い聞かせる。

 

「黒騎士、案内役である貴方には最後まで前を走り続けてもらう。先導をしっかり頼むよ」

 

「ふっ、この私を顎で使うか……いいだろう、この先に次の階段がある。全員離れずに付いてこい──」

 

 先導しようとアポロの表情が強張る。

 次の瞬間、固まっていた彼らの足元に魔法陣が浮かぶ。恐らくは彼らが上に乗る事が発動の鍵であったのだろう。

 与えられた術式が起動し立ち昇る光の奔流が彼らを包み込む。

 

「転送魔法か!?」

 

 ここにくる道中、既に何度か見た光景であった。

 空間を跨いで移動を可能にする超高等魔法。今の所扱える術者は一人しか思い当たらない。

 

「ちっ……人形、掴まれ!」

 

「ッ!? グラン、ごめん!」

 

「えっ、あだ!?」

 

「ルリアさん、後でお詫びします」

 

「え、ヴィーラさ──きゃあ!?」

 

「おわぁ!? なんだってんだよぅ!」

 

 僅かな思考で答えに至った三人が瞬間的に行動した。

 アポロはオルキスを抱え即座にその場を離脱。

 ゼタは一言謝罪を告げながら目の前にいたグランを蹴り飛ばす。

 ヴィーラもまた一言告げた瞬間には蹴りだされたグランに向かってルリアを抱え放り投げた。ルリアに抱えられたビィも一緒にグランの下へとダイブである。

 

 

 この転送魔法の先、間違いなくあの道化がいるだろう。全員でその罠に飛び込む愚策を犯す必要はない。

 幸いにもその考えが一致したアポロ、ゼタ、ヴィーラが取った行動は見事に噛み合いリアクターに辿り着かなければならない人物を窮地から追い出す事に成功する。

 

「そんな、皆さん!!」

 

「近づくなルリア。巻き込まれれば一緒に飛ばされる」

 

 転移魔法の途中で魔法陣に出入りをすればどんな事態になるか予想が付かない。中途半端な転移は最悪肉体の分離を招く。

 転移が始まってしまった以上、もはや互いに手を伸ばす事は出来なかった。

 徐々に光の柱の中に消えていく仲間達を見送る事しかできないルリア。手を伸ばせば届く距離に居ながら、手を伸ばすことができないこの状況が彼女の不安を煽った。

 

「ちゃんと私達も後から追いかけるわよ。そんな心配そうな顔しないでよ」

 

「ううむ、歳をとると突然の事態に身体が付いていかんのぅ……見事にかかってしまったわい」

 

「私が付いているんだからこっちは大丈夫よルリア。むしろ心配なのは私達が抜けて戦力ダウンなそっちなんだからね」

 

「はは、ちげえねえな。

 グラン、俺達の事は心配すんな。すぐに追いついてやるからよ。だからそっちもしっかりやんな」

 

「黒騎士、団長さん達をお願いするわね。決して、追い込んだりしないで頂戴」

 

「過保護が過ぎるなロゼッタ。いつまで子ども扱いするつもりだ。

 小僧はもう立派な騎空士だ。過ぎた気遣いなど侮辱に他ならん」

 

 今際の際とでも言う様な転移直前での会話。

 互いに心配をかけない様、彼等は微かに笑みを浮かべながらその時を待つ。

 光が徐々に強く成りやがて互いの姿が見えなくなると──

 

「消えちゃった……」

 

 オルキスの呟きが妙にはっきりと聞き取れる静寂の中、グラン達の目の前から仲間達の姿が消えていった。

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

「どらぁああ!!」

 

 裂帛の気合い。そんなものは言わずもがな。そこに乗せられたのは気合いだけに留まらない。

 強さへの執念、力への渇望、そして何よりもその身に宿った多大なる魔晶のチカラ。全て乗せられた一閃は何者をも砕く一撃となって彼女達を襲う。

 

「させん!」

 

 咄嗟に展開していたライトウォールを間に挟む。

 無双の一振り止める事叶わず盾は木の葉の様に砕け散るが、ほんの僅かな時間を稼げればそれで十分。

 

「チッ!」

 

 思わず舌打ちが漏れたガンダルヴァの懐には、脅威となる一撃を紙一重で回避し踏み込んでいるカタリナの姿があった。

 

「もらった!」

 

 氷のチカラを蓄え疾走と共に一撃。カタリナの”エンチャントランズ”がガンダルヴァを捉える。

 だが、魔晶で強化されるのは何も攻撃能力だけではない。強靭な肉体を更に覆う漏れ出たチカラ。形を持たずともそれは鎧の様にガンダルヴァの身体を守り、生半可な攻撃ではビクともしない防御力を与えていた。

 

「隙だらけだぜ!」

 

 走り抜け背中を晒していたカタリナへガンダルヴァが迫る。

 カタリナが与えた一撃などまるで意に介していない。怯ませることもできない自身の技の弱さを痛感するがカタリナは即座に回避行動をとる。

 掴みかかろうとした腕を掻い潜り間合いの外へとカタリナが逃げると──

 

「隙だらけだな」

 

 閃光奔る。一瞬の元に幾度も斬り付けるは紫電を従え自身を限界まで強化しているモニカ。

 激戦続きで尚その業に衰えは見えず、数多の剣閃がガンダルヴァへと叩き込まれた。

 

「勝機だ、リーシャ、ジータ殿!」

 

 体勢が崩れ、カタリナとモニカに意識を割いたこの瞬間。

 頃合いを図ったかのように突撃するジータが四天刃を振るう。

 四天洛往斬──四天刃の奥義にして、今の彼女が振るえる最大火力。

 すれ違い様に一閃、二閃、三閃。次々と斬り付けた箇所で光の柱が上がりガンダルヴァの身体を焼く。

 

「まだまだ!!」

 

 更にジータは右手に四天刃を握りながら左手に魔力を集中。最後の一撃と共に極限まで溜めたエーテルブラストを叩きつけた。

 巨体を焼く白き閃光と、巨大な爆発をもたらす極彩色の閃光がガンダルヴァの身体を揺らす。

 

「──ぐっ、ぬぅう。このっガキが!」

 

「リーシャさん!」

 

「これで……止めです!!」

 

 爆炎を裂いて突撃するリーシャ。突き出された剣より解放される烈風がガンダルヴァの身動きを封じその身を刻んでいく。

 蓄えられたチカラはアマルティアの時と同様リーシャにとっての全身全霊。

 じりじりと押されるガンダルヴァの姿は嘗ての焼き増しの光景となり、リーシャは勝利の糸を手繰り寄せたかに見えた。

 だが──

 

「今の俺様を押し切れると思ってんのかぁ!!!」

 

 激情の発露。

 同じ手が通用すると思っているのか。そんな言葉が込められたような咆哮と共にガンダルヴァはリーシャの攻撃を一蹴して見せる。

 一振り。全力の一撃でもってリーシャのトワイライトソードを打ち払ったガンダルヴァは間髪入れずに踏み込んだ。

 

「ごっ!?」

 

 強靭な肉体から繰り出された全力の拳がリーシャの腹部を打ち抜く。

 細身なリーシャの身体に手加減無しの一撃。散々に強化されたガンダルヴァの肉体から繰り出される拳撃など大砲と変わらぬ威力を持つだろう。

 奥義直後で隙だらけだったリーシャに回避も防御も挟む余裕はなく、無防備で受けた一撃は彼女の身体の内部へと衝撃を伝え恐ろしい速度で弾き飛ばした。

 

 床と並行に飛び、壁へと叩きつけられるリーシャ。

 そのままずり落ちたリーシャは激痛にのた打ち回る事も、苦々しく呻くような事もなく、事切れたように静かなまま僅かに身体を痙攣させて横たわった。

 

「リー……シャ?」

 

 モニカが漏らす掠れた声は恐らく彼女に届いてはいない。

 焦点の定まらない瞳が虚空を見つめている。かろうじて小さな呼吸音が聞こえている事から死んではいないだろうがそれだけだ。

 たった一撃でリーシャは戦闘不能に追いやられたのだと残りの三人は理解し、その事実に戦慄した。

 

「くっ、ガンダルヴァ、貴様ぁ!!」

 

 激情に駆られ、モニカが突撃する。

 繰り出された拳を寸前で掻い潜り、両手持ちにした刀で正確無比な一閃。

 回避行動の勢いすら利用した一閃はガンダルヴァの首を落とさんと迫るがそれは間に挟まれた剣によって防がれる。

 

「くっ、このぉ──」

 

「モニカさん下がって!」

 

 間合いを取っていたジータの声に反応しモニカは即座に離脱。

 間髪入れずにガンダルヴァに飛来するは4つの魔法。四大属性に分類される初級魔法、ファイア、アイス、ウインド、グレイブ。

 確実な詠唱と最効率の魔力運用から導き出されるは膨大なまでに展開される初級魔法の嵐。

 

「打ち砕け! エーテルブラスト・ディバイド」

 

 指揮者の指示の下、幾多の魔法が乱舞する。

 エーテルブラスト派生形。カタリナのライトウォールからヒントを得たジータのディバイドは、一つまとめて打ち放つエーテルブラストをまとめるのではなくそのまま打ち放つ。

 床から突き出た岩がガンダルヴァの動きを封じ氷がガンダルヴァの身体を凍てつかせると、風が切り裂き、炎が焼く。

 

 爆煙に包まれるガンダルヴァに直撃を確信するも、煙を切り裂き投射された斬撃がジータとモニカに迫り二人は慌てて回避をとった。

 

「数は多くても威力が足りねえよ……俺様を倒したいのならリーシャを超える一撃じゃなきゃな」

 

 煙の中、予想を覆すようにダメージ皆無な様子でガンダルヴァは現れた。

 

「リーシャが墜ちて戦力ダウン。その上残る三人ではどうにも力不足と来たか……こりゃ思ったより早く終わりそうだ」

 

 ジータ、モニカ、カタリナの三人に冷や汗が伝う。

 甘く見ているつもりはなかった。間違いなく過去最強の敵として最大限に警戒をして戦っていた。

 だがそれでも、彼女達の想像を上回るほどに目の前にいる男は強く成っていた。

 魔晶の使用。自身の命すら顧みない程の覚悟を以て高みへと至ったガンダルヴァは既に人智を超える。

 気合いや精神力でどうにかなるレベルには、既に居ない。

 

「──カタリナ殿、リーシャを頼む?」

 

「モニカ殿!? 一体何を」

 

「大事な後輩の安否が気になるのだ。すまないが面倒を見て欲しい」

 

「だ、だが──」

 

「大丈夫だよ、カタリナ。私とモニカさんで何とか抑えるから。今の私は回復魔法を使えないし、お願い」

 

「くっ──わかった。二人とも、決して無茶するなよ」

 

 逡巡の末、二人の申し出を受諾したカタリナは急いでリーシャの元へと駆けつける。

 行使できるとはいえカタリナのヒールは、ビショップとなったジータやイオ、ましてやフュンフの様にそれを得意とする面々と比較すると拙い。時間は多く掛かるだろうし応急処置が精一杯だろう。戦線復帰はかなり難しいと言える。

 

 それを承知の上でカタリナに治療を任せたモニカとジータは、視線鋭くガンダルヴァを見据えた。

 4人から2人へ。戦力はいきなり半分となり、ガンダルヴァの強さは予想以上。

 だがこの状況であっても、二人の瞳は決して諦めを湛えてはいなかった。

 

「勝った気になるなよガンダルヴァ。久方ぶりに、怒髪天を衝くと言った心持だ」

 

 大切な後輩を傷つけられ、モニカの胸中は怒りに染まる。

 それがガンダルヴァ相手だと言うのだから猶更だ。

 ここにきて先輩だから守ってやらなければ等と甘い考えは持っていなかったが、目の前で無残にも殴り飛ばされたリーシャを見て怒るなと言うのが無理だろう。

 刀は紫電を迸り、彼女もまたリスク度外視で再び己に強化魔法ヴィントシュナイデンを重ねる。

 

「諦めないよ。たとえどれだけ不利になろうとも、私の心は折れはしない」

 

 隣並び立つジータもまた同じ想いであった。

 彼女にとって家族同然である仲間。それが目の前で瀕死へと追い込まれた。

 ザンクティンゼルでフュリアスに向けた時同様、団長である顔を捨てた彼女はその想いのままに内に宿るチカラを解放していく。

 天星器の解放。その先、四天刃へと呼びかけるように更なるチカラを渇望した。

 

 ”────ぅ”

 

 ジータの脳に微かに届いた声は既に彼女の意識に割り込むことは無かった。

 集中の度合いは更なる深さへと到達し、ジータはグラン同様、意識を完全戦闘状態に落とし込んでいく。

 

「上等じゃねえか。まだまだ楽しませてもらうぜ……俺様の最後の戦いをな」

 

 

 激闘から死闘へ。極限の集中と極限の緊張。

 途方もない程に身体を酷使しながら、彼女達の戦いは苛烈さをまして再開する。

 だが、彼女達の全力を以てしても今のガンダルヴァには届かない。

 

 

 戦いは徐々に劣勢に……死闘はやがて蹂躙へと変わっていくのであった。

 

 




如何でしたか。

導入的な部分は多いですがボス連戦となると難しいところ。
物語を進めたいのですが作者の力量ではこんな風になってしまいます。

それでも楽しんでくれる方がいる限り失踪はしません。
物語完結を望んでいるのは他ならぬ作者自身ですので。
もうしばらく駄文にお付き合いいただければ幸いです。

それでは。感想お待ちしております

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